2019年10月に特定処遇改善加算が新設され、昨今の日本では介護職の処遇が論議の的になっています。そんな介護業界において類を見ない改革を行い、離職率7%、月平均残業時間7時間などの奇跡的な実績を残している社会福祉法人合掌苑。数々の奇跡を主導してきた同法人の理事長である森様にお話を伺った「合掌苑の取り組みの全貌」について、採用と職場づくりの2部構成でご紹介します。

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プロフィール

森 一成 様

社会福祉法人 合掌苑 理事長

IT企業のプログラマーを経て、社会福祉法人合掌苑理事長に就任。平成5年、特別養護老人ホーム合掌苑桂寮を開設、その後も高齢者施設や在宅サービス事業の展開を図ると同時に地域の社会貢献活動にも力を入れている。また、全国各地の団体や大学から「介護業界の次世代人材の活性化について」、「人材定着を図るための実践」等をテーマとした講演依頼が多数あり、積極的に活動を続けている。

「あたりまえ」ではなく「ありがとう」がベースになる組織作り

——働きやすい職場にするために取り組んでいることはありますか?

働きやすい職場を作るために最も重要なことは、制度ではなく、バリアフリーな組織を作ることです。 例えば、お子様が突然熱を出して仕事をお休みしなければならなくなった時に、「また休むの?困るな」と言われるような ”あげつらう組織”は働きづらいですよね。 

先代の理事長がよく『「ありがとう」の反対語は「あたりまえ」』と言っていました。 

要するに、否定的な意見を言う人達は常に「あたりまえ」がベースになっている組織です。そういう組織は、職員同士が批判し合います。できないことに対して不満を言うので、絶対に働きやすくならないんです。当法人で先ほどのような不満が出たときは、総合施設長が「小さな子供を抱えて、子育てだけでも大変なんだよ。なのにこうして仕事してくれてるじゃない、感謝しないと」と話しています。

「ありがとう」と「あたりまえ」に中間はありません。「ありがとう」と思っていないことは「あたりまえ」と思っています。「あたりまえ」がベースになっている組織か、「ありがとう」がベースになっている組織か、それによって働きやすさは大きく変わると思います。 「あたりまえ」がベースになっている組織は小さな子供を抱えたお母さんや障害のある方などを雇用しづらく、逆にこのような人達を受け入れられる組織は”バリアフリーな組織”です。高齢者や障害者のために街をバリアフリーにしたことにより、歩きやすくなるのは高齢者や障害者だけじゃなく我々も同じですよね。つまり組織に置き換えて考えると、バリアフリーな組織になれば、該当する方々だけでなくスタッフ皆が働きやすくなります。

——バリアフリーな組織づくりに大切なことはなんですか?

我々の仕事は、お客様の幸せを作り、お客様を幸せにすることです。 幸せな最期を迎えてもらうことが究極の目標です。幸せというのはお裾分けするものですから、自分が幸せでなければ人を幸せにする事はできないんです。ということは、スタッフがここで働いて幸せだと思うことが大事ですので、そのためにはスタッフの仲が良いことが大事です。 

仲が良い組織を作るために大切なことは3つあります。1つ目は、同僚間できちんと挨拶をすることです。2つ目は、きちんと感謝を伝えること。感謝の気持ちを記入する「サンクスカード」も用意しています。

最後に、同僚に貢献すること。お客様に貢献することはもちろんですが、同僚に貢献することも非常に重要です。お互いをフォローし合う関係性を作ることがお客様の幸せに繋がっていきます。

——「同僚に貢献する」とは、具体的にどのようなことを行なっているのでしょうか?

当法人には、同僚に貢献するために組織した6つの「委員会」と4つの「チーム」があります。「委員会」では、生活再建リハビリ、遊びリテーション、 ダイエット(病気治療や健康増進を目的とした食事療法)、感染症、コンチネス、認知症ケアなどの情報やスキルを提供しています。「チーム」では、組織風土や業務改善、環境整備、スキルアップの4チームがあり、3つの施設それぞれに組織を置いているので全部で12チームあります。委員会とチームは、各部署からメンバーが選出され、 各組織で計画を作って実行していきます。

この組織はもちろんお客様のためでもありますが、スタッフが働きやすくなることがベースになっていて、同僚に貢献するための活動です。

毎年職員に配布している『理念ブック』に経営計画書があり、委員会やチームに関する方針や業務内容を記載しているので、記載内容に沿って活動をしてもらいます。経営計画書は戦略書というよりも職員ハンドブックの意味合いの方が強いので、数値的な目標から計画、福利厚生なども全部書いてあります。

▲毎年職員に配布している『理念ブック』

——『理念ブック』はどのように活用しているのでしょうか?

『理念ブック』には、先代の理事長の言葉を14ヶ条にまとめたものが記載されています。14ヶ条を制定したのが今から17年ほど前。その当時の中間管理職が半年間議論し、その言葉を一つひとつ細かく落とし込んでいきました。「尊厳にはどのような要素があるか」「 自分らしさは一体何なのか」などの要素をバラバラに分解して、それを全て項目にまとめました。

理念はマニュアルではなく、考える時の道標です。読むだけで終わらせてはいけないので、考えてもらうために上記項目が毎週メールで送られてきます。「◯◯さん、お客様の尊厳を守れない時ってどの時ですか?」というように質問し、答え、人が答えた内容を聞いて、また考える。元旦などの休暇時期をのぞいて、15、6年毎日全部署で行っています。

他にも、『心の栄養』という冊子を発行しています。これは”スタッフストーリー”と呼んでいる、1年間にお客様から頂いた感謝の言葉をまとめて本にしたものです。

▲お客様から頂いた感謝の言葉をまとめた冊子『心の栄養』

抽象度高く仕事を定義することで、モチベーションは向上する

——スタッフのモチベーションを高めるには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?

常に仕事の意義を見直していくことが非常に大切です。やりがいは、人から貰うだけじゃなく、仕事の意義を自分で定義しないといけません。そして定義するときには抽象度を上げることが大切です。

法人の中で最も高い抽象度を物語っているのが理念ですが、理念は絵に描いた餅になりがちです。入社当時にどれだけ理念を教え込んでも、職場に行くと作業効率や生産性向上、給料など、抽象度の低いことしか考えないようになってしまうことが多いんです。仕事は7、8割は抽象度の低いことばかりなので、「あなたは何のためにこの仕事をしているんですか?」と言うような抽象度の高いことを話して、常にバランスを保つことが大切です。もちろん給料や生産性も大事だけど、それが全てじゃないと気が付いてもらうことで仕事の意義も変わってきますよ。

——新たに取り組もうとしていることはありますか?

現在行っているさまざまな取り組みを、全て仕組み化していきたいと考えています。今月から『CAPシステム』という、スマホを使って簡単な質問に答えるだけでスタッフのモチベーションが見えるようなシステムを導入する予定です。モチベーションが高かった人が急に下がったりすると、アラートがつくようなシステムになっていて、アラートがついた人たちに対して適切なフォローを行うことで離職を防ぎます。仕事の成果にはモチベーションが影響します。面談だけだと行う人や行う時期によりばらつきが出てしまうので、このようなシステムの導入により、モチベーション高く働く人たちを増やしていこうと考えています。