2019年10月に特定処遇改善加算が新設され、昨今の日本では介護職の処遇が論議の的になっています。そんな介護業界において類を見ない改革を行い、離職率7%、月平均残業時間7時間などの奇跡的な実績を残している社会福祉法人合掌苑。数々の奇跡を主導してきた同法人の理事長である森様にお話を伺った「合掌苑の取り組みの全貌」について、“採用”と“職場づくり”の2部構成でご紹介します。
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社会福祉法人 合掌苑 理事長
IT企業のプログラマーを経て、社会福祉法人合掌苑理事長に就任。平成5年、特別養護老人ホーム合掌苑桂寮を開設、その後も高齢者施設や在宅サービス事業の展開を図ると同時に地域の社会貢献活動にも力を入れている。また、全国各地の団体や大学から「介護業界の次世代人材の活性化について」、「人材定着を図るための実践」等をテーマとした講演依頼が多数あり、積極的に活動を続けている。
短期離職者の続出による高い離職率
——従業員が辞めない組織をつくるきっかけとなった出来事を教えてください。
今から20年ほど前、離職率が非常に高い時期があったのですが、離職率は高くても採用は比較的上手くいっていて、新卒も中途も相当数の応募があったんですね。当法人では、少子化により将来採用が難しくなるということを見越して28年ほど前から新卒採用を行っておりましたが、当時新卒採用を行っている社会福祉施設はほとんどありませんでした。求人票を各学校に送るだけで履歴書が何百枚も届く時代だったので、その中から数十人だけ選ぶというえらく贅沢なことをしていましたが、毎月退職者が出るような状況が続いていました。
私はその状況を見てキリがないと思い、「とにかく一人辞めなければ一人も採る必要ないんだから、辞めない組織を作ろう」と言い出したのがきっかけで、18年ほど前から始めました。
——当時の離職率はどれくらいだったのでしょうか?
当時の離職率は20%くらいでしたね。多分この業界共通ですが、1年未満の離職がすごく多いんですよ。私も多くの施設を見てきましたが、離職率が低いところでも大体20%から30%、高いところだと60%くらいなんです。離職者の約6割が1年未満に退職していて、入社6ヶ月未満での退職者が最も多いです退職の理由は、入社前後のギャップが最も多いです。介護の仕事は、業界の外から見るのと実際に中に入るのとでは全然違う世界です。外から見ると、のどかな仕事でおじいちゃんおばあちゃんと和かに過ごしているような感じに見えるのですが、 中に入ってみると肉体的にも精神的にもハードでギャップがものすごく大きいので、早期に挫折してしまう人が多いんです。さらに慢性的に人手不足なので、採用も荒くなってしまって、簡単な面接で済ませてすぐに「いつから来られますか?」みたいなことが多くなります。

採用方法を刷新、自らが主導となり面接・オリエンテーション・入社後面談を導入
——高い離職率をどのようにして改善したのでしょうか?
最初に目標としたのは、1年未満の離職を無くすことでした。 とにかく1年未満の退職者を出さないようにしようということで、最初に採用のやり方を変えることから始めました。 まず採用を丁寧に行えるように、それまで1回のみだった面接を3回にして、3回の面接の間はわざと時間を空け、絶対に1ヶ月以上かけるようしっかり時間をかけてより丁寧な採用を行うようにしました。
一次面接では、採用担当者と現場の責任者が必ず2名同席して、主に業務内容や給与、福利厚生について話します。二次面接は私が面接を行い、施設の理念について話して、三次面接は各施設の総合施設長が面接し、施設の説明と職場見学を行います。
面接の時間をわざと空けるのは、求職者にじっくり考えてもらうためと、判断を端折る人を採用しないようにするためです。 判断を端折る人というのは、例えば「今ここで採用決めてください」「明日から働きます」と言うような方ですね。今の会社を「いつ辞められるの?」と聞いたとき「いつでも辞められますよ」と返答する方は、採用しても同じように突然辞めてしまう可能性も考えられるので注意しています。
——森理事長が担当する二次面接では、具体的にどのようなことをお話しされるのでしょうか?
私は面接の最後に必ず次のことを伝えています。
「あともう1回面接があります。 介護という仕事は人格の仕事なので、あなたの人間性が合掌苑にふさわしいかどうかを多くの目で見せてもらいたいと思っています。仕事というのはお互いの選び合いなので、私たちもあなたもお互いを選んで良いのです。だから私は合掌苑の考え方を話しました。次にあなたが会う人は、あなたが配属される部署のトップです。お互いに納得できることが一番いい結果を生むので、 ここなら自分がいい仕事ができそうと思ったら就職を決めてください」
「理事長が二次面接をするのは珍しいですね」とよく言われますが、私はこれを伝えたいたいがためにあえて二次面接を担当しています。そして、最後の三次面接担当者に求職者の就職の意向を確認してもらいます。
——内定してから入社するまではどのような過程があるのでしょうか?
内定したら、必ず「採用オリエンテーション」を受けてもらいます。内定日を必ず翌月1日にして、毎月1日・2日・3日に採用オリエンテーションを実施し、オリエンテーションを受講しなければ現場に配属できない決まりにしています。開始当初は現場から非難轟々で「一刻も早く配属してほしい」と言われましたが、とにかく採用オリエンテーションを受けなければ現場には配属しないと入れないと言い切って、3日間の研修を行うようにしました。
オリエンテーションの内容は、初日の午前中に私が理念について講話を行い、午後は総合施設長がサービスマナーの研修を行います。2日目はウェルカムランチといって、各施設の職員が一人ずつ出てきて施設を案内した後、みんなでお昼ご飯を食べます。午後はパソコンの使い方研修で、当法人では全員にメールアドレスが付与され、メールで給与明細が届くので、その見方などをレクチャーします。3日目は、1日かけて介護保険事業として求められている個人情報保護法や虐待防止法などの法律関係の勉強と、就業規則の話をします。 就業規則は必ず一人一冊配布して全部読み上げてもらい、 就業規則の話を聞いたと証明する一筆をもらいます。
ここまでが、離職率を改善すべく最初に行った取り組みです。

部下を動かすには、トップが自ら動くことが重要
——採用の他にも取り組んでいることはありますか?
採用の改善と同時に入職後面談も始めました。入社1ヶ月後の最初の給与明細をもらった直後に「DAY30」と呼んでいる面談を行います。これは一次面接で給与の説明をした採用担当者が「面接時に聞いた話と違ったことはありませんか?」と確認する面談です。 新卒採用ではあまりいませんが、中途採用だと給料の額や仕事内容が違うというような誤解が生じることがあるので、組織に対する不信感を抱かないよう「DAY30」を行っています。 採用担当者もこうしたフィードバックがあると、自分の説明に不足している部分がわかります。
また、3ヶ月を過ぎた時には「DAY90」と呼ばれる私との面談を行います。これは、『目標設定シート』に記入した内容を私が聞くことで、最初の1年をソフトランニングするための目標設定をする面談です。面談の目的は目標設定ですが、私にとっては重要な情報収集の機会でもあります。法人全体を統括するにあたり、総合施設長からの報告だけでは主観によって報告内容に違いが生じる場合があるので、入社したばかりのスタッフの話を聞かせてもらい、報告内容と事実に差が出ないようにしています。そうすることで私も多くの情報を知ることができますし、スタッフも自分がこの施設の一員であると感じることもできます。最後は1年経った時に「DAY365」というお祝いをします。記念品を贈呈し、「苑内報」という社内広報誌に自身の感想が掲載されます。
以上を入職後面談として制度化し、それに加えて現場でも細かく面談します。面談回数や頻度、内容は全て現場に判断を任せていますので、毎日行っている人もいれば2週間に1回という人もいます。 入職後面談がしっかり軌道に乗り始めると、辞める人も少なくなりました。今では1年未満の離職は年間で0に等しいです。 やはり最初の1年目がきついので、1年勤めることができれば、その後3年は続けてくれます。 こうした結果が出るまでには4、5年かかりましたね。
——入社後面談ではどのようなことを心がけていますか?
面談を始めたばかりの頃は、既存職員から「私たちの時は何もなかったのに」というような批判の声も挙がりました。 あとは、いきなり面談を導入しても浸透しないので、まずは私から始めました。 今でも月70回ぐらい面談をしているので、おそらく会社で私が一番面談をしていると思います。
自分が面談を受ける立場を経験すると、面談をやり始めるんです。面談により相手が何を考えてるか分かってくるので、逆に面談しないと不安でしょうがなくなるんですよね。 こうした基盤を作るためにも、私が自ら面談スケジュールを作り、どんなに忙しくても必ず行います。面談を設定したものの、後回しにしてしまうということは「自分はどうでもいいんだな」と思わせてしまうので絶対にやってはいけません。トップがやらない限り部下は動かないので、トップが自ら行動するということは非常に大事なことだと思います。最長で1人9時間の面談をしたこともありますよ。
【職場づくり編】に続きます
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