
認知症の方のケアをしていて、放尿や弄便(便いじり)に戸惑った経験のある方もいるのではないでしょうか?放尿や弄便(ろうべん)を発見すると驚くのも無理はないですが、介護職員は利用者さんに不安感を与えないよう、冷静に対応する必要があります。この記事では、実際の認知症のケア事例として、放尿・オムツ外し・弄便の事例をまとめました。利用者さんの行動の理由や対処法もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
認知症が原因の放尿・弄便(便いじり)の事例3つ
認知症の方の排泄の課題として、トイレ以外の場所で排尿をする「放尿」や、便を触る「弄便(便いじり)」があります。
以下では、実際の介護現場であった放尿や弄便(ろうべん)の事例を3つまとめました。
【事例1】要介護1の女性:居室での放尿
【事例2】要介護3の男性:夜間のオムツ外し
特別養護老人ホーム(特養)で暮らす89歳男性Bさんは、要介護3の認定を受けています。また、認知症による失語症があり、聞いたことはある程度理解できるものの、話すことは困難です。
日中は3~4時間おきに介護職員が声かけを行い、トイレ介助を実施。Bさんは歩行が難しく車いすで過ごしていますが、手すりを利用して立位が保てるため、日中はリハビリパンツとパッドを使用したうえで、トイレで排泄をしています。
【事例3】要介護2の女性:居室での弄便
グループホームで暮らす78歳女性Cさんは、要介護2の認定を受けています。普段は自分からトイレに行くことが多く、排泄の動作は基本的に自立している方です。
Cさんは失禁の対策としてリハビリパンツとパッドを使用しており、トイレに行った際に介護職員が交換を手伝います。これに加え、「トイレの間隔が空いたら声かけをする」「排便が4日以上確認できていないときは、主治医から処方されている下剤を服用してもらう」という排泄の支援も行っています。
放尿や弄便(便いじり)と認知症はどう関係している?

放尿や弄便が起きる理由はさまざまです。認知症を患う方の行動には、状況やその人ごとの理由があるため、原因を一つに特定することは難しいでしょう。
ここでは、利用者さんの放尿や弄便にはどのような理由があるのかを解説します。もちろん、すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、「行動の理由を知りたい」という方は参考としてご覧ください。
放尿の原因として考えられること
事例1のような放尿が見られる場合、トイレの場所が分からなくなっているのかもしれません。認知症の症状の一つである見当識障がいでは、今まで暮らしていたなじみのある場所が分からなくなることがあります。
居室の床やゴミ箱への放尿は、尿意があり「失禁してはいけない」という意識があるからこそ、下着を汚さず排尿したと考えられるでしょう。尿意を感じた際に、どうすれば良いのか分からなかったり、トイレ以外の場所をトイレだと思ったりすると、放尿につながる可能性があります。
オムツ外しの原因として考えられること
事例2のようなオムツ外しがある場合、パッドによる蒸れやかゆみに不快感を抱いている可能性があります。特に、失語症があり自分の状況や気持ちを言葉で伝えることが難しいと、介護職員に相談できないため、行動で示すのは自然なことかもしれません。
また、オムツ外しの原因として、パッドやオムツの必要性が分からず外してしまうことも考えられます。失禁があり、衛生を保つためにパッドやオムツを使用していても、ご本人にその認識がなければ、「脱いだほうが快適だ」と感じることは想像できるでしょう。
弄便の原因として考えられること
事例3のように利用者さんが便を触ってしまう場合、「排便後のパッドの状態が気持ち悪い」と感じている可能性があります。
認知症の症状である「失認」により、便を便だと認識できないと、触ると不潔につながることを理解できません。便をクリームのような食べ物だと誤って認識し、便を食べる異食が起きるケースもあるようです。
また、認知症の方の弄便の間接的な原因として、便失禁が挙げられます。直腸から脳への指令がうまくいかないと便意を感じられず、適切なタイミングでトイレに行けなくて便失禁が起きる場合があるでしょう。便意を感じるのが遅かったり、トイレの場所が分からなかったりして、トイレに間に合わないことも考えられます。
ご本人が便失禁を認識できる場合、「知られるのが恥ずかしい」「怒られるかもしれない」と自分で処理しようとして、結果的に弄便が起きてしまうケースもあるでしょう。
認知症の放尿・弄便(便いじり)への対応と予防法は?
認知症に伴う放尿や弄便がある方の介護をするときは、原因を分析して状況に応じて対応する必要があります。排泄介助はデリケートなケアなので、プライバシーへの配慮が欠かせません。
実際に放尿や弄便を発見した際は、1人で処理しようとせず、周りのスタッフと協力しながら対応しましょう。排泄物の処理や掃除だけではなく、必要に応じて手洗いや更衣、入浴などの支援を行い、利用者さんの清潔を保つことが大切です。利用者さんの尊厳を傷つけないよう、納得して行動してもらえるような声かけをすることも、ケアのポイントといえます。
居室での放尿があるAさんのケア方法
居室での放尿があったAさんの「実際のケア事例」と「放尿を予防するための対策」を見てみましょう。
実際のケア事例

Aさんは、居室に訪問した介護職員に「分からなくなっちゃったの…」と落ち込んだ様子でおっしゃいます。
介護職員は「大丈夫ですよ」と伝え、居室の外へ一緒に移動しました。そして、「もうすぐご飯なのでお手洗いを済ませておきましょうか?」と声をかけると、「そうね」と応じてくださったので、Aさんをトイレへ案内。失禁はないか確認し、トイレから出て手を洗っていただきました。
Aさんのお話を聞いている間、状況を共有したスタッフが、居室の掃除・消毒・換気をしてくれ、連携して対応できました。
放尿の予防法と対策
Aさんはこれまではトイレで排尿ができていたものの、居室の床やゴミ箱への放尿が3回ほど見られました。基本的に失禁はなく尿意はあることから、主な原因はトイレの場所が分からないことと考えられます。
Aさんの排泄のケアについて職員間で話し合い、居室で過ごしているときは約1時間おきに様子を確認することになりました。定期的に居室に伺うと、トイレに行きたくないかを確認でき、もしも放尿があったときも早い段階で対応できます。
関わる機会を増やすことで、排泄の支援だけではなく不安感の軽減にもつながる可能性があるでしょう。
さらに、前回トイレに行ってから2~3時間空いたら、トイレの声かけをするルールを作りました。もともと排泄の状況は把握できる範囲で記録していましたが、それに加えて声かけをしたことも記載し、いつ声かけをしたか分かるようにしたのです。また、Aさんが何か探している様子があれば、介護職員から声をかけることも徹底しました。
Aさんがトイレで排泄できるよう、上記の対策をした結果、放尿は見られなくなりました。ただし、要介護1でこれまで比較的自立して行動できていたAさんは、認知機能の低下が進行している状況と考えられます。排泄のケアを含め、日常生活の様子に変化はないか注意して見守りつつ、その都度状況を共有して支援方法を検討し続けることとなりました。
夜間のオムツ外しがあるBさんのケア方法
以下は、夜間にパッドを外していたBさんのケア事例です。
実際のケア事例

介護職員は、夜間2時間おきに各利用者さんの居室を巡回しているなかで、Bさんがパッドを外して失禁されているのを発見。眠っていたBさんに「服が濡れているみたいなので、着替えてさっぱりしましょうか」と声をかけ、更衣・清拭と、シーツ・防水シーツの交換を行いました。
なお、1人で夜勤に対応している場合は、失禁があった利用者さんの清潔保持の支援と同時に、ほかの利用者さんの安全確保も重要です。そのため、施設内を巡回して危険はないか確認してから対応するなど、全体の状況の把握も心がけると良いでしょう。オムツ外しの予防法と対策
Bさんがパッドを外して失禁していた状況を職員間で共有し、パッドの使用方法は適切か検討しました。情報交換をしたところ、パッドの使い方が統一されていないことが判明しました。
男性の場合、陰茎に巻くような形でパッドを当てることがありますが、この当て方は推奨されていない場合があります。理由の一つは、蒸れて肌トラブルや不快感につながることです。もしも、自分で外せないような巻き方をすると、身体拘束となるリスクもあります。
話し合いの結果、パッドを陰茎に巻く当て方の日のほうが、Bさんのオムツ外しが多いようでした。そのため、できるだけBさんがパッドを不快に感じないよう、「パッドは陰茎に巻かずに少し前寄りに当てるだけにする」というルールで統一しました。
夜間の尿量が多い場合は、使用するパッドの種類を変えたり、防水シーツを大きいものに変えたりすることも有効です。
パッドの当て方を統一したことで、Bさんのオムツ外しの回数は減り、清潔を保持できるようになりました。失禁に伴う全更衣やシーツ交換も減ったため、結果として介護職員の負担軽減も図れました。
居室での弄便があるCさんのケア方法
便は特に細菌が多いため、弄便があったときはまず清潔保持のケアが必要です。弄便があったときの対応方法の例を、下記にまとめました。
実際のケア事例
Cさんに弄便が見られたときは、居室の状況を確認し、洗面台が使えれば居室で手を洗っていただきました。洗面台が使えない場合、使い捨てできる濡れタオルやおしりふきなどで簡単に汚れを落とします。居室から出るとほかの利用者さんの目があるので、ある程度居室で綺麗にするのがポイントです。
声かけの際は、「これからお茶の時間なので手を洗いましょうか」「手に少し汚れが付いたみたいなので、石けんで洗いませんか?」のように伝え方に配慮します。
居室から出られる状態になったら、トイレや脱衣所に移動し、清拭やパッド・リハビリパンツの交換を実施しました。
汚れが多い場合はシャワー浴をする方法もあります。爪のなかに便が入っている場合、洗面器で手浴をする、爪ブラシを使うなどすれば綺麗になるでしょう。
「弄便」や「排尿後のパッド外し」の予防法と対策
職員間で話し合ってCさんの弄便の原因を分析するなかで、「排尿後のパッドを居室にしまっていることがある」という件が話題に上がりました。
Cさんはいつも髪を自分で整えたり、リビングの机の上を片づけたりしています。綺麗好きな性格なので、「排泄物が肌に触れている感覚が気持ち悪い」とストレスを感じているのかもしれません。
また、弄便は下剤を服用したときに多く見られます。そのため、下剤を服用した日は、トイレの声かけの回数を増やしたり、居室からリビングに誘ったりして対応することにしました。居室で過ごしているときは、こまめに伺って様子を確認し、もし汚れた場合はすぐ入浴等の対応ができるよう予定を立てました。
外したパッドを居室にしまっている件についても、約2時間おきにトイレの声かけを行い、トイレで排泄できるよう支援する方針です。
使用済みのパッドを居室に放置していると、雑菌が繁殖する原因となるため、食事の時間や入浴時など、定期的に居室を確認。トイレ介助や入浴介助の際にパッドをしていないときも、別のスタッフに共有して居室をチェックすることとなっています。
上記のような対応を行ったことで、トイレでの排泄やパッド交換につながりました。常に介護職員が見ているわけではないので、完全に弄便やパッド外しがなくなるわけではありません。しかし、対応のマニュアル化により、状況の早期把握やスムーズなケアが行えるようになり、介護方法が分からず不安に感じることは減りました。
まとめ
認知症の方は、放尿や弄便(便いじり)といった排泄の課題を抱えることがあります。放尿の原因として考えられることの一つが、「トイレの場所が分からない」という見当識障がいです。また、弄便は、「便がパッド内にある不快感」や「便を触ることが不潔だと分からないこと」が原因で起こる場合があります。
放尿や弄便があったときは、周囲の職員と連携して対応することが大切です。「利用者さんの対応をする」「居室の掃除をする」のように役割分担をして、利用者さんが清潔な状態で落ち着いて過ごせるようケアします。利用者さんの対応では、プライバシーに配慮した声かけをすることが重要です。
また、職員間で情報共有し、改善の方法を話し合うと良いでしょう。声かけの回数を増やしたり、ケアの方法を見直したりすることで、状況が改善する可能性があります。
放尿や弄便に遭遇して「どうしたら良いのか分からない…」と感じたときは、利用者さんの不安に寄り添ってケアすることを意識しましょう。
介護職として働くなかで、「今の職場に不満がある」「もっと成長できる環境で働きたい」など考えたときは、レバウェル介護(旧 きらケア)にご相談ください。介護業界専任のキャリアアドバイザーがお悩みやご希望を聞き、より良い選択肢を一緒に考えます。転職をご希望であれば、求人探しから面接対策まで一貫してサポートします。もちろん、ご相談だけでも大丈夫です。
サービスは無料なので、「介護職として今後どうしようかな」と思ったときは、いつでも気軽にご活用くださいね!
登録は1分で終わります
執筆者

実
元介護士ライター
グループホームに2年、訪問介護事業所に3年勤務。多くの高齢者や、障害のある方の介護に携わる。訪問介護事業所では、サービス提供責任者の業務も担当した。2022年に介護福祉士を取得。現在は、知識や経験を活かして、介護職員の方に役立つ情報を発信している。





