介護業界問わず外国人人材の活用が注目されている日本において、法人全体として外国人人材の活用を成功させている社会医療法人杏嶺会。一宮西病院を中心として、在宅支援まで一貫した医療介護サービスを提供している同法人において、全体の人事を担当する長谷部さんに外国人人材の採用についてお話を伺いました。

プロフィール

長谷部 太 様

社会医療法人 杏嶺会 人事部 係長

従業員数約2,500名を抱える同法人にて、介護職・看護職合わせて年間約150名の採用を行う。人事部として10年間法人全体の採用を担当し、2012年から外国人の採用を開始した。

偶然始まった外国人採用

——外国人の採用を始めたきっかけを教えてください。

2012年3月ごろ、日本に住んでいるフィリピン人から、就職希望の連絡がありました。人手が足りない時期だったので、まず会ってみることにしたんです。話してみると、日本語で会話が出来て愛嬌も良かったので、採用することにしたのがきっかけです。ただ施設としては初めての試みだったので、最初は病院の看護助手から嘱託として3ヶ月働いてもらい、問題なく業務がこなせたら常勤にするという条件をつけることになりました。実際に働いてもらうと、コツコツと真面目に仕事に取り組んでくれたことで上長も良い評価をしてくれて、すぐに常勤になりました。基本的には日本人を採用していますが、人材確保が難しいので、この採用を機に外国人も採用するようになりましたね。

最初は看護助手の採用から始めたのですが、最近では介護職の採用も開始しました。現在では法人全体で約45人の外国人が所属しています。採用方法はちょっと変わっていて、外国人スタッフに「興味ある人いないか?」と聞くと、フィリピン人のコミュニティで声をかけてくれます。EPAなど外国人採用の制度もありますが、当法人では6~7年間リファラル(紹介)で集まっているので、費用も少なく、その分他の採用にあてることが出来ています。

——外国人の方は主にどんな仕事をしているのでしょうか。

基本的には看護助手の業務です。夜勤込みの常勤でベットのシーツ交換、入浴介助、食事介助、清拭という身体拭くなどの仕事をしてもらっています。日本語での会話が難しい場合は、オペ室の看護助手としてオペ室の周りの掃除や、オペ後の掃除、滅菌掛け、消毒などの仕事をお願いしています。仕事を頼んでも嫌な顔せずやってくれるし、真面目に働いてくれているので、職場が和みますよ。

△実際に一宮西病院で働くフィリピン人スタッフ。

あえて特別な準備をしないことで、既存職員と差を生まない仕組み作り

——外国人を迎え入れるにあたって何か準備はされたのでしょうか?

あえて特別な準備はしませんでした。日本語が片言でも、日本人と同じ対応です。給与も差を付けず、3年経過すれば退職金も出るし、ボーナスも同じです。そうすることで外国籍のスタッフにとっても働きやすいし、働きがいも生まれると思いました。「国籍を問わず全員が同じ条件で働ける」という謳い文句で、採用もスムーズになりました。入社後の人員配置には気を配っています。1つの病棟に、7人中2人くらいの外国人がいるように調整し、バランスよく配置していますね。その病棟ごとに助手長さんが面倒を見るかたちで働いてもらっています。基本的にはOJTで教育しています。

——現場の職員との葛藤はありましたか。

最初は既存の日本人職員から「日本語しゃべれないし、字も読めないのに、同じ給料なのか」という厳しい意見もありました。でも外国からきても、一生懸命日本語を覚えながら仕事を頑張って真面目に仕事に取り組んでいるので、給料に差をつけることはしませんでした。

——面接ではどんなところを見ているのでしょうか。

外国人に限らず、僕が面接をするときは、「明るくて笑顔」ということを基準にしています。やはり患者さんと接することが一番多いので、愛想は大切です。ニコニコ笑ってくれて、素直に接することができれば、患者さんにもすぐに受け入れてもらえます。あとは、「お年寄りが好きか」「家族を大切にしているか」などの質問をすることが多いです。あとは適性。弊社で使用している適性検査は英語版もあるので、メンタルヘルスを見ています。

理解するだけでなく、理解してもらうことも重要

——採用後に大変だったことはありますか?

一番は休暇でしょうか。2年に1回程度で自国の実家に帰りたいという職員が多いですが、希望する期間が10日~14日なんです。帰してあげたい気持ちもあるけど、日本人職員からすれば不平等に思うだろうし、人手も足りないし、期間も長いし……と最初は困りました。最近は全職員に差が生まれないように理解してもらい、1週間程度にしてもらっています。

——外国人スタッフに対してどのような教育をされていますか?

看護助手の勉強会を看護部で月2回くらい行っているので、そこに日本人と同じように出てもらっています。看護助手さんで入社して何年か経験した後、自分で介護福祉士の資格を取りにいったスタッフもいました。各々みんな自発的に勉強してくれるので、資格手当をつけています。キャリアパスも日本人とまったく一緒ですね。あとは、日本語があまり話せないスタッフもいますが、基本的にシフト中は外国語は禁止にしています。一緒に働く職員にはフィリピン人だけじゃなく、日本人もいるので。

外国人だからこそ生まれるコミュニケーション

——患者さまや利用者さまの方ははどんな反応でしたか?

外国人の職員は珍しいので、フィリピン人が来ると「出身はどこなの?」など積極的に会話してくれます。最初は患者さんや利用者の方が不安になるかもしれないと思っていましたが、実際はすごく優しくしてくれて、大事にしてくれたので、採用して良かったなと感じました。

——外国人を採用する上で大切にしていることは何ですか?

病院は患者さんの命に関わる職場なので、患者さんに対して不安を与えないようにすることが一番大事だと思います。患者さんからしても、暗い人よりも明るい人のほうが良いだろうし、どんなにタメ口でも「元気?」と声をかけてくれたほうが患者さんも和むと思うんです。弊社は日本人と外国人の待遇に差をつけていませんが、最近はメディアで苦労している外国人労働者の話も多く聞きます。賃金格差や休みが取れない話を聞いていると、本当に残念な気持ちになります。そういったことがないように、採用に取り組んで行きたいですね。