
『介護・福祉の現場で働く方に、いつもとは違った視点でその分野を研究している人を知ってもらいたい』という想いで始まったこちらの大学の研究室紹介。
第6回目は九州大学大学院芸術工学研究院で『人間の身体動作の基礎研究と応用研究』をしている村木里志先生にお伺いしました。
目次
「研究の概要について教えてください」
私は主に人間の身体動作の基礎研究と、その知見を社会に役立てる応用研究に取り組んでいます。特に身体動作の問題を抱えやすい高齢者、障がい者、子ども、労働者などを対象としています。
基礎研究では実験室や当事者の現場にて身体動作などを観察・計測し、上述した対象者の特性を検討しています。応用研究では、実際にそれらの問題を解決するための方策を企業と連携しながら取り組むことが多いです。製品の実用化や社会への指針の発信などを目指します。
私の研究アプローチには大きな特徴があります。例えば、老化による足腰の筋力や歩行能力の低下は私の研究テーマの一つなのですが、異なる二つの視点で研究を行っています。一つは低下した能力をサポートするという視点です。この視点では、動作を補助する用具の設計、転倒などの事故が起こらない生活環境などの研究を進めています。もう一つは、能力自体が衰えないように維持する、できれば高めるという視点です。この視点では、足腰を鍛えるための生活習慣、環境、訓練方法、足腰の衰えや歩行能力を簡易に評価する方法などの研究を進めています。
この二つの視点を組み合わせることにより、テクノロジー時代そして超人口高齢化時代における高齢者のあるべき生活の姿も模索しています。
「研究の詳細について教えてください」
基礎研究では、高齢者、子ども、障がい者を中心に人間の生活動作、例えば歩行、起立、階段昇降、障害物またぎなどの動作の特徴を検討しています。最近は、テクノロジー機器を用いるときの動作の特徴も取り組んでいます。
応用研究では、産官学連携を中心に、様々なモノや生活環境を対象として、使いやすさ、安全・安心の改善や、動作能力を高める訓練用具などに取り組んでいます。産官学連携は応用研究を実践する貴重な機会になります。これまで、携帯電話(ガラケー)、スマートフォン、電話子機、階段、床、シューズ、インナー、介護用ベッド、車いす、発泡スチロール箱、タッチパネル画面ゲーム、つり手、クッション、リハビリ遊具、オフィス家具・用品、シリアスゲーム等に取り組みました。
これらの研究は主に居住空間実験住宅という施設で行います(以下、写真)。居住空間実験住宅は、2階建ての実験住宅で、入浴動作、排泄動作、炊事動作、歩行動作、介助動作など住宅内における日常動作をシミュレーションできます。また、身体動作を計測する各種装置、例えば姿勢や関節動作を詳細に検討するためのモーションキャプチャ(三次元動作解析)システムや床反力計、筋肉の活動を可視化するための筋電図計、エネルギー消費を推測する呼吸代謝計測装置なども充実しています。また、対象者が実験室には来れないケースや、現場に出向いた方が望ましいケースも多くありますので、大学の外でも実験・調査ができるように整備しています。
一方でこの領域の研究は、当事者や関係現場の実状を理解することも大事です。特に力を注いでいるのが地域高齢者との交流です。研究室では、足腰年齢を簡易かつ安全に計測する手法の開発に成功し、それを用いた出張計測を地域で実施しています。計測結果の説明は個別に行い、一人一人の生活状況や日常の悩みも聞き情報収集しています。このような取り組みから、研究の種が生まれることもあります。新たな試みとして2017年度からは、より良い生活のための術を実践する「アクティブライフ教室」(公開講座)を開講しています。
その他、私のライフワークの一つとして、専門分野である人間工学の普及があります。人間工学とは人々の安全・安心・快適・健康の保持・向上に貢献する実践科学で、様々な領域に応用できます。例えば、研究室では異分野の大学院生を多く受け入れています。理学療法など医療系出身の方も多いです。また、人間工学を海外に普及させるため、留学生の教育にも力を入れています。これまでアジア圏を中心に10カ国の学生を受入れ、特に博士の育成に努めています。
「今後の研究の展望を教えてください!」
近年、老化や障害によって衰えた動作能力を拡張し、生活の質を高めること目的としたアシスト機器やロボットの開発・普及が進んでいます。しかし、例えばアシストスーツなど機器(マシン)の力を利用して関節運動の拡張を試みる場合、そのマシンの作用全てがその拡張に反映されることはありません。例えばマシン側の力が1とし、人間側の力が1とする場合、発揮される力は1(マシン)+1(人間)=2にはなりません。人間側はマシン側から受ける作用に対して、それをどう受け入れ活用すべきか、危険はないかを判断して、関節運動に関わる筋の活動を調整することになります。一方、人間側は学習する能力もあります。
このように高度テクノロジー社会は、マシンと機器との協調が大きな課題となります。その課題を解決するためには、人間のロボットやアシストテクノロジーに対する適応能を理解する必要があります。現在、このテーマを精力的に進めており、将来は色々な指針を社会に発信したいと考えています。
最後になりますが、私の研究のコンセプトは、「ひとに優しいデザインを科学する」です。「優しい」とは「楽にする」ことではありません。「より主体的な生活」につながるデザインから「ひとに優しい」を目指しています。今後も引き続き、このコンセプトを意識し、時代や社会の変化を見通して、研究に取り組んでいきたいと思います。

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◆九州大学大学院の基本情報
村木里志先生、お話ありがとうございました!
最後に、九州大学大学院の基本情報を記載します。
九州大学
http://www.kyushu-u.ac.jp/ja/
九州大学大学院芸術工学研究院
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/
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【参考URL】
九州大学大学院芸術工学研究院 福祉人間工学研究室
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~muraki/
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