現在、「ICT化」といってもさまざまな取り組みがあります。業務効率に特化したもの、利用者様への最適なケアに特化したものなど、ICT化の選択肢は数多く、どのように取り入れようか悩んでいる事業所担当者様も多いのではないでしょうか。その中でも、課題であった短期入所生活介護の稼働率向上のためICT化を取り入れ、法人全体の業務効率化を実現した「社会福祉法人由寿会」の由井様にお話をお伺いしました。
プロフィール
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社会福祉法人由寿会 理事長
1997年、社会福祉法人由寿会を開設。開設当初より、管理医師として法人の介護事業所の運営に携わる。近年は法人内のICT化に取り組み、職員の働き方改革や業務効率化を積極的に推進している。
生活相談員の行動を見える化することで、短期入所の稼働率118%を実現
――なぜICTを活用した短期入所の稼働率向上に取り組もうと思われたのでしょうか?
短期入所生活介護の空床をうまく活用できていない点に課題を感じていたためです。社会福祉法人は国からの補助を受けて設立しているため、「社会資源」の一つだと考えています。そのため、当法人として、なるべく多くの方に施設を有効的に活用して欲しいと考えていました。施設の空床稼働を高めていくという取り組みは、以前から法人でも取り組んでいましたが、法人としては「稼働率が上がればやり方は各施設へ任せる」という方針をとっていたため、各施設で管理方法にバラつきがある状態が続いていました。より効率的に施設の空床稼働を促すべく、空床稼働の営業を行う生活相談員の行動の見える化を進めて行くことを決め、併せて各施設との情報の連携なども進めていきたいと考え、ICTのシステム導入に踏み切りました。
――実際に取り入れたICTのシステムとは何ですか?
株式会社ペースノートのクラウド型営業支援システム「ペースノート」を導入しました。ペースノートはパソコンやタブレットを利用して、空床情報や職員の行動確認ができるシステムです。元々は宿泊施設などで使われている予約管理のシステムを、介護施設向けにカスタマイズしたものです。当法人では、全4施設35床の短期入所の予約管理システムとして使用しています。
その活用方法として、大きな特徴が2つあります。1つ目は営業を担当する生活相談員の「利用者様の案内先の見える化」です。過去に短期入所をご利用いただいた方などの情報を分析し、フォローやお声がけをすべき案内先を表示したり、「いつ」「どこに」利用者様のニーズがありそうかが簡単にわかるようになっています。
2つ目は、生活相談員の「営業手法の見える化」です。例えば、短期入所の空床を埋めていくにあたって、ある相談員は1ヵ月前からしか空床の予約を埋めていなかったり、2月の予定を年末の12月頃から埋めている相談員がいたりするなど、営業の手法によって稼働率に大きな違いがありました。今まで見えてこなかった各相談員の業務の仕方を稼働率やデータで取れるようになったことで、生活相談員の仕事の方法を標準化したり、稼働率だけを見るのではなく、それぞれのレベルに合ったより具体的な目標設定もできるようになりました。
――職員の方にICTの活用を浸透させるために工夫したことは何ですか?
法人全体として「これからはICTを活用していく」という方向性を明確に示し、リーダーシップを取って進めていくことや、現場に行って説明を尽くすことを優先して行いました。実際に現場に赴いてICTの活用方法をしっかり説明したり、現場の方の声を聞いて活用方法の改善に活かしたりすることで、浸透も早かったのではないかと考えています。なかには「これまでの管理方法の方が慣れている」や「PCソフトの操作が苦手だ」などの意見もありましたが、しっかり説明すれば軌道に乗って意外と早く使いこなせるようになりました。慣れてくると使いやすさの方が勝ってきており、1年以上経過した今では担当者から「便利で無くてはならない仕組み」と言われています。導入当初の不安点をどういう風に上手く取り除いていくかということが1つ重要なことなのではないかと思っています。
――空床稼働の効果はいかがですか?
ペースノート導入前の2019年は法人全体のショートステイ稼働率が104%でしたが、2020年8月以降の平均値で114%と、10ポイント稼働率がアップしています。また、2020年12月には平均118%まで稼働率がアップしました。法人としては120%の稼働を目指しているため、まだ改善の余地はあると考えており、利用者様のニーズに可能な限りお応えできるよう各施設の相談員が頑張っています。
約30時間の事務作業を削減することでより良いケアの提供を実現
――ICT導入後、施設全体への効果はありましたか?
現場への大きな効果は、システム入力などの事務作業が大幅に減ったことが挙げられます。今までは、Excelの営業管理シートに情報を打ち出したり、空床営業に行く前にシート上で空床情報や稼働率を手計算で算出したりしていたので、さまざまな事務作業に時間がかかっていました。ペースノート導入後は、1人あたり1ヵ月平均20~30時間程度、事務作業にかかる時間が削減できています。削減した時間を利用して、利用者様のケアやご家族の対応に、より多くの時間を掛けられるようになりました。利用者様やご家族と関わる時間が増えたことで、対話の中でアセスメントを考え、介護職員に適切な指示が出せるようになっています。そのほかにも、生活相談員が送迎へ行く時間がとれるようにもなりました。相談員自身が送迎についていくことで、利用者様のご家族に施設での状況をお伝えができるようになったり、ご家族の悩みなどの情報交換ができたりするので、良いサイクルが回り始めていると実感しています。
結果的に、稼働率が上がったことによって、定期的に継続して短期入所を利用頂ける方が増えた点も大きいですね。稼働率が上がると現場は忙しくなりますが、定期利用してくださっている方であれば、その方の状態やケアの方法も把握ができているため、精神的な負担を感じすぎずに働けると現場の介護職員からも聞いています。
――ICT化を行う上でのメリットやデメリットはありますか?
ICTを取り入れることにデメリットは感じません。当法人ではこれまで人海戦術でやっていたことを一つずつシステム化していくことで、職員の業務の効率化を図ることができています。職員に浸透させるまでは時間がかかり、労力を使う大変な部分でもありますが、職員が使いこなせるようになれば、メリットばかりだと思います。まずは取り入れてみることが大事なのではないかと思います。

ICT化をより身近に。法人に合った選び方が大切
――法人で現在取り組んでいることはありますか?
法人としてペースノートの利用以外にもさまざまなICT化に取り組んでおり、今後は「SaaS」を多く取り込んで行きたいと考え動いています。「SaaS」とは、必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたクラウド型のソフトウェアを意味しています。当法人に合ったものを選べるメリットが大きく、現在も労務や人事管理系のサービスを導入するなど徐々に取り組んでいます。また、法人独自で請求書や領収証の転記作業をなくすような仕組みも開発して導入しています。自社だけですべて開発する場合、費用面などを考えると実現が難しいこともあるため、既存のサービスと法人独自の仕組みをバランスよく活用していきたいです。そのほかには、社内のコミュニケーションを円滑に取るために、slackを利用しています。一般企業が取り入れられているような仕組みを、当たり前のように社会福祉法人で導入していくということも重要だと考えています。
――今後の展望を教えてください。
法人として、地域で1番のサービスを提供できる組織になりたいと考えています。そのためにも、各職員が専門職として自らの本来業務に専念できるよう、ICT化などを通じてそれ以外の仕事を極力効率化していきたいと考えています。また、外国人職員も増えてきているので、誰が対応しても同じようなレベルのサービス提供ができるように、ユニバーサルな体制構築も必要です。社会の動きを注視しながら、必要だと思うことにいち早く全力で取り組んでいきたいですね。

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