新型コロナウイルスの感染拡大により、感染予防の観点から利用者様とご家族の面会や外出の制限が余儀なくされている中で、利用者様の要望を叶えられず困っている事業所も少なくありません。「介護付有料老人ホームみっかいち」では「テレビ電話」を使って、利用者様の「やりたい」を叶えています。導入後の工夫や、活用事例について、施設長の松原氏に話しを伺いました。

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プロフィール

利用者様の「やりたい!」を叶える、コロナ禍で実践したテレビ電話の活用方法-有限会社ウェルフェア三重-
松原 和之 様

有限会社ウェルフェア三重 介護付有料老人ホームみっかいち 施設長

1990~2008年、紳士服のアパレル会社にて勤務後、介護職員を目指し養成学校を経て、介護業界へ転身。特別養護老人ホームにて介護主任、生活相談員として従事。2015年現職であるウェルフェアグループへ入職し、「介護付有料老人ホームみっかいち」の施設長に着任。

コロナ禍で利用者様の「やりたい」を実現させたテレビ電話の活用

―― 「テレビ電話の活用」を始めることとなったきっかけは何でしたか?

当法人の方針は「利用者様の夢を叶えよう」というものでした。施設で生活を始めると、入居前までやっていたこと、やりたいと思っていたことを諦めることが多いと思います。だからこそ私たち職員がその「やりたい」を叶えるお手伝いをしようという考えで、例えば、入居前まで行っていた銭湯でお風呂に入りたい、数年に1度会えていた姉に会いたいなど、たくさんの利用者様の夢を叶える取り組みをしてきました。新型コロナウイルスの感染拡大により行動が制限され、実現できないことも多い状況で利用者様もストレスを感じ、元気のない方も多かったんです。

―― どのような流れで「テレビ電話の活用」を開始したのですか?

当社では2017年から県外に住んでいる利用者様のご家族向けに写真や動画の配信を始めていました。施設のLINEアカウントを友だち登録してイベントに参加する利用者様の様子などを写真や動画で撮影し、不定期で配信していました。

2020年3月、新型コロナウイルスの感染が拡大し、感染予防の観点から、面会を中止することになりました。私たちに何かできることはないかと考えた結果、県外にいる利用者様のご家族向けの配信サービスを、地域を問わず登録していただけるようにしました。ご家族に安心してもらう目的で配信した動画は、話をしている利用者様を撮影した動画で、1名の利用者様に対して週に1回30秒程にしたものでした。また、テレビ電話を希望される方は、LINE電話やZOOMを使用して、スタッフが利用者様の近くでスマートフォンやタブレットでつなげて会話ができるように対応し、スマートフォンを持っていない方は施設の外でタブレットを貸し出して、デレビ電話ができるように対応しました。

実は、本格的な「利用者様の『やりたい』を叶える『テレビ電話の活用』」のきっかけになったエピソードがあります。施設にある服と自宅の服を衣替えするため、毎年一時帰宅されいる利用者様がいました。2020年5月に入り、コロナの影響で衣替えが難しくなったのでご家族に服を持って来てもらいましたが、お気に入りの服がなかったようで利用者さまが落ち着かない様子でした。自分たちになにかできることはないか?と考えた結果、職員がご自宅に訪問し、利用者様とテレビ電話をしながら指示を出してもらうことにしました。お気に入りの服はありませんでしたが代わりとなる服が欲しいという利用者様のため、職員がお店で複数の服を並べてテレビ電話に映し、利用者様に選んでもらいました。欲しい服が手に入った利用者様は、よく笑ってくださるようになりました。

高齢の利用者様が外に出ることはかなりのリスクを伴いますが、私たち職員が感染に気をつけながらできることをしようと、施設全体でテレビ電話を使った取り組みを始めました。

▲テレビ電話で選んだ服を手にして嬉しそうな利用者様

―― テレビ電話の活用を進めていくためにどんなことを工夫しましたか?

工夫したことは2つありました。1つ目は、時間の調整を行ったことです。各利用者様の担当職員が利用者様の「やりたい」を実行するため、他の職員と協力して担当者が自由に動ける時間を作りました。人員に余裕をもった配置をしていたので、テレビ電話を活用するためのスタッフを新たに採用することなく、進められました。

2つ目は、スマートフォンを購入したことですね。施設内で使用していたスマートフォンは施設内のwi-fi環境のみで使用できる据え置き型だったため、外でもインターネットが使えるものを買いました。

利用者様の「やりたい!」を叶える、コロナ禍で実践したテレビ電話の活用方法-有限会社ウェルフェア三重-
▲自宅にいる猫の様子を確認している利用者様

さらに広がる「テレビ電話」の活用事例と利用者様の反応

―― テレビ電話を使った事例が他にあれば教えてください

衣替えは複数回対応しており、他には「飼っている猫に会いたい」という利用者様や「亡くなった奥様の仏壇を見せてあげたい」といったご家族のご要望に対応してきました。

「猫に会いたい」という利用者様の事例は、一時帰宅が難しい状況で猫がどうしているか心配で眠れない利用者様のために、職員が代わりに様子を見に行くというものでした。利用者様は施設でタブレットに映るの猫の動く様子を見て、安心した表情をされていました。

「亡くなった奥様の仏壇を見せてあげたい」というご家族の事例は、利用者様の奥様が亡くなられ、「奥様が亡くなったことをどう伝えるか悩んでいる」というものでした。利用者様は感染予防の観点からお葬式に列席が難しい状況だったので、ご家族と相談し、職員が自宅でテレビ電話をつないで利用者様に仏壇を見てもらうことにしました。利用者様は認知症を患っていらっしゃいましたが、奥様が亡くなったことを察した様子で奥様の思い出を話されて、画面越しに手を合わせました。

―― テレビ電話を活用するようになってから、利用者様の様子はどう変化しましたか?

猫の様子を確認できて心配事がなくなった利用者様は、以前のようによく眠れるようになり、日中も元気に過ごせるようになりました。また奥様が亡くなった利用者様は、ショックを受けパニック状態に陥ることなく、落ち着いて過ごされています。できないことが多い中、たとえ画面越しであっても、ご自身の目で見ていただいたことでやりたいことを体感できるようにしたことは本当に良かったと思っています。

「テレビ電話の活用」を通して感じた職員の変化と思わぬ気付き

―― 「テレビ電話の活用」を始めて職員に変化はありましたか?

5、6月とテレビ電話の活用事例は大小含めて10件ほどになりました。職員は利用者様の希望を叶えるお手伝いができず、活気がなかったのですが、やっとコロナ以前に戻りつつあります。手段は限られていても工夫すればできることもあると知り、利用者様との会話の中で出てきた「やりたい」を叶えるテレビ電話の活用方法をどんどん提案してくれます。利用者様やご家族に喜んでいただくことが職員のやりがいにつながっていると改めて実感しています。

また、2019年の春に『ケアコラボ』というツールを導入しました。これはスマートフォンやタブレット、パソコンにインストールして使う情報管理ツールで、利用者様一人ひとりの身体情報の蓄積、ケアプランの作成などができるというものです。コロナ禍でご家族に利用者様の様子を届けるため、共有範囲をご家族に広げました。すると、職員が記録した文章に対して、ご家族から感謝のコメントをいただくようになりました。ご家族からいただく言葉に職員はとても嬉しそうでした。

―― 『ケアコラボ』の導入後、どんな効果がありましたか?

「見える化」の大切さに気付くことができましたね。ここでいう「見える化」とは、「ご家族が利用者様のことを24時間知れること」を指します。施設は外から見えにくいため、閉鎖的に思われてしまうことが介護業界の課題となっています。ホームページには季節行事の開催やリクリエーションをブログ形式で掲載してきましたが、24時間利用者様の様子を知ってもらうことは難しいと思っていました。『ケアコラボ』の導入で、利用者様の状態がいつでも見れるため、ご家族の安心に繋がっていると感じています。

―― 「テレビ電話の活用」を始めて、新規の入居希望者数に変化はありましたか?

このテレビ電話を使った活用やケアコラボの取り組みについて、ネットニュースやブログなどで知った入居希望者のご家族から問い合わせが入るようになりました。ご家族のニーズは「入居後の目の届かない利用者様が心配。元気かどうか様子を知りたい」というものが多いです。利用者様の「やりたい」の実現や家族との面会ができるテレビ電話の活用と、24時間様子がわかる『ケアコラボ』は、そのニーズに応えられるものでした。

さらに広がる「テレビ電話の活用」

―― 今後考えているテレビ電話の取り組みはありますか?

コロナが終息しても「寝たきりの利用者様向け」にテレビ電話を活用していこうと思っています。寝たきりの利用者様のしたいことをテレビ電話で疑似体験してもらおうというものです。当施設には認知症じゃないのに身体的な機能が衰えてしまったことで寝たきりで外に出かけられないという方がいらっしゃるんです。「買い物に行きたい」「自宅に帰りたい」などのやりたいことを、テレビ電話の活用を継続して、ベッド上から願いを叶えていけたらと考えています。

コロナ禍の状況でも利用者様の「やりたい」を引き出して、テレビ電話の活用を通して叶えられたという体験は、利用者様やご家族だけでなく、職員にとっても大きな喜びでした。そして、以前からあった利用者様やご家族からの「見える化」というニーズを再認識できました。この先違う困難に直面しても、その中でできる最大限のことを考え、実行していきたいです。

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