「ICT化には費用がかかる」「浸透するまでに時間がかかる」などマイナスなイメージを抱いている事業者様も多いのではないでしょうか。そのような中で、40年ほど前からICT化の必要性を感じ、ソフト開発などに取り組み続けている「社会福祉法人  青森社会福祉振興団」の中山理事長へ、現在取り組んでいる「安眠プロジェクト」や、ICTの活用方法をお伺いしました。

プロフィール

ICT化で現場がクリアに!「安眠プロジェクト」で疲弊させない介護へ-社会福祉法人 青森社会福祉振興団-
中山 辰巳様

プログラマーやSEとして他事業にて経験を積んだ後、昭和58年に社会福祉法人青森社会福祉振興団へ入職。法人内のデータ分析やプログラム解析、システムの開発に従事し、2019年より理事長へ就任。

データに基づいた介護の必要性。未来の介護へ向けたICT化への挑戦

――ICT化の取り組みを始めたきっかけは何ですか?

データに基づいた介護や、介護ケアの標準化の必要性を感じていたのがきっかけです。昭和58年に社会福祉法人青森社会福祉振興団へ入職した当時から、介護業界は職員それぞれの属人的なケア方法が主流でした。しかし、法人や職員それぞれの経験にだけ基づいた介護では、介護ケアの質の向上や業務の効率化を実現していくことはできないと考え、ケア方法の標準化に踏み切りました。科学的根拠に基づいた介護を実現するため、「経験から科学へ」を合言葉に約40年前から改革を進めてきました。

――ICT化にむけて一番初めに取り組んだことは何ですか?

まず初めに、自法人で記録ソフトを開発し、介護記録のデータ化に取り組みました。その当時記録をしていた内容は、「排泄介助」におけるデータです。利用者様の排泄時の排尿量や排泄時間などを測定し、1日利用1人当たり24回おむつ交換をしました。その後、記録していた内容をデータ化し、分析したことで、決まった時間におむつ交換をする必要性がなくなりました。排尿率が高い時間帯におむつ交換をする形に変更することで、利用者様が一番望んでいるタイミングでの排泄ケアが可能になりました。
この経験を活かし、現在では介護データを分析するだけでなく、記録システムを連携させたタブレットをスタッフに1人1台支給し、いつでもどこでも記録ができるペーパーレスの体制づくりもできています。

ICT化で現場がクリアに!「安眠プロジェクト」で疲弊させない介護へ-社会福祉法人 青森社会福祉振興団-
▲現在は1人1台のタブレットを支給。介護業務をしながらその場で記録が可能に。作業も効率的になっています。

利用者様も夜勤者も疲弊させない「安眠プロジェクト」始動

――現在取り組んでいるICT化の取り組み、「安眠プロジェクト」とは?

「安眠プロジェクト」とは、利用者様に安心して睡眠を取っていただくことで生活の質の向上を目指していくプロジェクトです。多くの施設が取り入れている現在の介護体制では、夜間に何度もおむつ交換をする必要があったり、褥瘡防止のための体位変換をする必要があったりするので、そのたびに起こされる利用者様はゆっくり休めません。また、夜中に何度もケアを行う夜勤者への負担も同様です。ICT機器を活用しながら安眠できる状態をつくることで、利用者様の負担を減らすことはもちろん、職員の負担軽減により介護の質向上にも繋がるような取り組みを行っています。

元々は「未来プロジェクト」という取り組みの1つとして始動しました。未来プロジェクトとは、もともと外国人技能実習生を受け入れる窓口として作られた協同組合による共同研究事業です。当初は、当法人だけで安眠プロジェクトを始めようかと思っていたのですが、組合の法人に話したところ同じ課題を抱えているということで、協同組合の中の4法人で実施することになりました。

――安眠プロジェクトで使用しているICT機器や使用方法について教えてください。

安眠プロジェクトで主に活用しているICT機器は2つです。全て介護ケアにおける「神器」と呼べるぐらい必要だと感じています。その2つを各法人で導入し、それぞれ効果検証をしています。取り入れているICT機器の1つ目は見守りセンサーです。導入前は、2時間に1回の巡回業務が必要で、利用者様の睡眠の状態を確認する作業が発生していましたが、その必要がなくなり、職員の業務負担や精神的負担の軽減ができています。

2つ目は褥創防止用のICTマットレスです。就寝中の状態確認用センサーを備えているだけでなく、利用者様がベッドに横になったタイミングで、その人の体重を自動計測して、かかる圧力を軽減したり、姿勢の状態を感知し、最適な姿勢に変更したりすることもできるので起こしてしまうことなく褥瘡を防げます。ノータッチで良いので、職員の身体的負担も減らせました。

この2つにあわせて高性能の紙おむつを利用しています。吸収力の高い高性能紙おむつの利用で、おむつ介助の平均交換時間が7時間に1回程度で済むようになりました。起床時の取り換えだけで済むので、夜勤でのおむつ替えの必要がなくなり、利用者様を夜間に起こすことなく快適に眠っていただけます。

また、安眠を助けるこれらの併用に加えて、シフト最適化ソフト「びっくりシフトさん」も業務の効率化に役立つ重要な機器の一つとして利用しています。介護施設では早番、遅番、準夜勤、夜勤などシフト調整が複雑です。特に夜勤帯のシフト調整は大変で、シフト調整をする際には管理者は1ヶ月のうち約2週間もシフト調整に時間を費やし、ほかの業務に時間が割けないなど、頭を抱えている状態でした。「びっくりシフトさん」を導入したことで、手入力での作業だと約2週間ほどかかるシフト調整が1回3分で完了できるようになりました。完成したシフトは職員のスマートフォンに自動送付されるだけでなく、シフト変更の必要があった際に自動調整も可能なので、事務作業の時間を大幅に削減することができるようになっています。

――安眠プロジェクトの効果はいかがですか?

プロジェクトを通して、利用者様からは「10年ぶりにぐっすりと熟睡することができた」といった声をいただけました。また、褥瘡ができやすく、2時間に1回の体位変換が必要な利用者様がいたのですが、半年間ICTマットレスを使用していただいたところ、職員の手で体位変換することなく褥瘡を防ぐことができました。職員側からは就寝時の見回りなどの業務負担が減ったことや、シフト調整がしやすくなったことで、「このプロジェクトがないと仕事にならない」といった声が挙がるほど浸透していますね。夜間時の業務負担が減ったことで、利用者様へのより良いケアを考える時間が増え、結果的にケアの質向上に向けた動きができるようになっています。

プロジェクト全体では、1か月に1度オンライン会議システム「Zoom」を使って効果検証会を実施してるのですが、4法人それぞれで違った効果が確認できています。それぞれの施設で出た成果を共有して検証していくことが、今後のプロジェクトを進めて行くうえで楽しみの一つでもありますね。

ICT化で現場がクリアに!「安眠プロジェクト」で疲弊させない介護へ-社会福祉法人 青森社会福祉振興団-
▲「見守りセンサー」の内容は職員に支給しているスマートフォンにも送信され、その場で確認が可能です。

「まずは取り入れてみる」一歩踏み出す勇気が大切

――実際にプロジェクトを始めた際やICT機器を取り入れる際に苦労したことは何ですか?

いかに職員に浸透させるかは大変でしたね。導入当初はやはり失敗も経験しています。継続的に取り入れているICT機器に出会うまでに、いろいろな見守りシステムやロボットを導入し検証してきました。中には何も異常がないのにセンサーが反応したり、必要なときにきちんと反応しなかったりする機器もあり、思うように使いこなすことができず、使用している現場職員からの反発があったこともありました。当時は、ただでさえ忙しい状況の中、機器の動作不良への対応も加わり、現場はてんてこ舞いでしたね。それからは、課長と一緒に相談して2人が納得できる機器を取り入れることにしました。失敗なく理想の環境を整えられることが一番ですが、失敗の経験を活かすことでより良い体制ができることもあるので、時には失敗も必要だなと今は思います。

――ICT化を進めるうえで感じたメリットやデメリットは何でしょうか?

メリットは、ICT機器を活用することで介護記録のペーパーレス化が実現したことや、必要な情報が早く・確実に伝わるので現場がクリアになった点ですね。また、人でなくても良い業務をICT機器にある程度任せることで、利用者様とのコミュニケーションの時間をたくさん確保できることもメリットです。

デメリットは、浸透するまでにどうしても時間がかかってしまう点です。効果が実感できるまでには時間がかかるので、使いこなす前に諦めてしまっている事業者の方も多いのではないかと思います。まずは取り入れてみて、使いこなせるようになるまでじっくり使い切ることが大切ですね。

ICT化をしておけば、言葉の壁が生じやすい外国人人材にとっても大きな道具になると思います。

介護業界は今後の5年が勝負。介護事業を継続するために必要な選択とは

――現在法人として新たに取り組んでいることはありますか?

国内では今までのICT化のナレッジを一手に組み込んだ施設開設に着手しています。2022年5月開設予定で、防災対策・新型コロナウイルスなどの感染症対策・ICTシステムの導入がされている“現代の科学を集めた施設”を建設中です。そのほか、法人内に海外事業部を作っており、2022年度中にベトナムに介護施設を建設予定です。当法人では、2017年からベトナムの技能実習生などを受け入れてきたのですが、今後はベトナムという「国」に還元できることをしていきたいと考えています。まずは現地に介護施設を建設することで、ベトナムの高齢化社会を支える仕組みづくりができるよう動いています。

――他事業者へ一言アドバイスをお願いします。

今後の介護業界においては、この5年が勝負だと思っています。ICT化の導入、そして外国人人材の受け入れの2つを実行しなければ生き残れない時代になってきていると感じています。とはいえ、施設ごとに課題は異なると思うので、まずは自分の事業所にとって何が必要かを選択し、取り入れることが必要ではないでしょうか。失敗を恐れて計画の段階で止まってしまうのでは、なかなか前に進まなくなってしまいます。まずは一歩進んでみて、やりながら修正していけば十分です。そうすることで、環境や世の中の変化にもスピーディに対応していけるような体制を自然とつくることができると思います。やってみて活用が難しそうなら辞めたら良いですし、効果がまだ実感できないというなら、とりあえず使い切ってみてから考えたら良いと思います。まずは何事にも挑戦してみてほしいですね。

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