
介護の現場で定着しつつある「接遇」。「接遇」とは、相手が必要としていることを汲み取り、思いやりの気持ちを持っておもてなしすることです。時代の流れとともに、「接遇」のスキルを学びたいという介護士さんも増えてきました。こちらの記事では、介護の現場で接遇が求められる理由や基本の5原則、接遇で大切なことなどについて解説していきます。
目次
接遇とは
接は「人に近づく」遇は「もてなす」という意味を表す漢字。接遇とは、おもてなしの心を持って相手に接するという意味を持ちます。お客様によりよいサービスを提供するためのスキルで、円滑なコミュニケーションや信頼関係を築くために不可欠な要素です。ホテルや百貨店が接遇に力を入れているのは有名ですが、介護や医療の現場にもこの言葉が定着しつつあり、顧客満足を目指したサービスを提供する施設・病院が年々増えています。
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介護の現場で接遇が求められる理由
介護の現場で接遇が求められる理由はいくつかあります。
利用者さまの尊厳を守るため
介護職員は、ご家族にとって大事な人である利用者さまの尊厳を守り、自分らしく生きられるよう支援することを使命としています。ひとりで日常生活を送れなくなったとしても、他人に子供扱いされたり言動を強制されたりすれば、利用者さまもご家族も悲しく、辛い思いをします。利用者さまをひとりの人間として敬い、それを行動に移すためにも、介護職員は正しい接遇マナーを身につける必要があるのです。
信頼関係を築き、安全に介護を行うため
接遇マナーを守って利用者さまと接することで、信頼関係を築きやすくなり、ケアをスムーズに行えるようになります。
介護の現場では、介助の際に介護職員と利用者さまが密着する場面が多々あります。しかし、信頼関係がないと利用者さまから抵抗されてしまい、転倒や怪我に繋がる可能性も。事故を起こさず安全に介護をするためにも、接遇によって利用者さまとの信頼関係を築くことが求められています。
介護職員が接遇マナーを身に付けるメリット
接遇マナーは、利用者さまのためだけに行うものではありません。面会に来たご家族やボランティアに来てくれた方、一緒に働くスタッフなど、介護士として働くうえで関わるすべての人に対して欠かせないものです。こちらでは、接遇マナーを身につけるメリットについて解説します。
職場の雰囲気が良くなる
スタッフ同士のやりとりでも接遇を活かすことで、コミュニケーションが円滑になり、職場の雰囲気や人間関係が良くなることで、自分自身も働きやすくなります。利用者さまへの対応にも余裕が生まれ、より質の高い介護サービスを提供できるようになるでしょう。
また、スタッフ同士のポジティブなコミュニケーションは傍から見ていても好感が持て、利用者さまやご家族に安心感を与えます。
自分自身のスキルアップにも繋がる
接遇マナーは、介護業界で活躍するうえでは欠かせないものです。利用者さまやご家族の心情に寄り添い、安心と信頼を与えられるようになれば、自分自身のスキルアップに繋がり、職場にとっても欠かせない存在になります。
接遇マナーの基本5原則
接遇マナーの基本とされるのが、挨拶、言葉遣い、表情、傾聴、身だしなみの5つです。こちらでは、介護の接遇マナーの基本5原則について詳しく解説します。
1.挨拶・声かけ
介護の現場で、挨拶はコミュニケーションの基本です。利用者さまやご家族に歩み寄るために、相手の目を見てにこやかに挨拶をするように心がけましょう。ただし、かしこまった挨拶は近寄りがたい印象を与えてしまいます。また、覇気がなく、目が合わない挨拶も、相手に不快感を与えてしまうので、気を付けましょう。
よく「挨拶は大きな声で元気良く」と言われますが、ご利用者によっては大きな声が苦手な方もいます。大きすぎず、小さすぎず、相手が聞き取りやすい声量で話しかけましょう。
2.言葉遣い
利用者さまに対する言葉遣いは、敬語が基本です。しかし、敬語といっても聞き慣れない言い回しや過剰にへりくだった言葉遣いは堅苦しくなってしまいます。介護現場は利用者さまにとっては生活の場でもあるので、日常的かつ家庭的な安心感が得られる柔らかい対応が理想です。かといって、親しみを持って会話しようとして馴れ馴れしい言葉遣いや幼児語で接してしまうのは良くありません。親しみを込めていても丁寧な言葉遣いで接しましょう。
利用者さまの中には、言葉だけでは言っていることが伝わらない方もいます。たとえば認知症の方だと「噛む」という言葉の意味が理解しにくくなり、うまく食事ができないことがあるようです。そんなときは身振り手振りや「モグモグ」といったオノマトペでコミュニケーションを取りましょう。ときには言葉だけに頼らないことも大切です。
3.表情・笑顔
利用者さまは、職員の表情をよく見ています。辛そうな表情やしんどそうな表情、硬い表情をしていると、利用者さまは気軽に話しかけることができません。利用者さまと友好的な関係を築くために、介護職員はどんなときでもなるべく笑顔でいましょう。利用者さまのお話を聞くときは、相手の目を見て明るくにこやかに対応することが大切です。
また、コロナなどの感染症対策でマスクを着用していると表情が見えづらく不安な気持ちを与えてしまうことがあります。口元の口角を上げるだけではなく、目元の表情も意識してみましょう。
4.態度
いわゆる「立ち居振る舞い」と言われるものです。介護職員の立ち居振る舞いは、利用者さまとコミュニケーションをするうえでとても重要なもの。立ち方、歩き方、物の受け渡し方など、立ち居振る舞いにはいろいろありますが、背筋がピンと伸びているだけでも、相手に好印象を与えることができます。また、会話をする際は、常に自分の前面を見せ、相手と「正対」して接してみましょう。上半身を相手に常に見えているようにするだけで印象は大きく変わります。利用者さまが声をかけたくなる、話をしたくなる態度を心がけましょう。
5.身だしなみ
介護現場では、利用者さまの体に直接触れることが多いため、清潔感が求められます。相手に不快感を与えない清潔な身だしなみを心がけ、メイクや服装、髪型にも気を配りましょう。
介護の現場で接遇を実践する際に意識すること
接遇マナーの5原則を踏まえたうえで、介護の現場で接遇を実践する際に意識したいことをご紹介します。普段の業務で意識できているか、確認してみましょう。
目線の高さを合わせる
会話をするときは、目線の高さを利用者さまと同じにするのが理想とされています。車椅子や椅子に座っている方と話すときは、かがんだり、しゃがんだりして目線の高さを合わせましょう。完璧に同じ高さにするのは難しいので「やや下」ぐらいで大丈夫です。利用者さまよりも上の目線にならないように気を付けましょう。
忙しくても傾聴の姿勢を忘れない
接遇では、自分が話すよりも相手の話を聞くことのほうが重要です。誰でも自分の話を親身になって聞いてくれた相手には、受け入れてもらえたと安心し、信頼を置けるようになります。
多忙な介護職員にとっては、一人ひとりに時間をかけてられない…という気持ちもあるかもしれませんが、介護の現場では、不安なことや辛いことなど、話を聞いて欲しいと思っている利用者さまが多いはずです。たとえ忙しくても利用者さまから話しかけられたら、一旦手を止めてじっくり話に耳を傾けましょう。話を聞いて利用者さまの気持ちを汲み取り、理解者になろうとする姿勢が大切です。
適切な距離感
利用者さまにとって介護職員が頼れる存在といっても、他人に自分のパーソナルスペースを侵害されればストレスや不快を感じ、警戒されてしまいます。介護が必要ないときは一定の距離を保つようにして、パーソナルスペースやプライバシーを侵害しないようにしましょう。
接遇に「絶対」はない
利用者さまの背景や考え方によって求める接遇マナーは異なるため、絶対の正解というのは存在しません。距離を取ったり、敬語を使われたりするのをよそよそしいと感じる方もいれば、笑顔を向けただけで怒る方もいるのです。利用者さま一人ひとりに寄り添い、相手の気持ちになって丁寧な接遇を行ってください。
利用者さまへの思いやりの心を持つ
接遇は、相手への思いやりが何より大切です。利用者さまを思いやる気持ちがないと、自分の主張やルールを押し付けてしまうことがあります。相手の気持ちを考えず、自分本位の介護は接遇マナーに反します。常に利用者さまに思いやりを持って接する姿勢を心がけましょう。思いやりを忘れなければ、自然に言葉遣いも正しくなり、優しい表情もできるようになります。
介護の接遇に関する質問
ここでは、介護現場の接遇に関する質問をQ&A形式で回答します。
介護現場における接遇の例を教えてください
利用者さんへの積極的な声かけや挨拶、言葉遣いなどが必要とされる場面が例として挙げられます。利用者さんやご家族に不信感を与えないためにも、接遇マナーの基本を身につけることが大切です。接遇マナーの基本は「接遇マナーの基本5原則」の項目でまとめているので、ぜひご確認ください。
接遇介護とは?
接遇介護とは、利用者さんの気持ちに寄り添った介護サービスを提供することです。介護現場では、利用者さんが安心・安全の生活を営んでいけるよう、接遇を意識しながら信頼関係を構築していく必要があります。介護現場における接遇に関しては、本記事の「接遇とは?」の項目をご覧ください。
まとめ
接遇はお客様により良いサービスを提供するためのスキルで、介護や医療の現場にも求められつつあります。利用者さまの尊厳を守り、安全に介護を行うためにも、正しい接遇マナーを身につけ、信頼関係を築きましょう。
利用者さまは一人ひとり性格や思考、好みが異なります。一人ひとりと向き合って、その方のニーズを汲み取れるように、まずはしっかりと話を聞くことが大切です。
最初は難しく感じるかもしれませんが、当接遇マナーの基本5原則を意識して行うようにすれば、自然とできるようになるでしょう。
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監修者
小﨑 有惟
社会福祉士/ケアマネージャー/介護福祉士
大学では社会福祉学科専攻。卒業後は、デイサービスセンターや特別養護老人ホームの生活相談員、介護福祉士として勤務し、多くの認知症高齢者や終末期ケアに携わる。その後、結婚を機に退職。現在は育児をしながら、介護にまつわる記事の執筆や監修などに力を入れている。