トヨタ生産方式をベースとしたオリジナルの業務改善手法を開発し、1施設で月1050時間分の業務削減に成功した若竹大寿会。これまで職員の経験や勘に頼っていた間接業務のムダを見える化し、時間帯ごとに波があった業務量を平準化するなど、独自の業務改善により、高い生産性を実現しています。どのように業務改善手法を確立したのか、若竹大寿会の加藤様にお伺いしました。

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プロフィール

現場のムリ・ムダ・ムラを改善!業務効率化で月1050時間分の仕事を削減-社会福祉法人若竹大寿会-
加藤 綾 様

社会福祉法人若竹大寿会 法人本部 経営企画室

2003年に社会福祉法人若竹大寿会に入職。法人内の従来型特別養護老人ホームでサブリーダー、リーダー、主任に就任。2016年に法人本部に異動し、現在は法人内の入所施設を中心に業務改善を担当している。

時間の削減にとどまらない独自の業務改革を目指す

――若竹大寿会様が業務改善に取り組み始めた目的を教えてください。

以前より、介護現場に求められることが増え、職員の負担が大きくなったためです。特に特別養護老人ホームでは、2015年の法改正によって介護度の重い方が増え、胃ろうの処置や痰の吸引、看取りなどこれまでにはなかった対応が必要になりました。そこで、業務効率化を通して、過重負担から職員を救い、いきいきと働ける本来の介護現場を取り戻したいと考えました。

同時に若竹大寿会では、業務改善の先にある中長期的な目線も大切にしています。業務効率化とともにICTの活用により時間を生みだし、その時間を使って職員には介護の専門性を高めてほしいと思っています。そのためにも、2016年から法人全体で業務改善をスタートしました。

――業務改善はスムーズに進みましたか?

進みませんでした。トヨタ生産方式の導入のためコンサルタントの方に入っていただいて作業改善を行い、業務時間は法人内の特別養護老人ホーム、介護老人福祉施設の7事業所合計で月1468時間も削減できました。それにもかかわらず、結局空いた時間はほかの作業の時間に置き換わってしまったり、改善の手法が複雑だったりすることで、職員の感じる負担が減っていなかったのです。特養の人員配置基準は3:1ですが、何かと業務量が多く、業務時間の削減をしてもなお1.9:1での運営となっていました。

この事実には私自身驚きました。単なる業務時間の削減では意味がない。少ない人数で現場を運営し、余剰分の時間はプラスアルファのことに使えるような体制を目指さなければならないと思いました。業務改善のあり方を見直した後は、特養において3:1で運営できるような体制づくりを視野に、ユニット型施設で2.5:1、従来型施設で2.8:1での運営をゴールに設定し、再度取り組みをスタートしています。

――少ない人数で運営するためにはどんな工夫をしましたか?

これまでは業務時間の削減に注力してきましたが、少ない人数で現場を運営するためには「広い視野で見て無駄な業務をなくすこと」や「時間帯によって波があった業務量を平準にならすこと」も必要だと考えました。

そこで、再スタート後はさらなる業務時間の削減を目指す「標準化」、業務の無駄を省いて簡単にする「簡素化」、業務量を平均的にならす「平準化」を3つの柱に設定しています。各手法の内容はいったん1事業所で仮説を立てながら検証後、ノウハウをほかの施設にも展開することにしました。そのため、手法を考えるときには、どの現場でも再現しやすい「分かりやすさ」を重視しました。

現場のムリ・ムダ・ムラを改善!業務効率化で月1050時間分の仕事を削減-社会福祉法人若竹大寿会-
▲職員同士で意見を出し合い、より効率的に業務を行うにはどうすればいいのか、検討を重ねました

業務のムダを数字で“見える化”

――さらなる業務時間の削減を目指す「標準化」はどのように実現しましたか?

直接入居者様と関わらない間接業務から見直しました。直接介助に関するマニュアルはどこの施設にもありますが、間接業務のマニュアルを作っている施設はほとんどありません。今回業務改善に取り組んだ施設でも、職員の経験や勘に頼って業務を行っていたことに加え、ユニット型特養のため、ほかの職員の動きを目にする機会がなく、業務の属人化が進んでいました。ここを改善して効率の良い職員の動きを再現できるようになれば、さらなる時間削減につながると考えました。

まずは現状把握のため、食事準備・入浴準備・入浴介助の3つの業務に関して、ベテラン職員、中堅職員、新人職員の動きを動画で撮影しました。撮影後は動画を見て、効率の良い動きを分析し、手順書にまとめます。手順書通りに実践することで、誰でも無駄がない動作を再現できるようになります。

たとえば食事準備なら、効率重視の職員は事前に準備するものを把握して、1度にまとめて取りに行きますが、そうでない職員は何度もキッチンと個室を行き来して時間を使っていました。時間のかかっていた職員に手順通りの行動を実践してみるよう促したところ、39分かかっていた業務が13分に短縮するなど、大きな効果が出ました。「標準化」により施設全体では、合計月252時間の業務時間が削減できています。

現場のムリ・ムダ・ムラを改善!業務効率化で月1050時間分の仕事を削減-社会福祉法人若竹大寿会-
▲4つのステップに沿って、最も効率の良い動きを追求。動画を撮影することで客観的に分析ができます

――業務の無駄を省く「簡素化」を実現させた方法について教えてください。

今の業務の無駄な部分を見つけるため、「なくせる業務はないか?」「こう変えたらもっとシンプルに作業できるのではないか?」というアイデアを職員全員から募集して検討しました。

たとえば、入浴介助のときに使う液体ソープを泡タイプのものに変更するだけで、30秒短縮できます。ほかにも、入居者様の髪の毛を乾かすときに吸水性の良い素材を使ったドライヤー用の手袋を使うことで、120秒早く業務が終わります。一つひとつは小さな改善のように見えますが、積み重ねることで施設全体では月798時間の削減に成功しました。

――業務量の平均的にならす「平準化」はどのように行いましたか?

時間帯ごとの業務量を可視化するため、業務量を時間に換算して出しました。すると、忙しさのピークは食事前後の時間帯で、複数人の業務量を合計すると100分前後になることが分かりました。一方、業務が落ち着いている時間帯では10分を切ることもあり、かなり波があることが明らかになりました。

人員配置を目標である2.5:1に近づけるには、日勤帯であっても1ユニット1名で対応可能な業務量になるよう調整が必要です。そこで、食事開始時間や起床時間の統一をやめ、入居者様一人ひとりの生活リズムに合わせるようにしました。介助時間にバラつきをもたせることで入居者様を待たせてしまうことがなくなるだけでなく、各時間帯ごとの業務量の平準化も行い、目標値である2.5:1を達成することができました。

もともとユニットケアは「入居者様ごとの生活を大切にする」という考えに基づいて行っているはずなのに、入居者様にはどうしても施設側の事情に合わせて生活してもらっているところがありました。「平準化」の取り組みはユニットケアの考え方にも合致しており、これまでのケアのあり方を見直すことにもつながったと思います。

現場のムリ・ムダ・ムラを改善!業務効率化で月1050時間分の仕事を削減-社会福祉法人若竹大寿会-
▲時間帯ごとの業務量を可視化したグラフ。取り組み前は波のあった業務量が平準化されています

1050時間分の業務削減に加え、品質向上も実現

――独自の業務改善に取り組む前と後では、何が変わりましたか?

施設全体のひと月あたりの業務時間は、標準化で252時間、簡素化で798時間、計1050時間削減できました。人員配置も1.9:1から2.5:1まで改善でき、日勤帯に2ユニットで必要な人数に換算すると、1.7人数分削減できています。

加えて、品質の向上も実現しました。標準化により、職員ごとの質のバラツキが軽減し、経験やコツが共有される仕組みを構築できたためです。また、人員に余剰ができたことにより、残業時間は33%減少し、有給取得日数は40%増加しました。研修参加日数は64%増え、自ら学びたいことを学んで現場に共有するゆとりができています。

こうして一定の効果が見込めたことから、2019年より法人内の他施設にも業務改善の手法を展開しています。

――現場からの反応はいかがでしたか?

業務改善に関してもっと現場から否定的な声が挙がるかと思いましたが、実際には協力的な職員が多く、どうすれば良くなるのか一緒に考えていくことができました。また、このプロジェクトは1年間と長期に渡るものでしたが、1年を通してモチベーション高く取り組んでもらえたと思います。その要因の一つとして、標準化→簡素化→平準化と段階を踏んで進めるようにしたことが挙げられます。標準化により、目に見える形で時間を削減し、簡素化では職員のアイデアを取り入れることで「改善が楽しくなっていく」風土を作り上げて、最後に1番大変な「平準化」に取り組むという流れを実行したことが功を奏したように感じています。

ただ、1施設で検証した手法をほかの施設に展開する段階になって、介護用ボックスシートの採用など細かい部分で、導入に難色を示す施設もあり、法人内での意思統一は難しさを感じました。各施設それぞれのやり方はあるので、単純に手法を展開するのではなく、納得したうえで実践してもらうことが重要だと思います。

――今後の目標を教えてください。

業務改善により、現場のオペレーションを2.5:1まで減らすことができたので、次なる目標の3:1を実現するために、ICTを活用していきたいと考えています。3:1の人員配置を実践するには、夜間のオペレーションを見直す必要があり、そのためには、見守りシステムなどICT機器の導入が不可欠です。

ICTの活用により時間を創出したうえで、ゆくゆくは最終目標である「専門性の強化」に取り組んでいけると考えています。

――これから業務改善に取り組みたいと考えているほかの施設の方へ伝えたいことはありますか?

どの事業所も人を減らすことには抵抗感があると思いますし、今のやり方を変えるには労力が要るので、業務改善をネガティブに捉えてしまうこともあるかもしれません。しかし、業務改善により負担が減ることで、介護の仕事の楽しさを感じられるゆとりが生まれるはずです。「人員を削減すること」「時間を減らすこと」だけを目的とするのではなく、何のために業務改善をするのか、その目的を明確にして、職員に共有していくことが大切だと思います。

あと、業務改善のために大切なことは、まず「やってみること」です。若竹大寿会でも職員たちと協力し、改善の工程を楽しみながら、今の手法にたどりつきました。一歩踏み出したら、また違う世界が見えてくると思うので、まずは挑戦してみてほしいです。

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