人材を確保するためには、働きやすい環境づくりも必要ですが、取り組みの内容や施設の良さを認知してもらわなければ応募者は増えません。京都府北部の丹後地域というアクセスが良いとはいえないエリアにありながら、新卒の合同就職説明会で人気を誇る「みねやま福祉会」の櫛田様に、集客の秘訣や採用のノウハウについてお伺いしました。

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プロフィール

たった2年間で集客数62倍に 地域のハンデに負けない採用マーケティングの極意-みねやま福祉会-
櫛田 啓 様

社会福祉法人みねやま福祉会てらす峰夢(児童養護施設)施設長

福岡の児童養護施設で4年ほど経験を積んだ後に、祖父が立ち上げたみねやま福祉会に入職。施設内だけに留まらず、地域課題を解決するためのまちづくり活動にも積極的に参加している。また、異業種と積極的に交流するなかで、行動戦略や組織構築について幅広く学びを深めている。

「待ち」の採用から「攻め」の採用へ

――採用を強化しようとしたきっかけは何ですか?

2015年に公立保育所の民間運営委託を受ける際、新たに30名の人員が必要になったのがきっかけです。京都府北部の地理的に便利とはいえない場所に位置している当法人にとって、1年で30名というのはやみくもに採用しても集められる数字ではありません。これまでのあり方を見直し、戦略的にリクルーティング活動をする必要性を感じました。

――当時はどのように採用をしていましたか?

求人広告の利用や合同就職説明会の参加を通して、新卒採用を行っていました。ただ採用活動に特に注力はしておらず、ありきたりな求人票やパンフレットを作るくらいでした。合同就職説明会でもありきたりな資料を持ってブースに座るだけの待ちの姿勢でしたね。採用強化の必要を感じて年配の担当者とブースに合同就職説明会に出席しましたが、何の仕掛けもしていないので、ほとんどの学生は素通りしていきました。結局ブースに座ってくれた学生はたった5名、そのうち4名は京都府北部の丹後地域の出身者で、福祉に興味がある方でした。もう1名はよく分からないまま着席しましたが、当法人が京都府北部にあると伝えると話を聞く前に「いいです」と立ち去っていったのを鮮明に覚えています。

――どのような対策が必要だと感じましたか?

とにかく立地によるハンデを解消しないといけないと感じました。福利厚生や働きやすさには自信があったのですが、京都府北部というエリアを嫌がる学生が多いので、対策を打つために丹後地域への移住支援事業をする事業所と手を組みました。移住支援業の担当者と打ち合わせするなかで、「移住をきっかけとして、働き口を提案する」という切り口だけでなく「魅力的な職場があり、地域も魅力的」という発信も必要だと感じました。また、仕事の魅力を伝えるときに、年配の事務職員だけでなく、学生と年齢の近い職員にも携わってもらうことで、学生たちに仕事をより身近に感じてもらえると考えました。

現場を知る若手が「SKIPPA」チームを結成し、魅力を発信

――若手職員の発信力を高めるためにどのような取り組みをしましたか

法人が必要としているものの頭文字を取って「SKIPPA」という採用強化チームを結成しました。「SKIPPA」は新卒採用のためにプレゼンテーションノウハウを教育して、福祉の仕事の魅力を発信することを目的としたチームです。合同就職説明会のたびに違う職員に携わってもらうと効率が悪いので、専任でノウハウを蓄積するチームを結成しました。メンバーは全部で5名、各施設長の説明を聞いて、やりたいと言ってくれた若手職員を集めました。

【SKIPPAの意味】
S = satisfy(満足)
K = kind(思いやり)
I = interest(おもしろさ)
P = passion(情熱)
P = powerful(力強さ)
A = airy(風通しの良さ・陽気)

――「SKIPPA」ではどんなことをしてきましたか?

合同就職説明会での企画運営や、HP・パンフレット・SNSのコンテンツの刷新がメインですね。

合同就職説明会の企画では、学生に立ち止まってもらうためにはどんな工夫が必要か、どんなコンテンツなら興味を持ってもらえるか、意見を出し合って考えました。また、プレゼンテーション能力を鍛えるために、各事業所に「SKIPPA」メンバーが自分たちのチームや事業所についてプレゼンするトレーニングを行いました。

コンテンツの刷新では、ありきたりなHPや採用パンフレットを変えていきました。HPはウェブデザイナーと協力し、パンフレットの文章はライターと協力するなど、プロの手を借りながら、見たくなる、読みたくなるようなコンテンツを作成しました。

現在は、月1で午後2時から午後6時までの4時間集まって活動しています。この会議である程度戦略を練り、会議の内容を事務局で整理して、精度をブラッシュアップしています。チームができた頃はまずはブレーンストーミングを通じてしっかりと戦略を立てることを意識していました。

――会議で出た意見やアイディアが通るようにどのような工夫をしていますか?

コミュニケーションラインを確立しました。最終的に「SKIPPA」で出たアイディアや取り組みを実行するには、法人内の施設長会での承認が必要なのですが、若手メンバーから施設長会に意見を上げると、コミュニケーションエラーが起こり内容が上手く伝わらないことが懸念になりました。そのため、「SKIPPA」と施設長の間に事務局が入るようにしました。まずは、法人内の施設長たちの中で人材管理を担っている施設長に、事務局がブラッシュアップした資料を用いてプレゼンします。最終的に、施設長会で人材管理を担っている施設長からほかの施設長へと話を通してもらうようにしました。

たった2年間で集客数62倍に 地域のハンデに負けない採用マーケティングの極意-みねやま福祉会-
▲短い時間で精度の高い企画を生み出すために、会議の質の向上を意識している

合同就職説明会での集客数は2年で62倍に

――「SKIPPA」による取り組みの効果は出ましたか?

2015年に4人だった合同就職説明会のブースの来訪者が、2017年には250人になりました。結成当初から、「SKIPPA」は合同就職説明会での採用母集団を増やすことを一番の目的にしていたので、その目標はある程度達成できたかと思います。

ただ、合同就職説明会に来てくれても、その後の施設見学にまで結びつかないと意味がありません。2017年は合同就職説明会から施設見学への移行率が10%程度だったので、2018年には移行率の上昇を新たな目標に設定し、地域の暮らし体験と施設見学を兼ねた採用イベントとして、ワンデーツアーを実行しました。その結果、2018年のブース来訪者は177人とやや減少したものの、ワンデーツアーへの移行率は43%、さらに採用試験の移行率も30%に上昇させることができました。

――2020年現在はどんなメンバーで運営していますか?

現在は9名体制で運営しています。「SKIPPA」の任期は3年で、任期終了後は新しいメンバーが入ってくるので1期生はもういません。メンバーが入れ替わることで、再度教育する必要性は出てきますが、そのぶん新しいアイディアが生まれます。また「SKIPPA」は、参加することでプレゼンテーション能力や思考力向上に役立ち、人材育成の役割も果たしています。この成長機会を平等に提供するために、メンバーの入れ替えは必要だと思いますね。

たった2年間で集客数62倍に 地域のハンデに負けない採用マーケティングの極意-みねやま福祉会-
▲2015年には4名しか話を聞いてくれなかった合同説明会のブースだが、現在は立ち見の学生も

中長期的な目線を持ち、選ばれるために挑戦し続ける

――人材確保や人材の定着に悩まれている事業所の方へ伝えたいことはありますか?

人材獲得を考えるうえで絶対に必要なことが2点あります。1つ目は、「ビジョン」があることです。法人としてどこを目指しているのか、方向性を決めておくことが重要になります。2つ目は、「チャレンジ」することです。優秀な人ほど挑戦しているところに自分もコミットしたいと思う傾向にあります。ビジョンを明確にしたうえで、目指す姿に向かって一緒に挑戦しようと巻き込むことが大切です。

チームで話し合うことによって、思考の質が上がり、行動の質が上がる。それに伴い、結果の質が上がると思います。「大きい法人だからできること」と言われることもありますが、法人の大きさは関係ありません。しっかりと職員に役割を与えて、自由な発想を尊重しつつ、ときに発想を変えてあげることでみんなやりがいを持って取り組んでくれていますね。

――今後の課題や展望について教えてください。

今後は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、従来とは違った採用戦略を立てる必要があります。ただ、今までとは採用活動が変わってしまいましたが、問い合わせ母数はありがたいことに今年度も担保できています。採用ノウハウがなくても対応できているのは、「SKIPPA」が単なる合同就職説明会でのプレゼンが得意なチームというわけでなく、採用に関わる本質的な改善方法を考えることができるチームだからだと思います。

また、今後オンラインを活用した採用を行うことによって、幅広い層の学生にアプローチできるというメリットがある一方、学生側も多くの施設と接点を持つようになれば、その中でいかに当法人を選んでもらうかが課題となります。そのためにも、地域だけでなく、日本社会や国際社会に視野を広げ、社会にいい影響を与える組織になっていかないといけないと思っています。現在は、より選ばれる法人になるために子育て支援に関するプロジェクトの企画や農福連携、エリア拡大や海外進出など、少しずつ新しいプロジェクトを考えているところです。

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