
この記事のまとめ
- 移動介助とは、「居室からリビング」などの移動を手助けすること
- 移動介助では、「ボディメカニクスの8原則」を活用しよう
- 移動介助を行うときの注意点は、動作ごとの声かけや体調への気配りなど
「移乗や移動介助のコツが知りたい」「移乗・移動介助がスムーズに行えるようになりたい」
上記のようなお悩みを抱えている介護職員も多いのではないでしょうか?
移乗・移動介助は、介護現場で働く介護職員として必ず身につけておくべき基礎的な介護技術の1つです。本記事では、移乗・移動介助の基本とコツを詳しく解説しています。本記事を参考に移乗・移動介助の知識を学び、介護現場で活用しましょう。
目次
移動介助と移乗介助の違い
移動は、歩行や車いすで「居室からリビング」や「リビングから浴室」などさまざまな場所へ向かって動くことを指します。一方で、移乗は「車いすからベッド」や「車いすからトイレの便座」などへ移ることを指す言葉です。
「移動」と「移乗」は似ていますが、その意味は異なり、必要とされる介護技術にも違いがあります。
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少ない負担で安全に移乗・移動介助を行うコツ
介護現場で移乗や移動の介助を行う際は、人の身体の動きや構造を理解したうえで介助を行うと、負担が少なく安全な介護が可能です。介護職員と利用者さんの双方にとって、負担の少ない介助を行うためのコツを3つ紹介します。
利用者さんの大きい骨を支える
大きい骨とは、肩甲骨や骨盤などです。大きな骨を支えるようにしながら利用者さんの身体を支えて介助することで、強い力を加えることなくラクに介助することができます。また、大きな骨を支えることで安定感があり、利用者さんも恐怖を感じにくくなるため、身体に余計な力が入らずスムーズな介助が可能です。
移動の動作や姿勢を正しく理解する
移乗や移動の介助をするときは、自然な身体の動作や姿勢を正しく理解することも必要です。自然な動作とは、私たちが普段から何気なく行っている身体の動きを介助によって、できるだけ再現すること。
立ち上がるときの動作を例に解説します。
私たちは、まず足を手前に引き、それから上半身を前傾させて立ち上がります。これが人の立ち上がる動作の自然な動きです。このような動きを介助によって再現することで、介護職員も利用者さんも負担なくスムーズな動作が可能になります。
ボディメカニクスを活用する
負担が少なく、安全な移乗・移動介助をするうえで最も重要なのが「ボディメカニクス」の考え方です。ボディメカニクスとは、「最小の力で介護する技術」のことを指します。人の身体の構造や力の入れ方、力の働き方を理解して活用することで、介護する人とされる人の双方にとって負担の少ない介護が実践できます。
移動介助の基本「ボディメカニクスの8原則」とは
ボディメカニクスを移乗・移動介助に活用するためには、「ボディメカニクスの8原則」を理解しておく必要があります。
① 支持基底面積を確保し介助者の身体を安定させる
支持基底面積とは、体重を支える面積のこと。支持基底面積を広くとることで身体が安定し、負担の少ない安全な介助が可能です。介護職員は移乗や移動介助の際、両足を左右前後に広めに開き、支持基底面積を広く確保することを意識しましょう。
② 利用者さんと介護職員の重心を近づける
介護職員と利用者さんの重心をなるべく近づけると、余計な力を必要とせず少ない力でスムーズな介助が可能です。特に移乗の際は、介護職員と利用者さんの身体を密着させるようにして支えると負担の少ない介助ができます。
③ 身体全体の力を使って介助する
人の身体は非常に重いため、腕だけで支えようとしてしまうと支えるのが難しいと感じるかもしれません。身体全体の筋肉を使って支える意識で介助を行うと、それほど重さを感じずに利用者さんを支えることができます。
④ 利用者さんの身体を小さくまとめる
ベッド上で利用者さんの身体を移動させる場合などに特に有効です。
利用者さんの腕や足を組んで身体を小さくまとめ、ベッドなどに摩擦する面積を少なくすることで、力の分散を防ぐ効果が期待できます。自分より身体の大きな利用者さんの介助をする際は非常に役立つポイントといえるでしょう。
⑤ 水平移動を意識し利用者さんを手前に引く
移乗・移動介助は、「持ち上げる」というイメージがあるかもしれませんが、移乗・移動介助の基本は水平移動です。持ち上げてしまうと重力が働くため、介護職員の身体への負担が大きく、腰痛の原因にもなります。水平移動を意識して、できるだけ小さな力での介助を心がけましょう。
また、利用者さんを移動させる際は「押す」よりも「引く」力を使いましょう。引く力の方が小さい力で済み、介護職員も利用者さんも負担が少なくなります。
⑥ 重心を下げて骨盤を安定させる
重心を低くすることで身体が安定するため、安全に移乗・移動介助することが可能です。また、背筋を伸ばし、膝の屈伸を使うと腰を痛めません。足先を重心移動する方向に向け、膝の屈伸で重心を移すことで、より骨盤が安定するのでスムーズな移動も可能になります。
⑦ 身体をねじらず肩と腰を水平に保つ
身体をひねったり、ねじったりするとバランスを崩して事故や怪我の原因にもなります。肩と腰は平行に保ち、全身を使って介助を行いましょう。
⑧ てこの原理を活用する
てこの原理は、支点・力点・作用点の力関係を利用して、小さい力で大きな物を動かす原理です。ベッドサイドに膝を押しあてて利用者さんを起こすなど、てこの原理を活用すれば小さな力でスムーズな介助ができます。
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【シーン別】移乗・移動介助の方法とポイント
シーン別に具体的な移乗・移動介助の方法やポイントを解説します。介助に自信がない場合は、普段の動作を思い浮かべながら読み進めてみてください。具体的なイメージが湧くかもしれません。
ベッド上での体位交換と上方移動介助
ベッド上での移動介助について解説します。手順と介助の際のポイントを記載していますので、普段の介助でできていないところがないか確認してみましょう。
ベッド上の移乗介助は、寝たきりの利用者さんの褥瘡(じょくそう)予防にもつながります。質の高いケアを提供するためにも、なるべくスムーズに行えるようにしておきましょう。
仰臥位から側臥位への体位交換
①寝返りをする側のベッドサイドに立ち、ベッドの高さを調整する
②利用者さんの膝を片足ずつ立てる
③利用者さんの両腕も胸の前あたりで組む
④可能な場合は頭を少し上げてもらい、目線を寝返る側に向けてもらう
⑤肩~肩甲骨あたりと膝を支えながら、手前に引く
②③で利用者さんに無理のない範囲で身体を小さくまとめてもらうことでベッドとの摩擦を減らし、スムーズな移動が可能です。また、目線を寝返る側に向けてもらうことで重心移動を楽に行える姿勢を整えています。
ベッド上での上方移動介助
①利用者さんの膝を片方ずつ立てる
②利用者さんの両腕を胸のあたりで組む
③頭を少し上げ、頭・肩甲骨を片腕で支える
④もう片方の手で仙骨あたりを支える
⑤介護職員は少し上方へ移動し、その後利用者さんを上方へ引き上げる
ベッドの高さを調整するなどして、介護職員と利用者さんの重心の高さをそろえ、なるべく近づくようにして引き上げると負担を感じることなく上方移動が可能です。
ベッドからの起き上がり介助
①上記で紹介した手順で側臥位になってもらう
②利用者さんの首あたりに手を差し込み、頭と首を支える
③もう片方の手で膝を支えて、利用者さんの膝下をベッドからおろし、上半身も一緒に起こして端座位にする
④倒れないようにしっかりと座ってもらう
足を下ろす動作やベッド柵を掴んで自分で起き上がる動作など、利用者さんが自分でできる動作はできるだけやってもらうように心がけましょう。また、起き上がるスピードが早すぎるとめまいを起こしたり、恐怖を感じたりする場合もあるため十分に注意が必要です。
上体を起こすときは、てこの原理を意識して、お尻を軸に弧を描くように起こすとスムーズに動作を介助することができます。
ベッド・車椅子間の移乗介助
①利用者さんに浅めに腰かけてもらい、両足が地面についていることを確認する
②利用者さんの両腕を介護職員の肩に回し、つかまってもらう
③支持基底面積を広げて重心を下げた体勢で利用者さんの背中に手を回す
④前傾姿勢をとってもらい、立ち上がる
⑤車いす側の足を軸に方向転換する
⑥ゆっくりと腰かけてもらう
⑦座り方が浅い場合は、座り直してもらい、姿勢を整える
移乗のポイントは、高いところ→低いところへ移乗ができるよう、ベッドの高さを調整することです。移乗は「持ち上げる」ではなく、高いところから低いところへ支えながら下ろすイメージで行うと負担が少なく安全に介助ができます。
歩行介助
①脇に手を入れて身体を支える
②反対の手で下から支えるように利用者さんの手を軽く握る
③ペースを合わせて一緒に歩く
杖なし歩行の方の介助は、特に難しいポイントはありませんが、急なふらつきや膝折れ等に注意しながら介助しましょう。
杖歩行の方の介助
杖歩行の場合、健側側に杖を持つのが基本となるため介護職員は杖と逆側に立ち、移動介助を行います。歩行時は、「杖→患側→健側」の順で歩くよう促すとスムーズです。
また、階段を使用する際は、杖を持っていると危険です。杖は介護職員が預かり、手すりを使ってもらうように声かけを行いましょう。
片麻痺がある方の歩行介助
片麻痺がある方で杖を持っていない場合は、患側から介助するのが基本です。残存機能を活用するため、過剰な介護・介助に注意しながら、ケアしていきましょう。
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歩行介助の目的や種類とは?介護職が注意したいポイントや介助方法を解説!
移乗・移動介助を行うときの注意点
移乗・移動介助を行う際の注意点を5つ紹介します。
利用者さんの残存能力を引き出し自立支援を促す
ADLや認知機能に合わせて、声かけや介助の方法を工夫することが大切です。「時間がかかるから」などの理由で過剰に介助してしまわないように注意しながら、自立支援を促す介助を心がけましょう。
動作のたびに利用者さんに声かけする
利用者さんの中には、次の動作が予測できていない方もいます。次の動作に移る前に動作説明の声かけを行いましょう。声かけをせずに動作に移ると恐怖や混乱から介護拒否などにつながることもあるため、注意が必要です。
また、適切な声かけを行うことで身体を動かす意識を持つことができ、自分で動かす意欲が湧く場合もあります。動作ごとの声かけを忘れないようにしましょう。
利用者さんの体調や状態に気を配る
普段あまり自力で動くことが無い利用者さんの場合、移乗や移動で立ちくらみや身体の痛みが生じる場合も考えられます。介助の際は、体調の変化に気を配ることを忘れないようにしましょう。
危険や事故を予測し先回りして対応する
利用者さんに座ってもらうときのポジショニングや車いすの位置などを決める際は、予測できうる事故を事前に防ぐための配慮も必要です。
- 車いすに座る位置が浅い→ずり落ちの可能性がある
- ベッドで端座位になってもらったまま、一瞬目を離した→前傾になりそのまま転落する可能性がある
など
このように予測できる危険を事前に無くすことが重要です。
必要に応じて福祉用具を活用する
特に移乗は、利用者さんとの体格差があると危険も伴います。小柄な介護職員が大柄な利用者さんを介助する場合などは無理をせず、スライディングボードなどの福祉用具を活用しましょう。
まとめ
本記事では、移乗や移動介助のコツと基本動作について解説しました。ボディメカニクスの考え方を忘れずに介助を行えば、身体に大きな負担を感じることなく、介助が可能です。8つの原則を覚えられるよう、何度も介助を実践しましょう。
移乗・移動介助のコツは、実践しながら教わると上達しやすく、スムーズに覚えることができます。しかし、介護現場は深刻な人手不足であることが多く、なかには移乗や移動といった基本をしっかりと教わることが難しい現場もあるでしょう。
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執筆者

椿るい
介護福祉士ライター
現役介護福祉士。認知症専門病院で看護助手として勤務した後に介護福祉士を取得し、現在は特養に勤務している。食事・排泄・入浴等、利用者さんの生活に係る介護全般に従事。派遣社員として勤務していた経験や副業経験もあり、介護職として柔軟な働き方を目指す。


