介護職員に長く就業してもらうために「腰痛予防」に課題を感じている事業所は多いのではないでしょうか。社会福祉法人宣長康久会 ささづ苑では、腰痛予防と安全なケアの実践を目指し、2012年から「ノーリフティングケア」に取り組んでいます。かつては腰痛による職員の勤怠不良に悩まされていましたが、現在は腰痛による離職がなくなり、徹底した取り組みに魅力を感じて入職を希望する職員が増えています。施設長の岩井様に取り組みの概要を伺いました。

プロフィール

腰痛予防で職員の負担軽減! 離職防止にも効果あり-社会福祉法人 宣長康久会 ささづ苑-
岩井 広行 様

社会福祉法人宣長康久会 副理事長 兼 ささづ苑施設長・介護支援専門員

北陸銀行にて勤務した後、地元である富山県の社会福祉法人宣長康久会へ出向。福祉業界は未経験ながら、職員の腰痛予防や意識改革に取り組んでいる。

絶えなかった「腰痛理由」の勤怠不良と離職

――「腰痛予防」の必要性を感じたのはなぜですか?

ささづ苑の施設長として着任した2009年当初は、腰痛を理由にした職員の勤怠不良が少なくありませんでした。「腰が痛いので休みます」と出勤日当日に連絡があり、現場の責任者は休みの職員に「今日代わりに出勤してもらえないか?」と聞いてまわっていたこともあります。また、欠勤や遅刻、早退だけではなく、腰痛が原因で介護職から別の業種に転職する職員もいました。2009年度の離職率は16.7%と高く、応募があればとにかく採用していたこともあり、入職後1年以内の離職率は87.5%にも上っていました。

あまりにも腰痛理由の欠勤や退職が多いので、腰痛予防対策を重要課題として役員会で説明し、法人の執行役員会と役職者会議で腰痛予防に取り組んでもらうようお願いしました。

――どのように取り組みを行いましたか?

まず、腰痛予防対策に向けての調査と報告を当時の幹部職員に依頼しましたが、「有効な改善策はない」との回答しか得られませんでした。そこで、新しい取り組みや改革に前向きだった当時29歳で最も若手の責任者をリーダーに任命して「腰痛予防対策プロジェクトチーム」を立ち上げました。

チームで協力し、腰痛予防を徹底している施設を調べましたが、富山県、石川県といった近隣の地域では大々的に設備を導入しているところはありませんでした。そのため、名古屋市内の施設にアポイントを取り、一日がかりで見学に行きました。見学先では、リフト、スライドボード、ストレッチャーといった設備がすでに活用されており、私もリーダーも「これが腰に負担がかからない介護の理想的な姿か」と感銘を受けたのを覚えています。その取り組みを施設内で報告し、半年後に機械の導入を決めました。

【2012年1月に導入した機材一覧】

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機械導入には、複数の「助成金」を活用

――導入はスムーズに進みましたか?

比較的スムーズに進んだと思います。2012年の1月にいっせいに機械を導入するにあたり、利用者への使用前に1ヶ月ほどかけて、全職員を対象に機械の販売業者とリーダーで研修を行いました。使用機会が多くなりそうな利用者様に合わせてケーススタディで演習をするだけでなく、不安が残る職員には個別で練習の時間を作り、使用方法を教えました。その効果もあり、職員は翌月から新しい機械を使う準備ができたと思います。また、職員がある程度機械を使いこなせるようになり、効果が見えたことで、ほかの介護ロボットの導入にもつながりました。

――ほかにはどのような機械を導入しましたか?

2015年から2019年にかけて、離床アシストロボット「リショーネPlus」や移乗支援型ロボットの「Hug」と「スカイリフト SL-2018」、見守りセンサーの「眠りSCAN」など、多数の機械を導入しました。導入する機械は毎年東京で行われるHCR展に、腰痛予防委員会のメンバーから代表して2名を派遣し、具体的に課題のある利用者様に活用できるかを考えて選んでいます。

腰痛予防で職員の負担軽減! 離職防止にも効果あり-社会福祉法人 宣長康久会 ささづ苑-
▲腰痛予防委員会が中心となり腰痛予防を促すポスターを作成。毎月切り口を変えて職員に注意喚起をしている

――機械導入の費用はどのように工面していますか?

当法人は至って平凡な社会福祉法人で、無限に費用があるわけではありません。そのため、助成金についてしっかり情報収集しました。実際に導入している機械の多くは助成金を活用しています。そして、さらに台数が必要だと感じたものは追加で購入しています。

活用した助成金は、3年に1度に使用できる「厚生労働省の職場定着支援助成金」、毎年コンペで選ばれると助成される「富山県の介護ロボット導入補助金」、最近は「経済産業省のIT導入補助金」も活用しています。助成金に関しては誰かが教えてくれるのを待つのではなく、アンテナを張って自分で調べるようにしていました。周囲の職員に「腰痛予防のために本気で取り組んでいる」ことを示すためにも、自ら動く姿勢が大事だと考えました。

【2012年以降に導入した機会と活用した助成金一覧】

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離職率の低下だけでなく、職員の行動にも変化が

――機械導入により、職員の腰痛改善や離職率低減に効果はありましたか?

職員の腰痛が改善し、それに伴い離職率も低下しました。

毎年、職員に腰の痛み具合に関するアンケートを取っており、腰痛を持っている職員に腰の痛みの程度を10段階でヒアリングしています。腰痛を持つ職員は全体の6割程度と、取り組み実施前後で変化はありませんが、各個人の腰痛の程度に関しては、以前は7以上の回答が複数あったものの、現在は6以下の回答のみになり負荷が減少傾向にあります。

また、腰痛予防への取り組みにより、離職率がかなり減っています。離職率は、2009年は16.7%、2010年は23.4%と高かったこともあり、応募が来ればとにかく採用していましたが、反面、ミスマッチにより早期退職する方がとても多かったです。2009年の入職後1年以内の離職率は、87.5%もありました。最近では、離職者がほとんどいないだけでなく、ありがたいことに「積極的なICT化や、職員の安全な労働環境づくりに熱心な施設だから」という理由で、「ささづ苑で働きたい」と名指しで入職してくれる職員も多いです。

――ほかに導入してよかった点はありましたか?

想定外の効果もありました。かつては何か不都合なことが起こると「誰か何とかしてよ」という受動的な態度の職員が多かったですが、今は能動的に動く職員が増えています。これは、2012年の機器導入時に腰痛予防への取り組みの一環で、「提案制度」を作ったことが大きいと思います。「提案制度」とは、腰痛予防に限らず、業務改善やサービス向上につながる取り組みを提案書に記載して提出し、採用されたものの中から優秀なものに報奨金を渡す制度です。この制度により、職員自らが課題を見つけて対応策を考える習慣がつきました。腰痛予防の取り組みを通して、職員の主体性が強化され、職場の雰囲気がかなり変わったと思いますね。今は報奨金は出していないものの、腰痛予防にかぎらず、業務改善のための提案を常に受け付けており、毎月に4~5件の提案があります。

「ノーリフティングケア」は職員にも利用者様にも重要

――今後の課題や展望を教えてください。

腰痛予防に取り組み始めてから8年が経過し、職員の腰痛軽減や離職率低下にも一定の効果は出てきてきました。ただ、ほかの施設での勤務経験がある中途採用の職員からは「機械や福祉用具のセットに時間がかかってしまい、業務効率が下がっている」という声も聞きます。「ノーリフティングケア」は「職員の腰痛を防ぐ」だけではなく、「利用者様へ安全なケアを提供するため」にも有効な手段だと職員に理解してもらうことが今後も重要だと感じています。

また、当施設では腰痛予防に取り組んだことで、離職率が低下した以外にも、毎年20名以上の職員採用に成功するなど、新規採用にもメリットがありました。ゆくゆくは介護ロボットやICTも活用してより良い職場環境づくりに努めることで、多くの人に「働きたい」と思ってもらえる施設を目指していきたいです。

腰痛予防で職員の負担軽減! 離職防止にも効果あり-社会福祉法人 宣長康久会 ささづ苑-
▲機械に触ったことがない中途職員でも安心して使用できるように、実技研修を実施している

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