
「認知症の利用者さんからのセクハラに困っている」という介護職の方もいるのではないでしょうか?介護現場でのハラスメントは問題視されており、事業所に対策の義務があるため、悩みのある介護職の方は一人で抱え込まず上司に相談してくださいね。この記事では、グループホームと訪問介護におけるセクハラの事例をご紹介します。原因として考えられることや、介護職と事業所が行った対応についてもまとめたので、ぜひ参考にしてください。
目次
【認知症ケア事例】性的な言動によるセクハラ
ここでは、認知症ケアの事例として、グループホームと訪問介護において利用者さんからセクハラを受けたケースをご紹介します。「ハラスメントに悩んでいるのは私だけ?」と感じている方は、ご負担のない範囲でチェックしてみてください。
事例1:グループホームでの身体的な接触と性的な発言
80歳男性Aさんは、アルツハイマー型認知症によって要介護2の認定を受け、グループホームで暮らしています。排泄は一部介助が必要ですが、歩行やその他の行為は比較的自立している状況です。
ある日、30歳(2年目)の女性の介護職が、リビングのAさんが座っている近くを通ると、お尻のあたりを触られました。就寝介助の際に「一緒に寝よう」と言いながら手を引っ張ってくることもあり、対応に困っています。事例2:訪問介護での視覚的なセクハラと性的な発言
75歳男性Bさんは、アルツハイマー型認知症によって要支援2の認定を受けています。症状は比較的軽度で、記憶障がいが少しあるものの、一人暮らしに大きな支障はない状況です。
要支援の方が対象の総合事業として訪問介護を利用しており、週に1回ホームヘルパーが掃除の援助をしています。
担当ヘルパーは「いつものことだからしょうがない」と聞き流していますが、内心「性的な発言をされるのは嫌だな」と感じています。
介護現場のハラスメントの原因として考えられること
介護現場でハラスメントが起きる原因はさまざまです。一概に原因の特定はできませんが、考え得る要因を知ることで対応の検討に役立つでしょう。
たとえば、認知症を患う利用者さんからのハラスメントは、脳機能の低下で「やっても良いことと悪いことの判断ができない」のが原因の一つかもしれません。判断力の低下が影響し、セクハラなどの社会的・倫理的に不適切な言動が起きることがあります。
このような衝動的な行動は「脱抑制」と呼ばれ、認知症などの脳の疾患がある方にみられる場合があるようです。
認知症の進行に伴って理解力や判断力が低下すると、相手が嫌がって拒否しても気持ちをくみ取ることができず、不適切な言動を繰り返すことも考えられます。
また、セクハラが広く問題視されるようになったのは約40年前からなので、利用者さん側と介護職で認識に差があることも。利用者さんが「これくらい大丈夫だろう」と思っている言動で、介護職が精神的なストレスを感じるケースもみられます。
さらに、「閉鎖的な空間で1対1でケアをする」「性的なビデオが部屋に散乱している」など、介護をする際の環境もセクハラのリスク因子となり得るでしょう。
出典
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」(2026年8月21日)
厚生労働省「認知症を理解する」(2026年8月21日)
厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」(2026年8月21日)
【認知症ケア事例】セクハラと感じる言動への対応方法
利用者さんからハラスメントが疑われる行為がある場合、自分1人で抱え込まず上司に相談して対応することが大切です。
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策」によると、介護職が安心して働けるよう、介護事業所はハラスメント対策を行わなければいけません。職員からのセクハラ・パワハラだけではなく、利用者さんやご家族の不適切な言動もハラスメントに該当します。
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)の場合など、状況によってはハラスメントとして認定されないこともありますが、いずれにしても職員の安全確保を図るのは事業所の責務です。そのため、介護職が「利用者さんは認知症だから我慢しないと…」と無理をする必要はありません。
下記では、グループホームの事例と訪問介護の事例について、事業所と介護職のセクハラへの対応をまとめました。
事例1:施設の利用者さんから性的な言動があるケース
Aさんからの性的な言動についてスタッフ間で情報共有をすると、施設で働く20~50代の女性スタッフは全員、同様の経験をしていました。
30歳女性の介護職が「どう対応して良いか分からない」と相談したところ、女性管理者は、「本人にはっきり『やめてください』と伝えて大丈夫。もし触られそうになったら避けていいよ」とのことです。
これまで対応方法が分からず笑ってごまかしていましたが、「皆さん1人で寝ているので、Aさんも1人で寝てください」「触られると困ります」のようにはっきり伝えると、「そうか」と普通に返事をしてくれました。
さらに、セクハラ防止策として、「男性の介護職がいるときは、Aさんの対応を男性介護職が中心となって行う」「女性だけのときは対応が誰か1人に偏らないようにする」というルールをつくりました。午後8時に遅番スタッフが帰ると1人夜勤となるので、Aさんの就寝介助はできるだけ午後8時までに済ませています。
その後もAさんの性的な言動はときどきありますが、相談した介護職は「自分の身を守る行動を取れるようになって前よりは負担が減った」と言っていました。周囲に相談して対応方法を検討すると、自分の負担を減らせる可能性があるので、まずは情報共有を行うことが大切です。セクハラに関する話題を相談しづらいと感じる場合、管理者や同性の先輩などの話しやすい人に相談してみると良いでしょう。
利用者さんや状況ごとにベストな対応は異なりますが、嫌だと伝えて問題なくやめてくれるのであれば、意思表示をするのは有効な方法です。
セクハラをはじめとするハラスメントは、個人の問題ではなく職場全体の問題です。嫌だと思っているのに我慢を続けると、心に傷を負ってしまうリスクがあるので、自分を守ることも意識して行動しましょう。
事例2:訪問介護の利用者さんから性的な発言があるケース
Bさんから性的な発言を受けている担当ヘルパーは、訪問が少し憂鬱でした。しかし、普段1人で訪問をしており、「これまでにも似たようなことはあったから」となんとなくそのまま放置していました。
そんななか、事業所内でハラスメント研修があり、「利用者さんやご家族の言動で困ったこと」を話す流れに。Bさんが性的なビデオを見せながら話しかけてくることを共有すると、その場にいた職員はみんな親身に相談に乗ってくれました。そして、サービス提供責任者(サ責)が対応に動いてくれることになったのです。
次のBさんの援助の際に、担当ヘルパーにサ責が同行して「性的な言動が続くようであれば、サービスの継続が難しくなります」と伝えると、Bさんは「そうなの?」とのこと。
サ責が居室に置いてあるビデオを指して「片づける場所を決めましょう」と伝え、押入れに収納することをBさんと一緒に決めました。訪問中に性的なビデオがBさんの目に入るのを避けるために、もし見える場所に置いてあったら、ヘルパーが最初に押入れにしまうことにしました。
担当ヘルパーが3週間ぶりに訪問すると、Bさんは「もう来てくれないのかと思った、ありがとう。悪かったね」と反省している様子だったそうです。
介護職自身がセクハラを「わざわざ相談するほどではない」「少しのことなら仕方がない」と1人で我慢してしまう場合があります。しかし、話してみると改善策が見つかる可能性があるので、抱え込まずに相談してみてください。
特に、訪問介護は基本的に1人で仕事をするので、悩みを抱えやすいのではないでしょうか?利用者さんやご家族からハラスメントを受けたり、傷つく言葉をかけられたりしたときは、問題を放置せず連携して対応したほうが、自身のストレス軽減や利用者さんの適切な支援につながります。
また、1人で判断して行動するとトラブルにつながるおそれがあるので、仕事の基本である報告・連絡・相談をしながら対策を講じましょう。
まとめ
介護職として働いているなかで、利用者さんやご家族からの言動に傷ついた経験のある方は少なくありません。「利用者さんを責められない」「周りも我慢しているから仕方ない…」と感じるかもしれませんが、我慢を続けると心身の健康を損なうリスクがあるので、無理せず相談して対応することが大切です。
利用者さんからのセクハラなどを公に相談しづらいときは、信頼できる上司や先輩にまず話してみる方法もあります。ほかの人がどのように対応しているのかが分かったり、改善に向けて動いてもらえたりすると、1人で悩んでいる状況を打破できるでしょう。
ハラスメントに対して介護職ができる対策は、「嫌だとはっきり伝える」「ハラスメントが起きにくいよう環境を整える」などです。自身の負担を増やさないためにも、トラブルを避けるためにも、職場と連携しながら対応しましょう。
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執筆者

実
元介護士ライター
グループホームに2年、訪問介護事業所に3年勤務。多くの高齢者や、障害のある方の介護に携わる。訪問介護事業所では、サービス提供責任者の業務も担当した。2022年に介護福祉士を取得。現在は、知識や経験を活かして、介護職員の方に役立つ情報を発信している。




