介護施設のニーズが年々高くなっている世の中で、事業を拡大していこうとしている企業は少なくありません。そんな企業にとって、人材の採用や育成は重要な問題です。今回インタビューした「ガゼル株式会社」でもこれらの問題を抱えていました。新しい事業所の展開による人員確保に伴って、教育体制と環境の整備が必要でした。その問題を解決すべく、2015年から2020年にかけて行った『五十六計画』という組織改革について、同社の代表取締役社長・名小路氏に詳しい話を伺いました。

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プロフィール

人材育成と働き方改革を目標に取り組んだ組織改革 ~五十六計画とは~
名小路 淳 様

ガゼル株式会社 代表取締役社長

2006年、ガゼル株式会社設立。広告代理店事業とイベント事業を展開。2009年、リーマン・ショックによる大打撃の状況下で、デイサービスを営む人物と知り合う。手伝いで参加したレクリエーションをきっかけに、人を笑顔にでき「ありがとう」の言葉をいただける介護の仕事に魅了され、2010年、介護事業へ参入することになる。2015年、デイサービスから老人ホーム中心の事業形態に方向転換を図ると同時に、組織の改革に乗り出す。現在、2つのデイサービスに加え、5つのナーシングホーム、複数の訪問看護・訪問介護事業を運営している。

働く環境の整備が組織改革の鍵

―― 組織の改革をすることとなったきっかけは何でしたか?

多店舗展開のため、60名以上人員を増やす計画をしたことがきっかけです。当時の組織体制は、事業所の展開エリアを2つに分けた「ブロック体制」で、まるで別会社のようになっていました。会社として統一した教育方法やマニュアルがなく、職員の教育体制、勤務時間、給与などの基準を各施設に任せていたんです。統一感のない組織のまま、新たなメンバーを受け入れたら運営に支障が出てくると感じ、組織を一新することを決意しました。

各施設でシフトや給与の基準が異なっており、職員がどれくらいシフトの融通が利くか、どんな経験をしてきたのかによって給与を各施設で決めていました。そのため、人手が足りない時間帯を埋めてくれる人を優先するような採用をしたこともあったんです。そのせいか「同じ正職員のAさんは夜勤免除されている。自分も夜勤はしたくなかったのに、私の採用時は正職員になるためには人数的に夜勤をしなければならなかった」といった、夜勤手当はもらえるものの、採用の仕方について不満を漏らす職員もいました。

また、利用者様に熱い想いを持つ職員は多いですが、自分自身のキャリアに対しての意識は低い人が多く、自分の将来像をしっかり思い描く人は少ない状況でした。

―― なるほど。組織の改革には何が必要だと考えましたか?

まずは一体感のある組織をつくること。そして、職員にとって働きやすい環境を整えることが必要でした。具体的には、会社理念の浸透、働き方と給与基準の見直し、成長意欲が高まる制度の新設、基準となる教育方法を定めることです。

人材育成と働き方改革を目標に取り組んだ組織改革 ~五十六計画とは~
▲理念研修では「人として在るべき姿」を伝えている

組織を一新させた『五十六計画』

―― 『五十六計画』とはどのような計画ですか?

2015年から56ヶ月をかけて会社を一体感のある組織へ変えたいと進めてきた計画で、我々は『五十六計画』と名付けています。名前の由来は「真珠湾攻撃」や「ミッドウェイ海戦」を指揮し、言葉や思想で軍隊を統率した元帥海軍大将・山本五十六の名前から来ているんです。彼の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ」という言葉を計画のモットーにしながら、自社の課題を中長期的に改善していくことにしました。

―― 「会社理念の浸透」のためにどのような取り組みを行いましたか?

私は介護事業を開始した際に「人として在るべき姿」を決め、これを基に行動指針や基本理念をつくりました。「人として在るべき姿」とは、「当たり前のことほど一生懸命やろう」、「人とすれ違うときには挨拶をしよう」など、私が思う人に対する考え方です。

入社時はどのスタッフも意識していたと思いますが、日々の業務に追われれば、その心構えができなくなってくることもあります。そういった状況が続けば、相手を配慮することや、チームワークを大切にした言動ができなくなり、弱い組織になってしまいます。スタッフ全員が基本理念に立ち返って、日々意識しながら仕事に取り組んでほしいという想いから、各施設を回って「理念研修」を行い、私の口からしっかりと全職員に伝えるようにしました。

伝えた内容は、主に会社の行動指針や基本理念で、行動指針は「人に頼られ、人の役に立ち、人に感謝され、そして愛される」です。行動指針に通ずる基本理念の5つは「素直と感謝の気持ちを常に持つ」「凡事徹底する」「出来るためにはどうするか常に考え行動する」「相互依存を目指し相手を理解してから理解される事」「責任者として参加する(被害者で傍観者にならない)」というものです。相手を尊重したり、主体的に向上心を持って取り組んだりできるのが弊社が考える人としての在り方です。

「理念研修」は現在、理念の理解が深い3名のスタッフが「理念マイスター」として半年に一度フォローアップ研修を開き、伝えてくれています。

―― 「働き方と給与基準の見直し」とはどのような取り組みでしたか?

働き方改革として「正職員の勤務体系を細分化」させ、働き方による給与の基準を定めました。それまでは常勤と非常勤のみでしたが、常勤の働き方を総合職、専門職、準社員という3つの雇用形態に分けました。常勤を細かく分けた理由は、時間的制約のある人でも給与に差を設けて常勤として雇用ができるようにしたかったからです。また、条件に満たなかった人でも非常勤として受け入れています。

総合職は将来的に施設長やリーダーへキャリアアップしたい人向けで、フルシフトで働け、異動をしながら様々な施設を経験していきます。専門職は施設異動はなく、終末期を迎えた利用者様のターミナルケアまで携わり、寄り添ったケアをしたい人向けです。さらに、変形労働制を用い、週40時間勤務の2つのシフトから選択が可能なため、「夜勤シフトのみや、早番シフトのみしか働けない」という希望をすることもできます。ワークライフバランスを重視した働き方が可能です。準職員はワークライフバランスを重視しながらも更に限定的な働き方をしたい人向けで、夜勤専従や1日6時間の時短勤務ができます。

シフトの希望を伝えられる専門職や準社員は、総合職との給与に差はありますが、正職員としてしっかりと月収、賞与を支給します。この働き方による給与の差を職員に伝えました。

また、その他の福利厚生面も整え保育費の補助をする保育制度、家賃の補助をする社宅制度、退職金制度を整えました。

―― 「成長意欲を高めるために設けた制度」とはどのような制度でしたか?

職員には目標を持って取り組んでもらいたいという思いから、2つのことを実行しました。

1つ目は、「資格支援制度」です。社会福祉士及び介護福祉士法の改正により介護福祉士国家試験の受験資格に、実務者研修の修了が含まれるようになったことで、社会福祉学校と連携しアカデミーを開校しました。働きながら実務者研修の資格が取得できるので、スキルアップをしていきたい職員の後押しが出来るようにしました。

2つ目は、「目標管理制度」です。利用者様への思いだけではなく、自分の将来のために向上心を持って仕事に取り組んで欲しいことから「目標管理制度」を取り入れました。理念研修や面談を繰り返し、半年後、1年後、3年後・・・・・・資格取得したい、管理者になりたいなど、自分がどうなっていたいのかを人財育成室を中心に一緒に考えました。

―― 事業拡大による増員が必要だったとのことですが、人材の確保やフォローアップに対して行った取り組みはありますか?

人材確保に関しては「会社説明会」を実施することにしました。以前の選考は面接のみでしたが、説明会で会社のことを十分に知ってから面接にきてもらおうという狙いです。説明会では、施設案内はもちろん、できる限り私の口から会社の理念や事業、制度について説明しています。さらに、施設長との座談会の時間を設け、入職前の不安をなくすように努めています。また、理念を基にした会社の求める人物像を定めて、採用基準を統一化しました。新卒の採用を計画していたこともあり、徐々に成長していける研修カリキュラムを作成しました。各事業所の雰囲気を感じてもらための見学会、社会人マナーや介助技術に関する講義、人事との面談が主なものでした。

『五十六計画』による職員と応募者の変化を実感。そして新たに始まる5年計画

―― 『五十六計画』の実行でどのような効果が感じられましたか?

5年間の中で徐々に開始していった施策も多いので、まだまだ効果としては検証段階ですが、大きくは2つの効果を体感しています。

1つ目は、職員の変化です。「理念研修」を行いながら、「資格支援制度」や「目標管理制度」を進めたことで、仕事のモチベーションが利用者様だけでなく、自身の成長にもつながってきています。業務を通して自身のキャリアを思い描き、それを行動に移すようになってきていると感じています。また、「働き方改革」によって給与がルール化されたことで不平等を訴える職員が出なくなりました。育休産休後も働き方を変えて復職し、プライベートと両立しながら勤務してくれています。

2つ目は、応募者の変化です。以前は、待遇面がマッチするから応募したという求職者が大半でしたが、常勤の種類を細分化したことで、管理職を目指すキャリア思考の方や、正職員を希望しているけどフルシフトでは働けない主婦層など、転職者が応募をする理由が変化しました。さらに、「会社説明会」の実施により、面接の時点で「入社意向が強い」求職者が応募するという質の変化もあります。会社の理念や方針を理解し、それに共感してくれた求職者が増えたので早期離職の防止にもつながっていると考えています。

―― 今後の展望について教えてください。

さらに施設展開を予定しており、職員を300名まで増員していきます。2020年3月末で56ヶ月となり、『五十六計画』の節目を迎えました。第二弾として『ガゼルガイド~2025~』という計画を考えています。より良い組織を目指した、5年間の新たな改革です。

その計画の1つである「キャリアポータビリティ制度」は既に2020年4月から開始しています。『五十六計画』での働き方改革は、働き方に応じて給与を変えるというものでしたが、『ガゼルガイド~2025~』では、既存の職員に対しては、個人の経験や能力に見合う賃金を定め、勤続年数や年功序列で昇給するのではなく、個人の職能を評価して給与を支払うようにしました。また、4月以降に入職した中途職員に対しても今までの経験やキャリアを評価して給与に反映させるようにしました。自分に対する評価がわかるので、どこのレベルを目指して何をするべきか、明確にすることができます。

もう一つは教育面の強化です。サーバント・リーダーシップがあるリーダーを育てたいと考えています。従来のような「人々をまとめて引っ張る力」でなく、今求められているのは「周囲に奉仕の心で自分の時間や知識を与え、信頼を築き、成長させる力」です。このような人物を育てる新たな教育カリキュラムを作り始めています。

これまでの5年間は試行錯誤の繰り返しでした。私には介護事業を始めたときからの想いが2つあります。「この会社で働けて良かった」と職員やその家族に思ってもらうこと、そして、介護業界で働く人の地位を向上させることです。これからの5年間も個人のスキルアップを目指し、インプットができる環境を整え、質を高めていきたいと考えています。名古屋一の会社に成長させ、作り上げたノウハウを広め、介護業界を盛り上げていきたいです。

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