職員の離職や、定着に課題を感じている事業所も多い中、社会福祉法人長崎厚生福祉団では長年に渡りその課題に向き合ってきました。全国平均16%と言われる職員離職率を令和2年度には離職率7%まで削減。職員の働きやすい職場環境づくりを実現した方法を業務執行理事の千々岩(チヂワ)様へお伺いしました。

プロフィール

離職率10%削減!ボトムアップで実現した働きやすい職場環境づくりの方法-社会福祉法人長崎厚生福祉団-
千々岩 源大様

社会福祉法人 長崎厚生福祉団 業務執行理事

小売業界で約5年経験後、2000年より社会福祉法人長崎厚生福祉団へ入職。入職当時より、法人全体の採用や教育に携わる。現在は兄である理事長と共に、法人全体の業務改革や環境づくりに取り組んでいる。

きっかけは離職率の上昇。採用と教育、育成を徹底的に改善へ

――なぜ職員の働きやすい環境づくりに力を入れ始めたのでしょうか?

職員の離職率が上昇したことがきっかけです。当法人では平成15年10月に法人の規模拡大のため長崎市に3施設を同時にオープンしました。開設にともなって新卒採用を開始しましたが、約3年を経過した頃に離職者が増加し始め、離職率が最大17%まで上昇しました。その当時、職員に退職理由を聞いてみると、「事業所の雰囲気や人間関係が悪い」「管理職との方針が合わない」など、後ろ向きな回答が多数でてきました。このままでは新卒採用を続けていても定着が進まず、穴の空いたバケツに水を汲みに行くような状態が続くことを懸念していました。そこで採用・教育・育成の3つをセットで成し遂げることが必要だと考え、取り組みをスタートしました。

――実際にどのようなことを実施したのでしょうか?

離職者が増加してきていた平成19年度から、新卒採用職員に1ヶ月間の法人独自の新入職員研修を実施しています。それまでは配属された施設ごとで現場指導をメインに行ってきましたが、法人独自のプログラムを作成しました。前半2週間では、マナー研修や現場ですぐ使える知識の研修、高齢者疑似体験などを実施し、後半2週間は1班4~5名くらいのチームを組み、法人内の施設にて実習形式で業務を体験するプログラムです。一部の専門的な研修以外は法人の職員が講師を担当しています。そのほか中途職員へも、プリセプター制度を導入しました。マンツーマンで若手の先輩職員が4月から1年間伴走できる体制を整えています。このプリセプター制度は、以前病院で勤めていた統括主任看護職員である施設長が病院での経験を元にプログラムを作成しました。まずは1つの施設から導入を始め、現在では他施設でも導入しています。

また、約3年前から「組織力診断アンケート」も実施しています。職員が何に満足し、どこに不満があるのかが明確になるアンケートです。事業所ごとに点数が出るので、平均に比べて自施設がどういった状態かを明確に知ることができます。結果が悪い事業所に関しては、改善するためにどのような取り組みを行うかを決め、毎月の経営会議などで議題にしながら改善を続けていきます。なんとなく雰囲気が悪いなど、数値化できない問題を具体的に見える化することで、それぞれの事業所が真摯に受け止めて改善していくポジティブアクションに繋がっています。そのほかにも、1on1面談を実施し、施設長と職員間でのコミュニケーション量を増やすことにも取り組んでいます。

――課題であった離職率への効果はどうですか?

法人全体で介護職員の離職率は7%まで減少しました。長崎市内の施設に関しては、3.9%ほどです。法人全体の離職率は10%以下を目標にしていますが、令和2年度は9%と目標値もクリアしています。また、課題であった新卒採用者の離職率にも効果が出ていますね。令和2年度には17名の職員が入職していますが、2021年6月時点で離職者はゼロです。直近3年間の新卒者離職率を見てみても平均して9%程となっていて、非常に良い効果が出ていると思います。

――その中でどのくらいの職員の方がキャリアアップしていますか?

たくさんいますよ。新卒を中心に、無資格・未経験者は現在までに34名入職しています。そのうちの15名が介護福祉士の資格を取得しています。介護福祉士を目指す職員には、実務者研修の費用を法人負担しています。なかにはケアマネージャーを取得した職員もいますね。法人として「無資格・未経験者が介護福祉士を取得する」というのが1つの目標となっているため、それに向かって組織づくりを続けています。

離職率10%削減!ボトムアップで実現した働きやすい職場環境づくりの方法-社会福祉法人長崎厚生福祉団-
▲職員の中には未経験で入職し、介護福祉士の資格を取得してを活躍している方がたくさんいます。

ライフステージが変わっても働き続けられる職場環境づくり

――採用が活性化し、職員にも変化があったそうですね。

産休・育休取得者が増えましたね。当法人は女性職員が8割を占めていたものの、以前は育休取得者が少なく、遠慮がちに「育休や産休は取れますか?」と相談してくる職員が多くいる状態でした。全ての職員が気兼ねなく出産や育児に専念できるように、まずは入職して日の浅い新卒職員や若手職員に「遠慮せず産休・育休を取得してほしい」と促すようにしました。職員の中で最も言い出しにくいであろう在籍歴の浅い新卒職員からどんどん育休をとってもらうことで「誰でも育休・産休が取れる雰囲気」になると思って声掛けをしていきましたね。

その結果、平成18年から昨年度までに93名の職員が育休を計150回取得しています。当法人の女性職員は6人に1人が産休・育休経験者で、時短勤務で職場復帰している職員も多くいます。常に法人全体で15名前後は産休・育休を取得している職員がいる状態です。なかには2人目、3人目、4人目を育てながら現場で働いている職員も在籍しています。

また、平成28年度にシンフォニー稲佐の森の敷地内に、施設内保育所を開設しました。通常の保育園などは日曜日・祝日がお休みのところが多いため、当保育施設では日曜日、祝日に利用できるようにしています。職員の子どもたちは無料で利用できるため、現在は約35名の職員の子どもたちが登録しており、多い日で1日に13~14名くらい利用をしていますよ。これらの取り組みの成果として、令和2年1月に「ながさき女性活躍推進企業大賞」を受賞することができました。

――お休みの取りやすさなどはいかがですか?

取りやすいと思います。当法人では希望休制度を取り入れており、1か月に3日間希望休を取得できます。よっぽどの事がない限り、ほぼ希望が通るようにしています。また、2時間単位での時間有休も取得できるため、子どもの授業参観や面談、病院受診があるときなど率先して使用してもらっています。法人全体の有休取得率も74%と7割をキープしていますね。連続5日間のリフレッシュ休暇やバースデー休暇などで有休を活用できるため、家族や友人と旅行を楽しんでいる職員もいますよ。コロナ禍の前は海外旅行に行く職員もいました。このように、ライフスタイルやライフステージが変わっても、気兼ねなくお休みを取得できる環境です。

――こうした取り組みはどのように開始されたのでしょうか?

もともとは平成26年に立ち上げた「人づくりプロジェクト」で出た改善案の一つです。「ひとづくりプロジェクト」では「働きやすい職場を自分達で作って行きましょう」という合言葉を掲げ、福利厚生の充実や改善をしてきました。リフレッシュ休暇制度や保育施設の開設のほかにも、職員食堂や無料駐車場の導入、各施設へドリンクサーバーの設置、ユニフォームのリニューアルなどを実施しましたが、それらはすべて職員からの改善案を受けて実行に移されたものです。プロジェクトで決めたことを各施設で浸透させるにはエネルギーが必要なので、人づくりプロジェクトのメンバーは各施設から推薦された中堅職員以上のメンバーで構成されていますね。

やはり、働きやすい環境を作るにはトップダウンではなく、できる限りボトムアップで体制を築くことが大切だと考えています。職員一人ひとりが自分達の意見がちゃんと通ることを実感できれば、自ずと働きやすさにもつながるはずです。実際、離職率が低下しているとともに、復職者や職員紹介による採用が増加しているので、良い効果を生んでいると思います。

▲研修中の風景。職員が講師となり、指導しています。

新たなの組織体制づくりに必要なことは「職員の最優先のニーズを知ること」

――今後の展望は何ですか?

これからの3年間は「研修の内製化」をテーマに「採用・定着・育成」の観点で改革を進めていきます。その一環として、令和3年度から職員が講師となってハウスルール研修とポジティブマインド研修を中心としたアップデート研修を行っています。この2つの研修では「職場の雰囲気は自分達が作っていく」という意識を全職員に持ってもらえるようにしています。この研修の中では法人の現状と歴史を知るコーナーも設けています。現在、5月から8月まで毎週月曜日の午前と午後に2時間ずつ実施しています。同じ立場の職員が講師を務めることで、共感できたり応援しようと思ったり、自分も頑張らなきゃいけないと思えたりする研修になっているのではないでしょうか。また、受講後に実施した職員アンケートには「私はこの法人で働けることに誇りを持っています」と記載があり、大変うれしく感じましたね。また、今年度後半にかけて職員が講師としてもっと活躍できるようなインストラクター養成研修なども考えています。

――取り組みをする上で大切なことは何ですか?

「職員ニーズの優先順位」を正確に知ることではないでしょうか。トップダウンではなく、ボトムアップで自分達の職場を作りあげるためには、職員のニーズをきちんと把握することが大切です。当法人でも以前は思ったことを言いにくいような環境でした。同じような事業所は多いと思います。思ったことが言いにくい風土がずっと続いてしまうと、何も変わることはないと思います。そのままにしておくとずっと状況は変わることはないので、「ここで働きたい」「あの事業所だったら働けそうだな」と思ってもらえるような法人にするためには、今のうちから職員のニーズを把握し、一緒に改善していく風土づくりが必要だと思います。

介護士さんの採用にお困りのご担当者さまへ

きらケアは、 導入実績2万5000社以上の介護職専門の人材紹介サービス。
「介護職の方々の働く環境」を支えたい、という思いから2015年にサービスを開始しました。
介護士さんがなるべく居心地よく長く働けるようサポートを行っており、年間80万人以上の方にご利用いただいております。

採用する介護士が
長く働いてくれるには