※写真は、2019年のものです。2020年以降は感染症対策のためオンラインとの併用などの措置をとって行っています。

VR(仮想現実)を活用した他者体験ができる研修を介護事業所や一般企業向けに実施している株式会社シルバーウッド。2019年度から新たに介護現場のマネジメント力アップを目的とした研修を始めました。VRを活用しながらケーススタディを通して学ぶことで、参加者は自分事として捉えやすく、当事者意識を持って研修を受けられると言います。研修の概要や効果について、介護事業者向けのマネジメント研修であるマネジメントスタンダードプログラム for kaigo(MSP-k)を担当する大谷匠さんに伺いました。

プロフィール

介護現場のリーダーを育てる VR(仮想現実)を活用した管理者育成方法 -株式会社シルバーウッド-
大谷 匠 様

株式会社シルバーウッド 高齢者住宅事業部 / VR事業部

2017年株式会社シルバーウッドに入社。高齢者住宅事業とVR事業を兼務。高齢者住宅事業では、介護現場の運営や地域連携に携わり、VR事業では、新規のVRコンテンツの開発や国・自治体と連携した事業を推進している。

自分ごとの体験で、介護をもっと魅力ある仕事へ

――シルバーウッド様のVRを活用した研修事業について教えてください。

当社では、介護事業者や一般企業向けにVRを活用した研修を実施しています。もともと高齢者住宅事業を展開していましたが、たくさんの高齢者の方と向き合う中で、「認知症のある方に対して世の中の理解にギャップがある」現状に代表が課題を感じ、VR事業を始めました。VR事業では、VRを活用して認知症の中核症状を一人称で体験することで、認知症のある方に対する理解を深めることができます。

今では、当事者体験を通して他者理解を深めるためのコンテンツとして認知症以外の分野にも手を広げています。看取りといった介護分野のほか、LGBTやダイバーシティ&インクルージョンなど一般企業の方にも関わるテーマを扱っています。「自分と異なる他者とどう接するか」ということを考えるきっかけになるコンテンツになっています。

――今回、管理者育成のための研修を実施したきっかけは何でしょうか?

厚生労働省の「介護のしごと魅力発信等事業」の一環として実施しました。「介護のしごと魅力発信等事業」は、介護のしごとの魅力を伝え、福祉・介護に対して抱いているイメージを向上させるイベントや広報活動を推進する補助事業です。介護現場では、人間関係に悩んだり、運営の方法に疑問を感じたりして離職する方が多くいます。介護現場の中間管理職の方がマネジメントを学び、職場環境を良くしていくことで、介護の仕事がより魅力のある仕事になるのではないかと思いました。そこで、実施したのが管理者育成のための研修「マネジメントスタンダードプログラムfor Kaigo」です。

――研修の内容はどのように考えましたか?

自社の高齢者住宅事業の社員や、これまでのVR研修で関わりのあった事業所10社以上にマネジメントにおける課題をヒアリングしました。実際に介護現場で困っていることを聞いたうえで研修のプログラムを組んだので、よく介護現場で発生する課題をテーマとして扱い、その課題を解決に導くための思考過程を学ぶことのできる内容になっていると思います。

VRを活用した一人称の体験で深まる“他者理解”

――実際の研修内容はどういった内容でしょうか?

「概論コース」「実践コース」「ファシリテーター育成コース」の3つに分けて実施しています。

「概論コース」は1日6時間の研修で完結するまずはマネジメントに触れてみたいという方向けのコースです。前半はマネジメントに関する理解促進ワークを通してマネジメント理論を学び、後半ではVRを活用したケーススタディを通して、学んだ理論を活用して思考過程を展開していきます。前半のワークでは、「管理者の役割とは何だと思うか」などの問いが書かれたワークシートを元に複数名で議論をします。そこで導き出した答えを踏まえて、運営者側が考え方のレクチャーをすることでマネジメント理論を学べる仕組みです。後半に行うケーススタディでは、介護現場におけるマネジメントの困難事例をVRで体験したうえで、どのように解決するのか、参加者同士でディスカッションして考えます。

「実践コース」では組織マネジメントに加え、「良い介護とは?」など抽象的になりやすい事柄に対して、人体の構造や機能の視点から考えるケアのものさしについて触れていきます。「ファシリテーター育成コース」は自ら概論コースの主催を目指す方に向けてノウハウを発信しています。

――マネジメントの困難事例とは例えばどのようなものでしょうか?

専門職が複数介入する在宅や高齢者住まいの現場では、専門職同士のケアの方針や意見が対立するということがよくあります。VRのケーススタディでも、残便感があってトイレで排せつしたいと望む入居者がいたとして、入居者の意向を尊重する介護職と、身体の状態から考えてリスクの方がが大きいと反対する看護師との間で衝突してしまう事例を扱っています。

この場合、研修では対立してしまう原因として「専門職同士の発言力に違いがある」「適切なケアの基準がない」といった点を挙げています。解決するために、板書や文字でのコミュニケーションを活用して、意見と感情を切り分けて議論を促すことなどを提案しています。また、「介護職・看護師それぞれの役割を明確にする」「ケアのものさしを設ける」ことも建設的な議論をするために有効だと伝えています。

――現在の研修の実績はいかがでしょうか?

2019年度からスタートし、初年度は全国10カ所開催で393名の方にご参加いただきました。2020年度は全国8カ所に加えて初めてオンラインでも開催し、計400人程度の方がご参加くださいました。参加者は、サービス提供責任者やユニットリーダーなど中間管理職の方が多いですが、施設長や経営者、将来的に管理職を目指す一般の介護職の方が受講することもあります。一方で、アプローチ困難な「マネジメントに興味がない」という方も多いので、マネジメントの必要性が伝わるように、各都道府県や事業所と連携して広報活動に努めています。

介護現場のリーダーを育てる VR(仮想現実)を活用した管理者育成方法 -株式会社シルバーウッド-
▲研修にはディスカッションも取り入れ、ほかの参加者と意見交換する場を設けています
※写真は、2019年のものです。2020年以降は感染症対策のためオンラインとの併用などの措置をとって行っています。

参加者が自分の直面している問題を解決するきっかけに

――VRを活用した研修ならではのメリットは何でしょうか?

当事者意識を持って研修を受けてもらえるところです。「マネジメントについて本気で考えてください」と言っても日々の業務が忙しく中長期的に必要なマネジメントを遠回しにしてしまうこともあると思います。そういったマネジメント業務もVRを使ってケーススタディを学ぶことで自分事として取り組んでもらうきっかけを作れると思っています。

また、紙を使ったケーススタディと違って、前提条件を共有しやすいのもメリットですね。紙を使ったケーススタディでは、「Aさんが看護師で、Bさんが施設長です」のような前提を文字情報で共有するため、議論を進めるときに「Aさんってどの人だっけ?」のように本筋とは関係ないところでつまずいてしまう場合があります。しかし、VRを活用することで、登場する人それぞれの表情や声色が分かるので状況把握がしやすく、議論にも集中できます。

――研修を受けることによってどんな効果が見込めますか?

管理職レベルの方であれば、自分が直面している問題に取り組む意欲が湧いたり、ほかの参加者とのディスカッションを通して、悩みの共有ができたりすることです。実際、参加した方からも「今まではチーム内で意見が対立すると、“妥協”をしていたが、しっかり両者の意見を聞いたうえでの“調整”の仕方について考えさせられた」「現場の課題があるときに、自分一人で抱え込んでしまうことが多かったが、研修で議論を重ねることで、周りに相談することの大切さが分かった」などの声が寄せられています。

――マネジメントに課題を持っている他事業所へのメッセージをお願いいたします。

管理職は1人で悩みを抱えてしまうことが多く、孤独な立場だと思います。しかし、同じ悩みを抱えている管理職の方はたくさんいます。課題解決のためにいろいろな取り組みをしている方がいるので、悩みや学びを共有し合うことで新たな視点から考えられることもあります。横のつながりを活かしながら、介護の目的や原理に基づいた議論ができるチームを作っていくことで、自ずと介護業界全体が良くなっていくのではないでしょうか。当社としてもマネジメントスタンダードプログラム for kaigoの研修を通して、悩みを解決する場を提供することで、他事業所の方々の力になれればと思います。

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