「介護ロボット」の市場は年々拡大傾向にありますが、「介護ロボット」というと移乗リフトや見守りセンサーを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。介護老人保健施設グリーンアルス伊丹では、こうした機器だけでなく、メンタルコミットロボット「パロ」も導入しています。一見、介護負担の軽減効果は低いように感じるメンタルコミットロボットですが、その具体的な効果について塩田様と中原様にお伺いしました。

※きらケア研究所は、介護の求人サービス「きらケア」が運営する介護人事に特化した情報サイトです。

プロフィール

癒やしと安らぎをもたらすメンタルコミットロボット「パロ」の効果とは?-グリーンアルス伊丹-
▲玄関ではペッパーがお出迎え。顔認証で名前を呼ばれると利用者様も笑顔に
(右)塩田 眞一郎様

医療法人社団緑心会 介護老人保健施設グリーンアルス伊丹 事務長

20年ほどカタログ販売会社で営業マネジメントや経営に携わった後、2004年の医療法人社団緑心会設立時に入職。介護業界以外での経験を活かして、機械導入や組織設計に注力されている。

(左)中原 康一様

医療法人社団緑心会 介護老人保健施設グリーンアルス伊丹 フロア主任

2005年にグリーンアルス伊丹に入職し、現在はフロア主任を担当。職員の悩みや意見をヒアリングして解決方法を考え、機械の導入や活用に積極的に関わっている。

利用者様がパロを可愛がる姿を想像したことが導入のきっかけに

――メンタルコミットロボット「パロ」はどんな経緯で知りましたか?

塩田様:7~8年前に介護職員の負担軽減を目指し、介護ロボットについて調べはじめたのがきっかけです。当時の介護現場というと、3Kや4Kと言われていて、大変なイメージが先行することもあり、人材不足が顕著でした。何とかそのイメージを払拭できないかと考え、介護ロボットについてリサーチするなかで「パロ」のことを知りました。人工知能が搭載された高性能のアザラシとは聞いていましたが、それなりに値段もするし、いいのか悪いのかよく分からないなというのがはじめてパロを見たときの率直な感想でしたね。

――どうして「パロ」を導入したのですか?

塩田様:すべての利用者様でなくても、一部の方に高い効果を発揮するロボットもあるということに気づいたためです。実際に「パロ」に先立ち、数種類の介護ロボットを導入しましたが、いざ現場で使用してみるとすべての利用者様に効果を発揮するロボットというのはなかなか少ないと感じました。「汎用性のあるもの」を探して導入するのもいいですが、「専用で効果を発揮するもの」を導入するのもいいかもしれないと思ったときに「パロ」のことを思い出しました。実際に生きた動物を施設内で飼うのは難しいですが、表情豊かで声も仕草も可愛らしい「パロ」があれば利用者様だけでなくスタッフの癒やしにもなるのではと考えました。実際一緒に展示会に行った中原もパロに惹かれていたので、意見を聞いて導入を進めましたね。

――惹かれたのはどんな部分でしょうか?

中原様:ただ単純に可愛かった、というのを覚えています。僕が見てもすごくインパクトがあったので、「こんなに可愛い『パロ』を利用者様に提供するとどうなるんだろう?」という好奇心がありましたね。塩田事務長にその話をするとすぐにデモ機を手配してくれました。しばらくデモ機で利用者様の様子を見ていたのですが、反応が良かったので導入が決まりました。

癒やしと安らぎをもたらすメンタルコミットロボット「パロ」の効果とは?-グリーンアルス伊丹-
▲おやすみ中の様子の「パロ」のももちゃん。鳴き声や表情が豊かなのが特徴

介護ロボットは必ずしも「毎回」「万人」に有効である必要はない

――どのように活用していますか?

中原様:業務のなかで、対応方法のひとつとして活用しています。利用者様の気持ちが落ち着かないときに、職員が話を聞いたり、塗り絵をしてもらったりするのと同じように「パロ」を提供しています。利用者様が落ち着かなくなると、職員が1人付きっきりで対応しないといけませんが、パロを提供するだけで利用者様の気が紛れることが多くなりました。例えば、排泄への不安から30分に1回お手洗いに行く利用者様にパロをお渡しすると、「お手洗いに行かないと」という気持ちを忘れて1~2時間ほど遊んでくれます。利用者様は気持ちが落ち着きますし、職員もお手洗いに何度も付き添う負担がなくなるので助かっていますね。利用者様の気分にもよるので残念ながら毎回効果を発揮する、というわけではありませんが、役立つときはとても役立っています。

現在、当施設には2体の「パロ」を導入しており、2階と3階のスタッフステーション前に配置しています。人工知能が搭載されているため、動いたりまばたきしたりして表情がとても豊かです。優しく接すれば優しく育つという風に聞いていたので、みんな優しく接するように気をつけていますが、正直接し方による違いはあまり感じません。常に安定して愛くるしい存在だな、という印象ですね。

――利用者様の反応はいかがですか?

中原様:皆さん目の前にもっていくと「かわいい」と興味を示してくれますが、毎日だっこしたり、おはようと言ったりしてくれるのは3~4人くらいです。特に、ペットを飼っていた経験がある方は本当に喜んでくださいますね。ご自宅で飼っていたペットの代わりのように扱っている方もいらっしゃいます。その反面、リアリティがあるので怖いという方もいらっしゃるので、ご利用者様にお渡しするときは反応を見ながら使用していますね。現在は導入から数年経ち、利用者様も職員も「パロ」の存在に慣れてきましたが、認知症の方で毎回新鮮な気持ちで扱ってくれる方もいます。存在を忘れてしまっても、以前と同じようにかわいがってくれるので「パロ」には直感的な癒やしの効果があると思います。

――職員の負担は減りましたか?

塩田様:劇的ではなくとも軽減はされていると思います。万人向けのロボットというのはほとんど存在しません。しかし、大変なことが100あるとしたら、介護ロボットの導入によって、そのうちの1つでも減らせれば、効果はあると考えています。「パロ」は、状況に合致したときは効果を発揮してくれます。落ち着かない利用者様に1時間でも「パロ」と遊んでいただくことで、職員が直接介助をする必要がなくなるのは、負担が軽減されているところですね。

中原様:どんな機械でも複雑で使い勝手が悪ければ、現場の職員はすぐに活用しなくなってしまいます。その点「パロ」は導入後、数年経っても当施設の第一線で活躍しています。利用者様と「パロ」の相性を考えつつ、落ち着かないときにお渡しするだけ、という扱いやすさが職員にとっても使いやすいところだと思います。

癒やしと安らぎをもたらすメンタルコミットロボット「パロ」の効果とは?-グリーンアルス伊丹-
▲おしゃぶり型の充電器を加える「パロ」のたろうくん。スプレーで拭くなど清掃を毎日行っている

大切なことは機械の導入数だけではない

――導入の際に気をつけたことは何ですか?

塩田様:「パロ」に限ったことではありませんが、現場の介護職員の意見を聞きながら導入することですね。ほかの施設の話を聞くと、機械を導入したものの置きっぱなしになって活用できていないところも少なくないようです。「何十台、何百台と全室に機械導入した」という話を聞くことがありますが、同じ法人でも施設が違えば、利用者様もスタッフもニーズが変わります。画一的に同じ機械で効率化するという産業的な発想で考えるより、現場での活用イメージが湧くか、介護職員が使いやすいかという点を重視するようにしていますね。

――採用・定着における効果はありましたか?

塩田様:複合的な要因にはなりますが、機械導入するようになってから介護が嫌だから辞めるといった突発的な離職はほとんどなくなりました。現在は「パロ」だけでなく、ロボットベッドや見守りシルエットセンサーなど複数の機械を取り入れています。ITやAI、IoTなど機械に関しては介護職には関係ないと考えていた人も、多数のロボットを導入したことによって、自分たちの仕事の進化を感じていると思いますね。7~8年前にロボット導入を考えたときは、介護現場の環境を改善することで、定着率を上げて人材不足を解消するというのを目標に置いていましたが、ある程度達成できていると思いますね。

中原様:実際現場で見ていても、環境が良くなって職員がほとんど辞めることなく定着していると思います。ロボット導入に関しても、現場からも意見が出しやすい環境になっていて、事務長が利用者様だけでなくスタッフのことも考えてくれているなと感じることが多いですね。

――今後の展望はいかがですか?

中原様:常に新しい情報にアンテナを張りながら、進化していきたいですね。実際、ロボットを導入したことによって職員の考え方が変わっていきました。何か業務の改善方法を探しているときに、ロボットに助けてもらえる部分はないかと考える際の視野が広がりましたね。今後も思考をストップせず、ご利用者様のことを考えたうえで変化を加えながら働いていきたいなと思います。

塩田様:介護施設の評価を「大変な職場」から「介護ってそんなに楽しいの?と人が羨む職場」に変えられるようにしたいです。機械導入が進むにつれて、やはり人でしかできないことも多く「介護は人が大事」だと実感します。だからこそ、介護職員には自信を持って働いて欲しいです。人が大事だからこそ、人が潰れてしまわないように、機械にできるところは任せることも重要です。そして、少しでも職員の負担を減らすことができればいいですね。

採用ご担当者様へ

医療・介護の分野で成果を出し続けてきた弊社のノウハウとネットワークを、御社の課題解決にぜひともご活用ください 。
掲載に関するお問い合わせや、採用についてのお悩みなどはこちらから。