2000年の開設以降、特別養護老人ホームや老人保健施設の運営を通して地域に根付いた介護ケアの提供を続けている社会福祉法人東京聖新会。「現場職員の業務効率化、利用者様への最適なケアの提供」を目指し、2014年ごろからICT導入に向けた取り組みを始めました。実際の取り組み内容や効果を、導入検討時から研究・開発までを対応している理事の尾林様にお伺いしました。

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プロフィール

ICTのかけ合わせで業務改善・離職率低減を実現!東京聖新会の取り組みとは-社会福祉法人東京聖新会-
尾林 和子様

社会福祉法人東京聖新会(理事)

2002年社会福祉法人東京聖新会に入職。介護職員勤務を経て2010年より法人理事に就任。法人運営だけでなく、日本福祉大学にて見守りシステムやコミュニケーションロボットの研究・開発に携わる。論文発表や講演会を毎年開催し、ICT普及へ向けた活動を行っている。

業務分析で見えてきたICTの必要性

――法人としてICT化の取り組みを始めたきっかけを教えてください。

2010年以降、法人全体で介護職員の離職による人材不足や、業務改善の必要性が毎年課題として上がっていたのがきっかけです。具体的には、夜勤時の記録業務に時間がかかっていることや見回り回数の多さが問題にあがっていました。「ICTを取り入れることで課題が解決できるかも知れない」と考え、2014年ごろから本格的にICT導入を検討し始めました。2015年にはNTTデータ株式会社と共に導入検証を開始、2016年にはAMEDの分担機関として110台ほどのロボットを導入しました。以降JKA、全国老人福祉施設協議会、東京都、日本福祉大学など、研究資金を得ながら開発研究を行ってきました。

――導入する機器はどのように決めましたか?

ICTを本格導入するために、改めて職員に業務内容の調査を行いました。「どんな業務が効率を妨げているか」ということを調査したところ、夜勤時の見回り回数の多さや記録業務に多くの時間を費やしていたという問題が見つかりました。さまざまなロボットを検証した結果、課題解決のためには、「見守りシステムとコミュニケーションロボットの併用」が一番有効だと考え導入を決めました。

取り入れた先に見えた「職員への効果」

——取り入れた具体的な取り組み内容を教えてください。

まず見守りシステムとコミュニケーションロボットを併用して使用するNTTデータ「エルミーゴ」を導入しました。「エルミーゴ」は、見守りシステムである「シルエット見守りセンサ」と「眠りスキャン」、コミュニケーションロボット「Sota」の3つを同時に使用するシステムです。

見守りシステムでは、利用者様のベッドサイドに設置したシルエット見守りセンサと眠りスキャンで「覚醒・起き上がり・離床」などの状態を感知し、スマートフォンへ通知することができます。スマートフォンにはベッドでの状況がシルエット画像で表示されるため、利用者様のプライベートに配慮しつつ、必要に応じて対応を行います。職員は離れた場所からでも利用者様の様子を確認できるため、ケアを行う優先順位の判断が可能になりました。

コミュニケーションロボットは、利用者様が覚醒した際にまず初めに会話をすることが可能です。職員がスマートフォンからボタン一つで声をかけることができます。「どうしましたか?スタッフの人が今から来ますからね」など、離れた場所からでも声をかけることで利用者様の転倒防止にも繋がっています。また、ロボットを介した会話の内容から訪問の必要性も判断できるようになりました。

この2つをかけ合わせることで、訪問回数の削減や業務の効率化が実現できると考え導入しました。

――導入後の「効果」はどんなところに現れましたか?

大きく分けて3つの効果を実感しています。1つ目は「夜勤時の訪問回数の減少」です。運営している特別養護老人ホームでは、導入前は利用者様が起床・離床した際には常に訪問して確認する必要がありました。しかし、見守りシステムとコミュニケーションロボットを取り入れることで、利用者様1人あたりの夜間の訪問回数を8.2回分削減することができました。職員の精神的負担や身体的負担の軽減ができたと感じています。

2つ目は「記録業務の効率化」です。夜勤では訪問の合間を縫って記録業務を行っていたため、約3時間もかかっていました。見守りシステムとコミュニケーションロボットの導入によりバイタル情報の自動記録が可能になったことで、今では約1時間半程度で作業が完了できるようになりました。

3つ目は「離職率の低下」です。ICT化の取り組みが直接的に作用していると断言はできませんが、2014年に取り組みを始めて、2019年には離職率の10%減少を実現しています。製品の使いやすさや業務改善の結果が、離職率の低下に数字として現れていると感じています。

――導入後、職員の方からの反応はどうでしたか?

当初はICT化への理解が少なかったため、「ICTに取り組むならば、給与へ還元してほしい」など少なからず反発はありましたね。導入を進めていくと、業務の効率化ができたことで利用者様へケアの時間を多く取ることができるようになっていたので、導入前と導入後の労働量を可視化して職員に効果を伝えるようにしました。ICT化の効果が分かると、より企業理念に基づいたケアの提供が行なえたり、仕事に対する姿勢にも前向きな変化がでてきました。導入する目的をリーダーシップを取りながら伝達し、一人ひとりの職員が納得できるような土台作りを意識して取り組んできたことが実を結んだと思います。

ICTのかけ合わせで業務改善・離職率低減を実現!東京聖新会の取り組みとは-社会福祉法人東京聖新会-
▲現在開発中のベッドサイドコミュニケーションロボット「モンちゃん」※AIビューライフ社製

法人独自のロボット開発に向けて

――ICT化を行うことで、採用や労働環境への変化はありましたか?

採用に関しては直近1年ほど広告出稿をしなくても人材が集まるようになりました。嬉しいことに「ICT化の取り組みを知り興味を持った」「利用者様のADL向上と職員の労働負担軽減を考えたICT化を行っている施設は働きやすそう」といった理由の応募も増えていますね。また、労働環境の変化も感じています。離職率が減少しただけでなく、業務の効率化も進んだため、休憩時間を時間通りにきちんと取得できたり、いままで積極的に取り組めていなかった教育体制の充実化に注力することができたりするなど、良い変化を実感しています。

――今後の展望を教えてください。

現在も取り組んでいますが、今までの知見やICT活用方法を活かして法人独自の「AIベッドサイドロボット」の開発を行っています。特にコミュニケーションロボットの改良に力をいれており、利用者様へのベッドサイドでの声掛け時の声質や、シチュエーションを分けた会話のシナリオ作成などに取り組んでいます。それ以外にも、現場職員達のエッセンスを取り入れた操縦ロボットや見守りロボットを作っていくなど、たくさんアイデアがでてきているので一つずつ実現させていきたいですね。最終的には地域のオンライン診療を支えるシステム作りにも着手していきたいと考えています。

――ICTの導入を検討している事業者へ伝えたいことはありますか?

私たちには明確な課題があり、課題解決のために選択したのが「見守りシステムとコミュニケーションロボットの併用」です。新しいことに取り組む時には、明確な「理由」が必要です。「取り組むことで、どういった影響がでるのか」「利用者様や職員へはどんな効果があるのか」を見極めて取り入れることが大切ですね。当法人が導入したICT化の取り組みは一例として見ていただき、まずは組織をどうしていきたいかを考えたうえで、組織風土の醸成から取り組んで欲しいと思います。

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