現在、新型コロナウイルス感染者が後を絶たない状況が続いています。「どうしたら感染を防げるのか」、「もし感染が発生した場合はどうすればいいのか」など最新の情報収集に尽力している事業所も多いのではないでしょうか。その中で、北海道札幌市で最大のクラスターが発生した「社会福祉法人札幌恵友会 介護老人保健施設茨戸アカシアハイツ」にて、当時の現場での対応や、その後取り組んだ体制構築の進め方について非常勤理事である鶴羽様へお話を伺いました。
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プロフィール

社会福祉法人札幌恵友会(非常勤理事)
2015年、社会福祉法人札幌恵友会の非常勤理事に就任。理事会参加だけでなく、職員への研修や法人広報を担当。クラスター発生時には、法人本部対策室に入り、終息に向けた指揮を担う。
「現場はパニックに陥った」コロナクラスターの発生
――新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生した経緯を教えてください。
2020年4月8日、当施設に隣接している茨戸ライラックハイツの入居者1名の発熱から始まりました。発熱時に異常はありませんでしたが、再受診した4月15日のPCR検査でコロナ陽性が判明しました。この入居者は発熱時の8日に、茨戸アカシアハイツ1階にあるデイケアセンターを利用していたことが分かり、その日に利用していた人数を把握するため、保健所職員と一緒に追跡調査を実施しました。その後、同デイケアセンターの職員1名、利用者のご家族などに陽性が判明し、次々と感染が広がっていったのです。当時、PCR検査の実施基準は「37.5度以上の発熱が連続4日間以上続く状態」であったことから、発熱からコロナ陽性までの判断がつきづらく、また、入居者や利用者の中には尿路感染症による発熱を繰り返している方もおり、コロナ感染による発熱かどうかの判別はとても困難な状態でした。今思えば、発熱者が出たタイミングで、まず「コロナ感染かもしれない」と疑うべきでした。
――PCR検査などの対応はどのように進めていきましたか?
札幌市の保健所職員と連携して検査を進めていきました。4月25日の時点で施設内に10名の発熱者が出ていたため、26日に保健所のドクターと看護師2名が視察のため来訪しました。その後、全ての入所者・職員のPCR検査を実施しました。PCRの検査は全てアカシアハイツの看護師が対応し、名簿管理の事務作業を事務局員が対応しましたね。延べ150名以上の検査を2日ほどで実施したため、大変さを感じる余裕すらない状況だったと聞いています。その当時「コロナ感染者は即入院」という措置をとることが国で決められていましたが、札幌市の病床がひっ迫していただけでなく、認知症を患っている入所者の徘徊による感染拡大なども心配されていたことから市内の病院への受け入れは難しく、全て施設内で対応しなければならない状況でした。対応人数の多さに、現場はほぼパニックに陥った状態でした。PCR検査を実施したことで、最終的に入所者71名、職員21名の感染が判明しました。
――職員の感染も判明する中、人員確保はどのようにしていましたか?
人員を確保するのは本当に大変でした。その当時、法人では18事業所を運営していたため、札幌市へ人員確保を相談した際には、まず法人内で人員を確保するように提言されました。ただ、「職員が施設間を行き来することで、ほかの施設で感染が広がってしまわないか」という不安や、その当時コロナがどう感染するのかなど感染経路も分かっていなかったため、なかなか系列施設からの人員は確保できない状況が続いていました。また、職員の家族の反対などもあり、無理に応援をお願いすることも困難でした。出勤可能な役職者がまず現場へ入り、各施設に要請を出すことで少しずつ人員確保が出来る状態にはなりましたが、それでも全く足りていませんでしたね。応援に来てくれる職員の健康状況確認やその職員の穴埋めの人員確保などもあり、実際に現場に配置するまでの時間もかかってしまいました。

クラスター早期解決のために、法人と行政との連携を開始
――クラスターを早期に解決するために、現場と法人はどのように連携を進めたのですか?
まず、4月29日に法人本部に「危機管理対策本部」を設置しました。茨戸アカシアハイツ内に3名、本部に4名を常駐し、それぞれに役割を持たせてスタートさせました。施設内には物資の配達窓口をおき、本部の私達は毎日札幌市とのやり取りを行ったり、「酸素ボンベが足りない」、「マスクが足りない」、「人が足りない」、「清掃業者に断られた」など現場からの要請に対応したりしていました。しかし、最中も感染拡大は止まらず、入院できなかったコロナ陽性の入居者が施設内で亡くなることが増えていきました。また、現場の要であった看護師の陽性が相次ぎ、現場で入所者を看ることができなくなっていった所に、厚生労働省から5月9日にDMAT(災害派遣医療チーム)が派遣されました。
――DMAT派遣後はどのように対応をしていったのですか?
DMATから医師が派遣された後、札幌市を中心に、道庁職員や保健所職員、法人・施設職員から構成された「現地対策本部」が新たに設置されました。そこからはスムーズにクラスターの終息に向かいましたね。現地対策本部ができてからは、入院調整班・人員調整班・物資班などに役割を分担し、各自で責任をもって対応を進めていきました。一番大きかったことは、入院調整がスムーズに対応できるようになったことです。医療介入が必要な方をすぐに入院させてもらえるようになりました。看護記録など入所者情報をずっと紙媒体で管理してましたがそれはレッドゾーンにあり、すぐに持ち出すことが出来ませんでした。それをパソコンに転記できたことで、入所者情報を一括で管理し、共有しやすくすることで、特に時間がかかっていた30数名の入退院調整が瞬時に対応できました。
――職員へのケアなどはどうしていましたか?
正直、できていませんでした。現場で忙しく動き回っている職員の手を止めるわけにもいきませんでしたし、急な体調不良などにより、実際何人の人員が確保できるのか当日にならないと分からないような状況が続き、その場の状況把握をすることに手一杯で職員の精神的ケアまで手が回りませんでした。施設の責任者も「その余裕はなかった」と当時を振り返って言っています。コロナ陽性でホテル療養や入院をしていた職員には、こちらから一人ひとり連絡をして状況の確認が出来ていましたが、やはり泣いてしまう方もいましたね。こうした経験から、非常事態が起きた際にすぐに対応できる体制構築が急務だと感じ、体制を作るために動き始めました。

経験を教訓に、地域全体で医療・介護を支えていける体制づくりに向けて
――コロナクラスターの経験を活かし、現在はどのような取り組みをしていますか?
コロナクラスター対応時の教訓を活かし、非常時の体制強化のために7月に「新型コロナウイルス感染防止・災害対策室」を新たに設置しました。クラスターを経験した上で明らかになった課題に向き合い、取り組む対策を考え実施しています。
まず始めたのは「正しい防護服の着脱方法」の研修です。その当時、防護服はどういう順番で身につけ、陽性者のいるレッドゾーンから出るときに何を気をつけて脱げばいいのかなどの知識がないまま作業を進めていたため、きちんとした着用方法や使用方法を1時間半程度の研修にまとめました。感染対策専門の大学講師にきていただき、実際の着用手順など、直接利用者様と触れ合う専門職は全員受講できるようにしました。また、研修に出られない人達のためにその様子を録画して、それを研修制度の中に組み込みました。
2つ目は「法人共通の感染対策マニュアルの作成」です。それぞれ施設ごとに作成した非常時のマニュアルはありましたが、法人の看護職・介護職のトップに改めて基準を見直してもらいました。そこに新たにコロナウイルス発生時の対応手順を組み込み、全施設で共有・研修等に利用できるようにしました。今回の教訓から、どの物資がどれぐらい足りなくなるのか、発熱者発生時の初動対応方法、発熱者の隔離場所や動線確保などもあわせて決定していきました。
3つ目は最も苦労した「人員確保」に関しての対策です。全施設の職員を対象に、もし自分の勤務している施設でコロナ陽性者が出た場合などの非常時に勤務できるかを確認していきました。①そのまま無条件で勤務継続、②宿泊先があれば勤務可能、③勤務継続不可能の3つにグルーピングし、各施設で確保できる人員を事前に把握できるようにしました。
こうした経験を、今後の対策に盛り込むことで、普段の業務中にも職員それぞれが危機感や緊張感を持って勤務できるようになりました。また、応援体制・協力体制が機能し始めたと実感しています。
――コロナクラスターなど、非常時で一番必要だと感じたことは何ですか?
今回の経験で感じたことは、やはり行政や医療機関、地域の法人との連携が必要なことです。法人や施設独自では到底太刀打ちできない状況が起こった際に、迅速に連携できる体制ができていないと今後の施設運営は厳しくなるのではと感じました。そのためにも、今回の経験を当法人内だけで共有するのではなく、他施設や地域にも伝えていきたいと思っています。実際に、同じ札幌市内の他法人からもクラスター発生時に「一度経験した職員を応援に出してほしい」といった声や、防護服着用の研修をしてほしいといった依頼なども増え、活かされ始めているのではないかと感じています。
また、災害が起こったときに地域の方の顔が見えていたら、すぐに助け合うことが出来るはずだと思います。知らなければ、手の差し伸べ方も、SOSの出し方も分からないままです。また、非常時に体制を整えるにも困難がつきものです。本当に大変なときに、お互いに手を差し伸べられる関係性づくりが今後必要ではないでしょうか。地域全体で医療・介護を支えていける体制づくりを今後もしていきたいですね。
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