EPA介護福祉士候補生の受け入れを積極的に推進してきた特別養護老人ホーム松陽苑。外国人採用に携わる松川さんと伊藤さんに、受け入れの背景や今後のビジョンとともに監理団体としての取り組みについて伺いました。

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プロフィール

日本の介護業界を救う外国人介護人材の可能性 -社会福祉法人宮城福祉会 特別養護老人ホーム松陽苑-
松川 弘様(左)

社会福祉法人宮城福祉会 特別養護老人ホーム松陽苑 法人業務執行理事 兼 松陽苑施設長

1983年社会福祉法人宮城福祉会に入職。介護老人保健施設あいやまなどを経て、2015年特別養護老人ホーム松陽苑に配属。法人業務執行理事として、EPA介護福祉士候補生の受け入れを開始した当初から宿舎の建設など外国人採用業務全体を推進してきた。

伊藤 崇様(右)

社会福祉法人宮城福祉会 特別養護老人ホーム松陽苑  法人総務部次長 兼 松陽苑副施設長

2005年社会福祉法人宮城福祉会に入職。養護老人ホーム松寿園などを経て、2015年特別養護老人ホーム松陽苑に配属。配属後は外国人人材の受け入れ業務や職員の教育に携わっている。

将来の介護人材不足を見据えて取り組みをスタート

——EPA介護福祉士候補生の受け入れを始めた背景を教えてください。

 EPAに基づくインドネシア人介護福祉士候補生の受け入れがスタートした2008年当初から、この制度には注目していました。EPAとは経済連携協定のことで、経済交流や連携強化の一環として、2国間協定を結んだ国から、介護福祉士の国家資格取得を目指す候補生を受け入れるものです。国際貢献という面で果たせる役割は大きく、当時の理事長は新しい取り組みに積極的だったため、全国の施設に先駆けて受け入れの準備を始めました。

 また、外国人人材を受け入れることは、人材不足を補ううえでも非常に有効な手段です。宮城県は特に介護人材不足が深刻で、2025年の介護人材の充足率の見込みは69%と、全国最下位です。将来を見据えると、早いうちから介護人材を確保することは重要な課題だと考えました。

 ——どのように受け入れる候補生の方を選んでいますか?

 国際厚生事業団の公募に応募し、インドネシアのジャカルタに出向いて、面接を実施しています。現地で候補生の方と話すときに注目しているのは、笑顔とコミュニケーション能力です。面接時は候補生は日本語をまだ話せないので、インドネシア語での会話が流暢で、キャッチボールがスムーズにできるかを見ています。

ただ、私たちが「この人に来てほしい」と思っても、必ずしもマッチングするわけではありません。面接では「選ぶ側」であると同時に「選ばれる側」でもあるので、お互いに素を出し合ったうえで、よい方に就業していただければと考えていますね。

基本的な日本語習得の先に待つ「方言」という課題

——受け入れにあたってどんな準備をしましたか?

 宿舎の建設とご家族への説明です。

 松陽苑では、外国人介護福祉士候補生のために施設から800mの場所に宿舎を建てました。建物は2棟あり、最大で14人が入居可能です。最初は無償で貸し出ししていたのですが、社会保険や税金上の関係で、今は家賃として5000円だけもらい、光熱費や水道代は自己負担としています。

 また、外国人介護福祉士候補生の就業にあたっては、事前に利用者さまやご家族の皆様に説明を行いました。イスラム教徒が大半を占めるインドネシアでは、女性は「ジルバブ」と呼ばれるスカーフを巻いて髪や首を覆います。ご家族が面会にいらっしゃった時に、何の説明もなくジルバブを巻いた職員がいるとびっくりされてしまうかと思いますので、ご家族からの了承はしっかり得ました。

 ——入職後の日本語教育や資格取得のサポート体制について教えてください。

 東北学院大学の講師・学生による日本語学習グループ「みんぴ」の方々に月6回ほど来所いただいて、日本語指導をしてもらっています。

 EPAによる介護福祉士候補生になるためには、訪日前に半年と訪日後に半年で合計1年間の日本語と日本の慣習の研修受講が義務付けられています。そのため、EPA介護福祉士候補生のみなさんは基本的な日本語は理解していますが、方言となるとどうしても難しいようです。東北には「かわいい」を表す「めんこい」や「いい加減にしなさい」を意味する「おだづなよ」など、この地方特有の言葉がたくさんあります。「みんぴ」による日本語指導のほかにも、1日2時間設けている自習の時間を使って、日本人職員が質問に答えながら、細かくフォローできるようにしていますね。

 また、日本語学習のほかに、介護福祉士の資格取得のための勉強も必要です。資格取得のため、介護福祉士候補生には宮城県が主催し、東北福祉大学が運営する「EPA等外国人の国家資格に向けた養成講座」を受けてもらっています。この講座は2019年度まではEPA介護福祉士候補生が対象でしたが、2020年度からは宮城県に在住の外国人が対象となり、技能実習生等が受講することも可能になっています。

日本の介護業界を救う外国人介護人材の可能性 -社会福祉法人宮城福祉会 特別養護老人ホーム松陽苑-
▲介護福祉士候補生たちは業務と両立しながら、日本語や資格取得のための勉強にも励みます

私たちの当たり前は誰かにとっての「当たり前」ではないことを知る

——受け入れにあたり、一番大変だったことを教えてください。

 私たちにとっての「常識」が、インドネシア人介護福祉士候補生にとっての「常識」ではないことです。育ってきた環境が違えば、価値観や考え方も異なるのは当然なので、認識を合わせていくのが大変でした。

 例えば、私たち日本人は「休み時間が終わったらすぐに仕事を始めること」を当たり前だと考えていますが、インドネシア人介護福祉士候補生にとってはそうではありません。だいたいの時間で大丈夫だという時間感覚を持っていて、時間に遅れても気にしない方が多いです。

 また、イスラム教の習慣としてあるお祈りも基本的に就業時間外にお願いをしていますが、排泄介助や、食事介助も終わり、「何もすることがない」状態になれば「今お祈りをしてもかまわない」という認識を持つ介護福祉士候補生もいます。

 こういった考え方の違いは一人ひとりとじっくり話をして、ルールを作りながら、相互理解を深めていきました。

——EPA介護福祉士候補生を受け入れてよかったことは何ですか?

EPA介護福祉士候補生の場合は、母国で看護分野の勉強をしてきていることから、医療・介護に関する知識があり、即戦力となって活躍してくれることです。

 EPA介護福祉士候補生になるためには、母国で看護師の資格を取得するか、看護学校を卒業することが必須になっています。看護業務が分かっている方であれば、介護業務の把握は難しくないはずです。看護師の話もよく理解してくれるので、連携が取りやすく、助かっていますね。

 また、日本語にしても業務にしても、一生懸命学んで吸収しようとする姿勢はほかの日本人職員にとってもよい刺激になっています。

——逆にデメリットや課題に感じていることがあれば教えてください。

 近年は、外国人介護福祉士候補生のニーズが高まってきたので、希望通りの人数が集まらないことです。インドネシア人介護福祉士候補生の場合、制度開始当初の2008年は候補生の数と各施設からの希望人数が同じくらいでしたが、2019年は約300人の介護福祉士候補生に対して、日本の事業者から約1000人の求人がありました。そのため、当方が希望する人数を受け入れることは難しくなっています。

 また、介護福祉士の資格に関しては、まだまだ合格率が低いのが現状です。介護福祉士候補生が資格取得までに日本に滞在できるのは最長で4年間と決まっています。これまで18名のインドネシア人介護福祉士候補生を受け入れましたが、うち介護福祉士の資格に合格できたのは2名のみでした。資格を取得した2名のうち、1名は他法人に移り、1名は今なお働いていてリーダーとして頑張っています。

日本の介護業界を救う外国人介護人材の可能性 -社会福祉法人宮城福祉会 特別養護老人ホーム松陽苑-
▲インドネシア人職員は優しい性格の方が多く、利用者さまからもかわいがられています

東北のかいご協同組合として、東北の介護施設と外国人職員の架け橋になりたい

——今後外国人人材の採用に関して考えていることはありますか?

 EPA介護福祉士候補生だけだと人材確保は難しくなってきたので、2018年から当法人では外国人技能実習生の受け入れを始めました。外国人技能実習生は、外国人が出身国で修得が難しい技能を日本で学ぶ制度で、在留期間は最長5年です。これまでに当法人全体で計8人の技能実習生を受け入れています。

 さらに、外国人技能実習生の受け入れだけではなく、同時に監理団体としての取り組みもスタートしています。2019年11月末に「東北のかいご協同組合」として認可を受け、その後海外人材を受け入れるために必要な監理団体としての許可を2020年6月26日に受けました。監理団体として、海外の送り出し機関と受け入れ先の施設との間に入って、インドネシア人技能実習生の紹介・監理・実習のサポートを行います。

 EPAは国際厚生事業団が送り出し機関と受け入れ施設を仲介しますが、外国人技能実習生は監理団体としての認可を受ければ民間の非営利団体でも参入可能です。そのため、受け入れる側の施設としてはどの監理団体を選んだらいいのか、判断が難しいと思います。社会福祉法人が母体となって協同組合を設立し、監理団体の認可を受けているところはまだ少ないので、これまで蓄積したノウハウを活かして、外国人人材の受け入れができれば他施設の力になれるのではないかと考えています。

監理団体としての活動を通して、宮城県内のみならず、将来的には東北の介護施設と外国人技能実習生との橋渡しを行い、業界全体を活性化する助けになっていきたいものです。また、中国やベトナムに比べて、まだ割合が少ないインドネシア人技能実習生の認知度を高めていきたいとも思っています。

——外国人人材の受け入れを検討している施設の方にメッセージをお願いします。

外国人人材を受け入れるハードルは最初は高い状態でも、第2陣、第3陣と続けていくと、外国人職員同士で先輩が後輩に教えてくれるようになり、受け入れやすい組織ができあがります。そして外国人職員はいつのまにか、施設側にとってなくてはならない存在になっていきます。

 外国人職員が多く集まる施設には、「先輩や知り合いがいるから」「同じ国籍の方が働いているから」という理由で、どんどん人が集まり、新しい人材が入りやすい状況が生まれます。そのため、できるだけ早い時期から受け入れを始め、外国人職員同士のコミュニティを作ることが大切になってくるのかなと感じていますね。私たちとしても、コンスタントな受け入れを続けることで、インドネシア人職員のコミュニティを形成しつつ、受け入れを検討しているほかの事業所の力になれたらと思っています。

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