
この記事のまとめ
- 自立支援介護とは、高齢者が自立した生活を送れるよう支援すること
- 自立支援介護には、水分ケアや食事(栄養)ケアなどの4つの基本ケアがある
- 自立支援介護で大切なのは、介護を受ける方の意思を尊重すること
近年、「自立支援介護」という取り組みが国や介護業界で注目されています。しかし、「名前は聞いたことあるけど、どんな内容なの?」「どんなケアをするの?」と自立支援介護について、あまりよく知らない方も多いですよね。
この記事では、高齢者に必要な4つの基本ケアや、自立支援介護を行う上でのメリットや注意点などについてご紹介しています。理解を深め、実践してみたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
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自立支援介護とは
病気や加齢によって介護が必要になった高齢者の意思や希望を尊重し、自立した生活ができるように支援することを、「自立支援介護」と呼びます。
自立とは
介護における自立とは、要介護者が可能な限り、自分の能力を活かして生活していくことを意味しており、具体的には「3つの自立」があります。
| 3つの自立(種類) | 内容 |
| 身体的自立 | 本人が生活を維持・継続していくために必要な動作(食事や排泄、入浴など)を自分で行えること |
| 精神的自立 | 本人が自分の生活や人生をどう生きるか考えて行動したり、判断したりすること |
| 経済的自立 | 自らが必要とする生活費を「本人の収入」で賄うことができ、バランスを考えながら活用していけること |
3つの自立は、どれも相互に影響し合う関係です。たとえば、身体的に自立し、生活に必要な食事や排泄などの動作が可能になると、今後の生活や人生について考えられるようになり、精神的自立につながります。また、精神的に自立することで、他者に頼ることなく、生活に必要な収入を稼ぐことができるため、経済的な自立へも良い影響を与えます。
このように、3つの自立は相互に影響し合う関係なので、どれか一つでも欠けてしまうとバランスが悪くなり、生活に支障が出やすいのが特徴です。
自立支援とADL(日常生活動作)のつながり
自立支援の目的として、要介護状態の予防、寝たきりの高齢者を減らすことが挙げられます。
厚生労働省の「閉じこもり予防・支援マニュアル(改訂版)(4,5p)」によると、ADLの低下の要因として身体的、精神的、社会的な機能が挙げられています。心身の機能や社会的な機能が低下すると自立度や認知機能も下がり、介護が必要となって、やがては寝たきりとなってしまう可能性が高いのです。
「寝たきり」という状況は、日常生活に必要な動作を行わなくなることで起きてしまうため、ADLを向上させることで予防が可能です。また、ADLが向上することで、IADLやQOL、自立度の向上にもつながります。
厚生労働省「閉じこもり予防・支援マニュアル(改訂版)」(2022年8月4日)
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自立支援介護に必要な4つの基本ケア
ここでは、人が健康に生きるために欠かせない「水分摂取」「食事(栄養)」「自然排便」「運動」の4つの基本ケアについて、ご紹介します。
水分ケア
人が生きる上で、「水」は必要不可欠です。成人の身体は約60%以上、高齢者では50~55%を水分が占めていると言われています。
厚生労働省の「『健康のため水を飲もう』推進運動」では、1日の水分摂取量として2.5Lの水を飲むべきであると明記されており、自立支援介護でも、1日あたり1,500mlの水分摂取が必要とされています。
高齢になると感覚機能が衰えてくるため、喉の渇きを感じにくくなります。そのため、なかなか水分摂取が進まない方も少なくありません。また、水分摂取が進まないことで体内の水分量が減ってしまうと、皮膚の乾燥や脱水状態にもなりやすいため、介護者が水分摂取をこまめに促していくことが大切です。なかには、水分拒否をする方もいるため、水分の多いゼリーや本人が好きな飲み物を提供するなど、工夫してみると良いかもしれません。
厚生労働省「『健康のため水を飲もう』推進運動」(2022年8月4日)
食事(栄養)ケア
水分と同じように、食事も人が生きる上で必要不可欠です。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(84p)」では、高齢者に必要な摂取カロリーとして、65~74歳の男性・女性であれば、1,550~2,750kcal、75歳以上の男性・女性であれば、1,400~2,100kcalが必要と明記されています。
自立支援介護では、身体の機能を維持するために1日あたり1,500kcal以上を摂取することが理想とされており、食事量や必要な栄養摂取ができていないと、寝たきりや認知症、筋力低下を引き起こす可能性があります。
厚生労働省の「自立支援・重度化防止を効果的に行うための取組の連携」でも、必要な栄養や活動量などについて、下記のように述べられています。
・リハビリ、栄養、口腔の取組は一体となって運用されることで、より効果的な自立支援・重度化予防につながることが期待される。
・リハビリの負荷又は活動量に応じて、必要なエネルギー量や栄養素を調整することが、筋力・持久力の向上及びADL維持・改善に重要である。
厚生労働省
「自立支援・重度化防止を効果的に行うための取組の連携(37p)」(2022年8月4日)
筋力低下による身体的な衰えは、ADLの低下にもつながりかねないため、しっかりと栄養を摂取し、筋力を落とさないようにすることが大切です。
また、食事をする際の「噛む力」や「飲み込む力」も重要なポイント。誤嚥性肺炎や嚥下機能の低下を予防するために、普段から嚥下体操を行ったり、噛む練習を行ったりすることも効果的と言われています。
排便ケア
厚生労働省のe-ヘルスネット「便秘と食習慣」では、便秘症の診断基準を以下のように定めています。
a.排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b.排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(BSFSでタイプ1か2)である。
c.排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d.排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e.排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f.自発的な排便回数が、週に3回未満である。
厚生労働省e-ヘルスネット「便秘と食習慣」(2022年8月4日)
上記の6項目のうち、2項目以上を満たすと便秘症の可能性が高くなります。
自立支援介護における排便ケアでは、3日以内の自然排便があることが理想です。高齢になると食事量や運動量が減り、腸の働きも低下しがちなので、便秘になりやすくなります。そのため、下剤を使って排便を促すことも。しかし、下剤を使うことは、高齢者の身体的な負担にもなりかねません。自然排便を促せるよう、排便の有無に関わらず、トイレに行く習慣や環境を作るようにしましょう。適度な運動や食事、水分摂取をバランス良く行い、排便トラブルの改善につなげることが大切です。
厚生労働省e-ヘルスネット「便秘と食習慣」(2022年8月4日)
運動ケア
運動は、食欲の促進や筋力の維持など、自立した生活を目指すために、とても大切な活動の一つです。
厚生労働省の「身体活動・運動」では、70歳以上の男性は6,700歩、女性は5,900歩を目標値としています。(1日当たり平均歩数で1,300歩、歩行時間で15分、歩行距離で650~800m程度の増加に相当)
自立支援介護における運動ケアでは、1日2kmの歩行が必要とされています。しかし、高齢の方が1日2kmを歩くというのは、容易なことではありません。介護の現場では、本人のペースを尊重しながら、歩行訓練や体を動かす運動などを取り入れ、下肢の筋力向上を図ることが重要です。
「歩く」という行為により、脳が刺激を受けて活性化すれば、便意や尿意をしっかりと認識できるようになるため、失禁を防ぐことにもつながるでしょう。
厚生労働省「身体活動・運動」(2022年8月4日)
介護施設での自立支援への取り組み
自立支援への取り組みとして、介護施設では、具体的にどのようなことに取り組むことができるのかまとめました。ぜひ、参考にしてみてください。
介護予防運動指導員による筋力向上トレーニング
介護予防運動指導員とは、介護予防を目的とした運動を指導する専門家です。一人ひとりの利用者さまに合ったリハビリ内容を提案し、運動や機能訓練の指導を行います。地域包括センターやデイサービスなどの介護施設だけではなく、一般のスポーツクラブや介護予防教室など地域や自治体の施設でも活躍しているため、専門的な指導を受けながら、筋力の維持・向上につながるトレーニングを行うことが可能です。
日常生活に役立つ生活リハビリ
生活リハビリとは、入浴やトイレなど、日常生活に必要な動作を支援することです。自立支援を行う上で、「なるべく自分でできることは、自分でやってもらう」ことが自立支援につながります。たとえば、利用者さまが着替えをするのに時間が掛かってしまっていたり、なかなかうまく着替えられていなかったりすると、つい手を出したくなってしまう介護職員の方もいるでしょう。
しかし、自立支援につなげるためには、介護しすぎずに、時には見守ることも大切です。
利用者さまのできることを奪わないよう、自立支援を意識したケアを心掛けましょう。
身体機能維持のためのリハビリ
身体機能を維持するために、リハビリを行うことも効果的です。嚥下機能向上につながる口腔体操を行ったり、歩行訓練や体操などを行ったりして、身体機能の維持を図ります。リハビリを行うことで、ADLや活動力アップにもつながるため、本人の心身の負担を軽減することが可能です。身体機能が向上し、負担が軽減されれば、「自分の力でやってみよう」という気持ちも生まれやすくなるので、本人のペースを尊重しながら、活動を促していくことが大切です。
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自立支援介護を行うメリット
「自立支援介護を行うことで、どんなメリットがあるの?」と気になる方も多いと思います。ここでは、いくつかメリットをご紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
QOL(生活の質)の向上
QOLとは、クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)の略称です。高齢者の介護におけるQOLでは、「利用者さま一人ひとりがその人らしく生きる(生活する)こと」が幸福や満足につながるとされています。自立支援介護により、日常生活のなかのあらゆる動作が可能になれば、活動の意欲が湧くだけではなく、結果的にQOL向上にもつながるのです。QOLが向上し、日々の生活が活発化することで、利用者さまの健康にも良い影響が与えられます。
介護負担の軽減
自立支援介護により、身体機能が向上すればさまざまなメリットが得られます。たとえば、介護にかかるコストの削減や介護負担の軽減です。身体機能が向上し、トイレでの排泄が可能になることでオムツが不要になり、コスト削減につながります。
排泄介助は利用者さまの自尊心にも大きく関わるケアなため、介護をする側もされる側も、介護負担が大きくなりやすいでしょう。しかし、介護負担が軽減されれば、身体的負担だけではなく、精神的負担も軽減することにつながり、双方にとってメリットが生まれやすくなります。
介護度の改善
ADLが向上することで、介護度の改善も期待できます。介護度が進むと負担が大きくなってしまうのが、医療費や介護費です。しかし、介護度が改善されれば、介護者の身体的負担だけではなく、経済的負担の軽減にもつながります。
自立支援介護の重要性
介護報酬改定の内容に着目すると、いかに国が「自立支援介護」に力を入れているかが分かります。
2014年の介護保険制度の改定で、要支援1~2の人に対する介護保険の対象が変わりました。そして、これまで対象であったデイサービスや2006年に新設された介護予防サービス(居宅サービス)も、介護保険による給付金の対象外になったのです。
厚生労働省の「令和3年度介護報酬改定に向けて(自立支援・重度化防止の推進)(43p)」によると、2018年(平成30年度)の介護報酬改定では、自立支援に重きを置き、
「ADL維持等加算」というものが新設されました。ADL維持等加算とは、通所介護利用者の心身機能の維持や向上につながったケースが多くあった事業所に対し、報酬が加算される仕組みのことです。
このように、介護報酬改定の内容に着目すると、自立支援介護は、国の財政問題を解消する重要な取り組みであることが分かります。今後は、多くの介護事業所が国や介護業界の動きに合わせて、自立支援のケアに力を入れるようになるでしょう。
厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に向けて(自立支援・重度化防止の推進)」(2022年8月4日)
自立支援介護の注意点
さまざまなメリットを持つ自立支援介護ですが、いくつか注意しておきたい点もあります。ここでは、その内容について解説しているので、日々のケアの参考にしてみてください。
リハビリテーションへの取り組みが増える
自立支援介護では、身体機能の維持・向上を目指すため、その点ばかりに注目してしまうことで、無理なリハビリを実施してしまう可能性があります。無理なリハビリや運動だけではなく、食事や栄養、排便コントロールなども行い、体のバランスを図ることが大切です。
本人の意思を尊重する
利用者さまの意思を尊重することは、支援を行っていく上で基本とも言えるでしょう。自立支援介護だけに関わらず、本人の希望や意思を尊重し、ケアを行っていくことが大切です。
利用者さまの選別をしない
要介護度の改善の見込みが低い利用者さまは、介護報酬の評価対象にならないため、介護事業者側が受け入れを断ることもあります。要介護度の改善だけを見て、選別したり、判断したりすることがないよう注意することが大切です。
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介護の自立支援に関するよくある質問
ここでは、介護現場における自立支援に関するよくある質問に回答しています。「自立支援ってよく聞くけど何のこと?」のように疑問をお持ちの方は、ぜひご覧ください。
介護の自立支援とはわかりやすく言うと何ですか?
介護における自立支援とは、病気や加齢により要介護状態になった方を対象に、可能な限り自立した生活を送れるよう支援することです。厚生労働省の「平成12年版厚生白書の概要」によると、自立支援の理念は「要介護状態になった者が「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」必要なサービスを提供すること」とされています。単なる自立ではなく、対象者が慣れ親しんだ地域で生活を続けていけるよう、在宅サービスを重視しているのが特徴です。
厚生労働省「平成12年版厚生白書の概要」(2024年5月16日)
介護における自立支援の考え方は?
介護における自立支援の考え方は、「身体的自立」「精神的自立」「経済的自立」の3つです。これら3つのうち、1つでも欠けてしまうと生活に支障が出てしまい、本当の意味での自立とはいえません。また、「自立」と似た言葉に「自律」があります。介護における自律支援とは、本人の意思決定を支援することで、自立支援のうち「精神的自立」に重きを置いた支援のことです。詳しくは、「介護における自立と自律の違いを解説!高齢者の支援に必要な考え方とは」の記事をチェックしてみてください。
まとめ
自立支援介護では、4つの基本ケアを行うことがポイントです。しかし、どれか一つを行えば良いというわけではありません。4つのケアは、お互いに影響し合う関係なので、すべてが揃うことで、より大きな効果を得ることが可能になります。
ケアを行う際は、本人の能力をしっかりと把握し、介護しすぎないよう支援していくことが大切です。本人のできることが増えると、ADLの維持・向上につながるだけではなく、QOLの向上や介護度の改善にもつながるとされています。
また、今後多くの介護事業所でも、国の財政問題を解消する重要な取り組みの一つとして、自立支援介護を取り入れていくと考えられます。介護の現場では、利用者さまにとって無理のない支援を意識しながら、本人の意思を尊重したケアを行っていきましょう!
「今よりもっと自立支援介護に力を入れていきたい!」
「利用者さんの生活機能を低下させない、一人ひとりに合ったケアをしていきたい!」
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おいもッコ
元介護士ライター
グループホームを中心に、有料老人ホームやデイサービスなどの施設で約7年半ほど介護士として勤務。リーダー業務なども経験しながら、多くの認知症高齢者や介護業務に携わる。2021年に介護福祉士を取得。現在は今までの経験を活かし、「元介護福祉士ライター」として介護士さんに共感してもらえるような、お役立ち情報などを発信している。





