フランス発祥のケア技法であるユマニチュード。利用者様に効果があることはもちろん、職員の負担減少や、入職希望者の増加など、施設側にも副次的な効果があることから、2015年ごろからいち早くユマニチュードの考えを取り入れ始めた特別養護老人ホーム水郷荘の桃様にユマニチュードに取り組むようになった経緯とそのメリットについて伺いました。

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プロフィール

ユマニチュードが利用者様と職員双方にもたらすメリットとは?-社会福祉法人盡誠会 特別養護老人ホーム水郷荘-
桃 勝利 様

特別養護老人ホーム水郷荘 単独型短期入所生活介護事業所 管理者

2005年特別養護老人ホーム水郷荘に入職。2018年、ユマニチュードインストラクター研修にて資格を取得。2020年、単独型短期入所生活介護事業所の管理者として勤務する。

認知症の方に寄り添う、ユマニチュードというケア

――特別養護老人ホーム水郷荘様がユマニチュードの取り組みを始めたきっかけを教えてください

2015年特別養護老人ホームの入所基準が要介護度3以上に変更になり、利用者様に重度の認知症の方が増えたのがきっかけです。施設全体で認知症の方の割合が90%を超えるようになり、軽症の方も含めたケアのやり方では対応ができなくなっていきました。

認知症は脳の働きが悪くなることなどで起きる記憶や判断力の障害ですが、当時そのことを認識している職員は多くありませんでした。必要だと思って行ったケアに対して抵抗され、認知症の方との関わりに疲れ果てた職員が次々と辞めていきました。今では考えられませんが、当時は40~50人いた全職員のうち、5~6人が一気に抜けてしまうこともあったのです。

人手が足りずに余裕のない毎日を過ごす中で「どうしたら利用者様ともっとうまくコミュニケーションがとれるのか」「どうすれば利用者様の思いに寄り添ったケアを実現できるのか」ということは常に課題としてありました。その時、NHKで放送されていたユマニチュードの取り組みを紹介するテレビ番組を見て、これなら利用者様とのコミュニケーションのあり方を変えられるのではないかと思いました。

――ユマニチュードとはどのようなケアなのでしょうか?

ユマニチュードはフランス発祥のケア技法です。「ケアをする人とは何か」「人とは何か」を問う哲学と「見る・話す・触れる・立つ」を4つの柱とした言語・非言語の包括的なコミュニケーション技法からなり、その人の人間らしさを大切にしたケアを提供します。例えば「見る」動作一つにしても、相手の正面から同じ目線の高さで見ることで「相手と平等な存在であること」を伝えられます。

水郷荘では、はじめに2人の職員が施設向けの導入研修を受けたうえで、本や教材を参考にしながら、独自に取り組み始めました。

ユマニチュードが利用者様と職員双方にもたらすメリットとは?-社会福祉法人盡誠会 特別養護老人ホーム水郷荘-
▲ユマニチュードのケアでは利用者様が本来持っている能力からその方にあったケアを選択し提供しています

ユマニチュードの考えが、これまでのケアを見直すきっかけに

――ユマニチュードのケアにより、利用者様にどのような変化がありましたか?

ケアを行う中で拒否や攻撃的な行動が少なくなりました。これまで当たり前のように、食事の時間やお風呂の順番など施設側が決めたルールに沿って利用者様に生活してもらっていましたが、利用者様はルールに従うストレスを「拒否」や「攻撃的な行動」として、表現していたのだと思います。ご本人の個性や尊厳、自由を尊重して関わるようになったことで、否定的な行動に変化が見られました。

また、要介護度5でおむつをしていた方が自力で立ち上がってトイレで排泄できるようになったり、歩けなかった方が歩けるようになったりした例もあります。できる動作が増えたことで、ご本人たちの笑顔も増えました。

――ユマニチュードに取り組んだことで、職員の方にはどんな影響がありましたか?

これまでのケアは、施設側の決められたルールや業務を行うことが利用者にとって良いことだと思っていました。「このケアをしなくてはいけない」「仕事を終わらせなくてはいけない」と、無意識のうちに行っていたことは「強制ケア」になっており、そのことに気が付くことが出来たことが大事だと思います。

ユマニチュードの考え方により、自分本位のケアを提供するのではなく、相手を尊重して丁寧に関わることで、今まで気付かなかった利用者様の変化に気づけるようになりました。さらに「こんなケアをしたら利用者様が喜んでくれた」という気づきを職員同士で共有することで、それぞれの方に合ったケアを追求できるようになったと思います。

そして、自分が考えて実践したケアで利用者様が変わっていく姿を目にすれば、自然とやりがいを感じられますし、一つひとつのケアが与える影響力の大きさも実感するでしょう。普段、私たちが無意識のうちに行っているケアや、施設の環境がいかに利用者様に作用しているのか、身をもって知れば、ユマニチュードの必要性も理解できるはずです。

――ユマニチュードの取り組みによる採用・定着における効果があれば教えてください。

入職を希望する方のほとんどが面接で「ユマニチュード」という言葉を口にするようになりました。「ユマニチュードの取り組みをやってみたい」と希望される方や、ユマニチュードのことをよく知らなくても、ユマニチュードに興味を持って面接時に質問してくれる方が増えています。それだけ求職者の方にも当施設の取り組みが浸透してきたのかなと思っていますね。

また、ユマニチュードの取り組みを始めてからは離職率が下がりました。特に新卒職員の定着率が良く、ほとんどの方が離職することなく働き続けています。新人研修でユマニチュードの考え方を学ぶ機会を設けているのですが、そうすることで入職したての職員でも利用者様と良好な関係を築くことができています。利用者様を想うことで仕事にやりがいを感じられ、結果、職員の定着につながっていると考えています。

ユマニチュードが利用者様と職員双方にもたらすメリットとは?-社会福祉法人盡誠会 特別養護老人ホーム水郷荘-
▲職員だけでなく、ユマニチュードの取り組みに興味を持って入所を希望される方も増えています

技術先行ではなく、根底にある考え方を伝えていく

――今感じている課題はありますか?

研修の時間を確保しきれていないこともあり、すべての職員にユマニチュードの考え方を伝えきれていないのが現状ですね。「見る・話す・触れる・立つ」というユマニチュードの具体的な技術は目的を実現するためのツールであり、大切なのはユマニチュードの考え方です。技術を先行させるのではなく、なぜその技術が必要なのか、職員にもっと根本的な考え方を伝えようと思っています。また、ユマニチュードの成果を見える化できるよう、ケアの経過表を作って変化の度合いを確認しながら、次のケアを実践するために試行錯誤している最中です。

――ユマニチュードの取り組みを検討している事業所へのアドバイスをお願いします。

ケアは一人で行うわけではないので、「施設全体でユマニチュードに取り組んでいこう」と全員で思いを一つにすることが大切だと思います。そのためには、介護職員だけではなく、看護師や生活相談員、栄養士、清掃スタッフも含めたすべての職員にユマニチュードの考えを広めていかなければなりません。

また、ユマニチュードの取り組みに集中できる環境づくりも必要です。例えば、職員が外部研修へ参加するチャンスを作る、外部研修に行く職員がいても不足ない人員を確保するなどです。独学だと技術先行型になりがちですが、研修や参考書、DVDなどをうまく活用することで、理念や哲学と具体的な技法が結び付くようになると思います。新しいことを始めるのは労力が必要ですが、今までの方法や職場環境をいかに変えられるかが、ユマニチュードのケアに取り組むうえでは大切になってくるのではないでしょうか。

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