安全なケアの提供や業務の効率化を目的に、介護機器の導入を検討する事業所は多いのではないでしょうか。静岡県焼津市に位置する特別養護老人ホーム高麓では、介護に関する機器導入を積極的に進めています。なかでも、職員に職場用のiPhoneやiPadを提供しているのが特徴的です。iPhoneやiPad、そのほかの機器の活用状況について森様と内野様に伺いました。
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プロフィール

社会福祉法人東益津福祉会 特別養護老人ホーム高麓 総務部課長
静岡市文化振興財団にてイベント企画や執行管理担当、警察官、広告代理店での勤務を経て、2018年に特別養護老人ホーム高麓に入職。採用やIT機器等の設備導入、制度、組織作りをご担当されている。
社会福祉法人東益津福祉会 特別養護老人ホーム高麓 特養部介護課長様
福祉系大学卒業後、社会福祉法人東益津福祉会2006年に入職。デイサービスや特養での相談員をご経験後現職に就き、機器導入や研修をご担当されている。
誰でも情報共有できるように、スマートフォンを活用
――iPhoneを導入したきっかけは何ですか?
森様
介護職員がナースコールと受電用に持っていたPHSの老朽化がきっかけです。修理代金も高かったので、買い換えの必要があり、まとめて一新しようという話になりました。受電端末をPHSではなくスマートフォンにすれば、ナースコールと連動させて業務の効率化が図れると考えました。また、スマートフォンならナースコール以外にも色々アプリケーションを入れて活用できるのではないかと感じたこともきっかけですね。
――ナースコールとiPhoneの連動はどんなものですか?
森様
ナースコールと電子カルテを連動させ、アプリケーションを使うことにより、iPhoneにナースコールを押したお客様の名前が通知される仕組みです。従来のPHSだと、ナースコールの表示は部屋番号のみだったので、介護職員はナースコールが鳴ればとにかく現場に向かうしかありませんでした。それが、アプリケーションを使用することによって、コールを鳴らした方の名前を表示できようになり、画面を見るだけでどのお客様が呼んでいるかが分かるようになりました。複数人が同時にナースコールを鳴らしたとしても、状態を加味して優先順位をつけて対応できるようになりましたね。
内野様
今まではPHSの画面には部屋番号しか通知されなかったので、お客様情報もしくはお客様が誰かすぐに判断はできませんでした。長期で入居されている方はベッドが固定されている分部屋番号も次第に覚えてきますが、ショートステイの方だと入れ替えがあるので、部屋の番号だけでは全く分かりませんでしたね。名前が出ることによって、駆けつけるまでに状況の想定もできるので、現場もスムーズに動けるようになりました。
通信キャリア契約をしないことで、コストカットを実現
――iPhoneはナースコールシステムとの連動のほかに、どのように活用していますか?
森様
内線用の通話アプリと動画通話アプリを使用しています。内線は職員間の業務連絡用のもので、動画通話アプリは緊急時にカメラ機能を使い、リアルタイムでお客様の現状や様子を伝えるためのものです。
内野様
夕方の17時半から朝の8時半までの時間帯は施設内に看護師はおらず、介護職員のみで対応しています。お客様が急変したり、怪我をしたときに、電話をして待機担当の看護師に状況を報告します。かつては介護士が上手く状況を伝えられずに、本来であれば不要な状況にも関わらず、看護職員がやむなく出動することもありましたが、動画通話ができることで出動の必要性が確実に判断できるようになりました。情報伝達がスムーズになったことにより、介護職員、看護職員ともに動きやすくなりましたね。
――他のスマートフォンではなくiPhoneにした理由は何ですか?
森様
日本だとスマホユーザーの6割ほどがiPhone利用しているというデータもあり、職員も馴染みやすいと思ったのと、導入しようとしたアプリがiPhoneしか対応していなかったためです。格安スマートフォンの会社ではもっと安い機種もあると思いますが、回線契約をすると月々のランニングコストが高くなってしまいます。当施設で導入しているiPhoneは、外出時に持ち出す物以外は、通信キャリアでの契約をせずにWi-Fiのみで運用しています。当初PHSを買い換えて、スマートフォンの運用を考えたときは、かなり費用がかかる計算でしたが、Wi-Fi運用のみで通信キャリアの契約をしないことにより、ランニングコストを大幅に抑えることができました。

ルールをきちんと定め、一緒に改善策を考えていくことで混乱はなくなる
――ほかにはどんなIoT機器を導入されていますか?
森様
IoT機器だと電子カルテの“ちょうじゅ”があります。パソコンとiPadに導入をしていて、各フロアにそれぞれ1台ずつは配置しています。かつて紙カルテを使用していたときは、見たいときにカルテのある場所まで移動する必要があったり、複数人が同時に見られないことや、ほかの人の字が読めなかったりするということがありましたが、全て電子カルテで解消されています。また、ナースコールとシステムを連動させることにより、電子カルテ上でコール履歴を確認できるようにもなりました。
内野様
ちょうじゅはとても使い勝手がいいです。排泄表のみをピックアップするなど、カテゴリーごとに項目を選んで入力できるので、簡単で誰でもすぐ使うことができます。記録業務の効率化だけでなく、情報共有もスムーズにできるので、職種により必要な情報がどこにいても的確に得ることができます。
――IoT機器以外にはどんな機器がありますか?
内野様
インカムを活用していて、現場職員はもちろん事務職員も含めほとんど全員がつけています。ボタンひとつで全員に連絡ができるので、いちいち内線番号を探して連絡したり、自分の足でどこにいるか所在確認したりする手間がなくなりました。職員全員がつけていることで、困ったときにもすぐ仲間を呼ぶことができるので、新入職員が入職した場合もスムーズに対応ができています。
森様
インカムに関しては、職員全員がつけている分きちんと使用ルールを定めるようにしています。ルールは大きく3つで、「個人情報や長くなってしまう要件を話す際は、内線を使用する」「誰から誰宛の連絡かをはじめに伝えてから要件を話す」「伝えたいことをまとめた上で端的にはっきりと話す」ということです。
また、主な目的ではありませんが、間違った指示を出していないか上長が把握したり、ほかの人への指示を聞いて対応方法を学べたりするなど教育面での活用もできています。
――機器導入時の現場の反応はいかがですか?
内野様
やはり機器なので、抵抗がある方もいます。色々な機器導入の場面を見てきましたが、そのたびに「こんなの使えない」「分からない」という声がたくさんありました。当施設では、新しく機器を導入するときには、毎回研修の場を設けています。床走行式リフトやお風呂場のリフトのように、お客様の安全に関わるもの、操作方法がはっきり決まっているものは、まず最初に使う職員を決めてしっかりと勉強会をしました。
インカム導入のときは、リフトのように使い方がしっかり決まっているものではないので、みんなで考えながら進めていきました。とにかく使うことが重要だと考え、慣れることを目標にして、「まずは使ってみよう」「最初は言葉が足らなくてもいいから、発信していこう」という風に声を掛け合いながら改善案を話し合いましたね。試行錯誤して、職員皆で考えながら、使い方やルールが決まっていきました。はじめは抵抗があった方も使ってみたり、改善案を話し合ったりしていくうちに、どんどん面白くなって、使いこなしていく方が多いですよ。

目指すのは、機器があるおかげで誰もが安心できる介護現場の実現
――機器導入を検討している事業所様にアドバイスをお願いします。
森様
機器を導入する際には「職員の業務効率化のため」「職員の負担を軽減するため」「お客様への負担を減らすため」など主軸となる目的をはっきりさせることが重要です。機器導入によって、求職者へ魅力をアピールすることもできますが、シンプルに今いる職員や、お客様のためになることを考え、費用対効果を加味したうえで導入すればいいのではないでしょうか。
「機器での介護は冷たく感じる」という声もありますが、「大丈夫ですか」「怖くないですか」と、使用時の声掛けがあればそれだって介護だと思います。機器を使用する際の気遣い、使用に至るケアを忘れなければ、機器の導入でお客様にとっても、職員にとっても安全な介護が実現できます。
内野様
少子高齢化が進み、介護職員の確保が難しくなるなかで、外国人や妊婦さんでも安心して働きやすい環境を整える必要があります。色々な方に魅力を感じてもらえるように、「機器があることで誰でもできる」「誰もが負担を感じない」という状況を作ることが大切だと思います。
とはいえ、機器は安くはないので、どんな介護をしたいかを考えて、実際に活用できるかどうかをたくさん試してから導入を考えればいいのではないでしょうか。当施設も、たくさんデモ機を試して使いやすさやコストを比較して、導入しなかったものもたくさんありました。
――今後の課題や展望を教えてください。
森様
今課題に挙がっているのは、コミュニケーション不足の解消です。介護現場はシフト勤務ということもあり、役職者も現場職員も定期的にコミュニケーションの機会を作るのが簡単ではありません。グループウェアやLINE WORKSといった、口頭や紙とは違った情報共有ツールの導入を検討していきたいです。
また、施設運営面だけでなく採用面も含め、感染症予防のために今後はWEBでのコミュニケーションのさらなる強化が必要だと感じています。現在もオンライン面会やオンライン施設見学、採用面接は実施していますが、研修へも幅を広げて活用していきたいですね。ちょうど今、毎年行っている研究発表をYoutubeを使って配信しようという計画も進めています。
内野様
まだまだ私たちも発展途上なので、新しい機器や設備についてもっと研究しないといけないと感じています。今年度はコロナ禍ということもあり、あまり他施設への見学や情報発信の場がありませんでしたが、現場ではお風呂のリフトや浴槽を変えていく話がでているので、福祉機器展に参加するなどしてさらに情報収集したいですね。
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