ボディメカニクスの8原則を解説!介護現場で活用して腰痛を予防しよう

介護職の悩み 2024年2月13日
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「介護業務で腰を痛めそうで怖い」「力が弱く利用者さんの身体を支えるのがつらい」など、日々の介護業務にかかる身体への負担にお悩みの方もいるでしょう。介護職員が身体介護を行う際に役立つのが「ボディメカニクス」という技術です。この記事では、ボディメカニクスの8原則や活用シーンについて解説しています。「ボディメカニクスは身体を痛めないと聞くけど、実際どんな方法なの?」と気になる方は、ぜひご覧ください。

目次

介護の基本?ボディメカニクスとは

ボディメカニクスは、関節・筋肉・骨が動くときの相互作用を利用し、最小限の力で介護ができる技術です。
介護の場面では、移乗介助や排泄介助などで腰をかがめたり身体をねじったりします。人間の身体は重力の影響を受けるので、一つひとつの動作に負担がかかり、介護者の身体に不調が出てしまうかもしれません。
ボディメカニクスを実践すれば、身体を上手に使えるので介助する側もされる側も身体への負担を軽くできます。介護職の職業病ともいえる腰痛予防にも効果的です。

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ボディメカニクス基本の8原則

ボディメカニクスには8つの基本原則があります。1つずつ見ていきましょう。

1.支持基底面を広く確保する

支持基底面とは、体重を支えるための床面積のことです。両足を広げて支持基底面を広く確保すると姿勢が安定するので介助しやすくなります。介助者の身体が安定すれば要介助者も安心して身を任せられるため、余計な力が入らず、お互いに負担を軽くできるでしょう。

2.骨盤が安定するよう重心を低くする

支持基底面を広くした状態で、膝を曲げて重心を低くするとさらに安定します。立位よりも坐位、坐位よりも臥位というように、姿勢は重心を下に移動することで一層安定感を増します。重心が高い状態で介助すると、身体が反ったりねじれたりして腰を痛める危険性があるため、重心を下に置くよう心掛けましょう。骨盤を立てた状態で腰を落とすと、しっかり重心を下に落とせるのでやってみてくださいね。

3.被介護者との距離を縮める

要介護者と身体を密着させると、重心が近づき安定します。力が伝わりやすくなるので、最小限の力で介助が可能です。介護者だけでなく、被介護者の身体的負担も減らせます。

4.身体全体の大きな筋肉を利用して介助する

身体の一部や小さな筋肉だけを使うと、負担が一点に集中してしまうことも。しかし、腰・脚・背中などの全身の大きな筋肉を一緒に使うと、一部分にかかる負担を軽減できます。身体全体、特に大きな筋肉である背中や大腿を使うことを意識し、負担を分散させるイメージで介助してみてください。

5.水平方向に移動させる

介助の際、被介護者の身体を持ち上げようとすることがあるかもしれませんが、持ち上げる動作は重力の影響を強く受けるため、介護者の腰に負担がかかってしまいます。持ち上げるのではなく、ベッド上を水平に滑らせて移動すれば重力の影響を受けづらく、小さな力でも移動が可能です。

6.足先を動作方向に向ける

身体をねじると重心が不安定になり、身体に負担がかかります。つま先を動作方向に向けて介護を実施すると姿勢が安定し、体重移動もスムーズです。
また、押す動作は腰への負担が重くなってしまうので、ぎっくり腰や慢性的な腰痛を引き起こすリスクも。押すよりも引く方が小さい力で動かせるので、手前に引く動作を意識することが大切です。ただし、力任せに引っ張ると被介護者への負担が増してしまうため、手前に静かに引くよう配慮しましょう。

7.てこの原理を用いる

支点・力点・作用点を意識し、てこの原理を活用すると、小さな力で大きなものが動かせるようになります。たとえば、自分よりも大柄な利用者さんをベッドから起こすとき、被介護者の状態に応じて膝や肘、お尻を支点にして遠心力を利用すれば小さな力で身体を起こすことが可能です。身体的負担を軽減するために欠かせないポイントなので、ぜひ意識してみてください。

8.被介護者の身体を小さくまとめる

重さが同じであれば、小さい方が動かしやすいものです。被介護者の身体を動かす際も、被介護者の腕や膝を曲げて身体をコンパクトにまとめてもらうと、安定感が増して介助しやすくなります。ただし、被介護者の状態を考慮して無理のない体勢をとってもらうよう心がけましょう。

ボディメカニクスを行うときの注意点

ここでは、ボディメカニクスの注意点を3つ解説します。1つずつ見ていきましょう。

被介護者に声をかけながら行う

これから「何をするか」を被介護者にあらかじめ伝えておくと、被介護者の不安が減るのでスムーズに介助しやすくなります。声かけは被介護者の意思・自尊心を尊重していることを示す手段でもあるので、信頼関係の構築にも繋がるでしょう。丁寧なコミュニケーションとボディメカニクスを活用して、質の高いケアを提供することが大事です。

被介護者に協力してもらう

丁寧に声かけをしながら、介助の動作に協力してもらいましょう。ボディメカニクスの効果を高めるには、被介護者の協力を得ることが大切です。被介護者自身に身体を小さくまとめてもらったり、介護者の肩に腕を回してもらったりすると、双方の負担がより軽くなります。

被介護者ができることは自分でしてもらう

時間がないときは、介護者が先回りしてケアをしてしまったほうが早いと思うこともあるでしょう。しかし、被介護者が本来自分でできることを介護者がしてしまうと、身体機能の低下を早めてしまう可能性があります。良かれと思って行ったことが、もしかしたら利用者さんの自尊心を傷つける結果になるかもしれません。
被介護者の能力維持や心のケアも介護職の仕事の一つです。利用者さん自身で実施するのが難しいことをサポートするのは当然ですが、適度なサポートを意識しましょう。

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ボディメカニクスの具体例

ボディメカニクスはどのようなシーンで活用できるのでしょうか。ここではボディメカニクスを活用する介助の具体例を説明します。

ベッドから起き上がるとき

ベッドに寝た状態の被介護者を起こすときの動きは以下のとおりです。
ベッドから車椅子に移るための起き上がりを想定して説明します。

  • ベッドを被介護者の足底が床に付くくらいの高さに調節する
  • 被介護者の両膝を立て、両手を胸の前で組んでもらう
  • 介護者の方に被介護者の身体を向けてもらう
  • 可能なら背中を少し丸めてよりコンパクトにしてもらう
  • 膝はベッドから少しはみ出るくらいの位置にする
  • 介護者の腕を被介護者の首と膝の下に入れる
  • 被介護者のお尻を支点にして、てこの原理を活かしながら起こす

ベッドから車椅子に移る場合、車椅子の座面より少し高くしましょう。お尻が上がりにくいご利用者の場合、座面の方が高いとお尻が引っかかって移乗しづらくなるためです。

身体の向きを変えるとき

ベッド上で身体の向きを変えるときの動きは以下のとおりです。
介護者が1名で、被介護者に仰向けから右へ向いてもらうケースを紹介します。

  • 介護者は被介護者の左側に立つ
  • 被介護者が仰向けの状態のまま両手を胸の前で組んでもらい、膝を立ててもらう
  • 被介護者の肩と腰の下に介護者の手を入れ、上半身を被介護者の左側に引き寄せる
  • 被介護者の腰と膝下に手を入れて下半身を被介護者の左側に引き寄せる
  • 介護者は被介護者の右側に回る
  • 被介護者に顔を右に向けてもらう
  • 介護者の右手を被介護者の腰に、右肘を被介護者の膝に当てる
  • 介護者の左手を被介護者の左肩に回す
  • 先に被介護者の腰と膝を右に倒し、左肩を起こす

寝たきりの方の体位変換などでもボディメカニクスは役立ちます。皮膚のトラブルを抱えている方もいるので、丁寧に行いましょう。

立ち上がるとき

椅子やベッドに座った状態から立ち上がる際の動きは以下のとおりです。

  • 介護者が腰を落として重心を下げる
  • 被介護者に腕を介護者の肩に回してもらう
  • 被介護者に上体を前に倒してもらう
  • 前傾姿勢を保ったまま、身体を密着させた状態で一緒に立ち上がる

被介護者が慌てないように、タイミングを合わせて介助しましょう。上体を倒すとお尻が上がりやすくなります。足はやや後ろに引いてもらいましょう。

座るとき

座るときの動きは以下の通りです。

  • 介護者は足を広げ、支持基底面を広く取る
  • 被介護者と身体を密着させつつ、一緒に腰を落としながら座ってもらう

スピードはゆっくりを心掛けましょう。両者の体勢が安定した状態で動作できます。

移乗のとき

ここでは、車椅子からベッドに移るケースについて説明します。

  • ベッドを車椅子の座面よりも少し低い位置に調整する
  • アームレストから被介護者の両足を下ろし、しっかり床につける
  • 介護者は足を前後に開き、支持基底面を広くとる
  • 介護者は前に出した方の足を被介護者の両足の間に入れる
  • 被介護者の手を介護者の肩に回してもらい、身体を近づける
  • 被介護者とタイミングを合わせてゆっくり立ち上がる
  • ベッド側の足先をベッドに向ける
  • 重心を下に置くよう意識しながらベッドに向かって方向転換する

方向転換の際は、足先を目指す方向に向けると方向転換の負担が減ります。

介助の内容別に必要な介護技術を「介護技術の基本!現場で役立つボディメカニクスの知識を身につけよう」の記事でもまとめています。介護者・被介護者の両方が気持ちの良い介護ができるように技術を身に着けたい方は参考にしてみてください。

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ボディメカニクスのメリット

ボディメカニクスを用いるメリットは3つあります。1つずつ解説します。

被介護者への負担を軽減できる

介護者がボディメカニクスを意識すれば、よりスムーズな身体介助ができるため被介護者に安心感を持ってもらえます。ボディメカニクスは身体の自然な動きを用いて介助するためのものです。実践できれば被介護者は力任せに身体を動かされなくなるため、身体的負担やストレス軽減が期待できます。

介護者への負担を軽減できる

介護者がボディメカニクスを習得すれば無理な体勢で介助しなくなります。腰をねじったり、大きな力で介助したりせずに済むので、介護者の身体的負担が軽減されるでしょう。介護職員の方のなかには腰痛が原因で離職してしまう人も。ボディメカニクスを実践できれば腰痛を予防でき、長く働けるかもしれません。

育児や家族の介護にも役立つ

業務だけでなく、プライベートの場面でもボディメカニクスは有効です。たとえば自分の家族が介護を必要とする状態になったとき、ボディメカニクスが役立つかもしれません。業務中の介護に加えて、家族の介護も必要となると身体的な負担が増大します。ボディメカニクスを取り入れた介護をすることで、最小限の力を使った動きができるため、疲労感が軽減されるでしょう。

ボディメカニクスに変わる考え方?キネステティクスとは

「ボディメカニクスはもう古い」という考え方があります。それは以下のような理由があるからです。

  • 被介護者の身体を小さくまとめる、てこの原理を応用するといった内容が、被介護者を人間ではなく物体として捉えている
  • ボディメカニクスは人間の力だけで介助するのが前提で、便利な道具を取り入れるなどは想定していない
  • ボディメカニクスは「介護者の視点からどう動くか」に重点を置いた考え方であり、自立支援のために「被介護者にどう動いてもらうか」の視点が抜けている

キネステティクスは被介護者と介護者がコミュニケーションを取り、介護者が被介護者の動きを引き出す介助法です。自立支援の考え方にマッチしているといえます。
ボディメカニクスは介護現場において非常に大切な技術であることは間違いありません。しかし、時代の流れとともに、被介護者・介護者の双方の負担が軽くなる用具や技術を学んでいくことも重要です。

まとめ

ボディメカニクスの基本とは、「支持基底面を広く確保する」「骨盤が安定するよう重心を低くする」「被介護者との距離を縮める」「身体全体の大きな筋肉を利用して介助する」「水平方向に移動させる」「足先を動作方向に向ける」「てこの原理を用いる」「被介護者の身体を小さくまとめる」の8原則のこと。関節や筋肉、骨が動くときの相互作用を利用し、最小限の力で介護を行う技術であるため、介護職員の身体的な負担を減らすために役立ちます。
「介護を行う際の身体的な負担がつらい」「無理な体勢が多く腰痛が気になる」という方は、ぜひボディメカニクスを活用してみましょう。

「ボディメカニクスを活用しても負担が大きい」「介護技術を習得したくても今の職場では無理そう…」と感じている場合は、一度レバウェル介護(旧 きらケア)に相談してみてください。
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執筆者

  • 「レバウェル介護」編集部

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※この記事の掲載情報は2024年2月13日時点のものです。制度や法の改定・改正などにより最新の情報ではない可能性があります。

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