
この記事のまとめ
- 介護観とは、自分が介護を行ううえで大切にしたい理念や価値観のこと
- 介護職の基本方針として、尊厳保持や自立支援などの介護観がある
- 理想とする介護観のレポートでは、自身の理念や目指す介護士像をまとめる
レポートの課題や面接で介護観を問われると、「どう答えるべきか分からない」と思うかもしれません。介護観とは、介護を行う際の理念です。「利用者さんの気持ちに寄り添いたい」など、介護職として重視したい価値観を伝えると良いでしょう。この記事では、介護職の基本方針となる介護観を解説。理想とする介護観の例文や面接での回答例もまとめました。介護観についてのアンケート結果もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
介護観とはどういう意味?
「介護観」とは、自分が介護に携わるうえで大切にしたい理念や価値観のことです。介護を行う目的や介護職としての目標も、自身の介護観の一部といえます。
介護職の介護観の例は、「利用者さんの気持ちを尊重してケアを行い、自己実現を支援したい」「利用者さんやご家族と信頼関係を築くことで、安心して日常生活を送っていただきたい」などです。仕事やプライベートで介護を行う人の多くは、自身の介護観をもっています。
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介護職の基本方針となる介護観とは?
介護職は、介護のプロとして適切な介護観をもって仕事をする必要があります。介護職としての前提となる介護観を、介護職員初任者研修などの学習内容を参考にまとめたので、チェックしてみましょう。
利用者さんの尊厳を守る
利用者さんの尊厳を傷つけないことは、介護の基本です。介護職が、利用者さんの尊厳保持のためにできるのは、プライバシーへの配慮や虐待防止など。身体介護の際に、環境や声掛けに配慮するといった気遣いを行うことも、尊厳保持につながります。
他人の尊厳への配慮は、介護職として仕事をするうえではもちろん、社会生活を送るうえでも大事な価値観といえるでしょう。
利用者さんの自立を支援する
介護職は、自立支援の視点をもつことも大切です。自立支援には、「自立」と「自律」の2つの観点があります。自立とは、自分の能力を活かして行動すること。一方の自律は、自分の考えに基づいて生活することです。サービスの希望を聞いたり、生活歴に合った介護を提供したりして、快適に過ごせる環境を作るのも、自律的な観点の自立支援といえます。
身体機能・認知機能の低下によって、自分で体を動かしたり意思の疎通をしたりするのが難しくなった場合も、自立支援は可能です。自立支援を行うには、利用者さんがどのような生活がしたいのかを、本人やご家族に聞くなどして理解することが大事になります。
介護職による自立支援は、利用者さんの自己実現につながるだけではありません。思うような生活を送るのが難しい場合も、利用者さんに寄り添ったコミュニケーションを取ることで、「自分の気持ちを分かってくれている」と安心感をもってくれる可能性があります。
つまり、自立支援とは、ニーズを把握して寄り添ったケアを行い、利用者さんが快適に暮らせるよう支えること。介護職の専門性を発揮できる支援方法です。
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安心して介護を受けられる環境を整備する
安全性の確保や信頼関係の構築は、介護を受ける利用者さんにとって最重要といえます。そのため、介護職は利用者さんが不安なく過ごせるように環境を整える必要があるでしょう。利用者さんに「安心して過ごせる」と思ってもらえるよう、関係性を築き、精神的なケアを行うのも介護職の大事な役割です。
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介護のプロとして仕事をする
介護職の職業倫理として、自身の仕事の範囲や役割を理解することが挙げられます。プロとして誤った介護観をもってしまうと、利用者さんの権利や安全を脅かしかねません。
介護職に求められるのは、介護職員間で協力してケアをすることや、多職種と連携すること、仕事として介護を行うことなどです。具体的には、「自分1人で判断して行動しない」「医療行為といった介護計画にないケアを行わない」「利用者さんと適切な距離感を保つ」といった意識が大切になるでしょう。
根拠に基づいた介護を行う
介護技術を学び、根拠に基づいた介護を行うことも、介護職の基本です。介護業務のマニュアルには理由があるので、介護手順の根拠まで理解していれば、安全に介護を行えるでしょう。万が一、介護事故が起きてしまったときも、「自己流でやっていて失敗した」という場合と、「安全に十分に配慮していたが事故が発生した」という場合では、責任の重さがまったく違います。
「どうしてこの手順や方法で介護するのか」を客観的に説明できる介護職は、プロとして根拠をもって介護ができているでしょう。
出典
厚生労働省「介護職員・介護支援専門員」(2024年1月22日)
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介護職には介護観が必要?
介護観をもつことは、介護職の専門性の向上やモチベーションの維持につながります。介護観をもって仕事をするとどのようなメリットがあるのか、以下で確認してみましょう。
専門性の高い介護ができる
介護観をもち、理想とする介護を行うためには、知識や経験が必要です。経験を積んでスキルを身につけることで、利用者さんが抱えている悩みや課題をクリアでき、理想の介護の実現に近づくでしょう。介護観をもつことがスキルアップにつながり、その結果、専門性の高いケアが可能になるという好循環です。
介護現場では、ほかの職員と介護観の違いが生じる場合もありますが、課題解決のために話し合うことで、利用者さんにとって最適な支援ができます。
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介護過程の展開に役立つ
介護過程とは、介護サービスの利用計画作成から評価までの一連の流れのことです。利用者さんが抱える課題を解決して、より良い生活を送れるよう支援するために、介護過程を展開します。
介護過程の展開では、利用者さんにとっての優先順位を考えることが必要。自立支援や利用者本位という介護観があれば、課題解決のために適切なアセスメントを行えるでしょう。
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介護業界でのキャリア形成につながる
自身の介護観をもち、意欲的に仕事に取り組む人は、介護業界で活躍できる人材です。介護観という軸があれば、介護業界で長期的に働くモチベーションにもなります。介護職としてどうありたいのかや、どのような仕事がしたいのかが明確なら、自分に合ったキャリアを歩めるでしょう。
「理想とする介護観」のレポート・作文の書き方は?
養成学校や資格研修の課題として「理想とする介護観」のレポートを作成する際は、自身が介護を行うときに大切にしたい理念を書きます。目指す介護士像とその理由を書くイメージで取り組むと良いでしょう。下記で「理想とする介護観」の例文を3つご紹介するので、ぜひご覧ください。
「利用者さんのQOL」に焦点を当てた介護観の例文
「介護職になったら、介護が必要な人のQOL(生活の質)を重視したケアを行いたいです。訪問介護事業所の実習でホームヘルパーに同行した際に、利用者さんの代わりに買い物に行く援助と、一緒に買い物に行く援助がありました。利用者さんの代わりに介護職が買い物をするのは、「一緒に買い物に行くのは身体的な負担が大きい」という理由があり、一緒に買い物に行くのは、「主婦歴が長い利用者さんにとって自分で商品を選ぶのは生活歴に合っており、自立支援につながる」という理由がありました。
実習をとおして、結果的に同じ商品を買うとしても、その最適な過程は利用者によって異なることが分かりました。利用者さん一人ひとりの生活の質の向上を支援するために、介護職としてできることを見つけられるよう、これからも学習を続けていきたいです。」
「寄り添い」に焦点を当てた介護観の例文
「私が大切にしたい介護観は、要介護者に寄り添ったケアを行うことです。ケアマネジャーや看護師など、要介護者に関わる人は多くいますが、そのなかで最も身近で寄り添えるのが介護職だと思います。介護職は、要介護者と長時間にわたって直接関わるので、体調や生活の変化に気づきやすい存在。顔色や表情から心身の状態を察するだけではなく、今までの生活習慣を継続できているかなど、細かいところにも気づける介護職になりたいです。
介護職は間口が広いため、専門性が軽視されることもありますが、介護職にしかできないケアはあります。要介護者の生活を近くで支え、小さな変化にも敏感に気づける、プロの介護職になりたいです。」
「家族介護者の支援」に焦点を当てた介護観の例文
「利用者さんだけではなく、家族介護者の支援も行える、視野の広い介護職になりたいです。そう考えるきっかけになったのは、認知症カフェで家族介護者の話を聞いたことでした。認知症の両親の介護をしているその女性は、「一人娘で大切に育ててもらったから、私が責任をもって最期まで面倒を見ないと」と話していました。話を聞いていて、責任感が強い家族は、一人ですべてを抱え込んでしまうこともあるのかもしれないと思いました。
特に在宅介護では、閉鎖的な環境で、家族介護者が無理をしてしまう可能性があります。家族介護者がレスパイトできるよう、支援できる介護職になるのが目標です。将来的にはケアマネジャーの資格を取得して、要介護者を社会全体で支えられるよう、介護保険サービスの周知などにも携わりたいです。」
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転職の面接で介護観を聞かれたときの答え方は?
面接で大事なのは、質問に対して簡潔に答えることです。まずは結論を述べてから詳細を説明すると、あなたの気持ちがしっかりと転職先に伝わるでしょう。
面接での介護観に関する質問にはさまざまなパターンがあります。以下でよくある質問パターン別の回答例を確認して、面接本番に備えましょう。
「自身の介護観」に対する回答例
「私は、利用者さんの意思を尊重することと、利用者さんの利益を追求することを理念として、介護の仕事をしています。利用者さんは、今までできていたことができなくなり、つらさや悲しさを感じながら生活していることも多いと思います。そんな気持ちに寄り添って、できるだけ今までの生活に近い暮らしができるよう、介護職としてできることをしてきました。利用者さんの意向を念頭に置いたうえで、すべて手伝うのではなく自立支援の視点で介護を行うことが、生活の質の向上につながると考えています。」
「介護職として大切にしていること」に対する回答例
「私が介護職として大切にしているのは、利用者さんへの敬意を忘れないことです。利用者さんと信頼関係を築くには、親身になって接することが大事ですが、介護職としての距離感を保つことも重要です。利用者さんのプライバシーを尊重したうえで、頼れる存在と思ってもらえるよう、日々コミュニケーション技術を磨いています。利用者さんが快適に過ごすためには、不快な気持ちにならないよう配慮して関わることも大事だと思っています。」
「理想の介護」に対する回答例
「私が理想とするのは、利用者さんやご家族に「この施設で良かった」と思ってもらえるような介護を行うことです。利用者さんに満足してもらうためには、施設全体で協力してケアをする必要があると考えます。介護チームとして、質の高い介護サービスを提供することで、利用者さんが豊かで有意義な生活を送れるとうれしいです。」
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現場の職員はどんな介護観をもっている?
ここでは、介護転職エージェントの「レバウェル介護(旧 きらケア)」が独自に行った調査から、実際に介護職として働いている方々の介護観をご紹介します。
相手の立場に立って物事を考えることを大切にしています。たとえば、その人にとって今どのような介護が必要なのかを常に考えています。
利用者さんにマメに声を掛けるようにし、できることはお願いしてやっていただいています。やっていただいた後はきちんとお礼を伝えて、信頼関係も築くように心がけています。
自分が高齢者になったときに、今の自分を恥じないような仕事をすることを大切にしています。
介護職員の余裕がないと利用者さんに対する態度が変わるので、なるべく余裕をもって仕事に従事するようにしています。
「もし、自分がされたらどうだろう」「自分がされたら困ることはしない」「これをやっておいてくれたら助かる」などを考えて仕事をしています。
介護観に関するよくある質問
ここでは、介護観に関するよくある質問に回答します。「介護観が合わないときの対処法は?」「自身の介護観を聞かれたときはどう答えるべき?」と疑問に思っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
同僚と介護観の違いが生じたときはどうしたら良い?
介護職の方のなかには、同僚と介護観が異なり、ケアの方針が合わないと感じる方もいるかもしれません。介護観は人それぞれなので、自分の考えを他人に押し付けることは控えましょう。ほかのスタッフと介護観が違うときは、相手の意見を聞くことも大切です。相手の意見に理解を示したうえで自分の意見を話すことで、より良い選択ができ、質の高い介護を行えるでしょう。
介護施設の面接では介護観を聞かれますか?
介護施設の面接では、介護観について聞かれることが少なくありません。介護施設は、「介護職として働く理由」「介護を行うときに大切にしていること」などの質問で、求職者の介護観や人柄・適性をチェックします。面接で介護観について問われたときは、まず結論を述べ、自身の経験を交えて理由を説明すると良いでしょう。この記事の「転職の面接で介護観を聞かれたときの答え方は?」で具体的な答え方をご紹介しています。
介護観のレポート・作文の書き方を教えてください!
介護観のレポート・作文では、介護サービスに対する自身の理想像を示します。介護観に基づいて仕事をするにあたり、課題に感じていることやその解決策を書くと、キャリアプランが伝わるレポートになるでしょう。「「理想とする介護観」のレポート・作文の書き方は?」では、介護観のレポートの例文もご紹介しているので、あわせてチェックしてみてください。
まとめ
介護観とは、自分が介護を行う際に大切にしたい理念や価値観のことです。介護職として働く人の多くは、自身の介護観をもって仕事をしています。介護職は、尊厳の保持や自立支援など、介護福祉の基本方針となる介護観を学び、プロとして利用者さんを支援する職業です。介護観をもって仕事をすることは、スキルの向上にもつながるでしょう。
理想とする介護観のレポートを書くときは、自身の理念や実現させるための課題、将来の目標などをまとめます。転職の面接で介護観を聞かれたときは、まず「自分の介護観」という結論を述べたうえで、そう考える理由を伝えましょう。
就職活動中の方には、レバウェル介護(旧 きらケア)の利用がおすすめです。介護業界での就職支援実績が豊富なアドバイザーが、面接対策や履歴書・職務経歴書といった応募書類の作成をサポートいたします。実際の職場の雰囲気や労働条件などを詳しく教えられるので、ミスマッチのない職場選びが可能です。これから介護業界で働きたい方や、転職を考えている介護職の方は、ぜひレバウェル介護(旧 きらケア)をご活用くださいね。
今の職場に満足していますか?
執筆者
実
元介護士ライター
グループホームに2年、訪問介護事業所に3年勤務。多くの高齢者や、障害のある方の介護に携わる。訪問介護事業所では、サービス提供責任者の業務も担当した。2022年に介護福祉士を取得。現在は、知識や経験を活かして、介護職員の方に役立つ情報を発信している。