介護の技能実習制度のパイオニアであり、モデル施設として業界内から多くの注目を集めている社会福祉法人平心会。視察者も数多く訪れる同法人にて、技能実習生の採用を担当する米澤さんに、技能実習生の受け入れについてお話を伺いました。

プロフィール

米澤 成浩 様

社会福祉法人 平心会 理事/企画推進部 部長

デイサービス及び在宅部門全体の統括を経験した後同法人の採用に携わる。人材企業の経験を生かし、2年間で約160人の職員採用を行う。

怪我の功名が現場の受け入れ態勢を促した

——技能実習生の採用を始めたきっかけを教えてください。

これまでも国籍問わず日本語のコニュニケーションに問題がなければ、在日外国人の採用は普通に行っていましたが、今年の1月から3名のベトナム人介護技能実習生の受け入れを開始しました。きっかけは、当時の理事が経営する建設会社に理事長が訪問した際に目にした、ベトナム人実習生の働く姿に感銘を受けたことでした。挨拶も笑顔も非常に素晴らしかったのですが、建設会社の方に話を伺うと、勤務態度も非常に良く仕事に対しても意欲的だということで、むしろ我々が実習生から学ばなければならないことがたくさんあると思いました。

当時は介護職で技能実習生の制度が始まる前だったのですが、介護技能実習生が受け入れ可能となった場合にいち早く動けるよう監理団体の選定等を開始し、ホーチミンにある送り出し機関の現地視察を行いました。制度としては、EPAは既に介護福祉士候補者の受け入れは始まっていましたが、きっかけが技能実習でしたので自然と技能実習生の採用を進めることになりました。

——現場の反応はいかがでしたか?

反対は全くなかったのですが、「どこまで日本語ができるんだろう」「どういう人が来るんだろう」という不安感は若干ありました。最初から現場を巻き込むことが大事だと思っていたので、現場で実際に仕事を教える女性リーダーにも同行してもらってベトナムで面接を行いました。彼女も自分で面接した責任感を持って取り組んでくれていますので、現場との橋渡し役になってくれました。

あとは、技能実習制度の法整備に時間がかかったことで運用開始が半年遅れたことが結果的にプラスに転じました。初めての介護の技能実習生制度を是が非でも成功させたい気持ちと、何より法整備が整うのを待ってでも平心会に入りたいと言ってくれた実習生のためにも、ベトナムの送り出し機関と協議し、受け入れ開始前に内定者3名に2週間来日してもらう機会を作りました。その2週間で職場見学や職員との食事会、日本観光などを行なったことで、現場からの受け入れに対するネガティブな印象が一掃され、早く一緒に働きたいという声が多く挙がるようになりました。遅延した期間で多く日本語を勉強する時間ができたので、入職してから1年以内に取らなければいけない日本語レベルを習得した状態で入社することもできました。

——面接時に見ているポイントは何ですか?

ベトナムでは9名面接しましたが、面接の時はみんなほとんど日本語ができないので、わからないなりにも無理矢理日本語で返答しようとする気構えがあるか、笑顔が良いか、というところしか見ていません。

あとは、日本の受け入れ団体に言われて、紙とハサミとテープを渡し、制限時間内にこちらが指示した通りに立方体を作成してもらう試験をしています。これにより、「業務指示に対して何を優先しているか」を見極めています。時間制限内に寸法通りに作成できる人、時間制限内で完成させることを優先して寸法を間違える人、時間制限内で完成できかったが寸法通りに作成しようとした人、時間制限内で完成できず寸法も間違える人の4パターンに分かれるのですが、当法人では「寸法通りに作成しようとしているか」というポイントを大切にしています。

日本人はしっかり時間内に寸法通りやろうとするんですが、外国の方は許容範囲が少し違うんですよ。同じ立方体であれば多少形が違っても大体一緒、時間通りできれば大体一緒、というように指示の受け止め方に違いがあるんです。個人的には自由な発想でも良いと思ってますが、介護現場においては指示通りにできるか否かが利用者様の安全に大きく関わることなので、指示を正しく全うすることが重要なんだということがよくわかったんです。

△事前来日した際、着物を来て浅草観光する技能実習生。

人種や国籍の違いではなく、個人差として捉える

——技能実習生を受け入れるにあたり、どんな準備をされましたか?

最初は受け入れる施設の職員を集めて、ベトナム文化全般の勉強会しようかとか、紙を配ろうとか、色々考えていました。だけど、とある福祉関係の人たちの集まりで外国人人材の受け入れの話をした時に、改めて文化の違いを考えた時点でもう壁だな思う瞬間があったんです。文化の違いを説明すればするほど、職員と実習生の間に壁が高く積み上がっていくことに気づいて、一切国籍の違いによるカテゴライズをしないことを意識するようにしました。実際受け入れを開始してからも「理解してくれないのは文化の違いなんですか?」というような話が出た時には、 それは文化や人種、国籍は関係なくて個人差なんだと伝えています。

唯一準備したことは、各フロアの休憩室に実習生の名前を書いた写真と、ベトナム語で「こんにちは」「ありがとう」「また明日!」を書いた張り紙をしたくらいです。実習生がきてくれた時に、多少ベトナム語を話せる人がいた方が安心するかなと思ってベトナム語を勉強してたんですよね。

——利用者様からの反応はいかがでしたか。

良い声しか聞かないですね。利用者さんも愛情を持って接してくれて、面会に来るご家族もベトナムの子達が入ってから施設がすごく明るくなりましたと言ってくれています。職員達からの不満も特になく、むしろみんなで可愛がってくれています。もちろん、コミュニケーション能力に関しては日本語がネイティブな人に比べると劣るので、都度都度課題はありますが、問題というほどのものではないです。非常に真面目に働いてくれてるし、一生懸命覚えようという意欲もあるし、何の問題もなく本当によくやってくれています。

——実習生のための特別な制度などはありますか?

給与は大卒新卒と同じですが、住居に関しては、社宅を法人で用意して3万円を本人負担、差額を法人負担にしています。そのほか、電気ガス水道の光熱費、携帯代やインターネットなどは全額法人で負担しています。

ベトナム人用の語学の講座を作ろうと思ってましたが、今回採用した実習生がN3相当を取ってきたのでその分技術に時間を割きたいと思っています。ただ、来期入社してくる実習生は間違いなくN4で入ってくるから入職後に日本語試験を受ける必要があるので、二期生が入ってきたタイミングで法人内での日本語教育を始めようと思っています。関連する助成金を活用して、外部の日本語教師に依頼して、日本語教育に関する講座を儲けるのが良いかなと思っています。

——実習生の受け入れによって、現場にどのような影響がありましたか?

雰囲気がよくなり、職場が明るくなりました。あとは、コミュニケーションをしっかり取らないと教えられないので、教える側の技術が上がりましたね。実習生を育てられたら、新卒の未経験の子は間違いなく育てられるので。戦力になってくると、シフトが非常に安定するようになりました。普段から真面目に出勤してくれ、曜日固定の希望休も少ないので、人員配置が安定しました。

外国人人材の採用が当たり前となる社会に向けて

——実習生の教育制度やキャリアパスなどは用意していますか?

最初は実習生用の業務管理シートを作っていました。排泄の介助を何月何日に誰がどう教えたのか、できたのかできなかったのか、というようなチェック表を作っていましたね。受け入れ時に指導する職員に対して、「小さな達成感をたくさん持たせて欲しい」という話はしました。達成感はモチベーションにつながるので、なるべく作業を細くして「できた」という感覚を小さくても良いからたくさん持ってもらえるようにしました。 実際に現場の人たちがそれを守ってやってくれてます。

キャリアパスに関しては、追々考えようと思っています。当法人で設けている「早番・日勤・遅番・夜勤」4種類のシフトは、半年で全てできるようになったので、 想定してなかったぐらい成長スピードが速いです。一人前になるには9ヶ月程度はかかると想定していました。日本人の未経験の方でも半年はかかることなので、同じくらいの速度で身につけてました。学びたい、覚えたいという意欲があるからでしょうね。なので、フロアのリーダーなどを目指してもらえたら良いなと思っています。

——受け入れにあたり、一番大変だったことはなんですか?

部屋を借りることです。住む職員がベトナム人であるという理由だけで3件くらい断られました。他の職種で実習生や留学生はこの辺りにたくさんいるし、住居に関してはすぐに見つかると思っていました。ちょうど部屋を探していた時期に、技能実習生が人を殴ったとか脱走したとかいうようなネガティブな報道がたくさん出ていたタイミングだったんですよね。最終的に部屋を借りられたのは実習生たちが来日してくる1ヶ月前ぐらいじゃないかな。全く想定していなかったので、もう最後は自分の家に住んでもらおうかと思ったくらい冷や汗かきました。(笑)

——今後も技能実習生の受け入れを続けていく予定はありますが?

今後も実習生は受け入れる予定で、既に1名来期入社で内定を出しています。他にも来年の12月に入社予定もう1名いて、その人は今いる実習生の妹なんです。実は、今回受け入れた実習生の実家に家庭訪問したんですよね。実際に現場で教育するリーダーも紹介して、責任持ってお預かりしますという挨拶をしに行きました。その後、姉である当法人の実習生から、仕事内容や職場の話を聞いて、「お姉ちゃんと一緒のところで働きたい」と言ってくれたので、ご家族にも満足してもらえてるのかなと思っています。

制度的な課題や事務作業等はあると思いますが、現在の人手不足や就労人口の低下を鑑みれば、今後外国人人材の採用は当たり前の社会になっていくと思います。日本人でなければならないという絶対的な理由がないのであれば、外国人人材を採用しない理由はないと思っています。