兵庫県明石市にて介護保険事業を展開する株式会社アバンサールでは、デイサービスや訪問看護事業に加えて雅の里地域リハビリテーション・ケア研究所にて研究活動を行っています。地域内での連携を強化するために地域活性にも注力しながら、定期的にセミナーを実施し好評を得ている同社。執行役員の門條様に、事業内容や好評のセミナー内容についてお伺いしました。
※きらケア研究所は、介護の求人サービス「きらケア」が運営する介護人事に特化した情報サイトです。
プロフィール

株式会社アバンサール 執行役員
専門学校卒業後、兵庫県内の脳神経外科病院にて理学療法士として勤務。当時の上司からの紹介を受け、株式会社アバンサールに入社する。在籍中に大学院にて医療リハビリテーション学の修士課程を修了し、2019年度より執行役員に就任。
不測の事態が起きたときにも、適正なケアを提案できるようにしたい
――ケア研究所設立の背景について教えてください。
弊社の代表が「研究所を作りたい」と考えたことがきっかけです。
もともと勉強はしていて、代表は博士号を、私は修士号を取得しています。弊社の代表は、「医療・介護サービスを受ける患者様には、適正な医療・介護サービスを受ける権利がある」という考えを持っていて、私が賛同したら「ちゃんと研究できる場所を作ろうか」となりました。そうして設立されたのが、“雅の里地域リハビリテーション・ケア研究所”です。医療・介護サービスというのは、情報の非対称性がとても大きい業種なので、サービス提供側が、適切に情報提供ができる体制を築いていきたいと思っています。
――情報の非対称性とはどういうことでしょうか?
提供されるサービスが自分に合っているのかどうか分からない状態のことです。
例えば、自動車の販売店で「この軽自動車は乗り心地が良く、性能も優れているので300万円です。」と言われると、「高すぎる」という風に思う方が多いと思います。軽自動車といった身近なものであれば、相場や適正価格が分かっているため「高いので買わない」という意思決定が簡単にできます。
ところが、ある日突然家族が脳梗塞で入院し、退院後どこかで介護サービスを受けないといけない…といった不測の事態のときだと、「いま一体どういう状況なのか」「どこまでの回復を目標にできるのか」が全く分からない方がほとんどです。主治医やケアマネジャーから言われるがままにサービスを組んで見直さない方が少なくありませんが、そんな方達にも研究データや論文に基づいた根拠あるサービス・目標を提案できるようにしたいと考えています。
――具体的にはどのような活動をされていますか?
自社のデイサービスの利用者様のデータを測定して、データベースを作っています。現在はデータ収集の段階にあり、3ヶ月に1度、定期的に体力測定し、数値で取れる部分は評価をしてデータとして蓄積しています。
データを取り、すぐにサービスに反映するように言っても職員は研究の意図を理解しきれず混乱を招くと思うので、3年計画を立ててプロジェクトを進めているところです。今は2年目なのであと1年地道な作業が続きますが、データを見ながら最適なサービスを考えることを教育の一環として日々やりとりを繰り返しています。まずはきっちりデータを取り、解釈した上でサービスに活かせるサイクルをしっかり作っていきたいですね。
――データ検証について、職員の方の反応はいかがですか?
データ関連の作業が増えた分、評価を始めた当初は抵抗があったと聞きましたが、徐々に慣れてきたようです。現場で取得したデータを活用した結果、利用者様の生活の質が向上して利用者様やご家族が喜んでくださる…そんな成功体験が今後職員に還元されればいいなと思っています。
――ケア研究所の目標について教えてください。
利用者様の自律に結びつき、かつ社会保障費が抑えられるサービスの提供、そして実際の効果の検証もできている状態にするのが目標です。医療介護サービスは税金や国費から賄われているので、使わないに越したことはありません。ただ、費用が抑えられても自律に結びつかないサービスでは意味がないので、そこの両立をさせられるようにすることが目標です。利用者様とのコミュニケーションに関しては数値化できないことによる難しさもありますが、そこの良さを残しつつ、根底にある科学的根拠にも目を向けたサービス提供ができる体制を目指したいと考えています。

組織設計で職員満足度を向上、セミナーで地域への展開も実施
――ほかにどんな活動をしていますか?
セミナーの要望があったり、地域のお祭りがあった場合に呼んでもらったりしています。
地域での活動は一番大事にしていて、お祭りでは市民センターの方と話し合って、屋台の横で体力測定ブースを出店したこともあります。また、明石市内の通所介護部会長という役職を拝命していることもあり、セミナーの要望をいただくこともあります。セミナーの内容は、経営計画についてやチームマネジメントの仕方などさまざまです。先日は、当社での経験を活かし、マネジメントに関するセミナーを実施しました。
――チームビルディングに力を入れている理由は何でしょうか?
チーム・個人の目標や使命を明確にし、常に認知している状態にすることにより、利用者様により良いサービスを提供していくためです。また理念だけでなく、 会社が継続的に発展できるように利益を残せる体制するためにも、 チームビルディングは重要であると考えています。チームとは「共通の目的を果たそうとする集団」であり、ただ集まって一緒に仕事をする集団のことではありません。そのため、仕事の目標や意義をしっかりと全員が認識して、実行する必要があります。
弊社は2年前には離職率が年間平均20%ほどと高い状態でした。原因は当時のマネージャーや管理者が会社に対して不信感を抱いており、その影響で管轄事業所にも不穏な空気が流れていました。そこで、状況を打開すべく目標の設定や評価等のシステムを見直しをし、職員の満足度をKPIにしました。
――チームでの目標設定方法について教えてください。
目標を立てる際、「意義レベル」「成果レベル」「行動レベル」の3つの段階で考えています。「意義目標」は理念のようなものです。「成果目標」は、意義目標の実現のために必要になってくる具体的な指標。「行動目標」は、その成果を上げるための具体的な行動のことです。
弊社の場合は、チームを運営する上で経営者とマネージャーが「意義目標」「成果目標」をしっかり共有しておくことが第一だと考えています。スタッフがそれぞれ成果目標を立てると効果の立証が難しいケースも出てきてしまうので、職員には「行動目標」だけを課すようにしていますね。
――どのように職員の目標管理をしていますか?
目標を立てるだけでは忘れてしまうので、システムを組んでいます。
マネージャーには毎年「意義・成果目標」を立ててもらい、一般職員に経営計画書として配布します。職員には、自分の目標達成が経営計画表に記載されている成果や評価に繋がる内容になるよう意識してもらいながら「行動目標」を見える化しています。
定期的にその目標を思い出して振り返ることができるように、経営層とマネージャーで目標について話し合う機会を定期的に作るようにしました。週に一度1on1のミーティングをし、1ヶ月に一度の頻度で各部署の運営会議をしています。さらに、半年が経過した時点では、合宿も実施しています。一般職員に関しては、マネージャーと最低でも3ヶ月に一度の頻度で個別面談を行うようにしています。
――意義・成果目標をより確実に達成できるように行っている工夫は何ですか?
立てた目標に向かってあらゆる行動が迅速に行いやすいように、権限の明確化を行っています。
「やっていいこと・ダメなこと」をマネージャーが明確に把握していないと、不必要な連絡が増えてしまうことはもちろん、現場で円滑に指揮が取れません。そのため、経営層とマネージャーで権限の範囲を明確にしています。基本的な業務や労務関連はルールブックを作り、いつでも参照できるようにしました。それ以外は“してはいけないこと”を決めた「ネガティブリスト」で権限を定めています。ネガティブリストに記載されているのは、「自分の事業所以外の判断」「クレームや事故に関する判断」「契約書やコンプライアンス関連の判断」「抜本的なサービスの改革」の4つで、この4つは本部への相談なしに判断しないというように決めています。
「してはいけないこと以外であれば何をしてもいい」という状態にすることで目標達成を見越した行動がしやすくなり、結果チームの質の向上につながると考えています。
――「チームビルディング」の効果はどうでしたか?
毎年行っている満足度調査で効果が出ています。
満足度調査は、「仕事内容」「労働環境や待遇」「会社への帰属意識」の3セクションに分かれていて、職員には全員無記名で0・1・2・3の4段階評価をつけてもらいます。全職員がつけた評価の平均値を出し、その平均が1.5未満の場合を危険水準、2.0以上の場合を安定期と定義しています。2年前は危険水準ギリギリの1.66でしたが、今年は1.90へ満足度の平均が上がりました。
もう一つ劇的に変わったのが、満足度調査の中で「会社で働くことに満足していますか」という質問に「はい」と答えた人の数です。約40名の職員がいた2年前は「はい」と答えた人と「いいえ」と答えた人が半々でしたが、今年は「いいえ」と答えた人が6人しかいませんでした。まだ不満を感じている人はいるものの、劇的に変化はあったと思います。

誰もが和気あいあいとすこやかに過ごせる地域にしたい
――今後の展望や目標について教えてください。
力を入れている地域活動ですが、もっと色んな事業所に参画してほしいですね。
自社だけでなく、地域全体で医療・福祉業界を盛り上げていきたいと思っています。地域内にどんなサービスがあるか把握してもらったうえで、各事業所の違いや強みをきちんと示せたらいいなと思います。
今、バリオプロジェクトという活動を始めており、地域ぐるみで様々な人が働けたり集まれたりする場所を作っていきたいと思っています。地域のおじいさんおばあさんが子どものためにご飯を作る「子ども食堂」や、障がいによる後遺症があっても気軽に来られる・働ける「ユニバーサルカフェ」の展開を構想しているところです。
雅の里地域リハビリテーション・ケア研究所のところで言うと、研究所を設立した背景でもありますが、世の中に良いサービスを提供したいです。自分たちの提供したサービスが利用者様の生活の質の向上に繋がっていることを科学的にも示していきたいですね。事業所での研究を活かして論文化されれば、さらに世の中に出ることになるので、研究ベースで社会を変えていきたいと思っています。
介護士さんの採用にお困りのご担当者さまへ
きらケアは、 導入実績2万5000社以上の介護職専門の人材紹介サービス。 「介護職の方々の働く環境」を支えたい、という思いから2015年にサービスを開始しました。 介護士さんがなるべく居心地よく長く働けるようサポートを行っており、年間80万人以上の方にご利用いただいております。
採用する介護士が長く働いてくれるには
お問い合わせは「レバウェル介護」まで
よろしくお願いします。