
「認知症で失語症のある利用者さんにはどう対応したら良いの?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか?失語症は原因によって症状が異なるので、相手の状況に応じたアプローチが必要です。利用者さんの不安を軽減するには、寄り添ったコミュニケーションも重要といえます。この記事では、認知症で失語の症状がある方のケア事例を3つご紹介します。失語症の種類や認知症との関係、ケアのポイントもまとめたので、ご覧ください。
目次
【認知症ケア事例】失語症のある方の介護の課題
ここでは、認知症に伴う言語障がいとして失語がみられる事例を3つご紹介します。「介護現場ではどんなケースがあるの?」と気になる方は、確認してみてください。
事例1:失語症で話すのが難しいAさんの食事介助
83歳女性のAさんは、アルツハイマー型認知症により要介護4の認定を受けており、グループホームで生活しています。介護職員の声かけに頷いたり首を横に振ったりして意思表示ができ、移乗介助の際は声かけをすると手すりを持って立位が取れる状況です。
Aさんは失語の症状があるため、会話をするのは難しいものの、介護職員が伝えた内容はある程度理解できているようです。
事例2:失語症で話すのが難しいBさんの訪問介護
90歳女性のBさんは、アルツハイマー型認知症により要介護4の認定を受けています。娘さんと二人暮らしで、日中はヘルパーがトイレや食事の支援に対応しています。
Bさんはときどき発語がありますが、会話をするのは難しい状況です。トイレ介助の際は声かけをすると手すりを持って立位が取れ、食事介助に応じるときは声かけに頷いてくださいます。
また、トイレ介助と水分補給を終えてベッドに戻る際に、普段のようにすぐに布団に入らず、ベッドに端座位(床に足を付く姿勢)になって何か言おうとすることがあります。
事例3:失語症で声かけの理解が難しいCさんの身体介護
75歳女性のCさんは、若年性アルツハイマーにより要介護3の認定を受け、グループホームで生活しています。認知症に伴う失語があり、言葉は話すものの基本的に意味は通っていません。笑顔で「大丈夫よ」と言ったり、不穏な様子で「ダメ」と言ったりと、言葉と表情が一致していることはときどきありますが、言葉でコミュニケーションを取るのは難しい状況です。
Cさんは歩行が安定していて転倒のリスクは低いですが、自ら順序立ててトイレや入浴の動作を行うことが困難で、食事以外の日常生活上の動作全般に介助が必要です。たとえば更衣の際は、衣服を渡して声をかけても着替えることが難しく、介助を行うことが多くあります。また、排泄介助でトイレに座っていただくと、リハビリパンツとズボンを下ろした状態のまま、すぐにトイレから出ようとすることがありました。
失語症にはどんな種類がある?認知症との関係とは
ここでは、失語症の種類や認知症との関係を解説します。「認知症に伴う失語の原因」と「ケアに必要な視点」もまとめたので、失語症や認知症への理解を深めるための参考としてチェックしてみましょう。
失語症の代表的な種類と原因
社会福祉法人恩賜財団 済生会の「失語症」によると、失語症とは習得した言語機能が脳の障がいによって失われる状態で、原因によって症状や種類が異なります。
失語症の種類は多様で、代表的なものの例が「運動性失語(ブローカ失語)」や「感覚性失語(ウェルニッケ失語)」です。
ブローカ失語は前頭葉の障がいで、話の意味を理解して自分の意思を考えられますが、それを言葉にしてスムーズに話すことが困難になります。
一方、ウェルニッケ失語は側頭葉の障がいで、言われたことを理解できなかったり、言葉を話すものの意味が通らなかったりするのが特徴です。
出典
社会福祉法人恩賜財団 済生会「失語症」(2026年9月29日)
認知症に伴う失語の原因とケアのポイント
認知症に伴う言語障がいとして失語は多くみられますが、脳卒中や脳腫瘍などの疾患に起因する失語症とは区別される傾向にあります。
認知症の原因は脳の病変なので、アルツハイマー型認知症が進行した際などは、直接的な症状として言語障がいが現れることも。アルツハイマー型認知症は基本的に進行性の病気のため、リハビリによって言語機能の大幅な改善を図るのは難しいでしょう。
なお、認知症を患う方にコミュニケーションの課題が生じる理由は、脳の言語機能を司る部位の病変だけではありません。記憶障がいで言葉が出なかったり、理解力の低下がコミュニケーションに影響したり、意欲の低下から発語が減ったりするケースもみられます。
認知症ケアにおいて介護職員に求められるのは、利用者さんが自立した生活を送れるよう、介護や安全な環境を提供することです。原因疾患や中核症状への理解を深めることも必要ですが、目の前の利用者さんに向き合って適切なケアにつなげることが最も重要といえます。
また、「失語があって話せないから」「言っても伝わらないから」とコミュニケーションを放棄するのはNG。利用者さんとの信頼関係の構築には、言葉を含むコミュニケーションが不可欠です。意味が伝わらなくても優しいトーンで声かけをしたり、相手の言いたいことが分からなくても聞こうとする姿勢で接したりするほうが、利用者さんの安心感につながるでしょう。
【認知症ケア事例】失語症のある方とのコミュニケーション
失語症のある利用者さんとのコミュニケーションの方法を、事例をもとにご紹介します。声かけや介護のポイントに触れているので、「関わり方が分からない…」「もっと利用者さんに信頼してもらえる介護職に成長したい」という方は、ぜひご一読ください。
事例1:ブローカ失語の可能性があるAさんの食事介助
「今日もAさんがほとんど自分で食べてくれたよ」と夜勤スタッフから聞いた介護職員は、「自分が夜勤のときは全部介助するときが多いです…」と相談しました。すると夜勤スタッフは、「Aさんが自分のタイミングで起きたときは、しっかり覚醒して元気な日が多いよ」と教えてくれたのです。
夜勤スタッフから話を聞き、「介護職員の手が空いたタイミングではなく、自分が目が覚めた時間に起きたほうがスッキリ起きられる」という当然のことに気づきました。Aさんは会話をするのが難しいものの、起床の声かけには拒否なく応じてくれることがほとんどなので、特に改善すべきとは考えていませんでした。
また、夜勤スタッフから「皆の起床介助をするときに、ときどきAさんの部屋を覗いてあげると良いよ」と言われたので、次の夜勤から実践しました。起床介助のタイミングをAさんに合わせた結果、起床後に笑顔で自分で食事を取れることが増えたのでした。起床の時間は複数の利用者さんの介護に少人数で対応するため、「忙しくて手一杯」と感じやすい時間帯です。しかし、介護の基本である「利用者本位」を意識することで、利用者さんが健やかに過ごせ、結果として介護職側の負担も減る場合があります。
失語症の利用者さんの対応に悩んだときは、「話せないからどう思っているか分からない」と特別視するのではなく、「自分だったらどうしたいか、どうしてほしいか」という視点で考えてみると、ニーズに気づきやすいでしょう。
認知症の方や失語症の方と関わることに慣れていない場合、対応方法が分からないのも無理はありません。経験が長い人や利用者さんとの関わり方が上手な人に積極的に相談すると、徐々に必要なスキルを身につけられるので、焦らず少しずつ成長を目指してみてくださいね。
事例2:ブローカ失語の可能性があるBさんの訪問介護
新人ヘルパーが、Bさんのトイレ介助に時間がかかることを相談すると、サービス提供責任者(訪問介護サービスの責任者)が同行訪問をしてくれることになったのです。訪問して挨拶をした後に、「立ちましょうか」と伝えてトイレ介助をすると、サービス提供責任者から「もっとちゃんと説明したほうが良いよ」とアドバイスがありました。
最初にBさんの情報を共有してもらったときに、「話すのは難しいけど言ったことは理解してくれていると思う」と聞いたことから、「いつもの訪問だから分かる」と思い込んで接していた点を反省しました。
訪問後に改めてサービス提供責任者と話すと、「最初に説明しないと、訪問に来た理由が分からなくてBさんが困るかもしれないから、毎回言うように意識してみてね」とのことでした。
また、Bさんがベッドに座ったまま何か話す件についても、担当者間で相談。気になることがあり、理由を聞くと指を差してくれる場合が多いようで、「私のときは床にパズルのピースが落ちていた」「時計が止まっていた」などほかのヘルパーから話を聞けました。
座ったままでいる理由が分からないときも、少し話を聞いて「大丈夫ですよ、また来ますね」のように伝えると、安心して横になってくださる場合が多いようです。
「あの人は〇〇だから」と決めつけるのは避け、きちんとマニュアルや手順書に沿って介護サービスを提供することが大切です。介助の説明は介護技術の基本として学ぶ内容ですが、現場で働いていると「分かってるから良いよ」と省略を促す利用者さんもいるため、いつの間にか疎かになってしまうことがあるかもしれません。
しかし、認知症を患う方は、その場の声かけは理解できても、説明しなければ状況が分からないことも珍しくないでしょう。あるときは声かけをする前に「トイレ介助に来た」と分かって自分から動いたとしても、次の訪問では言わないと伝わらないこともあります。
特に失語がある場合は、利用者さんの言葉を聞けず気持ちを確認しにくいので、不安を与えないよう適切な声かけをすることが重要です。
また、「話せないから」と訴えに耳を傾けないと、なかなか信頼関係を築けません。言葉でスムーズに話せなくても、表情や身振りで感情を表に出すことがあるので、寄り添って理解する姿勢を示すこともポイントです。
事例3:理解力の低下があるCさんの身体介護
Cさんの更衣に介助が必要なのは、「介護職員の声かけの意味を理解するのが難しい」ことに加え、「実行機能障がいで手順通りに着替えられない」という要因が考えられます。
声かけをして服を渡すとどうするのか迷っていたので、そでを通すように介助すると、その流れで自分で首を通して服を着られました。
順序立てて着替えるのが難しいときは、服をすべて渡して「着ましょうね」と伝えたら混乱する場合も。「まずはパンツを履きましょう」と伝えてリハビリパンツを渡すというように、作業を区切って声かけ・介助を行うことがポイントです。
しかし、1分ほど座るとトイレで排泄できることが多いので、対応を模索。トイレに座ったときにハンカチを渡すと、手元でハンカチをたたむのに集中して座っていられることがあり、トイレでの排泄につながりました。
Cさんの事例では、理解力の低下が主な要因でコミュニケーションに課題が生じ、声かけによる支援が難しくなった可能性があります。
実行機能障がいがあり声かけが伝わりにくいときは、一つずつ次の動作を示すのがポイントです。言葉だけで伝わらないときは、途中までやったり一緒にやってみたりすることで、途中から自分でできることもあります。
排泄介助では、声かけが伝わらないことに加え、集中力を保てないことを考慮してアプローチした結果、トイレでの排泄につなげられました。感染予防や清潔保持の観点では、トイレで排泄できるのが理想ですが、難しいときはパットをこまめに交換するなど、状況に応じた支援をする必要があります。いずれにしても、利用者さんを観察して課題を検討することで、ケアの向上を図れるでしょう。
アルツハイマー型認知症は進行性の疾患なので、できないことが増えるタイミングもありますが、「自分で服に首を通す」「トイレに座って排泄する」のようにできることを見つければ自立支援につながります。
利用者さんの負担が大きいときはすべて自分でやってもらうのではなく、介護職員が必要なサポートを行いながら、声かけや介助を工夫してアプローチを試してみると良いでしょう。
まとめ
認知症を患う方に失語がみられる場合、「話すのが難しい」「相手が言ったことの意味を理解するのが難しい」など、状況はさまざまです。原因は脳の言語野の病変に限らず、記憶障がいといった中核症状が影響して言葉が出なくなる場合もあります。
失語の原因を理解することも必要ですが、一番重要なのは利用者さんが安心して過ごせるよう支援を行うことです。介護職員は、必要に応じて医療職と連携しながら、利用者さんが自立した生活を送るサポートをする視点で、一人ひとりに向き合って対応すると良いでしょう。
「職場で相談できる相手がいない」「今の仕事が自分に向いているのか分からない…」など、お仕事に関する悩みがある介護職の方は、レバウェル介護(旧 きらケア)を利用してみませんか?
レバウェル介護(旧 きらケア)は介護業界に特化した転職エージェント。あなたの希望に応じた求人の紹介に加え、介護のお仕事の相談にも対応し、キャリアを考えるお手伝いをいたします。サービスは完全無料なので、いつでも気軽にご相談くださいね!
登録は1分で終わります
執筆者

実
元介護士ライター
グループホームに2年、訪問介護事業所に3年勤務。多くの高齢者や、障害のある方の介護に携わる。訪問介護事業所では、サービス提供責任者の業務も担当した。2022年に介護福祉士を取得。現在は、知識や経験を活かして、介護職員の方に役立つ情報を発信している。







