
この記事のまとめ
爪切りや服薬介助など、普段の業務のなかで「これって医療行為?」と判断に迷って不安に思ってしまうことはよくありますよね。介護士として働くなら、何が医療行為にあたるのか?という知識を身につけるのも仕事のうち。正しい知識をもって、適切に利用者さんをケアしましょう。この記事では、介護士に許されている医療的ケアや禁止されていることなどを詳しく解説していきます。
目次
介護士ができる処置や医療的ケア
医師や看護師などの免許を持っていない人が他人に医療行為を行うことは、医師法により禁止されています。よって、介護士は基本的に医療行為を行うことはできません。ですが、実際の介護の現場では医療行為のようなケアを求められる場面も多く、一部「医療的ケア」として介護士もできることがあります。
医療行為ではない、どの介護士もできること
以下については、現在は原則医療行為とみなされておらず、利用者さんの病状が安定している場合、介護士が行うことのできる処置です。
- 体温計を使った体温測定
- 自動血圧測定器を使った血圧測定
- パルスオキシメータの装着(入院治療が必要のない場合のみ)
- 軽い傷ややけどの専門的な判断や技術を必要としない処置
- 医薬品使用の介助
- 包化された内用薬の服薬介助
- 湿布を貼る
- 軟膏を塗る(床ずれの処置は含まない)
- 目薬の点眼
- 座薬の挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧
なお、医薬品使用の介助(一包化された内用薬の内服、湿布を貼る、軟膏を塗る、目薬の点眼、座薬の挿入、鼻腔粘膜への薬剤噴霧)は、以下の条件を満たしていれば、医師・歯科医師、薬剤師または看護職員の指導のもと、介護士でも介助を行うことができます。
・患者が入院、入所して治療する必要がなく容態が安定していること
・副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師または看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
・内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(2020年2月26日)
厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(2020年2月26日)
条件付きで介護士が行える医療行為
保健師助産師看護師法などの法律によって医療行為と定められているものの、介護士が行ってよいとされている処置です。
- 耳掃除(ただし耳垢栓塞の除去はNG)
- 爪切り(爪やその周辺の皮膚などに異常がなく、糖尿病などの疾患に伴う専門的な管理が必要ない場合のみOK)
- 口腔ケア(歯周病などの異常がない場合のみOK)
- カテーテルの準備や体位の保持
- ストーマのパウチに溜まった排泄物の除去(肌に接着したパウチの取り換えはNG)
- 市販の浣腸による浣腸(使用する浣腸に規定あり)
上記は、医師などによる専門的な管理が必要な場合は医療行為とみなされることがあります。医師や歯科医師、看護師へ報告や確認を行うなどの注意が必要です。
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「医療的ケア」の研修を受けた介護士が行える医療行為
医療的ケアの研修を受けた介護士には一部の医療行為が認められるようになりました。該当する医療行為は以下の2つ。
- 喀痰(かくたん)吸引
- 経管栄養
喀痰吸引とは、器具を使用して痰や唾液の排出を行うこと。気道を確保し、肺炎などの感染症を予防する効果があります。経管栄養は、自力で食事ができない人の胃や腸にチューブを挿入して、栄養剤を注入すること。胃に栄養を注入することを「胃ろう」、腸に栄養を注入することを「腸ろう」、鼻から栄養を注入することを「経鼻経管栄養」といいます。
医療と介護の連携体制が整っている、本人・家族の同意を得ているという条件つきで実施が可能です。
出典
厚生労働省「介護職員等によるたん吸引等の実施のための制度について」(2020年2月26日)
介護士ができない医療行為
ここでは、介護士がしてはいけない医療行為をご紹介します。介護福祉士の資格があっても実施できないのでご注意ください。
インスリン注射
インスリン注射は、糖尿病の治療法の1つ。医療行為にあたるため、利用者さん本人や看護師、医師でなければ行えません。また、介護士は血糖測定を行うことも禁止されています。
ただし、利用者さまがインスリン注射を忘れないように声かけしたり、見守りを行ったりすることは、介護士でも可能です。インスリン注射にあたって介護士がサポートできる内容をまとめました。
- インスリン注射を促す声かけ
- 血糖値測定器と試験紙の準備
- 測定器に試験紙をセットする
- 測定器の針を腹部に刺すように声かけする
- 測定結果を利用者さんと一緒に確認する
- 投与すべきインスリンの量を利用者さんと一緒に確認する
- 注射器を利用者さんに手渡す
- 注射器を刺すように声かけをする
- 使用済みの注射器を片付ける
出典
厚生労働省「グレーゾーン解消制度・新事業特例制度(介護職員によるインスリン自己注射サポート)」(2020年2月26日)
摘便
摘便は、自力での排泄が難しい人の直腸に指を差し入れ、便を排出させること。腸壁を傷つけるリスクがあり、介護士が行うことはできません。
床ずれ(褥瘡)の処置
寝たきりの高齢者には床ずれが発生することがありますが、介護士は床ずれの治療を行うことはできません。これらの医療行為が必要な場合は、看護師や医師を呼んで代わりに行ってもらう必要があります。
「これって医療行為?」と迷ったら
自分のやろうとしている処置が医療行為にあたるか迷ったら、必ず医師に相談しましょう。インスリン注射は介護士でもできると思っている利用者さんやご家族も多いですが、お願いされたからといって自己判断で実施してはいけません。最悪の場合、利用者さんの命を左右する事態を招いたり、医療行為違反として送検されたりする可能性があります。
介護士さんが実施できる医療行為は、今後現場の要請を受けて増えていくと予想されます。何ができて何ができないのか、最新情報をこまめにチェックし、適切な判断ができるよう心がけましょう。
介護士が医療知識を身につける意味
ご紹介したとおり、介護士が実施できる医療行為には制限があります。しかし、直接処置できなくても、医療知識を身につけることには一定の意味があるといえます。
例えば、医療知識があれば、看護師や医師が行う処置を見て、その処置がなぜ行われているかを理解できます。また、利用者さんの異変にいち早く気づき、医師や看護師に詳しく報告することもできるでしょう。
利用者さんの状態を把握して必要な対応を考えることは、介護士としてのスキルアップにつながります。
▼関連記事
介護職員として身につけるべき知識を紹介!スキルアップに必要な資格も解説
介護士の医療行為についてよくある質問
介護士の医療行為についてよくある質問に回答します。「これって介護士が行ってもいいの?」「これは医療行為に当てはまる?」など、医療行為について疑問をお持ちの方や興味がある方はチェックしてみてください。
介護士ができない医療行為にはどんなものがあるの?
「インスリン注射」「摘便」「床ずれの処置」などの医療行為を介護士が行うことは、禁止されています。利用者さんの体調が悪い場合は、自己判断をせず、施設の医師や看護師に報告・相談してから判断を仰ぐようにしましょう。介護士が行うことを禁止している医療行為については、「介護士ができない医療行為」で詳しく解説しているので、ご覧ください。
爪切りや耳かきは介護士が行っても良いの?
爪切りや耳かきは介護士が行っても良いケアです。ほかにも、目薬の点眼や座薬の注入、口腔ケアなどを行うことができます。しかし、利用者さんの容態が安定していて、異常がない場合に限られているので、注意が必要です。爪切りをする際は、周囲の皮膚に異常がないか確認しましょう。介護士が行えるケアについては、「介護士ができる処置や医療的ケア」で詳しく解説しているので、ぜひご一読ください。
服薬介助は医療行為ではないの?
服薬介助と一口にいっても、服薬には幅があり、医療行為に該当しないこともあります。介護士ができる服薬介助は、一包化された薬の準備や利用者さんが薬を飲み残していないかの確認、塗り薬を体に塗布することなどです。介護士ができる服薬介助について気になる方は、「服薬介助のポイント!医療行為とのボーダーラインとは?」で詳しく解説しているので、チェックしてみてください。
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監修者
小﨑 有惟
社会福祉士/ケアマネージャー/介護福祉士
大学では社会福祉学科専攻。卒業後は、デイサービスセンターや特別養護老人ホームの生活相談員、介護福祉士として勤務し、多くの認知症高齢者や終末期ケアに携わる。その後、結婚を機に退職。現在は育児をしながら、介護にまつわる記事の執筆や監修などに力を入れている。