新人の介護職員にとって、事業所で初めて現場を経験することとなる研修の一つがOJT。あなたの事業所ではどのように行っていますか?平成30年度「能力開発基本調査」(厚生労働省)によれば、正社員に対するOJTを「重視する」又は「それに近い」と回答した企業は、約70%。教育におけるOJTの重要性を感じる企業が多いことが垣間見えます。特に介護の技術は、座学で習得するには限界があり、OJTによる現場での対応や訓練が他業界より重要です。この記事では、介護現場におけるOJTやOff-JTの目的や重要性、効果を高める方法などをご紹介します。

OJTとOff-JT

新卒・中途に関わらず、新しい入職者には必ず教育を行います。特に新卒の場合は社会経験がないため、社会人としてのマナーや、法人・事業所の文化を細かく教える必要があります。また、中途入職者は経験がある分、新卒に比べて教育コストが抑えられるものの、十分な教育は本人の成長やキャリア形成のサポートに繋がります。ここでは、入職後の教育方法として多くの事業所で採用されるOJTとその対をなすOff-JTについて確認していきましょう。

OJTとは

OJTとは、「On-The-Job Training」の略称で、実際の業務を体験しながら仕事を覚えてもらう育成方法です。OJTは、新人、中途社員両方に効果的な方法であり、4つのステップがあります。

1.Show(やってみせる)
まずは実際の業務をやってみせるのがファーストステップです。業務全体の流れを見てもらうことで、仕事のイメージを掴んでもらいます。

2.Tell(説明・解説する)
次に、最初にやってみせた業務について詳しく説明します。仕事内容だけではなく、「なぜこの仕事があるのか」「この仕事の目的はなにか」も伝えることが大切です。

3.Do(やらせてみる)
業務をやってみせて、具体的な説明をしたあとは実際にやってもらいます。ここで教育担当は間違いを指摘するのではなく、どのように間違っているかを観察しておきましょう。

4.Check(評価・指導をする)
一通り3つのステップが終わったら、フィードバックを行いましょう。よかった点と改善点、感想を伝えます。できるだけ具体的に話すとより効果的です。この段階での評価を基に次の計画を立てていきましょう。

これらの4ステップをしっかり守ってOJTを行えば、新人は業務に対する理解度が上がり、着実に成長していけるはずです。業務ごとにこの手法を用いて一つずつ覚えていってもらいましょう。

Off-JTとは

Off-JTとは、「Off The Job Training」の略称で、現場から離れたセミナーや研修などの座学を指します。基本的なビジネスマナーや会社の理念、企業の商品やサービスの業界知識などに関する研修などを行い、実践の前に体系的に学ぶことができるのが特徴です。また、グループワークやディスカッションなどで意見を交換する場が設けられることもあります。こうして学んだ知識を応用する場をOJTとすることが一般的です。なお、Off-JTは、新卒の社員を対象に行うことがほとんどです。

OJTとOff-JTのメリット・デメリット

OJTとOff-JTのメリット、デメリットについて説明します。身につけてほしいスキルや能力に応じて適切な方法を取り入れ、効果的な教育を行いましょう。

OJTのメリット

・現場で必要な知識やスキルが身につく
OJTは実務を通じて人材育成を行うため、研修内容と実際の業務のズレが少ないのが特徴の一つです。実務で仕事のノウハウやコツを習得し、即戦力として活躍してもらえるでしょう。

・個人に合わせた内容、スピードで教えることができる
OJTは、1対1で指導することが多い方法です。そのため、学ぶ側の理解度に応じて教える内容やスピードを柔軟に変えることができます。わからないことを解決しやすいのが特徴です。

・指導する側もスキルアップできる
OJTは、いかにわかりやすく教えるかが大事な研修方法です。OJT担当者は、どのように相手に理解してもらえるかを工夫しながら研修を進めていくことになります。この過程で、対象者だけでなく、指導する担当者自身の業務への理解度、指導力向上などのスキルアップにもつながるでしょう。

OJTのデメリット

・習熟度にばらつきが生まれる場合がある
1対1で行うことが一般的なOJTは、教える側によって業務内容そのものや習熟度にばらつきが生まれることがあります。

・体系的に学びづらい
実務を行いながらの研修となるため、全体像を把握しにくく、業務を体系的に学ぶという点においてはふさわしくない教育方法と言えます。

・教える側の業務に負荷がかかる
OJT担当者は通常業務を行いながら、新人の教育も任されることが多いため、指導者側の時間的・精神的な負担が大きくなりやすいです。

Off-JTのメリット

・体系的に学べる
Off-JTは業務で必要な知識や考え方、企業の理念などを体系的に学ぶことができるため、目的や意味をしっかり理解することができます。

・均一な育成ができる
Off-JTは集団で行うことが一般的なため、教育する内容にばらつきが生まれにくいのが特徴です。

・横のつながりができやすい
集団で行うことが多いOff-JTは、研修を受ける受講者たちが同じ立場にあるため、横のつながりができます。

Off-JTのデメリット

・すぐに実践で活用できない
Off-JTでの研修は体系的に学べる反面、すぐに実務に活かせるわけではありません。学んだことを応用して実務をこなす必要があるため、即戦力として活躍しにくく、研修の効果がすぐには出ないことが多いです。

・コストがかかる
実務とは別で研修を行うため、時間の捻出が必要になります。また、Off-JTは外部に委託することもあり、その場合は費用が発生するのでOJTに比べてコストがかかります。

介護施設の現場におけるOJTの目的

介護施設の新人教育において、OJTは欠かせないものと言っても過言ではありません。人手不足が原因で増員することが多い介護業界で、OJTによる現場での教育は効率がよく、実用的な知識やスキルが早く身につくため、多くの事業所で活用されています。しかし、OJTに職員の時間を割きすぎたせいで、業務が滞ってはせっかくの増員が返って職員の負担になることもあります。OJTの目的は、新人職員が現場でいち早く活躍できるように効率的に育てることです。。また、指導者である既存職員の成長やキャリア形成などの重要な役割をもっています。事業所でのOJTの目的をしっかり言語化して、無駄のない育成になるように意識しましょう。

OJT(教育)と介護職員の定着の関係

OJTをはじめとする教育体制は、職員の定着・離職にも関係しています。介護労働安定センターの「令和元年度介護労働実態調査」によると、「自分の将来の見込みが立たなかった」を理由として離職した人は、15.5%を占めています。また、厚生労働省の「介護労働者の確保・定着等に関する研究会中間取りまとめ」の結果では、「研修・教育体制の整備不足」が離職の理由としても挙げられています。教育不足が離職に決定的な影響を与えるわけではありませんが、入職後のフォローを意識するだけで、人材のモチベーションや成長につながり、職員の定着率を改善することができます。

一般的なOJTの進め方

OJTは、医療・介護の現場での教育において、必ずと言ってもいいほど行われる研修方法の一つです。OJTは現場の仕事を覚えてもらうだけでなく、職員のモチベーションや成長、仕事の生産性向上、さらには働き方や仕事の思考の軸を確立させるという役割を持っています。

OJTは、現場任せではなく、職場全体で進めていくものです。そのためには、「現場での研修を通して達成したい目標」を明確にする必要があります。以下の項目を確認しながら計画を立てていきましょう。

  • 業務に必要なスキルはなにか?
  • 求められるレベルはどれくらいか?
  • どのように習得してもらうか?

目標を設定したら、社員の習得程度が把握できるようにしましょう。職場スタッフとの関係性や業務に対しての理解度、などについての情報を収集します。また、教育対象者となる本人も目標と現状が把握できるように、共有できる計画シートなどを作成することが望ましいでしょう。

計画シートは、具体的な成長がイメージできるような作りが理想的です。以下のことを網羅しておきましょう。

  • 「5W1H」で要素が網羅されている
  • 担当者と対象者が共通認識を持てる
  • 結果の振り返りと次のステップがわかる

新卒社員と中途社員でOJTの内容は変わります。中途社員の場合は、とにかく教えるというより、OJTを実施する前に面談などを通してスキルを把握し、OJTで何を習得してもらえればよいかを明確にしましょう。

現場での間違ったOJTの例

こちらでは、OJTの失敗例についてご紹介します。

目標を共有せず、とにかくやってもらう

無計画なOJTは、思うような効果が得られません。
現場での仕事が忙しい中での新人教育は、担当者にとって大きな負担になります。「なってほしい姿」や「できるようになってほしいこと」等の目標を共有し、現場に任せっきりという状態は避けましょう。

考え方を教えない

新人は、ミスしたり間違えることが当たり前です。その時、「どうしてそれがいけないのか?」「なぜこの業務を行うのか?」といった考え方を教える必要があります。すでに業務に慣れている現場のスタッフがOJTの担当者になると、「考えればわかる」という方も多いようです。感情任せに怒ったり、ミスや間違いを正しく指摘できないと、新人のモチベーション低下だけでなく、早期離職につながる可能性があります。新人を教育する際は、「業務に対する考え方」をしっかり伝えましょう。

より効果的なOJTにするために(取り組むべきこと)

OJTは、やり方を工夫するだけで劇的な効果を発揮することがあります。教育コストを削減することも大切ですが、効果を増加させてより社員の成長を早められるようにしましょう。より効果的なOJTにするために意識することをご説明します。

教える業務内容と手順を明確にする

OJTを通して何を教えるかを明確にしておくことは、非常に大切です。担当者によって教え方や業務内容が異なり、標準化されていないことが多いのがOJTの現状。業務の目的や意図が理解できず、新人が戸惑ってしまいます。OJT時に行うことが多い業務に関しては、その内容や手順を明確にし、教える人によってばらつきが出ないようにしましょう。

職場全体で行う

OJTは、担当者を決めたら実施は現場に任せっきりという状態になりがちですが、これは避けましょう。OJT担当者は通常業務と育成を同時に行うことが多く、負担も大きくなっています。OJT担当者のフォローを職場全体で行うようにするとよいでしょう。

フィードバックを行う

学んだ業務に対しての振り返りは大切です。出来事に対して、どう感じたか、気づいたことはあるか、次はどうしたいかなどを新人に聞く時間を設けましょう。これは本人の気づきになるだけでなく、新人が何がわかっていないかを把握することもできるようになります。もしOJTシートを活用しているなら、次のステップについても話しておきましょう。

質の高いコミュニケーションを心がける

コミュニケーションの質と量を高めていきましょう。新人の悩みや課題に対して、担当者が新人時代に試した方法や悩みなどを語るとよいでしょう。普段からコミュニケーションの量を増やしておけば、新人からも質問がしやすくなり、成長も早くなるでしょう。

期限を決める

教える内容を明確にし、期限を決めておきましょう。スケジュールを設定すれば、目標が可視化されます。OJT担当者、対象者ともに全体像がつかめ、計画的にスキルアップに臨めるでしょう。

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