介護現場において、利用者様やご家族からのハラスメントが起こっても、「ある程度は仕方がない」と考えている方も少なくないのではないでしょうか。ハラスメントを受けたことにより、けがや病気になったことがある介護スタッフは職種全体の2割、退職を考えたことがある方は全体の4割にものぼると言われています。株式会社メグラスでは、介護職員をハラスメントから守ることが職員の定着に直結すると考え、“スタッフプロテクション制度”を導入しています。制度の内容について、脇田様と浅井様にお話を伺いました。
プロフィール

株式会社メグラス Corporate Direction Group
新卒で広告代理店にて勤務し、採用のコンサル営業に従事。2020年9月に株式会社メグラスに入社した。現在は、中途採用やホームページの運用、“スタッフプロテクション制度”の啓蒙活動や連絡窓口を担当。肩書きはメグラスのファンをもっと増やす「メグラスファンメーカー」。
株式会社メグラス Corporate Direction Group
大学卒業後広告代理店での企画営業、飲食業での人材育成・広報秘書を経て、2020年9月に株式会社メグラスに入社。人事や採用、広報、ブランディング関連を担当している。中でも広報関連の担当割合が大きく、メグラスで生んだ成功事例の展開に従事。肩書きは、メグラスファンを社会に広めて増殖させる「メグラスファンスプレッダー」。
職員を「ハラスメント」から守ることが、定着へのカギ
――“スタッフプロテクション制度”導入のきっかけについて教えてください。
脇田様:
スタッフに長く働いてもらうためには、しっかりと基準を設けて、「ハラスメント」に対する仕組みづくりをしておくことが重要だと考えたことがきっかけです。介護業界ではずっと「ハラスメント」が大きな問題でしたが、対処する仕組みはほとんど作られていません。実際に、過去に入居者様の行き過ぎた行為がきっかけで、フロアのスタッフ全員が退職してしまったこともありました。
浅井様:
介護職員の退職理由について調べていくと、入居者様からの「ハラスメント」が、退職の原因になっているケースが非常に多く、介護スタッフの定着率向上のためには、この部分の改善が必須だと考えました。また、特定の入居者様だけに過剰なサービスを行うと、全体のサービス品質の低下にも繋がります。サービス品質の平準化のためにも、2020年12月に“スタッフプロテクション制度”のプロジェクトを立ち上げました。
――どのように“スタッフプロテクション制度”のプロジェクトを進めましたか?
脇田様:
プロジェクトメンバーを選出し、会議で定義や運用フローを作成していきました。メンバーは、相談員とケアスタッフ、看護師、弊社代表の飛田、運営本部の私です。現場のメンバーは、スタッフの困りごとに対して代表して声を上げられる人、GuiDe(弊社が設けるサービスコンセプト)にこだわり抜くことが出来る人を、各施設からバランス良く選出しました。また、本部の私も会議に入ったのは、施設間の垣根なく制度を推進して浸透させるためです。
浅井様:
プロジェクトを開始したのが2020年12月で、2021年4月に運用開始するまでの会議回数は、合計6回です。12月中に制度の基準完成のために3回、それ以降は運用フローを確定するために月1回ペースで会議を進めました。
まずは事例を集めて、ハラスメントの定義を一致させる
――“スタッフプロテクション制度”の内容について教えてください。
脇田様:
入居者様やご家族からの介護職員に対する言動について「“青”は正当な指摘」「“黃”は過剰な要求」「“赤”はハラスメント」の3段階に分類し、その段階ごとに、会社全体で適切に対処するものです。たとえば「威嚇や脅迫」に関してだと、伝え方が大声だったとしても、何が気にさわったのか具体的に伝えて対策を求めている場合は“青”です。ただし、精神的苦痛は少ないものの要求の具体性が乏しく、書面での謝罪や上長からの謝罪を大声で求める場合は“黃”としています。さらに、具体的な要望がなく「仕事ができない体にしてやることもできる」などと脅して恐怖を与え、「止めて」と伝えても止めずに業務に支障をきたす場合は“赤”です。
制度を構築する以前は、スタッフから「過剰要望やハラスメントと正当な指摘の境界線が分かりづらい」との声がありました。そのため、まずは全事業所の全職員から過去にあった事例を集めて、プロジェクトメンバーで話し合い“青・黃・赤”の段階について、共通の認識をもつようにしました。
――「ハラスメント」の項目はほかにどんなものがありますか?
脇田様:
大きく分けると「暴言や暴力」「長時間拘束」「セクハラ行為」「金品の要求」などです。10個の区分と具体的な内容ごとに17項目設けていて、すべて“青・黃・赤”の3段階に分けています。この基準にない事例が新たに発生した場合、プロジェクトメンバーの間で話し合って基準を追加しています。
――“青・黃・赤”の事例が発覚した後の対処方法について教えてください。
脇田様:
“青”の場合は、毎月行う施設内の会議で入居者様の要望に対して対策を考えて、ご家族との面談で共有しています。正当なご指摘に対しては、弊社側でできることをご家族に共有するというイメージです。“黄”の場合は、「可能なサービスはここまでで、それ以上は過剰要望です」と入居者様に理解してもらえるよう説明します。ただし、何度も繰り返すようであれば相談員からご家族にお伝えして、それでも解決しなければ“赤”の対応に移行する予定です。“赤”の場合は、退去も視野に入れながら家族面談で話し合いを行います。

正当な指摘に対しては、社内で改善することも忘れない
――制度について入居者様にはどのように伝えていますか?
脇田様:
新しく周知するというより、啓蒙を強化しました。制度のPRロゴをハガキサイズのステッカーにし、各フロアとエレベーター内に貼り付けて、入居者様の目に留まるように工夫しています。また、新しい入居者様には契約時に同ステッカーを配布する、スタッフプロテクション強化月間を毎年5月とし、相談員からご家族様にメール配信を行うなど、認知度の向上に努めているところです。弊社としても、威圧的な伝え方をしないよう気をつけていることもあり、入居者様の反応は今のところ特にありません。
浅井様:
有料老人ホームの運営はサービス業なので、入居者様やご家族に対して「スタッフを守る」部分だけを強調してお伝えはできません。正当な指摘に関してはもちろん耳を傾けて、施設・法人全体で解決に努めていくというメッセージも添えて伝える必要があると思っています。
また、一人の職員の声だけを鵜呑みにして、乱暴に基準を当てはめるのではなく、ケースに合わせて複数の手段を検討し、慎重に判断するように注意しています。“黄”や“赤”と判断したものは、あくまで仮の判断です。声を挙げた職員以外からも聞き取りは必須ですし、医療処置や環境の改善、無理のない範囲での工夫によって解決できるかを検討する必要があります。今後も実際の運用を通して、基準を変えたり項目を増やしたりして、社内で協議しながら随時ブラッシュアップしていく予定です。
――職員の反応はいかがでしょうか?
脇田様:
「悩んだときにどこに声を挙げればいいかが分かったので、安心して働けるようになった」といった声はたくさん入ってきています。現在ハラスメントが起きていなかったとしても、起こりえることなので、制度が職員の安心材料になっていると思います。
――制度設定後に新たにハラスメントの報告はありましたか?
脇田様:
制度が完成した4月に、全職員にアンケート配信を行ったところ、10名から10件の事例があがってきました。レベルの内訳としては、“青”が8件、“黃”が1件、“赤”が1件でした。“青”と“黃”については各施設で対応会議を実施し、相談員が家族面談をして対応が完了しています。職員側の介護の仕方を変えることで解決できる問題に関しては、その入居者様に合った介護の仕方を職員皆で共有するようにしました。また、ご利用者様の環境を変えることで解決できる問題もありました。“赤”の1件に関しては、該当する入居者様の退去も視野に入れながら、現在協議を進めている段階です。
――“赤”の対応が必要な方は今回初めて判明したものですか?
脇田様:
セクハラの案件で、今回初めて発覚したものです。声を挙げてくれた職員と同じフロアの職員複数名にもヒアリングしたところ、他の職員も同様、もしくはそれ以上の被害にあっていたことが判明しました。普段ケアに関わっていない私からしたらとても驚くような内容だったのですが、現場で働いている職員にとっては、当たり前になってしまっていたんです。今回声を挙げてくれたのは、入社して日の浅い方で、当たり前になっていなかったからこそ発覚したのかもしれません。
浅井様:
職員にヒアリングしていくと、その入居者様はかなり長い間施設にいらっしゃる方で、どうやら以前からハラスメント行為を繰り返していたことが分かりました。これほど過激なことが明るみに出ないのか、と本当に衝撃的でした。このケースがなぜ数年にもわたり分からなかったかというと、家族の方と職員との関係が非常に良好であったからのようです。「うちの人をお願いします」と熱心に言われて、職員も次第に慣れていって、許していってしまったのかもしれません。ただ、その入居者様の影響で精神的に苦痛を感じていた職員がいましたし、理由には挙げなかったものの退職を選んだ職員がいた可能性もあります。今回は本部に私たちのような第三者がいることで、「その要望はありえない」とはっきり言えたのは良かったと思いますね。
介護業界の「ハラスメント」について発信することはタブーではない
――今後はどのように運用を続けていきますか?
脇田様:
制度を始めた4月は一斉にアンケートを取りましたが、今後はよりスムーズに対応できるように、社内SNSであるLINE WORKSを通じて24時間声を挙げられるようにしていきます。制度が忘れられないように、月に1回の“スタッフプロテクション制度”の再周知と平行して進めて行く予定です。
――職員の定着に悩んでいる方にアドバイスをお願いします。
脇田様:
前職で介護現場の採用に関わっているときから、入居者様や家族様のクレームやハラスメントが退職の原因になることが多いとよく耳にしていました。しかし、それに対する対策として「とりあえず人を集めてから考えよう」と、ハラスメントの根本的な解決から目をそらしている事業所は少なくないように感じます。ハラスメントに対して根本的な解決策を取らないと、人手不足の悪循環が起きる一方です。まずは長い目で見て、“スタッフプロテクション制度”のような対策を考えるのが重要ではないかと思います。
浅井様:
介護業界では、「ハラスメント」の話題に触れることをタブー視していると感じています。この“スタッフプロテクション制度”を発信した後も、賛否両論がありました。「実際そんなことができる訳がない」という声もありますが、9割以上の方は「よく言ってくれた」「これが介護業界の常識になってほしい」と応援してくれています。職員の定着は人集めだけでは解決しません。介護業界におけるハラスメントに関して、どんどん考えて、発信してくださる事業所が増えればいいなと思います。

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