介護の現場では「夜勤がつらい」「なかなか休みが取れない」という理由で職員が辞めてしまうことがあるのではないでしょうか。社会福祉法人永春会では、こうした悩みを解決するため、通常勤務の正職員のほかに、週休3日、夜勤なし、曜日固定休の3つの働き方から自由に選べる「選択制正職員制度」を導入。離職率が大幅に下がったといいます。どのように制度を考案し、運用しているのか社会福祉法人永春会の吉岡様にノウハウを伺いました。

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プロフィール

吉岡 俊一 様

社会福祉法人永春会 理事長

家業の農業に10年ほど携わった後、祖母が認知症になったことをきっかけに介護事業に興味を持つ。2005年に社会福祉法人永春会を設立。介護事業のほか、保育事業や障害児者施設事業も展開。現在は新制度の設計や新規事業に携わっている。

職員のニーズから生まれた❝3つの働き方❞

――選択制正職員制度を作るきっかけとなった出来事を教えてください。

もともと当法人は離職率が約30%ととても高かったんです。せっかく入職した職員が離職していくのはとても残念で、「どうしてみんな辞めてしまうんだろう」と思い、職員全員に職場環境についてのアンケートを取りました。3年後、辞めてしまった職員と働き続けている職員に分けて傾向を分析してみると、辞めてしまった職員は共通して「体力面・精神面で仕事に負担を感じている」ことが分かりました。

この結果を受けて、離職する人を減らすためには働きやすい職場づくりにもっと真剣に取り組まないといけないと思いました。そこで、2013年に設計・実現させたのが通常勤務以外に3つの働き方を選ぶことができる選択制正職員制度です。

――制度の中身はどのように考えたのですか?

職員に働き方に関する意見を聞いたところ、「夜勤が嫌だ」「もっとたくさん休みたい」「特定の日に休みたい」と大きく3つのニーズがあることが分かりました。選択制正職員制度ではこれらのニーズを反映させて、夜勤なしの「時間帯指定型」、週休3日で1日10時間勤務の「休日増加型」、特定の曜日に休める「休日指定型」の3つの働き方を選択できるようにしました。

基本的には希望者に気兼ねなく制度を使ってほしいと考えていましたが、現場のシフトとの兼ね合いもあります。そこで、職員には毎年2月に次年度の働き方の希望を出してもらったうえで、現場の人員配置に支障が出ない範囲で、許可を出すようにしました。特殊な事情があれば、年度途中での変更も認めていますが、基本的には変更のタイミングは年に1回にしています。

――制度を運用するにあたって気を付けたことは何ですか?

通常勤務の正職員が待遇に不公平さを感じないようにすることです。たとえば、夜勤をしている職員としていない職員が同じ待遇では、夜勤をしている職員のモチベーションが下がってしまいます。そのため、通常勤務の正職員と選択制正職員は基本給は同じですが、賞与の額に明確な差を付けました。具体的には、夜勤なしの「時間帯指定型」は通常の0.7倍、週休3日10時間勤務の「休日増加型」は0.5倍程度としています。

離職率は5%まで低減。新規採用にもプラスの効果が

――現在、どのくらいの人数の方が選択制正職員制度を利用していますか?

法人全体では10%ほどの職員が利用していますね。柔軟な働き方を選択すると業務が成り立たなくなってしまう職種もあるので、部門によって利用率に差があります。法人全体で見ると1割程度ですが、特別養護老人ホームでは15~20%の職員が利用しています。

法人全体で利用している人の具体的な数は、時間帯指定型が5~10人、休日指定型が1~2人です。以前は休日増加型を利用している人もいましたが、現在はいません。それぞれの制度を利用している背景について個別に詳しく聞くことはしていないものの、時間帯指定型は「技術に自信がないので、夜勤が怖い」「子どもがいるので夜勤ができない」、休日指定型は「趣味のために特定の日に休みたい」「配偶者と休日を合わせたい」、休日増加型は「純粋に休日を増やしたい」といった理由があるようです。

制度を導入してから10年近く経ちますが、「時間帯指定型を希望する方が一番多く、休日増加型を希望する方が一番少ない」という傾向はずっと変わっていませんね。

――制度を導入したメリットはどんなところでしょうか?

多様な働き方が実現できるようになったので、時間的な制約や体力的な負担により、今までであれば辞めていた方が残ってくれているように思います。離職率は30%から現在は5~10%まで下がりました。新規の採用に関しても、制度にご興味を持って応募してくる方は増えています。

また、制度を利用している職員からの評判も良いです。制度を利用するかどうかは本人次第であることもあり、ネガティブな意見は特に聞いていません。待遇に明確な差を付けているため、制度を利用していない職員にも理解を得られていると感じています。

新制度導入までの道のりは厳しくても、得るものは大きい

――今、課題に感じていることはありますか?

「時間帯指定型」「休日増加型」「休日指定型」のネーミングが少し分かりづらいことです。今の名前では、細かく説明しないと内容を分かってもらえないので、パッと内容を伝えられるかつインパクトのあるネーミングが欲しいと思っています。

あとは、職員へ制度を説明するときの伝え方にも難しさを感じていますね。選択制正職員は通常勤務の正職員に比べて0.5倍、0.7倍とボーナスの額が少ないので、どうしても「選択制正職員はボーナスが減額される」というイメージを持たれてしまいます。しかし、選択制正職員を基準に考えれば「通常勤務の正職員はボーナスが2倍もらえる」という言い方ができます。伝え方によって相手に与える印象が違うので、より良い伝え方を追求していきたいです。

――柔軟な勤務体系を導入したいと考えている他事業所の方へのメッセージをお願いします。

選択制正職員制度のような勤務体系を実現させるには、法的な確認や手続きを多数必要とします。かなり根気の要る作業ですが、取り組むだけの価値はあると思っています。

選択制正職員制度を利用する正職員と通常の正職員では労働時間が大きく変わります。法律で定められている人員基準は労働時間によって判断されるので、雇用契約上は常勤の職員であっても、選択した働き方によっては非常勤換算される場合があります。施設を運営するうえで、人員基準を満たすことは絶対条件なので、制度の利用を希望する職員が常勤に換算できるどうかの確認が必須です。労働時間が足りない場合に調整をしたり、変形労働時間制の適用を検討したりする必要があるのはなかなか煩雑な作業だと思います。

ですから、導入しようと決めたら経験者や専門家にアドバイスをもらって、本気で取り組むべきです。もしほかの事業所で当法人のような制度を検討している方がいれば、お力になりたいと思います。大変ですが、それだけ得られるものはあるはずです。

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