慢性的な人材不足と言われている医療・介護業界において、人材の確保が困難で経営不振に陥る法人も少なくありません。医療・介護業界に限らずあらゆる組織の立て直しを手がける大島さんに、人組織を立て直すための人材確保について、お話を伺いました。

プロフィール

大島 吉登 様

ビジョンコネクター

外資系製薬メーカーにて営業戦略の立案に従事した後、医療機関や企業の組織再生などのコンサルティングを行う。コミュニケーションに関するコーチングを専門とし、現在は極度の人材不足に陥っていた病院の立て直しに力を注ぐ。

オープン間も無くして直面した、職員の高い離職率

—大島様が現在の病院で依頼を受けた当時の組織状況について教えてください。

私が着任したときには、病院が4月にオープンしてその年の8月には看護師の69%が辞めている状態でした。みんなネガティブな話ばかりでしたので、事情を聞いてまずは病院を代表して謝りました。「皆さんの意見のヒアリングを終えたら、今後の方針を出すのでそれまで待ってください」と言ったのですが、最初は全然信用してもらえませんでした。オープン当時、地域住民から期待されて建った病院でしたので、希望を持って入職してくれた看護師さんたちのショックは大きかったんだと思います。

—まず初めに何を行ったのでしょうか?

着任した翌日から1ヶ月間で、まずは辞めた職員と在職中のスタッフ合わせて61名への聞き取りを行いました。現状を聞いて、私は「みんなが笑顔で働ける職場」になってほしいと考えたんです。みんなの意見を基に、今この病院が抱えている問題を洗い出して対策と方針を出しました。聞いたことを全部メモして、A4サイズの紙に7枚分の方針を作って改善していくということを提示しました。そして、「理事長には30%、看護師には70%お互いの考えによってもらうことにして、翌年の4月には必ず働きやすい病院にすると約束しました。着任して2ヶ月くらいで方針に書いた内容を少しずつ守ってきたことで、職員に信用してもらえるようになりました。今は、全職員に愛される病院になるために、方針の実現に向かっているところですね。

方針の刷新と同時に、採用にも着手しました。大量離職により人材の確保が最も緊急度の高い課題だったので、まずは人材の確保をしなければなりませんでした。そもそも私がアサインされたのは組織の立て直しをするためでしたが、まずは職員の採用と育成に注力しました。

立て直しのポイントは計画的な初期投資

—採用・育成で意識したことは何ですか?

計画的に投資をすることですかね。施設基準を満たすためなら、投資は当然だと思いました。まずは不足している人員数を確認して、いつ教育体制が整うか看護副部長と相談しながら育成も含めて採用計画を立てました。この計画は紹介会社にも共有し、状況を把握してもらいながら採用を進めていきました。 

—もう少し具体的にお聞かせいただけますか?

医師の採用に関しては自ら大学まで行って教授に紹介してもらいます。週に3回行くこともあります。看護師、介護士は人材紹介会社を利用していますが、介護士の場合は本当に集まらないので、人材の派遣をお願いしたこともありました。紹介会社に関しては、一つに絞るより、複数を使っていますね。全部で6社です。ただ、どの紹介会社を使うかは、信用できるかどうかで決めることが多いかもしれません。約束を守るとか、会社として信頼できるかどうかというところですね。

育成に関しては、ポイントが2つあります。1つ目は私のやり方を部下たちに行動で見せることです。例えば、面接も必ず同席してもらって実際に見て学んでもらいます。そして終わった後に紹介会社との打ち合わせ内容や面接の仕方などを全部振り返って説明しています。2つ目は、部下に裁量を持たせて仕事を任せることです。ただ、丸投げをするのではなく、きちんと見てあげることが重要です。

他にも、1日5回くらいは病棟を回って職員をフォローするようにしています。毎日ひとりひとりに声をかけて話を聞いているので、相談ごとは必ず最初に私へ伝えてくれます。そうすることで、問題が起きてもすぐに対応できるような体制にしてます。

—次に取り組みたいことは何でしょうか?

職場環境が少しずつ改善されてきたので、今後は積極的に医師会や関連施設、病院などに足を運んで、病院が変わったことをアピールしていきたいと考えています。あとは、新たな方針の実現に向けて、「全職員が同じ目標を持って行動する」状態を作りたいですね。職場環境がよくなってきても職員からまた次の不満が出てきたり、新たな課題が見つかったりすると思うんです。今後も継続的に職場環境の改善を進めながら、次のステップは経営面を考えていくフェーズになります。完全なる組織の立て直しに向けて、自分も含め、みんなには踏ん張って欲しいです。

「みんなが笑顔で働ける職場」の実現

—採用や育成をする上で大切にしていることは何ですか。

人と人との付き合いを一番大切にしています。採用に協力してくれている人材紹介会社もその一つで、信頼関係を構築することで、当方がほしいと思う人材をより多く紹介してもらえるようになりますし、何らかの形でサポートしてくれる人が現れるんです。実際、立て直しを始めてから何度も助けられました。私は3ヶ月に1回は、お付き合いのある紹介会社に手土産を持って回っていますね。

病院の面接を受けに来る人に関しても同じです。面接時には嘘をつかず「今こういう課題がある病院ですが、半年後はこうしていく予定です」と話します。まだ改善できていない部分も正直に伝えて、それでもこの病院を選んでくれるなら、職員全員が利益を出しながらより良い職場環境にする体制が作れると思うんですよ。職場の現状をしっかり伝えると、求職者の方から「入ってからのギャップがなさそう」「信用できるから入りたい」などの声をいただくこともあります。部下にも嘘をつかずに信頼できる関係性を作るように教えています。

—着任されて1年が経ちましたが、職員や組織にどんな変化がありましたか?

職員たちの、病院に対する否定的なイメージはだいぶ消えたと思います。「みんなでやっていこう」という気持ちも強くなってきましたし、新しく入ってくれた人たちも、みんなで盛り上げていきたいという方が多いですね。一体感が生まれたこともあってか、私が病棟を回って「最近どうですか?」と聞くと、「楽しいですよ」と言ってくれる人が増えました。そう言っていただけているので、今後はより良い病院になっていくと思います。私が着任した時に目標にしていた「みんなが笑顔で働ける職場」が実現されてきているので非常に嬉しいですね。自分が採用した人たちが喜びを表に出してくれるようになったことが一番の変化です。