新型コロナウイルスの感染拡大による病床の逼迫により、入居者の入院調整ができず、施設内でのケアが必要なケースが相次いでいます。特別養護老人ホーム青都荘では、2021年1月から2月にかけてコロナウイルスのクラスターが発生しました。施設内でのケア方法や、事前にできる対策について、施設長の宮本様にお伺いしました。

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プロフィール

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宮本 まや様

社会福祉法人 青野ヶ原福祉会 特別養護老人ホーム 青都荘 施設長全国介護事業者連盟 関西支部 幹事

介護専門学校卒業後、介護福祉士として施設勤務。その後、大学へ進学し、介護専門学校の教員となる。6年前に特別養護老人ホーム青都荘へ入職し、介護現場へ復帰。3年前からは施設長として施設運営を統括している。

コロナ感染者が出たら、すぐに入院できると思っていた

――新型コロナウイルス感染症のクラスター発生経緯について教えてください。

2021年1月16日にショートステイご利用者様のコロナウイルスの感染が判明し、濃厚接触者扱いとなった利用者様と職員のうち、利用者様6名、職員1名が陽性判定を受けました。「陽性者が入院するまで」と考えて施設内でケアをしていましたが、すぐに入院調整できず、陽性者と陰性者を分けて施設内でケアを続ける中で、さらに利用者様2名の陽性が発覚しました。陽性となった利用者様の入院調整が済み、経過観察期間が終了するまでの約1ヶ月間、施設内でケアを行いましたね。最終的な関係者の陽性者数は10名で、ショートステイのフロアのみの感染に抑えることができました。

――感染発覚後、まず対応したことは何でしょうか?

まず、業者に消毒依頼をしました。業者に入ってもらった方が衛生面でも確実な対応ができますし、職員にも安心してもらえると思ったからです。1回あたりの費用は約250万円と非常に高額でしたが、利用者様、職員両方に安心してもらうために必要だと思い、実施しました。

実は、2020年8月にも職員がコロナウイルスに感染していたことがあり、1月の関係者の感染発覚は2回目でした。以前は消毒をして、速やかに対応したこともあり、職員2名だけの感染で収束しました。それからは感染予防の徹底はもちろん、感染者が出た場合のオペレーションに関してもマニュアル化していたので、1月の感染発覚時はそのマニュアルに沿って対応する予定でした。

――感染確認後、対応はマニュアル通りにいきましたか?

なかなかマニュアル通りにはいきませんでした。マニュアルは、利用者様の感染発覚後「入院までどのようにケアするか」を示したものだったので、緊急事態宣言中の病床が逼迫している状況下では、陽性者がすぐに入院できない点が大きく違いました。入院治療が必要な方たちが、入院できるようになるまで施設の介護職員がケアする、というのは想定していませんでした。

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感染管理に入れるのは、介護技術が優れた職員に限定

――施設内では、どのようにケアにあたっていましたか?

看護職員を感染管理のリーダーにして、介護職員がメインでケアに当たりました。施設内でケアを続行するには、ほかのフロアにウイルスを持ち込まないように、細心の注意が必要でした。感染者がいるフロア担当の職員とそのほかの職員で、出勤時の導線や使用するトイレ、休憩スペースなどをすべて分けました。感染ケアを担当する職員は、ホテル暮らしをしてもらったり、帰宅の必要がある職員は家の中でもマスクをして家族と接触を避けたりしながら勤務してくれていました。

――職員からの反応はいかがでしたか?

中には出勤したくないという職員もいました。ただ、利用者様にコロナウイルスの感染者が出て事業所内でケアしても、介護報酬の点数は変わりません。危険手当を出せるわけではないですし、職員を責めることはできませんでした。小さい子どもがいる、奥さんが妊娠しているなど、少しでも心配がある人は感染者のいるフロアには入らせないようにして、配慮が必要な場合は正直に伝えてもらいました。

しかし、感染者のいるフロア以外の業務においても「やりたくない」「行きたくない」を受け入れていてはほかの利用者様のケアができません。「正しく恐れる」ことを意識して、アイガードやマスク、手袋の正しい着用方法を学んで、「対策しているから大丈夫だよ」と職員に自信を持って伝えるようにしました。

――感染者のケアをする職員はどのように決めましたか?

介護技術に優れている、かつ自ら感染者のケアを志願してくれた職員に任せました。基本的には感染が発覚したユニットの職員が対応するようにしていましたが、事情があって入れない職員や、介護技術が不得意な職員は担当から外すようにしましたね。防護服の着脱だけでも入念な注意が必要で、ただでさえ介護技術が不得意な職員は、感染管理にまで配慮できるか不安だったためです。自ら「入ります」と言ってくれた職員は、ほかのフロアのリーダーでしたが、技術も申し分がなかったので、安心して任せられました。

「孤独感」を少しでも和らげてもらえるように職員にこまめな声がけを

――感染をショートステイのフロアのみで抑えることができた要因は何ですか?

感染者のケアに介護技術のレベルが高い職員を集めたことが最大の要因だったと思います。介護技術の高い職員は、介護に対する意識も高く、弱音を吐かずに頑張ってくれました。そのおかげで、職員と利用者様含めて10名の感染にとどめて、経過観察期間を含めて2月17日までの約1ヶ月で収束できました。

――クラスター発生前後でどんな変化がありましたか?

利用者様に感染者が出ても、施設内でケアにあたる可能性があることを前提に考えるようになりました。以前のマニュアルは、感染した利用者様が「入院するまで」の想定でしたが、「施設内でのケア」も考慮に入れたものに書き換えましたね。さらに、今後感染者が出てしまった場合、誰がケアにあたるか決めておくようになりました。当施設だと、基本的には感染者が出たフロアの職員がメインでケアにあたることにしたので、ユニットのリーダーが非常時のケアの核です。そのため、今後はリーダー候補の職員には、非常時のケアに対する意思を確認することにしています。

また、昨今は感染対策のためにオンライン面会が主流になっていますが、感染者のいるフロアのケアのためホテル暮らしとなり、ビデオ通話でしか子どもと話せなかった職員が、「オンラインでしか面会できないのは寂しすぎる」と、オフラインでの面会を立案してくれました。現在は、オンライン面会だけでなく、対策を万全にしてオフライン面会も実施しています。

――職員への対応で気をつけたことは何ですか?

とにかく声を掛けることと、長時間施設内にいることです。「大丈夫?」「困ってることはない?」と毎日出勤した職員に声を掛けて、「何かあったら私がケアに入るから」と伝えていました。感染者のいるフロアの職員がケアにあたってくれていた1ヶ月間は、毎日誰よりも早く来て、遅くまで残るようにしていましたね。とにかく、職員が精神面で孤独を感じないように気をつけました。そんな姿を見てか、「いつもありがとうございます」と名前を書かずにメッセージを添えて私のデスクにジュースを置いてくれた職員もいましたね。非常時の対応で、チームの絆が深まった部分もあると思います。

また、私たち管理職が職員のためにできることは、職員が少しでもリフレッシュしながら働ける環境を整えてあげることだと思っています。当施設の場合は、以前作った居宅支援事業所の隣にあるカフェスペースが役に立ちました。休日にあまり外出ができない職員にとって、こうしたリラックスできる場所を用意してあげることも大切だと感じます。

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介護職の頑張りがもっと世の中にクローズアップされてほしい

――施設内でのコロナ感染に備えて、あらかじめ準備しておいた方がいいことを教えてください。

細かいシミュレーションが大事だと思います。実際、利用者様の感染発覚後、施設内でケアをする想定をしていなかったので、防護服や手袋、マスクがどれくらい必要かがまったく分かりませんでした。必要な備品数の見積もり、備品の保管スペースの確保はあらかじめしておいた方がいいと思います。感染者のいるフロアにどうやって備品を運ぶか、感染者に対応する職員の移動経路や休憩場所、使用するトイレはどうするか、など細かくシミュレーションしておくことがおすすめです。また、万が一コロナ感染者が出た場合、事情があってケアに入れない職員も、前もって確認しておく方がいいと思います。

――一連のコロナ感染者の対応を通じて感じたことは何ですか?

感染者のケアのためにフロアを異動してくれたリーダーに代わり、責任感と主体性を持って頑張ってくれるようになった職員がいました。お互いが感謝しあい、絆が深まった面はあったと思います。医療が逼迫して、医療従事者が手一杯になったあとは、介護職が頑張っていますが、なかなかクローズアップされません。そこをもっと世の中の人が知ってくれたらいいなと思いますね。

また、コロナ禍での対応を通じて、職員一人ひとりの介護への意識の違いが、より分かるようになりました。実際、介護の仕事はつらいことや我慢が必要なことが多く、志がなければ厳しい世界ですが、「働く先がないから介護職になった」という方も少なくないと思います。「介護にはやりがいや魅力がたくさんある」ということを私たちトップがもっと発信していかなければとあらためて感じました。

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