2020年、新型コロナウイルス感染症拡大により、今後の事業運営の方向性をあらためて考えさせられた事業所も多いのではないでしょうか。社会福祉法人あそか会では、実際に運営施設「特別養護老人ホーム北砂ホーム」にてクラスターが発生。先陣を切って現場指揮を執った理事長の古城様に、発生後の対応方法や、対応後にたどり着いた今後必要な介護・医療の体制構築についてお伺いしました。

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プロフィール

「介護・医療の連携強化を」コロナ対応で学んだ体制構築のメソッド-社会福祉法人あそか会-
古城 資久 様

社会福祉法人あそか会(理事長)

2001年より医療法人や社会福祉法人を運営する伯鳳会グループの理事長に着任し、グループのトップとして経営を行っている。2015年、社会福祉法人あそか会が同グループの傘下に入り、同法人の理事長も兼任。経営だけでなく、現場運営にも尽力している。

コロナを「災害」として捉え、初動対応のスピードを意識

――コロナが発生した状況について教えてください。

2020年4月25日に、当法人の「特別養護老人ホーム北砂ホーム」にて、入所者9名の新型コロナウイルス感染が判明しました。4月18日の2階の入所者1名の発熱がその発端でした。この時すでにコロナウイルスに感染していたのです。その後、収束までに延べ入所者40名、短期入所生活介護で4名、職員7名の計51名の感染者をだすクラスターに発展しました。

――コロナ発生後、まず対応したことは何でしょうか?

感染拡大しないように入所者、勤務者それぞれを「陽性者」と「陰性者」に区分することから始めました。区分するにもPCR検査を受けなければならないため、どれぐらいの人数の検査が必要か確認し、延べ180名の検査を実施しました。その当時、1度に検査してもらえる検体の数が限られていましたし、数日に分けて行ったとしても全ての結果がわかるまでに5日要してしまいます。コロナは数日で身体の状態が悪化する危険性もあったことから、それでは遅いと判断し、1日でも早く全員の検査結果が分かる方法として検体を直接検査機関に持ち込むことにしました。当法人内に感染症協力病院として登録されていた病院があったことと、連携している検査機関の方が柔軟な対応をしてくれたおかげで、180名分の検査結果を1日ほどで確認することに成功しました。既に感染が疑われる職員は出勤停止にしていたので、検体採取の際にはあそか病院など関連施設から医師や看護師が計10名応援に来てくれました。

PCR検査の結果がでたあとは、勤務可能な職員の正確な人数の把握を開始しました。出勤停止になっていないのは4階フロアの職員15名のみで、さらにそのうちのパート9名は家族の反対や子どもの休校などで出勤できず、残ったのはわずか6名でした。職員6名で入所者80名のケアは不可能と考え、すぐに系列病院や施設に応援要請しましたね。

コロナ発生時の翌日には15名の応援が駆けつけてくれました。周辺施設の職員だけでなく、大阪府や高知県、兵庫県など、地方から来てくれた方もいました。中には施設職員だけでなく、看護学校の教員もいましたね。コロナの状況が読めない中で、現場の連携がスムーズにいったのは、即戦力となる方が集まってくれたからだと思います。

――職員確保後の対応はどのように進めましたか?

コロナウイルス陽性者の受け入れ対応の整備を進めていきました。その当時、コロナウイルスは二類感染症に該当しており、「感染後即入院」の対応が原則でした。ですが、病院へのコロナ患者受け入れにはリスクが2つあると考えました。1つ目は病院内でのクラスター発生に繋がる可能性があること、2つ目は特養に入所している入居者を移動させると、生活環境の変化で状態が悪化する危険性があったことです。そのため、「陽性かつ有症状者は病院へ」「陽性かつ無症状者は北砂ホームで対応する」ことを決めました。無症状とはいえ、陽性者を受け入れるとなると、北砂ホームでも医療対応が必要となるため、北砂ホームにあそか病院の電子カルテ端末を設置し、情報共有ができるようにしました。また、北砂ホームでも病院に準ずるケアができるように医師1名が常駐するようにし、看護師の配置も増やす対応を進めました。

――クラスター発生時、最初に意識したことは何でしょうか?

コロナ感染は病気ではなく「災害」としてとらえ、対応することを意識しました。災害対応はスピードが肝心です。「自助・共助・公助」の3原則に則り、まずは「自助」の部分である「自分達で発生後の数日間を乗り切ろう」と考えました。事態を打開しようとしなければ何も状況は変わりませんし、災害医療もできません。そのような状態に陥らないよう、まず経営者側である法人が施設長と連携を取り、スピード感を持ってさまざまな決断をしながら前進させていきました。

「介護・医療の連携強化を」コロナ対応で学んだ体制構築のメソッド-社会福祉法人あそか会-
▲PPE(感染防護具)を身に着け、居室をまわる職員。常に連携を取り、スピーディーに検査を進めました。

「介護崩壊」を起こさないためのフォロー体制

――コロナ対応をする中で、恐れていた懸念はありましたか?

やはり「介護崩壊が起きないか」ということを1番考えましたね。誰も経験したことのない状況の中で、職員の中には事態に「協力できない人」もでてきます。協力的ではない人がでるのは仕方のないことですし、この状況下で職員同士が非難にエネルギーを使うべきではないと思ったので、非協力者を責めないように何度も呼びかけてきました。また、普段なら介護職員でいるのは職場にいる時だけでいいと職員全員に伝えていますが、このコロナ禍においては施設外にも感染リスクがあるため「常に介護・医療従事者でいて欲しい」とお願いしていましたね。いつも以上に緊張している状況で介護崩壊が起きないよう、常に気を配っていました。

――コロナ禍で勤務している職員へはどのようにフォローをしていましたか?

現場への指示を簡潔にし、職員のモチベーション低下に最も気を付けてフォローを行いました。特に施設長には職員を疲弊させないように「頑張りすぎないこと」、「一部の人にだけに負荷がかからないようにすること」を言葉にして伝えるように指示しました。また、週に1日は必ず休みを取るように指示しました。法人の経営側も「職員を孤立させない、施設を孤立させない、法人を孤立させない」ようにグループ全体で連携できるようにしていましたね。

あとは、コロナ禍でも対応してくれている職員には危険手当を支給することに決めました。直接ホーム入所者と関わる職員へは1勤務5,000円、バックヤードの対応をしている職員へは1勤務3,000円を付与する制度を作成しました。

今後必要とされる「医療・介護連携の重要性」

――経営面への影響を最小限に抑えるために気を付けたことは何ですか?

信頼を失わないために、つつみ隠さず情報を開示しました。法人としてどこよりも早く情報を開示しましたね。実際には江東区のホームページよりも早く自法人のホームページでコロナクラスターの状況を公表しました。事業所を運営するうえで、利用者さまや関連する地域の支持がなくなれば事業存続はできません。そのため、「現在の対応状況はこうしている」「今後こういう対応を進めていく」と具体的な情報を開示することで、懸念していた風評被害も1週間ほどでおさまり、代わりに励ましの言葉や支援をいただけるようになりました。ホームに隣接している小学校には「北砂ホーム応援しています」といったバナーを窓に張ってくれており、職員の励みにもなりましたね。

――コロナなど、非常事態の対応で大切なことは何でしょうか?

2つ大切な点があると考えています。1つ目は「職員一丸となって対応を進めていくこと」です。コロナなどの非常事態時には施設全体で対応に取り組まないと、取り返しのつかないところまで事態が悪化する事も考えられます。対応する際、管理者は職員へのフォロー体制を構築し、それぞれの気持ちがバラバラにならないように配慮しながら対応を進めていくことが必要です。

2つ目は「コロナなど感染症の対応は最初の1か月が肝心」という点です。感染症は潜伏期間があることで正確な感染者数が把握しにくいため、収束に時間がかかると思う人も多いと思いますが、症状が出た時点で適切な対応を行えば感染を最小限に抑えられます。

コロナの場合、症状が出るまでの期間はどんなに長くても2週間以内です。症状が出た人は病院に行くので、潜伏期間中の人が施設内にいる可能性がある期間も長くて2週間以内です。その人が気づかない間にほかの人にうつしていたことを考えても、目に見えない感染者が施設内にいる期間はせいぜい4週間程度に留まります。新たな発症者が1週間出なかったら収束といわれているので、潜伏期間の間に適切な対応を行えば1か月程度での収束も可能です。実際、北砂ホームでは4月28日に発症者を確認しましたが、5月21日に最後の発症者が判明してからは1人も出ていません。適切な対応を取ればクラスターは1ヶ月で収束するという知見を得ることができました。

症状が出た時点で素早く病院に移し、さらに施設内では感染者がいる可能性がある限り入所者同士・職員同士でうつさないよう対策をすることが大切です。

――コロナ対応によって感じた、今後の介護現場における課題や必要なことは何でしょうか?

コロナ対応のように非常事態時には「医療」と「介護」の連携強化が課題となってくると感じています。今回北砂ホームで起きたクラスターを早期に収束できたのは「系列法人や施設から介護職員の確保ができたこと」、「関連病院から医療の応援が受けられたこと」であると考えています。系列施設や連携できる法人があれば、コロナのような非常事態時に即座に連携を取ってスピード感のある対応が可能ですが、施設単独で運営している場合は難しいのが現状です。特に、東京都内の特養施設は単独運営であることが多いので、今後はいざという時の連携のしやすさも考慮しながら運営方法を考える必要があると思いますね。非常事態の際に少しでも早く問題が解決するよう、現在当施設と江東区は、どこかの施設で非常事態が発生した際に、区内の介護施設から職員が応援に行けるような体制構築を進めています。もちろんあそか会も参加しています。医療に関しても同じように体制構築を進める機運が生まれていますね。「区内で起きた非常事態には区内で対応できるようにしよう」というような地域での医療・介護連携が今後必要になってくるのではないでしょうか。

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