定着率や人材確保に悩む事業所は多いですが、施設内の体制を整えるのはなかなか簡単ではありません。エーデル土山では、かつては残業が毎日続くことも珍しくなく、離職率は40%を越えていました。しかし、働きやすさへの様々な改革を実行した結果、今では入職希望者が続出し、入職待機者がいるほどです。そんなエーデル土山で介護福祉士長を務める岩田様に、取り組みの内容についてお伺いしました。

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プロフィール

介護職員残業0時間を実現! 入職希望者が続出する組織への改革方法-特別養護老人ホーム エーデル土山-
岩田 秀信様

社会福祉法人あいの土山福祉会 特別養護老人ホームエーデル土山 介護福祉士長

2003年に異業種から転職。現在は介護福祉士長として、職員と事務局の調整や経営基盤を強化するための様々なプロジェクトチームで指揮を執っている。

「このままでは法人も自分も危ない」危機感から始まった改革

――業務改善に取り組みはじめたきっかけは何ですか?

役職者が子育て世代になったことと、労働基準監督署から是正勧告を受けたことがきっかけです。当時の労働環境は離職率40%、残業は当たり前で、役職者だけでなく一般介護職員も毎日居残っている状況でした。職場改善対策を打たなければ法人も自分も危ないと感じて、労働環境の改善に取り組みはじめました。

――どのような対策を考えましたか?

経営基盤を強化するため、6つの執行室を立ち上げました。その中のひとつ「人材確保・労働室」で主に人材確保に関する対策を練っています。人材確保・労働室では、まず新しい人材の獲得よりも「定着」に重きを置き、これまでに辞めた職員の退職理由を振り返り、見直すべき部分はどこなのか話し合いました。話し合いのなかで改めて、環境整備の重要性に気づきましたね。働きやすい環境とは何かを考えた際、「定時で帰ることができる、希望休や連休が取れる、心理的負担が少ない、身体的負担が少ない」という条件が挙げられました。こうして理想の職場を実現するために始めたのが、①残業ゼロ②腰痛ゼロ③メンタル不調ゼロを目標とする「トリプルゼロ」の取り組みです。

原因を分析し、考え方から変える「トリプルゼロ」への挑戦

――「残業」はどのように減らしましたか?

まずはトップダウンで方向性を示し、業務を見える化する。そして、直接生活介護以外の部分から調整していくといった流れで取り組みました。トップダウンで方向性を示す理由は、しっかり改革の意思表示をしないと、大きな改善が進まないためです。方向性を伝えた後は、削減できる業務を見つけるために、業務を全て洗い出し、直接利用者様と関わらない業務から大きく改善しました。具体的な改善箇所としては、形式的な朝礼を無くす、皿洗いは食洗機の数を増やす、シーツ交換といった資格不要の業務は障害者雇用を増やす…といった具合です。朝礼については、5人集まって10分話すと、50分のロスが生まれます。上司と部下のコミュニケーションは、きっちり個別で話すことが重要だと考えたため、朝礼は廃止しました。

こうした取り組みは始めっぱなしにならないように、業務改善遂行室と安全衛生委員会で、業務改善できる箇所はないか、きちんと定時に終了できているかを振り返ってチェックするようにしています

――「残業」削減は業務の効率化だけで実現しましたか?

いいえ、長時間勤務の風土が根付いていたので、その打破にも務めました。業務効率化も大事ですが、そもそも残業が起こる理由としてはマインドの部分も大きいです。「残業が美学だ」「少しぐらい残業してもいいや」と思っているとサービス残業が蔓延します。残業前提で仕事をしていると、手間暇をかけることで結果も伴うはずという自己満足感も生まれ、業務を削減することに抵抗を感じるようになります。こうした状況を打開するには「残業は美学ではなく、時間内にベストパフォーマンスを発揮することが大切」という意識を職員全員が持つことが重要です。エーデル土山では、「職員が帰りやすいように役職者が率先して帰ること」「定時終了10分前に業務終了予告チャイムを鳴らして、業務終了の意識を持つこと」を徹底することで、意識と業務効率の両面で残業削減を実現していきました。

――「腰痛」と「メンタル不調」はどのように減らしましたか?

「腰痛」については、職員の腰に負担がかからないように抱えあげない介護を目指し、介護リフトを導入しました。現在は移乗用リフトを12~13台完備しているだけでなく、天井走行リフトも8部屋に導入しています。また、定期的に職員の腰痛チェックを行い、問題があれば産業医の診断を受けてもらうことで適切なケアができるようにしています。

「メンタル不調」については、職員が悩みを抱え込まないように配慮しています。特に体制や方向性が変わるときは全体周知ではなく、不安を解消できるように一人ひとりと「トーキング」することを意識しています。また、普段から業務内で不安を抱えやすい人には、定期的に上司とマンツーマンで話をする機会を設けることも重要です。ほかにも心の相談窓口として、男女それぞれの衛生管理者を決め、モラルハラスメントを防止するために定期的な研修をしています

――業務改善のなかで、どんなことを意識しましたか?

経営的な視点を持つことを意識しました。機械を導入し、職員の労働環境を整えると、機械の費用や人件費が増加します。そのため、カットできるところがないか見直しました。具体的には、ガスや電気、おむつ業者にかかるコストの見直しなどが挙げられます。ほかにも、施設をより多くの人に知ってもらうためにはホームページ作成が必要ですが、制作会社に依頼するとかなり費用が掛かります。エーデル土山では、事務員が内製化することによって大幅なコストカットを実現しました。経費をかけなくてもできることは沢山あります。また、稼働率も意識しており、デイサービスではもともとの定員30名から42名まで増やしました。ただ、定員を増やして給与が変わらなければ職員のモチベーションや質が下がってしまうので、稼働率によって手当を支給するようにしました

介護職員残業0時間を実現! 入職希望者が続出する組織への改革方法-特別養護老人ホーム エーデル土山-
▲内製化のHPにはPRポイントが充実。イメージ戦略室でコンテンツを利用した戦略を練っている

離職率5.8%を実現、まだまだ改革を続ける

――取り組みの効果はいかがでしたか?

10年前は40%だった離職率が、2019年度は5.8%に減少しました。取り組みや働きやすさが話題となったおかげで、大阪や名古屋、広島からも転居して働きたいという方もいらっしゃいます。充足していても施設見学の問い合わせがあり、人員に空きが出るのを待っている方もいるほどです。今年12月に新しく地域密着型特養をオープンさせますが、ありがたいことに求人広告を出さなくても、HP掲載のみで人員充足させることができました

かつては労働基準監督署から勧告を受けるほどでしたが、今では取り組みをもっと広めて欲しいと依頼が来るほどで、実際に書籍も出版しています。

ただ、離職率が下がっても離職する人はいます。別の施設や異なる職種を経験したうえで、「やっぱりエーデル土山がいい」と思う職員が戻ってこられるよう、退職時には3年間同じ条件で採用する「再入職パスポート」を渡しています。5年ほど前に始めましたが、3名が帰ってきてくれていますね。

――人材確保に悩まれている事業所の方に伝えたいことはありますか?

一つひとつは小さな改善策でも、コツコツと積み上げていけば、やがて大きな取り組みとなります。法人により考え方や取り組みは異なるので、自施設にあった取り組みを考えることが大切です。当施設では、今後もさらに新しいことを考えており、勤務時間を現状の7.5時間からさらに削減したり、年間休日が120日からさらに増加したりすることを考えているところです。まだまだ働きやすさを追求していきたいですね。

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