入職後1年以内の離職や、新人職員のフォローに悩む方も多いのではないでしょうか。社会福祉法人明照会 あそか苑では、新人職員が所属する事業所だけでなく、ほかの事業所の職員も積極的に関わってサポートするよう仕組み化しています。法人全体でのフォロー制度を設計している、吉永様と吉川様に取り組み内容について伺いました。
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プロフィール
社会福祉法人明照会 あそか苑 人材育成部長
看護師として病院で勤務後、訪問看護の管理者を経験。法人規模拡大の中で、人材定着に関する課題を解決すべく、2017年より人材育成部長に就任。現在は、人材確保や定着に関する施策の考案、広報関連を担当している。
社会福祉法人明照会 あそか苑 訪問看護事業管理者 共育委員会元委員長
看護専門学校卒業後、大学病院勤務を経て、同法人の訪問看護部門に入職。2017年より訪問看護管理者に就任すると同時に、共育委員長に抜擢。現在は委員長職を退き、チューター制度の統括として教育組織の設計に携わっている。
自分のことだけではなく、ほかの職員のことも考えられるように
――人材育成制度について教えてください。
吉川様:
人材育成部門として「共育委員会」を設置していて、なかでも「チューター制度」が大きな取り組みです。新人職員には、“チューター制度”として2年間毎月、他部署の先輩職員と話す機会を設けています。同じ部署の先輩には言いにくいことでも、違う部署の先輩になら話しやすいと考えて制度化したものです。
また、“チューター制度”を実施していると、チューター、新人職員それぞれに悩みが出てくるので、集まって悩みを共有できる機会を作りました。集まる機会を、「研修」とすると堅苦しい感じがするので、「自分のためだけでなく、あなたのために」という意味を込めて当法人では「For youの会」と呼んでいます。育成制度に関する“For youの会”は主に3パターンあり、新人職員だけで悩みを共有する回、チューター職員だけで対話について学ぶ回、新人職員・チューター職員が1年を振り返る回に分けて行っています。
――“共育委員会”を設立したきっかけは何ですか?
吉永様:
法人の規模拡大と、入職後1年以内の離職率が非常に高かったことがきっかけです。あそか苑は、かつては1箇所で特養を運営しているだけでしたが、7~8年ほど前にエリア・事業内容ともに拡大して、職員が急増しました。職員増加に伴い、悩んでいる職員を気にかける余裕がなくなり、離職が目立つようになったのもその頃です。5年ほど前は、新人の職員を年間で7~8名採用しても、翌年には誰もいないなんてこともありました。そこで、コンサルタント会社の協力のもと、職員の定着に取り組むことになり、設立したのが“共育委員会”です。初年度は、吉川を含めて7名のメンバーを選出しました。
吉川様:
吉永から共育委員会のことを聞いたときは正直、不安でした。退職者がとても多い時期だったので、どうにか離職を防ぐことはできないかと、職員にチューター役をオファーしても「ただでさえ負担が多いのに、仕事をまだ増やすのか?」と言われてしまうこともありましたね。ただ、「少人数で、利用者さまの安全・安楽を保たないといけない」という現場職員の必死な気持ちも理解できました。
新人職員の悩みは、みんなで解決に努める
――どんな基準で「共育委員会」のメンバーを選びましたか?
吉永様:
未熟でも前向きで熱心に努力する方、今必要な課題を抽出できる方ですね。あとは、もともと同じ部署で活躍していた吉川を“共育委員会”の委員長として任命していたので、職種問わず吉川と一緒に頑張ってくれそうな方を選びました。私は新人教育以外にも、次期リーダーや管理者の育成も担当していたので、新人職員や一般職員の育成に関しては、“共育委員会”で自走してもらえるよう、自発的に動いてくれそうな人を集めるよう意識しました。
――具体的には「共育委員会」でどんなことに取り組みましたか?
吉川様:
主には“チューター制度”の取りまとめや改善、“For youの会”の企画と開催です。“For youの会”が機能してきたところで、新人以外の職員の悩みも解決できるようにメールでの相談窓口を設けたり、EPAの外国人職員のフォローもしたりするようになりました。
吉永様:
“共育委員会”は、チューターが面談した内容の中で、改善が必要なものを推進する役割も担っています。新人職員が悩んでいることに関して、関係者がスピーディに解決したり、解決できなくても進捗状況を伝えて、新人職員を気にかけたりすることでフォローできるよう仕組み化しています。
最近は、チューターのレベルが上がってきていて、当初は「聞くだけ」だったのが、「言葉がけ」ができるようになり、さらには必要に応じて新人職員の上長に「働きかけ」までしてくれるようになりました。新人職員のために積極的に動ける職員が増えてきたのは、非常にうれしいところです。
前向きな声が増えて、1年以内の離職はほぼゼロに
――新人育成制度を設計する際に気をつけていたことは何ですか?
吉永様:
職員が新しいことに付いてきてくれているか、スピード感のギャップがないかの確認を忘れないようにしました。当時は人材育成制度が全くない環境からのスタートだったので、“共育委員会”も“For youの会”も「負担が増えるのでは?」という印象を持つ職員ばかりでした。ただ、そこで私がブレてしまっては前に進まないので、現場の状況に寄り添いながらも、委員会メンバーとしてのポジションの確立や制度を作ることは諦めませんでしたね。
吉川様:
集まってくれた同じ“共育委員会”のメンバーには、やりがいを持って仕事をしてもらえるように意識していました。“共育委員会”としての役割が定着してからは、各メンバーが輝ける体制になるよう工夫しました。メンバーの長所を活かせるような研修を提案することで「あの人ここがすごいよね」とほかのメンバーに思ってもらえるよう意識していましたね。
――“チューター制度”の効果はどうですか?
吉永様:
1年以内に辞めてしまう正職員はほとんどいません。“チューター制度”が機能していて、新人職員を気にかける機会が増えたことが理由だと思います。職員アンケートでも、以前より意見が言いやすくなったという声も多くなりました。また、自分の事業所だけでなく、別の部署にいる職員との交流が増えて、横軸の繋がりが増えたのも職員の定着に繋がっているところだと思います。
事業所内外の繋がりを増やすことで、離職低下に繋がる
――新人育成制度の設計を検討している方へアドバイスをお願いします。
吉川様:
新人職員からチューターへの感謝の気持ちを伝える場があるといいと思います。チューター側は新人の話を聞くばかりで、なかなか自分へのフィードバックをもらう機会がありません。当法人の“チューター制度”では毎年度末に、新人からチューターへの感謝を伝える場を設けています。毎年涙があふれる場になっていて、チューター自身のモチベーション向上に繋がっていますね。
また、チューターだけでなく、事業所内でも同じで、管理者やリーダーは新人職員が辞めないように一生懸命指導しています。教える側のやりがいにも繋がるので、今後も新人職員が周囲への感謝の気持ちを忘れないような機会を作るようにしたいです。
吉永様:
事業所内の縦の組織でのフォローだけでなく、事業所外でも繋がりを作ることが大切です。当法人では“チューター制度”で縦でも横でもない「斜めの繋がり」を作り、“For youの会”で横の繋がりを作ることができました。当初は「この人がいるから頑張ろう」と思えるような組織づくりを目標にしていましたが、新人職員同士やチューター職員同士での悩みを共有する場を設けることで、一人で悩んでしまう人が減り、この制度が確立できました。
――今後の展望について教えてください。
吉川様:
今年度新しく共育委員会に加わったメンバーや法人内の職員に、もっと輝ける場所を提供したいと思っています。正職員はだいぶ定着率が上がってきていますが、パート職員へのフォローにも力を入れたいですね。また、個人的には訪問看護部門の管理者でもあるので、自分の部署のメンバーにも輝ける場所を提供したいと思っています。
吉永様:
「あそか苑で良かった」と思う職員が増えるよう組織づくりをしていきたいです。
世間的にも介護職は大変というイメージがあり、就職希望者は多くありません。介護職は、相手の人生に関わって、「幸せ」と思ってくれることを提供する、非常にやりがいのある仕事です。どうすれば希望者が増えるか、仕事を探している方に魅力が届くか、あそか苑だけではなく介護職全体の魅力発信についても力を入れていきたいですね。
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