
認知症を患う方の入浴拒否の原因や対処法を知りたい方もいるのではないでしょうか?介護業界で働くうえで、認知症に関する知識や対応のスキルは重要です。しかし、実際に現場で働いているとさまざまなケースに遭遇し、難しさを感じる方は多くいます。この記事では、認知症の利用者さんの入浴拒否の事例を3つご紹介します。入浴拒否の原因として考えられることや声かけの方法も解説するので、介護業界で働く方はぜひご覧ください。
目次
認知症の利用者さんの入浴拒否の事例3つ
ここでは、実際に介護スタッフが経験した認知症の利用者さんの入浴拒否の事例をご紹介します。グループホーム・デイサービス・訪問介護の事例を1つずつ挙げるので、「入浴拒否の対応に悩んでいるのは自分だけ?」と不安に感じている方は、ぜひ確認してみてください。
事例1:グループホームでの入浴拒否

Aさんの入浴予定の日に、介護スタッフが居室で過ごすAさんに「お風呂の準備ができたので入りませんか?」と声をかけると、「もう帰るからいいわ」と入浴を拒否されました。
事例2:デイサービスでの入浴拒否
82歳の女性Bさんは、1年ほど前からアルツハイマー型認知症の症状があり、要介護1の認定を受けています。ある日息子さんが仕事から帰ると、浴室から声が聞こえました。確認すると、Bさんが浴室から出られなくなり、「助けて~」と繰り返しています。いつも通り自宅で入浴したBさんは、浴槽から出られなくなって1人で冷えた湯船に浸かっていました。
息子さんからケアマネジャーに経緯を相談すると、「高齢者が入浴しやすい環境が整った介護サービスを利用して、介護スタッフと一緒に入浴をするのはどうか」と提案され、デイサービスで週に2回入浴をすることになりました。
デイサービスに通所されたBさんに、介護スタッフが「今日はお風呂の日ですよ!いいお湯なのでBさんも入りませんか?」と声をかけましたが、「いつも家で入ってるから今は大丈夫、ありがとう」と入浴を拒否されました。
事例3:訪問介護でのシャワー浴拒否
ホームヘルパーが訪問してシャワー浴の声かけをしたところ、Cさんは「後で自分で入るからいいわよ。それよりお話ししましょう」と介護を拒否されました。
認知症の入浴拒否はなぜ起きる?原因として考えられること
入浴介助は健康を保つうえで重要なケアなので、利用者さんから拒否されると困ってしまいますよね。「そもそもなんで入浴したくないんだろう…?」と疑問に感じることもあるのではないでしょうか?
入浴拒否の原因は利用者さんの認知症の症状や状況、性格などによって異なりますが、例として以下のような理由が考えられます。
- 入浴でケガをしたなどのトラウマがあり怖い
- ほかの利用者に身体を見られるから施設で入浴するのは恥ずかしい
- 脱衣所が寒いから冬に家で入浴したくない
- 介護スタッフから急に入浴の声かけをされ、理由が分からなくて戸惑っている
- 疲れるから入浴したくない
- 入浴に不安があるが、理由をうまく言葉で伝えられない
上記の1~3のケースの場合、認知症の症状が関係して入浴拒否につながっているとは言い切れず、利用者さんの感情を尊重することが求められます。一方、4~6のケースでは、認知症による記憶障がいや意欲低下、言語障がいなどが大きく関わっている可能性があるでしょう。
入浴拒否の原因1~3:入浴したくない明確な理由がある
特に身体機能が低下している方にとって、入浴は転倒やヒートショックによる体調不良などのリスクがある行為です。入浴時に亡くなる方もいるため、一度怖い経験をしたことがあると、「お風呂は怖い」と思うのも自然なことといえます。
認知症の利用者さんの場合、「1分前に話したことを忘れている」といった記憶障がいがあることも珍しくありません。しかし、状況をすべて覚えていないとしても、「お風呂は怖い」のような感情は記憶に残りやすい傾向にあります。
また、「裸を見られたくない」「冬は寒いから服を脱ぎたくない」などは、認知症を患っていなくても感じることのため、利用者さんに共感できる部分があるのではないでしょうか?
入浴拒否の原因を探るときは、「認知症だから拒否している」と決めつけず、「何が嫌なのか・不安なのか」を分析することが大切です。
入浴拒否の原因4~6:認知症の症状が深く関わっている
認知機能の低下によって起こる認知症の直接的な症状を「中核症状」と言い、中核症状に付随して起こる症状を「行動・心理症状(BPSD)」と言います。

引用:厚生労働省「政策レポート:認知症を理解する」
たとえば、記憶障がいがあることによって「昨夜は家で入浴した」と思っている場合、午前中に入浴の声かけをされて「なぜ今入浴が必要なのか分からない」と感じるのは自然なことです。デイサービスにいる理由や介護スタッフが誰なのかが分からない場合もあります。
この状況を自分に置き換えてみると、「仕事に来たら、知らない人に急に入浴しようと言われた」に近いので、利用者さんが戸惑うのも無理はないでしょう。
また、「実行機能障がいがあり入浴の手順が分からない」「失行があり服を脱ぐときの動作が分からない」といった中核症状がみられることも。実行機能障がいや失行によって、スムーズに入浴するのが難しくなると、意欲低下や無気力などの行動・心理症状につながる場合があります。
「入浴介助をされることに不安があるが、失語の影響で自分の気持ちをうまく言葉で伝えられない」「入浴に怖いイメージがあるが、記憶障がいがあり具体的な理由を思い出せない」という状況で拒否が発生することも考えられるでしょう。
出典
厚生労働省「認知症を理解する」(2026年5月25日)
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」(2026年5月25日)
認知症の利用者さんの入浴拒否への対処法
すでに触れたとおり、介護拒否の理由は利用者さんによって異なります。「入浴拒否があったときは、〇〇をすると解決する」という正解があるわけではないので、利用者さんごとに拒否の原因を探って対処法を考えることが必要です。
利用者さんが何を不安や不快に思うのかを知るために、まずは情報収集を行いましょう。介護サービスを提供する事業所には、利用者さんの既往歴や家族構成、介護介入の経緯などの基本情報が共有されています。また、これまでのケアや拒否があったときの対応などは、介護記録に記載されている可能性があるでしょう。
さらに、利用者さんとのコミュニケーションを通じて表情や動作を観察したり、ご家族やケアマネジャーと話すなかで情報を得たりすることも有効です。

情報収集をしたら、周囲と相談して利用者さんのニーズや課題を分析しましょう。入浴拒否の理由によっては、介助方法を変えるのではなく、声かけを変えることで応じてもらえる場合もあります。
「今からお風呂に入りましょう」という声かけに拒否がみられるときは、今入浴する理由やメリットを伝えてみるのも良いでしょう。「お医者さんから入浴後に塗る薬を預かっていますよ」「ご家族が予約してくれて今ちょうど空いてますよ」のように理由を添えると、疑問が残りにくいといえます。

認知症の利用者さんのケアにおいて、怒っていたり声かけへの反応が良くなかったりするときは、無理せず一旦引くことも必要です。入浴に対するネガティブな感情や介護スタッフへの不信感が残らないように配慮し、長期的な目線で信頼関係を築いて介護を行いましょう。
事例1:帰宅願望のあるAさんへの対応方法
利用者さんに帰宅願望があり、「今から家に帰る」と言っているときに、「今は入浴の時なのでお風呂に入りましょう」と伝えるのは避けるべきです。
「Aさんの家のお風呂の調子が悪いので、今日はここで入浴するよう娘さんから聞いてますけど、どうしましょう?」のように、相手の言葉を否定しない声かけであれば、納得して応じてもらえる可能性があります。
利用者さんが気分を切り替えられるようサポートしたいときは、趣味の話を聞いたり好きな音楽をかけたりして、明るい気分になれるような工夫をすると良いでしょう。そもそも、「家に帰りたい」と思うのは悪いことではないので、「帰れませんよ」のように、利用者さんの感情を無視した声かけをするのは望ましくありません。
また、認知症の利用者さんから介護拒否があったときの対処法として、時間をかけて状況を変える方法もあります。家に帰ろうとしているときにお風呂に誘っても応じてもらうのは難しいもの。ほかの利用者さんに先に入浴してもらい、30分ほど空けたタイミングで声かけをすれば、案外すんなり受け入れてもらえるかもしれません。
事例2:自宅の浴室で怖い経験をしたBさんへの対応方法
デイサービスでの入浴拒否の理由を大きく分類すると、「施設での入浴が嫌」「入浴自体をしたくない」の2つに分けられます。Bさんに入浴の声かけをしたとき、少し困ったような表情をしていたため、一緒にタオルをたたみながらお話を伺いました。
普段の1日の流れを聞きながら、「私はいつも、家に帰ってご飯を食べて9時ごろにお風呂に入ってます」とさりげなく入浴の話題を出すと、Bさんは「お風呂は怖いし息子にも危ないと言われた」とおっしゃいます。その後話を続けると、「お風呂は危ない」「息子に叱られた」という理由から、入浴を拒否していたことが分かりました。
そのため、息子さんから施設での入浴を勧められていることを伝えたうえで、相談してシャワー浴を実施することに。Bさんは「大丈夫かな、申し訳ない」と言いつつも、シャワー浴後は「さっぱりした、ありがとう」と笑顔でお礼を言ってくれました。
今でもBさんは入浴を拒否することがありますが、「息子さんが安全に入浴できるように予約してくれたのでどうですか?」と声をかけると、「じゃあ入ろうかしら?」と前向きに応じてくださいます。Bさんは「一人息子に心配はかけられないからね!」とおっしゃることがあり、息子さんをいつも気にかけている素敵な利用者さんです。
事例3:自宅でのシャワー浴に消極的なCさんへの対応方法
笑顔で訪問を受け入れてくれたものの、「お風呂は自分で入るから、それよりもお話しましょう。」と入浴を拒否したCさん。状況に応じて清拭をすることも可能な計画になっていたので、その日は部屋を暖めてホットタオルでの清拭に切り替えました。そしてお話ししながら清拭をしていると、「お風呂場は寒いからね…」という言葉がありました。
訪問後、サービス提供責任者(サ責)に、シャワー浴ができず清拭に切り替えたことや、Cさんの発言を報告。サ責によると、「Cさんの身体状況と自宅の環境的に、浴槽に浸かるのは難しそう」「しかし施設での入浴は本人が拒否している」とのことです。
そして、サ責とケアマネジャー間でも対応を相談した結果、シャワー浴の際に足浴を試すことになりました。次の訪問時、「シャワー浴の後に足湯で身体を温めましょう」とCさんに伝えてみると、「それなら湯冷めしないわね」とシャワー浴に応じてくれたのでした。
まとめ
認知症を患う利用者さんの入浴拒否の理由はさまざまです。複数の要因が絡み合っている場合もあり、利用者さんの感情を介護スタッフが完全に理解することは難しいでしょう。だからこそ、利用者さんは「何が嫌なのか・不安なのか」を分析して対応する必要があります。
入浴の声かけに応じてもらうには、まず信頼関係を築くことが大切です。一言目に「お風呂に入ってください」と要求を伝えるのは避け、日常会話を大事にして関係性を築きましょう。相手のペースで話してもらったり、ときどき自分の話を交えながら話を聞いたりすると、本音を引き出せる場合があります。
情報収集をして利用者さんが言葉にできない部分をくみ取ることも、介護スタッフの重要な役割です。「家族が言っているから正しい」のように決めつけず、集めた情報を関係者と共有し、課題分析や対策の検討を行いましょう。
「こう思っているかも」と、いくつもの可能性を考慮し、さまざまなアプローチを試すことで入浴拒否の状況が改善するかもしれません。
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執筆者

実
元介護士ライター
グループホームに2年、訪問介護事業所に3年勤務。多くの高齢者や、障害のある方の介護に携わる。訪問介護事業所では、サービス提供責任者の業務も担当した。2022年に介護福祉士を取得。現在は、知識や経験を活かして、介護職員の方に役立つ情報を発信している。






