外国人職員の比率が全体の20~30%を占める特別養護老人ホーム愛成苑。外国人採用のモデルケースとして、2016年からEPA(経済連携協定)によるベトナム人介護福祉士候補者を積極的に受け入れ、これまで8人が入職。介護福祉士の資格取得率は100%と高い数字を誇っているほか、受け入れにより、現場のコミュニケーションの活性化などにもメリットがあったといいます。外国人人材の受け入れのノウハウや今後の展望について、副施設長の平本様にお話を伺いました。

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プロフィール

外国人採用で介護現場を活性化!その成功の秘訣を探る-特別養護老人ホーム愛成苑-
平本 秀真 様

社会福祉法人愛成会 特別養護老人ホーム愛成苑 副施設長・事務長

2009年7月社会福祉法人愛成会に入職。法人の立ち上げから携わり、当初から副施設長・事務長に就任。現在は、施設の管理全般や外国人の採用に携わっている。

外国人採用のノウハウを蓄積するため、EPA介護福祉士候補者の受け入れを開始

――EPAによるベトナム人介護福祉士候補者の受け入れを始めたきっかけは何ですか?

施設周辺には県営団地があり、多くの外国人の方が住んでいます。そういった近隣にお住まいの方々が愛成苑に応募してくださることもありましたが、残念ながら現場には外国人の方を受け入れるだけのノウハウがありませんでした。

そこで、まずは外国人採用のモデルケースとして、介護技術や日本語の教育をしっかり受けている介護福祉士候補者の方の受け入れから始めようと思いました。受け入れのノウハウを蓄積し、現場職員にも外国人と働くのに慣れてもらうことで、制度以外での雇用にも対応できるようになると考えたのです。

――これまで何人の方を受け入れていますか?

2016年度から2019年度まで毎年2人ずつ、計8人の方を受け入れています。入国制限により、まだ来日できていませんが、2020年度も新たに2名が入職する予定です。毎年コンスタントに、希望人数の受け入れを実現できています。

――なぜベトナム人の介護福祉士候補者に決めたのでしょうか?

EPAを結んでいるフィリピン、ベトナム、インドネシアの中でも特に仏教を信仰している方が多く、日本人と感覚が似ていることと、介護福祉士の資格取得率が高いことが理由です。

すでに介護福祉候補者の受け入れをしているほかの施設の方や候補者本人に話を聞いてみたところ、ベトナムの方の「高齢者を敬う」という意識が日本と似ていると感じました。また、国家試験の合格率が90%とEPAを結んでいる3国の中で飛びぬけて高いので、支援をすればそれだけ結果が返ってくると思い、ベトナム人に決めました。

プロジェクトチームの結成で迎え入れる準備は万全

――受け入れる方はどのように選んでいるのですか?

毎年12月に、国際厚生事業団が主催する現地での説明会に参加し、マッチングを図っています。施設側が一方的に候補者を選ぶのではなく、面接を実施したうえで、国際厚生事業団が候補者・施設双方の希望を聞きます。希望をふまえて、翌年の3月にそれぞれの方がどの施設に配属になるかが決まる仕組みです。説明会に集まる候補者は200名ほどいるため、1回8名※の集団面接をいかに多く実施して、たくさんの候補者と話すかがポイントになってきます。

来日前の面接の段階では、まだ日本語が話せない候補者が多いです。そこで、初回はベトナム語の通訳を頼んで私自身が面接を行いましたが、いかんせん時間がかかりすぎました。2回目以降は、入職しているベトナム人候補者を連れて行ってベトナム語で面接を頼み、私は隣でその様子を見ています。言葉は分からずとも、笑顔や表現力、他人の話を聞く態度は分かります。日本語はあとで勉強すればいくらでもうまくなるので、入居者様に安心感を与えるような人柄の方を選んでいますね。

毎年受け入れ希望を出すのは2人です。当施設は寮が2人1室ということもあり、候補者同士の相性を重視しています。ここぞという人を1人選んだら、もう1人はその方に優秀な友人を教えてもらって採用の目星を付けるようにしています。

※現在は6名での集団面接に変更

――入職する方が決まってから、就業開始までの間にどんな準備をしていますか?

トップダウンではなく、いろいろな職員が主体的に準備に携わってくれるよう、プロジェクトチームを結成しています。メンバーは、副施設長の私、事務のリーダー、介護のリーダーのほか、ユニット代表者5人の計8人です。それぞれ教育担当、生活必需品の準備担当、歓迎会の企画担当に分かれ、選考結果が出てから就業開始までの4カ月間、準備を進めていきます。

あとは、入職までに候補者たちと顔合わせをするのもプロジェクトチームメンバーの大事な役割です。候補者たちが入職前に日本語の研修を受けている研修センターを2回ほど訪ねて、一緒に昼食を摂りながら、お話をします。候補者たちには「施設にはこんな人が働いているんだ」と安心してもらえますし、メンバーたちはこれまで写真でしか見てこなかった候補者と実際に会うことで、準備にも一層力が入ります。

――資格取得のための支援は行っていますか?

神奈川県の助成と施設からの援助を組み合わせ、毎週1回、福祉専門学校で専門分野と日本語の授業を受けられるようにしています。そのほか、地域包括支援センターが開催する日本語講座にも参加してもらっていますね。

授業を受ける時間はすべて勤務扱いにして、休日をしっかり確保できるようにしています。ほかの施設では休日に学校に通ってもらったところ、仕事との両立ができずに退職してしまった方がいるという話を聞きました。愛成苑では、必要な教材を施設で購入したり、勤務時間内に授業を受けられるようにしたりすることで、体力面・金銭面で負担を感じないように支援をしています。

その甲斐あってか、2017年度に受け入れた2人とも介護福祉士の国家試験に合格しました。どちらも100点中95点ほどと余裕を持って合格できる点数を取っています。2018年度以降の候補者の試験はまだ先ですが、模試でAランクを取っているので心配はしていません。

外国人採用で介護現場を活性化!その成功の秘訣を探る-特別養護老人ホーム愛成苑-
▲真面目な仕事ぶりは日本人職員や入居者様からも好評。働きながら、しっかりと勉強もしています

日本人同士の曖昧なコミュニケーションを見直すきっかけに

――受け入れにあたり、大変だったことは何ですか?

候補者の方に手厚く支援をすると、日本人職員から「自分たちはそんなことをしてもらっていない」と不満の声が挙がることがありました。日本人職員の気持ちもよく分かりますし、待遇の公平性というのは難しいところだと思います。そのときは「候補者の日本語能力や介護技術が上がることで、現場の仕事がスムーズに進むようになってみんなが助かるよね」と話して、納得してもらっていました。ただ、ネガティブな意見が出たのは最初のうちだけで、候補者たちが真面目に働く姿勢を見るうちに日本人職員たちの見る目も変わりましたね。

ほかに大変だったのは、自国に帰りたいという候補者のために休みを調整することです。ベトナムにはダナン、ホーチミン、ハノイの3都市にしか国際空港がないので、空港から家まで帰るのにバスで10時間以上かかる人もいます。最初は連休の日数を10日間までと決めていましたが、今は現場の理解も深まり、2週間まで取れるようになりました。とはいえ、候補者の人数が増えてきたこともあり、毎年全員が2週間休むと仕事が回らなくなってしまいます。頻度は2年に1回程度とし、いつ誰が休むかも候補者同士で調整して休みが重ならないように調整してもらっています。

――介護福祉士候補者の受け入れによって、現場にどのような影響がありましたか?

コミュニケーションが活性化し、現場の雰囲気が良くなりました。日本人同士だと、「はっきり言わなくても伝わるだろう」と曖昧な伝え方をしてしまいがちですが、外国人にも伝わるように言語化することで、現場全体のコミュニケーションがスムーズにできるようになったと感じています。

候補者たちの一生懸命な姿勢は、日本人職員にも良い刺激になっているようです。資格を取って日本で働き続けたいと頑張っている姿を見て、現場の職員の間にも「合格できるようにサポートしてあげたい」という気持ちが出てきて、団結力が強まりました。

外国人採用で介護現場を活性化!その成功の秘訣を探る-特別養護老人ホーム愛成苑-
▲候補者たちの笑顔は、現場の雰囲気を明るくしてくれます

多様なバックグラウンドを持つ方が輝く時代へ

――介護福祉士候補者の受け入れを検討する施設は増えていると思いますが、愛成苑様を選んでもらうためにどんな工夫をしていますか?

候補者たちのSNSを通して、施設のことを発信してもらっています。ベトナム人同士のSNSのつながりは強いですし、各自Facebook(フェイスブック)の友達が1,000人くらいずついて、一人ひとりの影響力も強いんです。たとえば休みの日に施設のメンバーで遊びに行ったら、その様子を個人のSNSに載せてもらうなどして、友人・知人層に日本での生活や愛成苑のことをアピールしてもらっています。実際、愛成苑で働いている候補者の中でも、ほかの人のFacebookを見て日本での生活に興味を持って選んだという人がいますね。

――外国人採用について、今後のビジョンを教えてください。

昨今、人手不足が叫ばれる介護業界において、外国人の方なしで介護施設を運営していくことは現実的ではないと感じています。昔は採用の際は「若い日本人の正社員」一択でしたが、今後は外国籍の方、シルバー世代の方、子育て中の方といった多様なバックグラウンドの方の力を活かすことが大切です。その一環として、EPAによる介護福祉士候補者の受け入れで培ったノウハウを活かし、外国人採用を推進していきたいと思っています。

愛成苑では現在、近隣に住む方を中心に、在留外国人の雇用を進めています。すでにベトナム、フィリピン、中国、ペルー、ブラジルなどさまざま国籍の方が入職しており、施設全体に占める外国人の方の割合は20~30%にもなりました。2020年度からは外国人技能実習生の受け入れもスタートしています。

今後は施設に入居する方にも外国人が増えるはずです。その際、職員に同じ国籍の方がいれば、安心感を持っていただけることにもつながるのではないかと思っています。実際、中国人職員がいるからという理由で入居してくださった中国人の入居者様もいました。外国人職員の方がより一層活躍する時代は、すぐ近くまで来ていると感じます。

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