ほかの施設に先駆けて、インドネシア人のEPA介護福祉士候補者を受け入れている特別養護老人ホームながまち荘。地方都市で外国人採用を行う施設のモデルケースになりたいと語る奥原さんに、受け入れのノウハウや今後のビジョンについて伺うとともに、現場で働くEPA介護福祉士のアグス様にお話をお聞きしました。

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プロフィール

外国人介護人材の採用で実現する新しい“国際貢献のあり方” -社会福祉法人恩賜財団済生会支部山形県済生会 特別養護老人ホームながまち荘-
奥原 信 様

社会福祉法人恩賜財団済生会支部山形県済生会 特別養護老人ホームながまち荘 生活相談員

大学卒業後、知的障害者入所更生施設(現:障害者支援施設)職員等を経て、2016年に社会福祉法人恩賜財団済生会支部山形県済生会特別養護老人ホームながまち荘に入職。外国人の受け入れ業務に携わっている。

これから高齢化を迎える国に対して、私たちに何ができるか

——インドネシア人のEPA介護福祉士候補者の受け入れを始めたきっかけを教えてください。

ながまち荘が外国人人材の受け入れを始めた理由の一つが「国際貢献・国際交流」です。施設の方針として、新たな介護の進むべき方向を示した「国際介護力」「改善介護力」「貢献介護力」の「新3K」があり、その中の取り組みとして、国際貢献にも力を入れています。

今でこそ「外国人の採用=人材不足を埋めるためのもの」というイメージがあるかもしれませんが、私たちがインドネシア人職員の受け入れを始めた10年ほど前、介護業界の人材不足はそこまで深刻ではありませんでした。

私たちが介護福祉士候補者の受け入れを行っているインドネシアは高齢化が進む日本に比べて、若い人が多い国です。私の前任者が視察に行った当時、インドネシアでは「介護」という概念は確立されておらず、高齢者の方は病院で看護の一部として介護を受けている状態でした。私たちがほかの国のために何ができるかを考えたとき、インドネシアのような高齢化が進んでいない国に対して、長い歴史の中で積み重ねてきた日本の介護のノウハウを伝えることが、1つの国際貢献になるのではないかと思いました。

EPA(経済連携協定)は経済交流の一環として、2国間協定に基づいて海外から介護福祉士候補者を受け入れるもので、国家資格を取得するまでに在留できる期間は原則4年と限られています。国家資格を取って日本で働き続けてもらう道がある一方、ながまち荘で身に付けた知識や技術を母国に持ち帰って、インドネシアの高齢化に役立ててもらえるのであれば、私たちもそれを応援したいと考えています。

——受け入れる側としての良さはどんなところでしょうか?

受け入れにあたって「外国人の職員を育てる過程で、教える側の日本人職員も育てられる」ところです。「教える」ということは自分自身に確かな知識や技術がなければできない行為です。ましてや外国人の職員に教えるとなればなおさら分かりやすく、平易な言葉で伝えることが求められます。

例えば利用者さまに車いすからベッドに移っていただく、移乗の介助1つをとっても、自分のやり方に間違いはないか確認しながら、「どんな言葉を使えばよりよく伝わるのか」考えていく。この行為自体が自身の仕事のあり方を振り返り、学び直すことにもつながります。

日本人職員の指導者としてのスキルが上げれば、外国人だけでなく日本人の未経験者や障がいのある方を受け入れるときにも役に立ちますし、外国人の方用にふりがなをふった業務のマニュアルは、障がいのある方にも共通して使えるはずです。こういった教える側の副次的な効果は、受け入れを開始する時点からすでに考えていました。

——受け入れる候補者はどのように決めているのですか?

受け入れを開始した2009年当初は、国際厚生事業団が持つ介護福祉士候補者のリストをもとに日本語スキル、経歴を重視して申し込みしていました。当時の介護業界では外国人人材を採用している施設が少なかったので、すんなりと決まっていた印象です。

2回目の受け入れをした2015年になると、少しずつ外国人人材のニーズも高まり、受け入れを希望する施設も増えてきました。その頃には初回に受け入れた職員のうち1人が家庭の事情で帰国して現地で日本語教育を始めていたため、2015年以降はその方を介して、介護職を志す大学の後輩を推薦してもらっています。

元職員がこれまでの自分の経験から、ながまち荘のいいところも悪いところも含めて伝えたうえで、入職を希望する方を紹介してくれるので、双方にとってギャップが少なく、理想的な仕組みだと思っていますね。ながまち荘では、この仕組みを活用しながらこれまで合計10名の職員を受け入れ、国家試験を受験した4名のうち3名が介護福祉士に合格し、うち1名は家族の事情で帰国しています。
EPAの締結から10年が経つ今、アジア諸国は経済発展を遂げており、日本に渡ろうとする若者たちの中には「一度日本で働いてみたい」「高い給料が魅力」といった気持ちでEPA介護福祉士候補者に応募してくる人も少なくないと言われています。しかし、私たちが探しているのは、人材不足を埋める「駒」ではなく、共に利用者さまの暮らしを創る「人」です。介護職を志す仲間として、質の高い介護を提供するために働いてくれる人材を確保するために、ネットワークを構築していく力はとても重要だと思います。

異国の地で頑張る職員を、精神面からもサポート

——入職後はどのように教育していますか?

ほかの日本人職員と同じようにまず現場に入って、日本人のプリセプターの指導のもと、業務を覚えてもらうようにしています。そもそもEPA介護福祉士候補者になるためのハードルは高く、自国での候補者条件をクリアしたうえで、基本的な日本語能力を理解することができるN4程度以上の日本語能力を取得し、訪日前に6か月間、訪日後にも6か月間の研修を受けるよう義務付けられています。ある程度の能力は持った状態で入職してくるので、改めて介護や日本語の研修期間は設けていません。

教育するうえでは、日本人のプリセプターだけではコミュニケーションの面で難しいところもあるので、プリセプターのほかにインドネシア人の先輩職員を相談役として就けています。日本語で伝わりにくい表現については、先輩職員が間に入って通訳し、細かいニュアンスを含め正確に伝えてくれますからとても心強いです。

ほかに、メンタル面のサポートのために、インドネシア協会の方にも来ていただいて、候補者が母国語で相談できる機会を設けていますね。もし候補者が悩んでいることがあるようであれば早めに共有して、施設側としても問題が大きくならないうちにサポートできるようにしています。周りに友達や家族がいない環境のもと、1人異国の地で頑張っている候補者にとって、精神面のフォローは何より大切だと思っています。

——介護福祉士の資格取得のためのサポートは行っていますか?

介護福祉士の受験資格には3年以上の実務経験が必要なので、個々のレベルに合わせてしっかりと指導して一人前の業務ができるようになっていただきます。3年目からは介護福祉士の受験対策のために外部講師をお招きして、週2回、各2時間の出前講座をしてもらっています。
介護福祉士の国家試験は、言語の違いによるハンデとして、外国人国籍の方には問題用紙のふりがなの付記が認められているほか、EPA介護福祉士候補者のみ筆記試験の時間延長も可能ですが、基本的には日本人と同じ問題を受けることになります。ですので、日本語教育にはとても力を入れていますね。日本語教育については、入職1年目から外部講師に来ていただいて、週1~2回、各2時間実施しています。会話では上手にやりとりできている職員でも読み・書きが苦手だったり、例えば二重否定の「できなくない」といった遠回しな表現が分からなかったりする場合があります。そのため、個々の学習レベルをしっかり分析してじっくり教育していきます。

国籍の差に捉われず、1人の人間として価値観を尊重する

——受け入れにあたって配慮したことは何ですか?

インドネシアの文化・習慣を理解・尊重し、思いやりの心をもって接することです。特に心のよりどころである宗教に対する理解・尊重することを大切にしています。

インドネシアではイスラム教を信仰している方が多数派です。イスラム教の教えには、お祈りや「ラマダーン」といわれる断食の習慣がありますし、食事でも食べていいもの(ハラール)といけないものが決まっています。例えばイスラム教徒の方は断食の期間中、日中は水分も含めて飲食は一切できませんが、そんな中でも職員に入浴介助をお願いしなければならない場合があります。そのような時は、体調は崩さないように職員の健康状態には常に気を配っていますね。

また、イスラム教徒と一口にいっても、お祈りの頻度など宗教観には個人差もあります。人種や国籍によって画一的に判断するのではなく、一人ひとりとじっくり話をして、それぞれに合った対応をすることが大事だと考えています。

——入居者様やほかの日本人職員からの反応はいかがでしたか?

とにかく評判がいいです。勤勉で根が優しい職員ばかりです。例えば利用者様の排泄介助をするときもいつも穏やかな表情で「気持ち悪かったでしょう」「大変でしたね」という言葉が自然と出てくるんです。利用者様にもかわいがっていただいていますし、ご家族や地域の方も彼らの介護福祉士受験を応援してくださっていて、試験のあとは新聞記事を見て「おめでとう」とお祝いの言葉をいただきました。
ほかの日本人職員も皆インドネシア人職員が頑張っている姿を温かく見守ってくれています。教育に携わっている者に関しては、最初は「どうして伝わらないんだろう?」と模索していましたが、試行錯誤していく過程でたくさんのことを学び、教える側の人間として成長して視野の広い人間になっている姿を見るとうれしく思います。

外国人介護人材の採用で実現する新しい“国際貢献のあり方” -社会福祉法人恩賜財団済生会支部山形県済生会 特別養護老人ホームながまち荘-
▲インドネシア人職員の優しさがにじみ出る対応は利用者さまからも好評です

地方都市の中での外国人採用のモデルケースを目指して

——介護福祉士候補者の方のキャリアパスについてはどのように考えていますか?

ほかの施設でも共通して言えることですが、EPA介護福祉士候補者として、日本に滞在できる4年間の間に介護福祉士の国家資格を取得してもらうのが一番の目標です。介護福祉士の資格を手にした先にどうするのかについては、これからいろんな道が開けていくと思いますし、法人としても支援していきます。

現在、介護福祉士の資格を取得した1名が、同法人の山形済生病院に介護福祉士として在籍出向しています。これは出入国在留管理局等に問い合わせても「初めて聞きました」と言われるほど、珍しいケースのようです。インドネシアの介護のこれからを鑑みたとき、職員が病院で日本の医療と福祉の連携を勉強できるのは、非常に有意義なことだと感じています。病院側としても、「外国人介護福祉士が日本の病院で働く」ことへの理解を深めるきっかけになると思うので、今後新たに介護福祉士の合格者が出た際も、病院との連携は図っていきたいと思っていますね。

また最近では、山形県内でもEPA介護福祉士候補者をはじめとした外国人の受け入れを始める事業所が、増えてきています。法人内のみならずほかの事業所とも交流を持ち、ながまち荘での経験を発信していくことで、何か役に立てることがあるのではないかと思い、新たな取り組みを準備しているところです。

——外国人人材の受け入れについて今後のビジョンを教えてください。

ながまち荘としては、引き続きEPA介護福祉士候補者の受け入れは継続しつつ、情勢の変化に合わせて、技能実習生や特定技能外国人などほかの制度についても視野を広げて研究していくつもりです。
EPAの受け入れ開始から10年以上が経った今、介護福祉士候補者の受け入れのノウハウも蓄積されてきました。ゆくゆくは、大都市圏だけではなく、地方都市で介護福祉士候補者の受け入れを成功させたモデルケースとなり得るよう努めるとともに、外国人が地域の中で就労しながら地域に定着できるような支援も行っていきたいと考えています。

EPA介護福祉士より

外国人介護人材の採用で実現する新しい“国際貢献のあり方” -社会福祉法人恩賜財団済生会支部山形県済生会 特別養護老人ホームながまち荘-
アグス トリヤント様

EPA介護福祉士

インドネシア共和国中部ジャワ出身。スティックモハマディアゴンボン大学卒業。2015年12月に特別養護老人ホームながまち荘に入職。2020年に介護福祉士の資格を取得している。2020年4月から山形県済生会正職員(介護福祉士)として引き続きながまち荘に勤務中。

インドネシアの介護分野の発展に貢献したい

私が介護職を志したのは、高齢者のお世話をするのが好きだったからです。インドネシアには介護の仕事はあまりありませんが、大学の先輩から介護のことやながまち荘のことを教えてもらいました。「みんな優しくていい施設だよ」と聞いて、興味を持ちましたね。すでに日本語は勉強していたのですが、入職してみると方言の違いがあったり、気候もインドネシアよりも寒かったりと戸惑うこともありましたが、周りの方がとても親切にしてくださいました。今では母国の妹にもながまち荘のことを紹介して、一緒に働いています。これまで大変だったのは、介護福祉士の資格を取ることです。週2回2時間ほど、施設で授業を受けるほかに、自分でも勉強の時間を確保していました。朝10時開始の勤務だったら、だいたい朝3時、4時くらいから6時、7時くらいまで勉強して、1時間休憩してから9時までまた勉強していたので、資格取得までにはかなり苦労しています。今後はまず日本語のN1の資格と看護師の資格を取ることが目標です。将来的にはながまち荘で学んだことを活かして、インドネシアで介護施設を建てたいと思っています。

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