東急グループで介護事業を展開する株式会社東急イーライフデザイン。特に新卒採用市場においてまだ介護のイメージが弱い同社において、母集団形成を成功させ、離職率驚異の一桁を実現させた採用方法について、同社の採用担当である金子様にお話を伺いました。

東急イーライフデザイン業務統括本部総務人事部金子佑香様

プロフィール

金子 祐香 様

株式会社東急イーライフデザイン 業務統括本部 総務人事部

ホテル業界でサービス、企画営業、広報を経験し、後にIT企業に転職。主にWeb構築をする会社の営業職として活躍。その後人材紹介会社に転職し、ITの知識と経験を活かして IT企業の担当を務める。2016年の5月から、業務委託として同社の採用に携わり、新卒採用の担当強化のため2017年の2月から本格入社。介護職に限らず新卒及び中途採用を担当し、200名以上の採用と並行して研修業務も行う。

「介護職」の枠にとらわれない取り組みで採用力アップ

——御社の採用活動についてお伺いさせてください。

弊社では、新卒は総合職として採用しており、その中のキャリアの一つとして介護職があります。キャリアパスに関しては、もちろん介護職として専門的な道を作ってもらうこともできますし、弊社には自立型の住宅があるので 、そこでのフロント業務や運営全般を学んでから、本社業務や営業など新しいキャリアを積んでもらえるようにも設計にしてあります。また、中途に関しては介護、看護、フロント職やドライバーのような仕事まで幅広く採用しています。

——介護職の採用で他職種と違う点はありますか?

介護職ではスキルや経験も大事ですが、それ以上にホスピタリティや人柄がすごく重要なので、他の職種とは採用の目線が全然違います。私自身福祉業界は初めてで介護の仕事自体全くわかっていなかったので、まずは現場の話を聞いたり、求職者の話を聞いたりして勉強しました。

また、採用する上で基礎的な知識を身につけようと考え、介護職員初任者研修を取得しました。初めての講義で、講師の方から「介護とはどんな仕事だと思いますか?」と聞かれたとき、私は「できない方のできないことを助けて差し上げる仕事です」と答えたんです。しかし2週間講義を受けて振り返った時に、そうではないと気づきました。介護の本当に一番大事な仕事は、「できるだけご自身でできるよう自立支援をしていくこと」だと分かったんです。現場の視点を学ぶだけでなく、介護の仕事そのものを感じる機会になりました。

——金子さんが入社されてからどのような採用改革を行ったのでしょうか?

新卒採用は日々新しいことにチャレンジしています。2016年まではナビサイトの活用のみで採用していましたが、母集団形成が課題だったので、私が入社してからインターンシップの導入と就活イベントへの積極的な出展を行い、新卒専用HPや説明会資料などの採用ツールを揃えました。今年はイベントだけでなく説明会やインターンシップの回数を増やしたり、大学だけでなく専門学校を訪問したりと、とにかく色々なことをやりました。それだけPRした結果、今年度の母集団が昨対比で220%までに膨れました。

また、中途採用では従業員の社員紹介制度(リファラル採用)を強化し、これまで紹介者と被紹介者にそれぞれ3万ずつ付与していたものを10万まで引き上げました。さらに、制度の存在を社内でもっと打ち出すためにポスターを作って各住宅に配ったり、リファラルカードを作って社員に配ってもらったりしてツール化しました。その結果、それまでは応募経路全体のうち社員紹介は5%しかなかったのですが、12%までに引きあがりました。

東急イーライフデザイン

面接時からミスマッチを最小限に抑えることで離職を防止

——最も力を入れたことは何ですか?

入社してすぐに行った中途採用サイトの全面リニューアルです。これまでは導線を含め、サイト自体が分かりづらく、魅力的なコンテンツではありませんでした。そこで、私のIT業界の経験を最大に生かし、制作会社をハンドリングしながら1から作り直しました。リニューアルオープンしてからは、ピーク時でそれまでの10倍以上の応募がくるようになりました。

採用サイトを作る際は、とにかく現場の生の声を伝えることにこだわりました。介護士・看護師、管理職に分けてインタビューを行い、仕事の内容や職場環境、東急の良さを掘り下げていったんです。さらには、ただ漠然と「東急って福利厚生がいいんだろうな」と思われていたものを可視化しました。ホームページの応募数が増えただけでなく、紹介会社経由で来ていただく方にも事前にホームページを見ることで志望度が高い状態で来てくれるようにしました。総合的に効果は非常に大きかったと思います。

——採用の工夫を教えてください。

 以前は、中途採用の選考は1回だけでその場で合否が決まっていたんです。そうすると、今の人で不足をどう乗り切るかが目先になってしまうので、とにかく条件さえ合えば採用してしまうという方に走ってしまっていたんです。それを改善するために、2回の面接スタイルを導入しました。1回目の現場面接ではスキルや経験を重視し、2回目の人事面接では特性やキャリアプランを見極める面接を行っています。求職者さんからすると面倒くさいの一言だと思うんですけど、ミスマッチを防ぐことを優先した結果、このやり方になりました。

新卒は特に多くて、説明会と面接3回、SPI の合計5回ステップがあります。さらに本選考の前のインターンにも参加していただいていれば5、6回会っている学生さんもいます。他にも選考中に本社・物件ツアーを行ったり、内定後に先輩社員との座談会を行ったりしているので、イベントが盛り沢山なんです。その代わり何回もお会いすることで、入社意向もどんどんあがるので、新卒の内定承諾率は70%を超えており、承諾後の辞退も全くありません。

——面接の際に訴求していることは何ですか?

「東急という大きなグループの中の一社です」とお伝えしています。やっぱり東急ブランドがあるからこそ、安定して長く働けるという印象があるのではないかと思います。人員体制がきちんと整っているので、仕事に追われるだけじゃなく、自分のやりたい介護ができるというイメージを持っていただいている方がすごく増えてきています。

また、採用の際には適材適所を凄く考えています。弊社の物件は人員体制3:2なので、手厚い介護ができるという理由で応募してくださる方が多いんです。ただ、最近新しい試みとして2:1や2.3:1の、ある程度コストダウンして入居者様に低価格な住居を提供する物件も出てきているんですね。無理強いせず、面接の中できちんとヒアリングをして、どの物件でどんな事ができるかを訴求した上で、その方のご要望に合う物件に入社してもらっています。

東急イーライフデザイン

社内でのキャリア転換を可能にし、長く働ける環境づくりを

——入社後のフォローはどんなことをされていますか?

3ヶ月後、1年後、2年後の節目で面談をするフォローアップ研修や、多職種、他住宅合同のグループワーク研修を行っています。これらを行うことで視野が広がって、今抱えている悩みを解決できたりキャリア転換しやすくなったりすると思うんです。初めは介護職でもその後本社や営業等、せっかく入社もらったからには、今の仕事が続けられなくなっても社内の全然違う職種で活躍していただけるよう、社内での選択肢もたくさん用意してあります。

さらに、『キャリアディベロップメントシート』という、本人が今抱えている業務量や仕事内容に関する悩みを聞けるツールがあります。自分の業務の質や量、適性などが今どんな状態かを5段階で記入する他に、今の仕事や環境、メンバーへの悩みも自由に書いて頂けます。異動の希望もこのシートを使って、上司を通らずに直接人事の方に提出する仕組みになっていますので、知られたくない方も安心して自分の希望を出すことができるんです。 

このようになるべく職員と接点を持つようにして状態を把握し、現場との橋渡しになることを最も心がけています。これらを始めたことで離職率は15%から9%まで引き下がりました。

——現在新しく取り組まれていることはありますか?

来年度に向けて処遇の見直しと障害者雇用の促進をしています。 

特に障害者雇用においてはダイバーシティの観点で必要であるとずっと思っていました。支援機関や特別支援学校に自分で出向いて感じたことを現場に伝えたり、弊社でも実習を受け入れたりすることで現場に安心して受け入れてもらえるように努力しました。さらには社内理解を得るために勉強会を開き、ついに今年3名の方に入社いただけることになりました。これからも少しずつ枠を広げていきたいと思っています。

また、女性管理者のさらなる登用や男性の育休制度、子育て世代の時短制度も積極的に活用してもらえるようにしていきたいです。世間の話題や時代の流れをキャッチアップして自社に取り入れさまざまなことを試みてはいますが、本当にまだ道半ばです。一気にたくさん取り入れても職員が混乱してしまいます。使ってもらえない制度だと意味がないので、確実に浸透させて社員が制度を活用し使いやすい会社にしていきたいと思っています。

——今後の目標はありますか?

「介護をやるなら東急イーライフデザインだよね」と言ってもらえるようになりたいです。また、今いる職員にも、東急イーライフデザインで介護をしていることが誇りだと言ってもらえるようになりたいと思っています。 

そのためには広報を強くしていくことも必要だと思っています。私が入社したばかりの時、良いところがたくさんあるのに外部にうまく発信できていないなと思ったんです。新しいことをどんどんやっていきながら、広報によって社外とコミュニケーションをとることで、弊社の知名度を上げて選んでもらえる会社にしていきたいです。そうすることで、最終的には「介護職って楽しそうだな」と思ってもらえるところまでいけたら本望です。