「オペレーションの模範となる」、「業界の行く末を担う先導者となる」という理念のもと、2007年から都内で福祉施設運営を展開している社会福祉法人善光会。同法人では、「サンタフェ総合研究所」を設立し業務の効率化や質の高いサービスの提供を行うべく、法人内施設での介護ロボット導入やICT化の取り組みを行ってきました。導入後の効果や改善点、今後介護現場で必要な事や展望をサンタフェ総合研究所の所長松村様にお話をお伺いしました。

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プロフィール

松村昌哉様社会福祉法人善光会 サンタフェ総合研究所所長
松村 昌哉 様

社会福祉法人善光会 サンタフェ総合研究所 所長

2012年企画職として同法人へ入社し、さまざまな企画運営をするかたわら介護業務を担当。業務改善、テクノロジー導入やハイブリッド特養プロジェクトにも参加し、2017年サンタフェ総合研究所の立ち上げから責任者として事業を運営。

介護業界に感じる課題感・取り組みのきっかけとは

ーー法人として介護ロボットの導入やICT化の取り組みを始めたきっかけは何ですか?

社会福祉法人善光会は設立当初から、「オペレーションの模範となる」、「業界の行く末を担う先導者になる」という経営理念を掲げています。これは、業務効率の改善や質の高いサービス提供を追求し、介護業界におけるモデルとなる事業を目指すことを意味しています。介護ロボットの導入やICT化は、あくまで効率と品質の向上を図るための一つのツールとして取り組んできました。

ーー取り組みを始めるにあたっての課題はありましたか?

法人というよりも、介護業界全体での課題は感じていましたね。介護業界では「人の手で温かみのある介護を提供する」ということのみが尊重されており、「生産性」や「持続可能性」には重きをおかない風潮があります。それゆえに業務の非効率な部分が業界内にも蔓延しているのではないかと感じ、それを打破できるようなオペレーションモデルをつくらなければいけないという考えに至りました。特定の大きな課題に対して問題を解決するというよりも、業界全体をよりよくしていきたいと思っています。

ーー実際の取り組み内容を教えてください。

一番初めの取り組みとしては「介護施設での介護ロボットの活用法」を協同研究するため、CYBERDYNE株式会社(サイバーダイン)・都内大学・当法人の3社にてプログラムを設計し、2009年にロボットスーツHALを法人内の介護施設で初めて導入しました。その後、そうした取り組みを加速させるため2015年に立ち上げた「ハイブリッド特別養護老人ホームプロジェクト」を現在まで継続しており、2013年にテクノロジーに関する部門を1つに集約するため、現在の介護ロボット・人工知能研究室の前身となる介護ロボット研究室を立ち上げました。

ーーハイブリッド特別養護老人ホームプロジェクトとはどういったものですか?

当法人の特養内の特定フロアやユニットにて、集中的に介護ロボットを導入し検証していくプロジェクトです。介護オペレーションを詳細に分析し、ロボット機器が業務のカバーできる部分を検証していきます。これまでにも詳細計画を定め、効率的に機器利用を実施してきました。いいものについては他の施設へも展開しています。今までに約130種類もの介護ロボットを試し、現在では約20種類を本格的に導入しています。

■取り組みのなかで見えてきた効果とは

ーーさまざまな介護ロボットなどの取り組みに対する、現場からの反応はいかがでしたか?

導入プロセスや意思決定プロセスは職位に関係なく、上から下まで全ての職員が参画しています。そのため、課題感のすり合わせやロボットの使い方などはとてもスムーズに対応できていました。導入にあたっての不満の声などはなく、逆に「こうしたほうがいいのでは?」と前向きな意見もでてきています。職員間での意識差がすごく少ないというのが当法人の特徴かなとも思っています。そのため何事にもチャレンジしやすい環境だと感じています。

ーー取り組みの効果は具体的にどのようなことがありましたか?

介護の質を担保しながら生産性を高めることを実現しました。具体的には、ハイブリッド特別養護老人ホームプロジェクトの立ち上げ当初目標としていた「介護職員の業務25%削減」を大きくクリアしています。また、2015年に1.8対1だった介護職員の配置が、2019年には2.9対1で運営できるオペレーションを確立しました。業務のオペレーション改善がどの部分で必要かを確認し、ソリューションとして適切な介護ロボットが何かを考えて導入を進めていきました。

▲実際にロボットスーツHALを着用して介護業務を行っている。

サンタフェ研究所の役割とは

ーー2017年にサンタフェ総合研究所を開設した背景は何でしょうか?

今まで法人内で蓄積してきた介護ロボットの導入やICT化のノウハウを、業界内外問わず広く浸透させていくような活動をすべきではないかと考え、東京都から公益事業の認可を受けてサンタフェ総合研究所を設立しました。これまでの介護ロボット研究室の取り組みや「ハイブリッド特養プロジェクト」で実施してきたロボット導入後の効果や改善点を機器開発メーカーへ的確にフィードバックができるようになったのもきっかけの1つですね。現在では共同開発のお声をいただいたり、介護事業所からもコンサルティングの依頼をいただいたり、ノウハウを共有していく事業として展開しています。

ーー現在はどんな活動に取り組まれていますか?

介護ロボットの集中導入により得られた知見を活かし、現在は2つの事業に特に力を入れて取り組んでいます。1つ目は介護ロボットの運用ができる人材育成のための『スマート介護士』事業、2つ目は介護福祉事業者向け情報管理システム『スマート介護プラットフォーム”Smart Care Operating Platform”(略称「SCOP」)』です。どちらも、今後必要となってくるソリューションの1つと位置づけています。

ーー「スマート介護士資格」とは具体的にどのようなものでしょうか?

「介護現場において質と効率の高いサービス設計ができる人材を育成する」事業です。もともとは法人内の研修がもとになった事業です。介護の現場では、1対1ではなく1対多数で介護をしていかなければなりません。いかに少ない人数で質の高いケアを提供するかが大事になっていきます。そうしたなかで、今後は介護ロボットやICT機器を使いこなし、介護の質向上と介護業務の効率化ができる介護士が必要になると考え資格を設計しました。資格にはBasic(初級)、Expert(中級)の資格試験と、専門学校等におけるBiginner(入門)講座を実施しています。今後はスマート介護士の育成者を育てるためのProfessional(上級)講座をリリース予定です。

ーー「SCOP」(スコップ)についても教えてください。

介護に関するデータを1つにまとめて解析し、誰でも都度確認でき業務に合わせて対応できる情報プラットホームです。もともと介護業界は情報取得コストが高い業界だと思っています。原因は、職種によって目的や役割が明確に分かれており、情報入力のツールがバラバラなことです。さらに言えば、細かな利用者様の変化に気づき、それを言語化するのが苦手な方も多いです。そういった問題も踏まえて、情報の粒度を統一し、それぞれ用途によって使い分け、複数のステークホルダーが混在する業界でほしい情報がほしい形で出入力や管理ができるものとしてSCOPを開発しました。

ーー「SCOP」(スコップ)にはどのような種類がありますか?

SCOP Home(スコップホーム)はiPad用のアプリケーションです。誰でも簡単に情報入力・閲覧をすることができ、記録・申送り業務の負担を削減する介護記録アプリです。SCOP Now(スコップナウ)は複数のIoT機器からの情報を集約し、一つのインターフェースで管理可能にするアプリです。iPhone向けのアプリなのでいつでもどこでも確認ができます。SCOP Online(スコップオンライン)は、SCOP HomeやSCOP Nowとも連携し、データ管理やデータ分析機能を持ち合わせたWebアプリケーションです。管理者が管理を一元化できるため施設ごとの状況に合わせた効果的な運用が可能です。今後は、音声によって介護記録を入力できるSCOP Voice(スコップボイス)をローンチ予定です。

これからの介護業界のために

ーー今後取り組もうとしていることはありますか?

介護の成果をスコアリングできる仕組みを実装しようと考えています。利用者様が介護施設を選ぶ際の基準を作成したり、施設全体だけでなくフロアやユニット毎に強み弱みを明確にし、管理者が施設全体の状況を把握した上で人事評価を考えられるようになったり、職員の仕事の評価にも活用できると考えています。介護の成果・アウトカムをより定量的に表現し、職員のモチベーションの向上にもつなげていきたいですね。

ーー今後の展望を教えてください。

日本は世界に先駆けて高齢化が進んでおり、高齢化した先進国における介護サービスモデルになるはずではと考えています。そのモデルを私たちが先駆けできればうれしいなと思いますし、スマート介護士やSCOPがもっと広まれば、よりよい業界になるのではないかなと思います。モデル構築をしたのちに、海外の国々に展開していくようなことができればいいですね。

▲SCOPの使用により、介護記録の確認や相談業務を効率よく行うことができている。

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