日本の人口はここ数年間減少傾向にありますが、近い将来に高齢化社会のピークを迎え、介護の需要が増えていきます。特に人材不足が叫ばれる介護業界において、介護施設はどのように対処していくべきなのでしょうか?
本記事では、人材不足を解消しつつ質の高い介護を提供する鍵となる「業務改善」について解説します。
介護施設における業務改善の目的
業務改善とは「経営計画の目標達成に向けて、業務プロセスを最適化すること」、または「業務・作業を改善して効率を上げること」を指します。介護施設における業務改善の目的は「高い品質の介護を提供する」と言って良いでしょう。
業務改善には不要な業務を減らしたり、省いたり、または自動化したりするなどが該当しますが、人材を育成して一人ひとりのパフォーマンスを上げること、職員のモチベーションを上げることも含まれています。働くひとにとって楽しい職場・環境は定着率を上げ、結果的に品質の高い介護を提供することにもつながるためです。
介護施設における業務改善の取り組み手順
業務改善は何から始めれば良いのでしょうか?ここでは、業務改善を始めたい事業所向けに、業務改善の手順についてご紹介いたします。
1.業務の課題を見える化する
まずは、業務がどのように行われているかを把握することが重要です。業務プロセスを図で表し、共通認識を揃えます。次に職員にヒアリングを行い、「問題となっている業務は何か」、「非効率な作業はないか」など、現場の状況を把握します。
こうして収集した情報をもとに問題点を洗い出していきます。問題を解決するための方法よりも、問題になった原因をしっかり掘り下げて行くことが大切です。加えて関連業務にも問題がないかを併せて確認しておくと良いでしょう。
2.課題解決の計画を立てる
業務に関する問題の解決には以下方法があります。問題に対して最適な方法を選択し、改善計画を立てていきましょう。
- 排除、廃止:無駄な業務、なくても問題が発生しない業務
- 標準化:ルールが明確に定められていない業務
- 変換、代替:排除・廃止、標準化で対応が不可能な業務
3.取り組む
業務改善の活動を始めるにあたっては規模の小さいもの、期待できる効果が大きいものを優先して取り組むことが望ましいです。成功事例があれば、次の取り組みに対して自信がついたり、ノウハウを次に活かせたりするためです。また、改善を進める際は、関連するものを同時に進めたほうが良いでしょう。抜け漏れや業務のプロセスに問題が起こりづらくなります。
4.取り組んだ内容の分析、計画の修正
改善に取り組んでからは効果測定と分析が必要です。就業環境は改善したか、もし失敗したなら何が原因なのか、成功するためには何をするべきかなどです。また成功した施策についても改善の余地がないか振り返ってみましょう。引き続き取り組みが必要だと考えられるものは改善策を修正します。
業務改善は一度で終わるものではありません。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価 )→ Action(修正)を繰り返して行うことが大切です。PDCAサイクルを回し、継続的に改善活動に取り組みましょう。
介護施設における業務の明確化、役割分担による業務改善
業務改善で大きなインパクトを与えるものとして、業務内容や役割の見直しがあります。これらは職員の協力が必要不可欠なので、計画の段階からしっかりスタッフと情報を共有して業務に支障が出ないように気をつけましょう。
業務の流れの再構築の手順
「業務の明確化」の目的は、業務の中にある「無理・無駄・ムラ(3M)」をなくすためです。毎日行っている業務のため、3Mであることに気づかないことも少なくありません。この改善は業務に対する認識を標準化し、職員全員が共有できていることを理想とします。業務の明確化と役割分担時の手順について見ていきましょう。
1.業務とそのプロセスを洗い出す
まずは日頃行っている業務についてすべて書き出します。抜け漏れがないように一日にやったことを時系列で記録すると良いでしょう。どの業務でもその量がわかるように工数の単位を統一して置くことをおすすめします。また、作業の手順や作業内容についても具体的に書くことが大切です。
2.業務の役割を明確化する
すべての業務が洗い出せたら、次は業務の認識を揃えることが必要です。同じ業務でも、人によって手順が違ったり作業にかかる時間が異なったりします。業務に関わる全ての人が明確な基準を知り、共通認識を持つことが大切なのです。
3.業務内容やフロー、方法の再検討・効率化
業務の洗い出し、認識が揃ったあとは以下を軸に再構築していきます。
- 本当に必要な業務であるか
- 業務内容が担当者に相当するか(スキル、優先度
- マニュアル化しているか
前任者から引き継がれてやっていた作業や、必須ではないけどやっていた作業など、業務そのものを無意識に続けてきたものもあります。事業所全体の目的を達成するために必要な業務か、職員の意見を聞きながら話し合いましょう。
同じ業務に対しての手順や工数が違う場合は基準を設けます。決めた手順はマニュアル化して属人化しないようにするとより良い業務改善になります。また、業務の責任者が複数いる場合や不在の場合は役割を分担して、スキルや資格などで目立った業務の偏りがないように決めていきましょう。
取り組み実例
ICT 機器・ソフトウェアによる業務代替、簡略化
業務改善に有効な方法の一つにICTによる業務代替、簡略化があります。ICT機器・ソフトウェアの導入は「不足している労働力を補完する」「既存の労働力を省力化する」既存の業務効率・生産性を高める」など様々なメリットがあります。ICT機器・ソフトウェアには以下のようなものがあります。
- 利用者のケア記録を簡単にするソフトウェア
- タブレットを使った情報共有
- スマートフォンによる打刻やコミュニケーション支援
- 介護ロボット(介護支援ロボット、パワーアシストスーツ)
ICT機器・ソフトウェアの導入は、「業務を効率化」するだけでなく、「サービスの質向上」「利用者の満足度向上」にもつながる可能性があります。事業所の目的に沿ってICT機器・ソフトウェアの選定と導入プロセスを検討しましょう。
ICT機器・ソフトウェア導入の大まかな流れ
- 導入計画の作成:ICT機器・ソフトウェア導入の目的・意義を理解した上で具体的な実行計画を立てる
- 導入するICT機器・ソフトウェアの検討:自法人に適したICT機器・ソフトウェアを導入するために、製品昨日、価格、効果、サポート・メンテナンスの観点から検討を行う
- 業務フローの見直し:ICT機器・ソフトウェア導入により、業務フローがどのように変わるかについて整理・見直しを行う
- 実施体制の整備:ICT機器・ソフトウェア導入の際、法人内外でどのような実施体制を取るかについて検討・整備を行う
- 関係者への説明:ICT機器・ソフトウェア導入に関わる関係者への説明を行う
出典:厚生労働省老健局振興課「居宅サービス事業所におけるICT 機器・ソフトウェア導入に関する手引き」(PDF)
ICT機器・ソフトウェアの導入は生産性向上や、職員の負担軽減にも貢献する可能性を秘めています。しかし、導入までは期間と費用、そして職員の理解も必要とする大掛かりのプロジェクトとなるので、導入時は事前に計画を立て、慎重に進めていく必要があります。
厚生労働省では新たな財政支援制度として地域医療介護総合確保基金を支給し、記録業務、情報共有業務、請求業務に役立つ介護ソフトやタブレット端末の導入を支援しています。都道府県に問い合わせてみましょう。
出典:厚生労働省「介護現場におけるICTの利用促進」
取り組み実例
増員による業務改善
業務改善を行っても人材が不足して十分な質の介護を提供できないと判断された場合は、増員も一つの方法です。ここでは、正規・非正規職員の雇用、外国人の受け入れについて説明します。
採用
継続的に人員を確保したい場合は正規社員の採用を検討します。正規社員は新卒と中途に分かれ、いずれも帰属意識やモチベーション、定着率が高く、契約期間が長いため、事業拡大などの場合は正規社員を雇用するケースが多いです。デメリットとしてはキャリア形成のための研修や育成、そして賞与などのコストが発生する点が挙げられます。
一方、一時的に人材が必要となった場合や人員確保を急ぐ場合は非正規社員の雇用が一般的です。正規社員の産休による休職がその代表的な例です。求職者のニーズに合わせた契約が可能なため、比較的採用が容易です。その反面、仕事を辞めるハードルが低いため、正規社員に比べて離職率が高い傾向にあります。
採用方法の種類
・転職サイト
求人を転職サイトに掲載し、費用を払う方法です。料金はオプションによって変動し、2つの料金形態があります。一定期間掲載し、費用を払う掲載課金型と、掲載が無料で、応募数、または採用決定数で費用を支払う成果報酬型です。比較的費用が安く、多くの求職者の目に触れられるのが転職サイトを通した採用のメリットです。デメリットとしては、事業所が求める人材とのマッチング率が低く、採用担当者の工数がかかることが挙げられます。
・人材紹介
人材紹介会社に登録している求職者の中から、事業所が求める人材を紹介してもらう方法です。採用が決定した場合のみ費用が発生します。人材紹介の場合は、求める人材像に近い求職者と多く面接でき、事業所に関する問い合わせや面接日程調整など、人材紹介会社側が行うため、採用担当者の工数削減ができることがメリットです。成果報酬型で、紹介手数料は内定者年収の20~40%と他の方法に比べて費用が高いです。
相談をしてみる
・法人や事業所のホームページ
自社の採用サイトにて求人情報等を掲載し、採用活動をする方法です。自社のサイトになるので、求人情報やアピールポイントなどを記載する際の自由度が高く、より情報量を増やすことができます。事業所や法人全体の理念に共感し、自社への入職を強く希望する場合が多く、仕事に対するモチベーションも高い人が多いです。すでにサイトを持っている場合は費用は無料になりますが、効果が出るまでの期間が長く、SEO対策などをする必要があります。
上記で述べたほか、ハローワーク、転職フェア、リファラル、ソーシャルリクルーティング、ヘッドハンティングなど、様々な手法があります。採用活動のリソースや予算と照らし合わせながら方法を選びましょう。
外国人の受け入れ
日本の労働力不足により、2017年か外国人の受け入れ規制を緩和し、積極的に受け入れを試みています。外国員介護職員受け入れの仕組みには「特定活動(EPA)」「介護」「技能実習」「特定技能」の在留資格があります。他に、永住資格を持つ外国人も採用が可能です。
外国人受け入れの4つの制度
1.特定技能(EPA)
介護福祉士の資格 | なし(資格取得が目的のため) |
日本語能力 | N3 |
就労可能期間 | 資格取得後、永続的な就労可能 (※1) |
法人・事業所の要件 | 制限あり(※2) |
必要な対応 | 介護福祉士国家試験の学習支援体制 |
支援の有無 | JICWELSによる受け入れ調整、支援あり |
※1…一定の期間中に資格取得できない場合は帰国(一定条件で特定技能に移行可能)
※2…訪問系サービス不可(資格取得後は一定条件を満たす事業所では可)
2.在留資格「介護」
介護福祉士養成校 | 他在留資格 | |
介護福祉士の資格 | あり | あり |
日本語能力 | N2程度 | 個人差あり |
就労可能期間 | 永続的な就労可能 | 永続的な就労可能 |
法人・事業所の要件 | 制限なし | 制限なし |
必要な対応 | 日本語学校、養成校との連携 | 介護福祉士国家試験の学習支援体制 |
支援の有無 | なし | なし |
3.技能実習
介護福祉士の資格 | なし |
日本語能力 | N4以上 |
就労可能期間 | 最長5年(※1) |
法人・事業所の要件 | 制限あり(※2) |
必要な対応 | ・技能実習生5名につき1名以上の指導員配置 ・入国時の講習(専門用語や介護の基礎) |
支援の有無 | 監理団体による受け入れ調整 |
※1… 介護福祉士国家資格取得後、在留資格を「介護」に変更し、永続的な就労可能
※2…介護福祉士国家試験の実務経験対象施設(訪問系サービスは不可)、設立3年を経過
4.特定技能
介護福祉士の資格 | なし |
日本語能力 | N4以上 |
就労可能期間 | 最長5年(※1) |
法人・事業所の要件 | 制限あり(※2) |
必要な対応 | ・特定技能協議会への入会 ・ 1合特定技能外国人受け入れの10の必須支援項目 |
支援の有無 | 登録支援機関によるサポート |
※1… 介護福祉士国家資格取得後、在留資格を「介護」に変更し、永続的な就労可能
※2…介護福祉士国家試験の実務経験対象施設(訪問系サービスは不可)
出典: 厚生労働省「介護分野における特定技能外国人の受入れについて」
外国人の受け入れは介護協会の人手不足緩和に大きく寄与します。母国の家族のために来日する外国人たちは、仕事に対する意欲が高めで真面目な方が多いです。また、利用者さまに外国の文化を伝えたり、利用者さまが外国人スタッフに日本の文化を教えたりするなどの異文化交流もできます。これらは利用者さまが楽しく過ごせるきっかけづくりにもなるでしょう。
ただし、日本語でのコミュニケーションが難しい外国人人材が多いので、すでに在籍しているスタッフの理解と協力が欠かせません。また、受け入れ方によっては指導員を配置する必要があるため、すでに人手不足が深刻化している事業所は導入が難しい可能性もあります。
取り組み実例
定着率向上による業務改善
職員の定着率を上げることも業務改善で重要なポイントです。理念や求める人材像を共有し、キャリアアップできる環境は、職員のモチベーション向上に役立つことはもちろん、スキルアップによる生産性向上、効率化も期待できます。
OJTの機能化
平成30年度「能力開発基本調査」(厚生労働省)によると、正社員に対して重視する教育訓練については、「OJTを重視する」(20.5%)又はそれに近い(53.1%)とする企業は73.6%と多くを占めています。OJTは、現場に必要な知識やスキルが身につくメリットがある反面、体系的に学べずデメリットもあります。デメリットを最低限に、効果的なOJTを行いましょう。
・教育の仕方を統一する
教え方を統一することで、指導者によるばらつきを防ぐだけでなく、新人の理解を早め、かつ深めることができます。OJTでは、4段階職業指導法を用いて育成を行います。「Show(やってみせる)Tell(説明する)、Do(やってもらう)、Check(評価する)」のプロセスを教育を担当する全員が把握しておくことが大切です。
・育成計画を立てる
とにかく新人に現場を見てもらい、やってもらうだけでは、新人がどこまで理解しているか、どこまで成長しているかが把握できません。新人の育成計画を可視化し、成長の度合いがわかるようにしましょう。計画には組織の理念やビジョンと具体的な業務を紐付け、現状を把握するとともに、求める人材に近づくイメージを想像してもらいます。また、新人はもちろん、育成を担当する職員にもゴールを示すことで、全関係者があるべき姿を共有し成長により早くたどり着けるでしょう。
・育成を支援する体制を作る
新人の教育を現場に任せっぱなしでは、指導する職員の負担が増えるだけです。OJTを担当する先輩に協力する体制をつくることが大切です。また、育成業務に対してのモチベーションを上げるための仕組みや、相談できる場があれば、OJTの担当者もより効果的なOJTが行えるでしょう。新人の成長が早ければ、大きな戦力になるはずです。
取り組み事例
定着支援サービスを利用する
定着率を上げるための業務改善は大掛かりになります。採用を含む他の業務改善とあわせて取り組むにはかなりの工数が必要となるでしょう。
最近は定着支援を始めとする事業所が抱える課題解決の手助けをする企業も出てきました。費用はかかりますが、蓄積されたナレッジを活用したスピーディーな改善が可能です。
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「対策を立案してもリソースや経験がなく実行できない」「さまざまな施策を実践したが、結局どれが有効だったかわからない」というのは、よくある話です。
無駄なリソースを割くことなく、適切に施策実行・検証をすることで、根本的な課題解決を目指しましょう。
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