介護職の人員不足が深刻化するなか、介護現場のIoT化・ICT化は注目されています。ところが、費用面から導入にイマイチ踏み切れなかったり、導入しても活用しきれなかったりと事業所によって様々な課題があるようです。特別養護老人ホーム朗友館では、2017年に利用者の睡眠状態が分かる「眠りSCAN」を全室に導入、個別ケアの実現や職員の意識変化や定着に繋げています。今回は、施設長の小林様に導入時の注意点や成功の秘訣を聞いてみました。
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プロフィール

社会福祉法人おおとり福祉会 特別養護老人ホーム朗友館 施設長
1991年特別養護老人ホーム朗友館に入職。その後、法人内の各部署を経験。2004年に同法人内のグループホームに異動し、グループホーム特有の「個別ケア」にやりがいを感じる。管理者となり、10年近く勤務していたが、2015年に再び特別養護老人ホーム朗友館へ施設長として異動。2017年の新築移転時に眠りスキャンの導入に携わる。
偶然の導入が、理想の介護をするのにマッチしていた
——眠りSCANを導入する前には、どんなことに課題を感じていましたか?
私自身、排泄の一斉介助が嫌だという思いがすごくありましたね。もともと働いていた特養では、オムツ交換は同じ時間に行うため、「定時」という言葉が共通言語として使われていました。でも、「定時」とはこちらが決めた業務のスケジュール上の話であって、利用者さんにとって必要な「定時」ではない、という違和感がずっとありましたね。
グループホームに異動となった後は、利用者さんに合わせて、できるだけトイレで排泄ということにこだわっていました。特養で働いてる職員さんには申し訳ないのですが、個別ケアの代名詞として「脱特養ケア」みたいなイメージでしたね。それから10年近くたち、グループホームから再び特養の朗友館に異動することになったのですが、一番気になったのが、やはり排泄のところでしたね。
——現場で働く職員は同じように課題を感じていましたか?
「定時は本当に利用者さんにとっての定時だろうか?」という話はよくしていました。利用者さんも、起きてるときにケアをした方が不快な気持ちにならないですし、職員側も怒られることがない。職員も良いことをしようとしているのに、怒られたり、叩かれたりというのは、嫌ですよね。ただ、みんな分かってはくれるんですが、やっぱり業務効率を考えると夢物語の理想論みたいな話になってしまうので、なかなかそれを実現するのは難しかったですね。正直、暗礁に乗り上げたかな?と思っていた時に、移転に伴ってユニット化するという話がありました。
——そこで、導入に踏み切ったのですか?
いえ、私から導入の提案をした訳ではありませんでした。新築移転の話が進む中で、当法人の理事長が「眠りSCAN」の導入を決めました。理事長としては、「職員の負担や不安の軽減が出来るんじゃないか」「個室の中の利用者さんの様子がちょっとでもわかるんじゃないか」というところで導入してくれたのですが、私の中では排泄ケアが一気に済むんじゃないかという期待もありましたね。
しっかりと活用イメージを固めてから導入

青の画面が寝ている方、黄色の画面が目を覚ましている方です。グレーはベッド上にいらっしゃらない方ですね。心拍と呼吸数も出るようになっています。職員はスタッフステーションのパソコンだけでなく、スマートフォンでも確認することができます。事務所のパソコンでも確認することができるので、私も確認をしながら別の仕事が出来ています。現場の職員から、「この人の様子が……」と相談を貰ったときに、このモニターを見ながら指示を出せますし、データもずっと残っていくので、病院に通院するときの目安にもなりますね。
——朗友館ではどのように活用していますか?
ターミナル期の方の心拍の変化が分かるので、看護師さんだけでなく介護職員も変化を意識しやすくなりました。ご家族を呼ぶという判断もしやすくなり、最期に間に合ったというケースも増えていますよ。業務の効率化でいうと、「次にどこの部屋に行くか」という予定を組み立てやすくなりました。睡眠状態の可視化によって、誰が起床しているかを部屋を回らずに確認できるので、利用者様にとっても、ベストなタイミングでの声掛けができています。
あとはやはり、私は排泄にかなり思い入れがあり、活用できるなという思いがあったので、意識を確認してからおむつ交換を行う、といったようにも活用できているのが大きいですね。
——導入の際に気を付けたことはありますか?
正直、眠りスキャンに関しては、私もどんなものか全く分からないところから始まったのですが、勉強会だけでなく、導入前にリーダーを中心に話し合いを重ねました。それぞれ課題に感じていることを元に、具体的な利用方法を固めていきましたね。私は特に、排泄介助への活用方法を積極的に提案しました。
以前、「同じ睡眠センサーを導入したものの、イマイチ活用できていない」と、他の法人の方が、相談と見学に来られたのですが、当施設では導入前に課題に対する活用を話し合えたのが良かったですね。活用イメージを持てていないと、単に寝てるか起きてるかを見分けるモニターでしかないので、それをどう活かすかは、導入前にあらかじめ考えることが必要だと思いますね。

職員の意識変化だけでなく、コストカットも実現
——職員の意識や定着の変化はありましたか?
実習生に排泄介助について教えるときに、「排泄のタイミングはみんな同じじゃないので、その人に合わせてケアが必要」と言っている職員が増えていて、そう伝えてくれるのは嬉しいですね。
また、介護に対する不安が払拭できれば、介護職員の定着率も上がっていくと思っています。例えば、特に若くて経験の浅い職員は、看取りの尊さは分かっているつもりでも、「行ったら亡くなっていた」という恐怖や不安感がなかなか拭えません。でも、このモニターがあることで、部屋に入る前からイメージができるので、安心感がずいぶん違うようです。
——他に導入してよかった点はありましたか?
オムツに当てるパッドと、オムツの外のアウターのコストがかなり下がりました。眠りスキャン導入前は、一斉にオムツ交換をしていたので、「定時」に排泄があれば変える、その次の「定時」までは排泄があってもなくても確認はしない、ということになってました。導入後は、夜中の目を覚ましたタイミングが分かるようになったので、そこで排泄確認をしています。それが、利用者さんの排泄のリズムにいって合っていて、漏れが少なくなり、少ないパッド交換だけで済むようになったのかな?と分析しています。
便利なだけではない、意外な落とし穴も!?
——他に導入検討されている事業所さんに伝えたいことはありますか?
機械の導入費用がかかることは当然ですが、意外とネット環境を整えることが大変みたいですね。当施設はたまたま移転と同時に導入したので良かったですが、だいたいどこの施設でも共有フロアまでしかネット環境がないことが多いと思うので……。一部屋ごとの隅の方までネット環境が整えるのが、古い施設さんだとなかなか難しいみたいですね。
——今後の課題はありますか?
通知にどう対応するか、ですかね。うちの場合は全室眠りスキャンを導入しているので、しょっちゅう通知が鳴っています。目を覚ましたら、体を起こしたら、ベッドから離れたら、など、通知は個人個人で設定できるのですが、私たちとしては、どうしても排泄ケアを重視しているので、目を覚ました時に声をかけたいんですよね。ところが、目を覚ます行為というのは全員に必ずあることなので、結構な頻度で鳴ってしまうんです。あまりにも鳴りすぎると、本来使いたいタイミングの時に気づかないということが起こってくる可能性があるので、その人に必要な通知をどこにするのか、というところが今後の課題ですね。
編集後記
毎日同じケアを繰り返していると、どうしても流れ作業のようになってしまうことが多くなります。それを自分たちの意識だけで変えていくのは非常に困難ですが、明確な事実としての指標があれば行動も変えやすいでしょう。介護施設におけるIoTの活用は、業務の効率化だけでなく、理想の介護の実現にも重要な役割を担いそうです。
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